1 公害紛争の処理状況
公害紛争については、「公害紛争処理法」の定めるところにより、総理府の外局である公害等調整委員会及び都道府県に置かれている都道府県公害審査会等が処理することとされている(第6-1-1図)。
公害等調整委員会は、裁定並びに特定の紛争(いわゆる重大事件、広域処理事件等)について、あっせん、調停及び仲裁を行い、都道府県公害審査会等は、それ以外の紛争について、あっせん、調停及び仲裁を行っている。
裁定には、公害に係る被害についての損害賠償責任の有無及びその金額を判定する責任裁定と、被害と加害行為との間の因果関係の存否を判断する原因裁定の二種類がある。
(1) 公害等調整委員会に係属した事件
平成元年中に公害等調整委員会に係属した公害紛争事件は、23件(調停事件19件、責任裁定事件2件、原因裁定事件1件、その他の事件1件)であり、その内訳は、次のとおりである。
ア 調停事件
(ア) 不知火海沿岸における水俣病に係る損害賠償調停申請事件 15件
(イ) 仙台湾における養殖海苔被害等調停申請事件 1件
(ウ) 新幹線騒音被害等調停申請事件 1件
(エ) スパイクタイヤ使用禁止等調停申請事件 2件
イ 責任裁定事件
道路騒音被害等責任裁定申請事件 2件
ウ 原因裁定事件
壱岐における養殖真珠被害原因裁定申請事件 1件
エ その他の事件
大阪国際空港義務履行勧告申出事件 1件
このうち平成元年中に新たに申請のあった事件は10件、昭和63年から繰り越した事件は13件である。新たに申請のあった事件は、ア(ア)の水俣病事件のうち8件、(エ)のスパイクタイヤ使用禁止等事件2件である。
終結した事件は、ア(ア)の水俣病事件12件、(イ)の養殖海苔被害等事件1件、(ウ)新幹線騒音被害等事件1件、(エ)スパイクタイヤ使用禁止等事件2件、イの道路騒音被害等責任裁定事件2件、ウの養殖真珠被害原因裁定事件1件である。
終結した事件のうち道路騒音被害等責任裁定事件は、昭和62年5月東京都世田谷区のいわゆる上馬交差点周辺に居住する住民101人から国等を相手方として、損害賠償の支払等を求めたものである。その後同地区に居住する住民32名から同様の申請があった。
裁定委員会は両事件を併合し審理を進めたところ、当事者の合意による解決が可能と判断し、平成元年3月、職権で調停に付し、吸音型防音壁の設置、植樹の整備、自動車走行騒音低減のための舗装の試験的実施等を内容とする調停が成立した。
(2) 都道府県公害審査会等に係属した事件
平成元年中に都道府県の公害審査会等で受け付けた公害紛争事件は25件(調停事件24件、あっせん事件1件)である。
平成元年中に終結をした事件は27件(成立15件、打切り9件、取下げ3件)である。なお、具体的な事例を挙げれば次のようなものがある。
事例 木工作業場から発生する騒音により被害を受けているとして隣接住民から作業場を移転すること等を求める調停申請がなされていた事例で、同会社は、平成2年2月末までに作業場を移転すること、移転までの間、騒音被害を軽減するための最善の配慮をすること等で合意が成立した。