-人と環境の共生する都市を目指して-
今、我が国の環境政策は、国内的にも、国際的にも大きな挑戦を受けて、新たな展開を図るべき時にきている。持続的な生存と発展からの挑戦である。
昨今の地球環境に関する国際政治を始めとする急速な関心の高まりを待つまでもなく、環境は、人間にとっての生存の基盤であるとともに、発展の糧である。また、環境問題への対応は、環境のみを独立させて議論できるものではなく、その背景にある経済、社会等の構造にさかのぼることが必要であるとの認識も定着しつつある。
こうした「持続可能な開発」の考え方は、ひとり地球環境に限らず、地域や都市の環境、さらには国土環境の保全と活用に共通するものである。
環境政策は、持続的な生存と発展からの挑戦に対し、次のような積極的な対応を行っていく必要がある。
第1に、「世界に貢献する日本」の最も重要な課題の一つとして、地球環境保全に積極的に貢献することである。
平成元年は、「地球環境元年」でもある。近年の国際社会、国際政治等におけるこの問題への関心の高まりに呼応して、我が国においても急速に関心と貢献の気運が高まっており、国民の環境観にも大きな進展をもたらしている。
我が国は、世界に率先して、地球環境科学に関する総合的な研究の推進をはじめ、地球温暖化への国際的取組、熱帯林の保全、砂漠化防止等のための具体的な国際協力事業の実施、開発途上国の開発援助における「持続可能な開発」の理念の具体化、適用等に当たって、積極的な役割を果たしていく必要がある。また、政府は、本年秋にはUNEPとの共催で地球環境保全に関する国際会議を東京において開催することとしている。
一方、非政府団体(NGO)、産業界等様々な主体との連携を図るとともに、我が国国民のライフスタイルが地球環境にも適したものとなるよう環境情報の普及、環境教育の推進等のための施策を展開していく必要がある。
第2に、都市の生態系循環の再生を目指した環境政策の構築である。
人々が集い、様々な活動を展開している都市においては、都市活動が、様々な環境負荷をもたらしている。
都市が持続的に発展していくためには、都市の諸活動自体が、生態系が有する自立・安定性、循環性等を具備していく必要がある。
すなわち、
[1] 都市活動を支える基本的要素である水、エネルギー、物質等は、循環的、効率的に利用される必要があり、このためのシステムを積極的に導入、整備し、構造的に生態系循環的な都市を構築していくことが重要である。
[2] 都市に残された自然を積極的に保全するとともに、緑地を増やすことにとどまらず、都市における生きものの生息環境を保全、整備することにより、積極的に都市の中に自然を創出していくことが重要である。
[3] 都市で諸活動を営む市民、企業等は、活動の基盤である都市が持続的に発展していくよう、その環境の再生に向けての様々な環境保全活動に積極的に参加する必要がある。
[4] 都市の生態系循環の再生に向けての取組は、広範な市民、企業等の参加の下に総合的・予見的な観点から計画的に推進することが必要である。
[5] 新しい市街地の形成、都市再開発等に際しては、都市の生態系循環の再生、持続的な都市の発展という視点から、十分な配慮を行うことが必要である。
[6] 大都市地域における窒素酸化物問題、都市地域を中心とした生活雑排水等による河川等の水質汚職問題に対しては、新たな対応を検討すべき時に来ている。
といった観点から、新たな環境政策を構築し、これを積極的に展開していくことが必要である。
今、大都市、中小都市を問わず、住民の生活意識に対応した個性と魅力ある地域づくり、まちづくりが求められている。これらは、「ふるさと」づくりとして国政の中心課題の一つにもなりつつある。
地域には地域ごとの自然、水等の環境資源が賦存している。これらは、有限であるとともに、様々な恵みをもたらしている。地域の環境資源や環境との共生を通じたまちづくりの推進のため、様々な環境保全活動が展開され、新しいコミュニティーが形成されるとともに、それらのネットワーク化も図られている。環境政策は、こうした新しい試みを支援するとともに、これらとの連携を図っていく必要がある。
生態系循環型の都市システムを有し、豊かな自然が確保され、市民も企業も環境との共生に参加するまち、これがふるさとと呼ばれるにふさわしい都市の姿であろう。
人々が集い、様々な活動を行う場として、人間は都市を造った。今、都市の生態系循環の再生に向けての新たな挑戦が始まろうとしている。
「人と環境の共生する都市──エコポリス」の形成を目指して。