平成12年度第2回陸水域分科会

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資料2

陸水域生態系の環境影響評価の進め方

(総論)

目次

1 陸水域生態系の調査・予測の基本的な考え方

1−1 調査・予測のあり方
1−2 陸水域生態系と他の環境影響評価項目との関係

2 陸水域生態系の調査・予測手法

1−1 調査・予測のあり方
1−2 陸水域生態系と他の環境影響評価項目との関係
2−1 陸水域生態系へ与える影響の整理
2−2 基盤環境と生物群集の関係の調査・予測
2−3 注目種・群集に関する調査・予測
2−4 生態系の機能に関する調査・予測
2−5 その他の陸水域生態系の調査・予測

3 調査・予測・評価と環境保全措置の関係

 この資料は、今回の検討のたたき台とするものですが、現在作業の途上であり、今後の作業により大幅に変更され得るものですので、取り扱いには十分留意いただくようお願いいたします。

1 陸水域生態系の調査・予測の基本的な考え方

1−1 調査・予測のあり方

 1)生態系全般に係る環境影響評価の基本的な考え方

 地域を特徴づける生態系について、下に示すような事業の影響について予測し、注目種等を通して評価をおこなう。

  • 基盤環境や動植物の相互の関連から把握されるまとまりをもった場への影響
  • 生態系の構造や機能への影響

 2)陸水域生態系における影響評価の着目点

  • 基盤環境と動植物の「水」を介した相互関係への影響
  • 連続性や変動性への影響
    基盤環境と動植物の空間的・時間的な関係への影響。特に生物の生活史に関わる影響。

3)影響評価の対象項目・調査、予測手法の選定

 陸水域生態系の特性からみて、まずどのような対象・事象への影響が、どのような切り口で調査・予測できるのかを明確にする必要がある。
 生態系に関する影響評価には定型化した手法がないため、常にオーダーメイドを意識する必要がある。スコーピングに際して把握された、当該地域の生態系の状況を踏まえ効果的な手法を検討しなければない。
 どのような事象が予測、評価に適しているのか、そのために必要な調査はどのように設定すればよいか、の順序で検討する。
 対象に応じた既往の手法の応用や組み合わせによる手法の検討は最低限必要であり、新しい科学的知見、技術による試みの積極的な活用も必要である。特に、水環境等に関する物理的、化学的影響については定量的に調査・予測する手法を活用することが必要である。

 陸水域生態系の調査・予測は、以下のフローに従って実施する。

図−1 陸水域生態系の調査・予測の流れ

fig_2-01.gif (8667 バイト)

1−2 陸水域生態系と他の環境影響評価項目との関係

 陸水域生態系と他の環境要素との関連を相互に把握し、並行的、一体的な影響評価を実施する。

  • 「生態系」における「陸域生態系」「海域生態系」との関連
  • 「生物の多様性の確保及び自然環境の体系的保全」分野における「植物」「動物」との関連
  • 「水質」等の水環境や「地形・地質」等の、陸水域生態系で重要な基盤環境要素との関連

(1)「陸域生態系」および「海域生態系」との関連

 「陸域生態系」および「海域生態系」は、陸水域生態系と相互に重なり合っており、特に水環境を通じた物質循環や生物の回遊の面から関連が深い。陸水域生態系に関わる影響評価では、隣接する陸域・海域を含めて調査・予測を行う。
 特に以下のような環境、は陸水域生態系の視点から一体的に影響評価を行う。

  • 河畔、湖畔などの陸水域の影響を受ける陸域
  • 集水域などの陸水域に影響する陸域
  • 規模が小さな湖沼や湿原などの陸水域
  • 河口部(汽水域)

(2)「植物」および「動物」との関連

 「動物」「植物」と「生態系」の捉え方の違い

  • 「植物」および「動物」の視点
    重要な種・群落、注目すべき生息地として、おもに種、群落、生息地等の存続という視点で調査・予測する。
  • 「生態系」の視点
    構成要素である基盤環境や動植物の相互関係や、その関係が成立している場、構造や機能の存続という視点で調査・予測する。

 生態系の調査・予測と動植物に関する調査・予測については、評価の視点が異なるものの、作業は共通する部分が多いことから、一体的な調査予測を行うことで効果的な影響評価をすることができる。

(3)「水質」「地形・地質」等との関連

 「生態系」では、その構成要素として基盤環境要素の把握が必要である。
 陸水域生態系は、特に水質、流況などの水象や地形、地質などの地象に関わる基盤環境要素との関連が深く、これらも環境影響評価の対象項目とされることから、それぞれの項目でおこなわれる調査、予測と連携して影響評価を進める必要がある。
 環境影響評価項目としての「水質」や「地形・地質」では、それぞれの項目の必要性から影響評価の内容が検討されて実施されるが、陸水域生態系としての必要性から別途の情報が求められる場合は、そのための調査・予測をそれぞれの項目の中で実施する必要がある。

2 陸水域生態系の調査、予測手法

2−1 陸水域生態系へ与える影響の整理

1)陸水域特有の事業特性・影響要因、環境要素の整理

  • 「水環境」を構成する基盤環境要素への影響
  • 連続性、変動性への影響

2)直接的影響、間接的影響の整理
 水の有無、水量、水温の変化など生息生育に直接関わる基盤環境の変化と、副次的であったり徐々に現れたりする間接的影響の面から整理する。
 例えば、事業の影響が現存する生物個体の生存を脅かすほどではないが、繁殖に影響し、世代を繰り返すうちに影響が顕著になる場合などは、予測時期(期間)、事後調査期間の設定に大きく関わることに留意する。

3)時間軸からみた整理
 水域の持つ日変動、季節変動、年変動等の異なる時間スケールを考慮する。 特に河川では河畔林の発生・消長に代表されるように、比較的長期の時間スケールで起こる構成要素の変動も扱う必要がある。
 間接的影響のうち長い時間軸でしか捉えられない影響は見落とされがちであるので注意が必要である。

4)影響要因と基盤環境の影響内容との関連の整理
 影響要因−環境要素間に水を介した影響の伝播があるものを主体に整理する。
 マトリックス、影響フロー図など、理解しやすい表現を用いて整理する。

5)レアイベントの扱い
 陸水域生態系では、事業による影響以外に、突発的に生ずる洪水等に伴う環境変動による影響も整理しておく必要がある。

図−2 工作物の設置による河川環境へのインパクト(例)

fig_2-02.gif (4061 バイト)

河川工作物の設置により、上流域では堆砂により水生生物の生息環境が狭隘化し底生動物や付着藻類の生息・生育条件を大きく変化させ、魚道が付帯しない場合には魚類の降河行動への影響も大きい。
下流域では上流の土砂が扞止されるため、ダムの直下に洗掘が起こり澪筋が定まらず魚類の遡上に大きな影響を及ぼす場合もある。また、土砂の供給が減少するため、河床形態(瀬や淵の存在等)が変化し、底生動物相や付着藻類相にも変化が予想される。

図−3  生態系構成要素と人為的インパクトの関係図
出典:水辺の環境調査(財)ダム水源地環境整備センター(1994)より引用(一部改変)

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調査で把握すべき事項を具体化するには、事業のインパクトとそのインパクトにより一般的に予想される影響を想定する必要がある。陸水域に係わる事業について考えると、直接的影響として、植生の消失や動物の行動阻害等、物理的及び化学的変化による「場の消失」として地形の改変や湛水による水環境の変化などが、蓄積として重金属などの汚染物質による生物への影響等が想定できる。

2−2 基盤環境と生物群集の関係の調査・予測

 基盤環境と生物群集の関係については、対象となる生態系の、生息・生育空間、場の存在状況、動植物の種間関係、行動圏、生活史における水域の利用状況等を対象項目とする。
 基盤環境と生物群集の関係の調査は、基盤環境要素や動植物などの構成要素間の関係の把握が主体である。特に生育生息空間の存在状況と、そこに成立する動植物群集の関連を示すことが重要である。構成要素間の関連の特徴を明らかにするためには、単位となる類型区分のスケールを的確に設定することが必要である。
 予測は、構成要素間の関連性等の調査結果に基づいて、事業に伴う構成要素の変化が基盤環境と生物群集に及ぼす影響について把握する。

2−3 注目種・群集に関する調査・予測

(1)生態系で調査・予測の対象とする項目

 事業の実施による主に「水環境」の変化を指標するものとして選定された注目種・群集等の生育・生息への影響を予測し、それらの結果を通じて、当該注目種・群集が指標する生態系への影響を総体的に予測・評価する。
 予測では、注目種・群集の生育・生息の制限要因を明らかにする必要があるため、生育・生息環境を形成する基盤環境要素と、捕食・被食関係などを通じて注目種・群集と関係する動植物種・群集の生態を調査項目とする。
 陸水域生態系では生育・生息環境を形成する基盤環境要素である水質や底質や、地形・地質等が調査項目として重要である。

(2)調査・予測手法の考え方

  • 注目種・群集を通じた生態系への影響の調査・予測
  • 既存手法の効果的な活用方法
  • 手法の選定理由、適用条件、適用範囲の明確化(手法の限界)、精度、不確実性

(3)対象時期の設定>

1)調査対象期間、時期(季節)
 調査対象となる注目種・群集について、動物であれば渡り、移動、回遊や、変態等に伴う生息環境の違いなど、生活史における各段階の生息状況が把握できるよう、調査時期を設定する。
 また、特に河川では基盤環境の季節変動とともに年変動があり、調査対象とした時期が必ずしも平年の状況を示していない可能性があることや、河床材料や河畔植生など動植物の生息生育基盤となる環境要素も変動することから、調査の対象期間も複数年設定することが望ましい。

2)予測対象期間、時期(季節)
 予測対象時期は、対象とする生態系それぞれで影響が最大となる時期として、対象事業の施工中の代表的な時期、及び生態系が安定する時期として供用後一定期間経過した時期を基本として設定する。特に直接的影響については基盤環境の直接改変を行う工種の終了時や施工の完了時を予測時期とする。また、対象となる注目種・群集の生活史で、影響が最大に見積もられる季節も対象時期とする。
 なお、時間とともに影響が大きく変動することが予想される場合には、可能な限り時間的な影響の変化が捉えられるように予測時期を設定する考慮することも必要である。

3)環境保全措置の内容から設定される予測対象時期
 環境保全措置を講じた場合は、それぞれの措置が効果を発揮することで生態系が安定すると想定される時期を対象に予測を行う。

4)レアイベントの発生
 供用後を対象として台風等による増水などのレアイベント発生後の環境変化についても考慮する必要がある。

(4)対象範囲の設定

1)調査地域と予測地域
 予測地域は調査地域を踏まえ、事業により影響が及ぶ範囲を基本とし、対象となる注目種、群集の生息域を十分に網羅するよう設定する。
 河川の分断による生物の移動阻害は、河川全体やさらに海域生態系にも影響を与える可能性がある。特に対象河川の延長が長い場合は、現地調査を行う地域よりも予測地域を広く設定する場合も考えられる。
 一般的には、直接的影響は事業による改変区域、間接的影響は改変区域の周辺を基本として設定するが、陸水域生態系の場合は、水の流下や生物の遡上降河といった「構成要素の連続性」に着目し、直接的影響については改変区域の上下流区間を含めた、より広い範囲で考えることを基本とする。

2)事後調査に用いる地点(定点)として、調査・予測地点の確保
 事後調査のための調査地点として、直接改変を受けない地点など、同じ地点で将来的にも調査が行える場所を確保する。このためには調査・予測の着手段階で事後調査の概略のシナリオを検討しておく必要がある。

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図−4 注目種・群集に関する調査から予測の流れ

2−4 生態系の機能に関する調査・予測

 生態系の機能については、水質や底質の形成・浄化といった環境形成・維持機能や、動植物の休息地、隠れ場、繁殖地、採餌地、移動経路といった生育・生息空間の形成・維持機能、物質生産・循環機能等を対象項目とする。
 生態系の機能に関する調査は、それぞれの機能を支える構造と、水質・底質の現況、動植物の生育・生息空間の存在状況、物質生産量等を関連づけることが主体となる。
 機能に関する予測には、様々な環境要素と生物が複雑に関係しており、多くの機能については確立された予測手法があるわけではない。したがって、事業の実施に伴う構造の予測結果を用い、機能の向上や低下または変化について把握する。
 なお、機能自体は構造に比べ捉えにくいことから、当該生態系でとくに重要な機能やそれを指標する動植物などが明らかな場合に調査・予測対象とする。

表−1 調査項目の例

調査対象 調査項目の例
基盤環境 気象、地形、地質、土壌水象
流況、水位変動、循環・滞留の状況、攪乱の状況、湧水・伏流水の状況
水温、水質、底質
植物、植生 分布、現存量、生産量、構造、組成、遷移系列、群落環
注目種・群集 分布、個体数、現存量、密度
生活空間の利用様式、テリトリー
成長、繁殖、生活史、水域依存性
食性
他の生物との関係
 競合、寄生・共生、捕食・被食、食物連鎖
上記の季節的変化
生態系の構造・機能 基盤環境の形成、維持
物質生産、循環
生活空間の形成・維持

2−5 陸水域生態系の予測における課題

(1)陸水域生態系のもつ変動性に関する予測

 陸水域生態系では水を媒体として、攪乱と均衡の環境の中で微妙な生態系が成り立っている。このような陸水域のもつ常に変動を繰り返しながら維持されている性質や、台風などによる増水などのレアイベント(稀に起こる事象)を考慮することが重要である。
 通常、予測の対象とする範囲には複数の類型が含まれていることが多いことや対象となる種・群集によっては平衡状態が重要である場合や反対にレアイベントが重要な場合がある。したがって、陸水域生態系のうち河川などでは平常時の調査もさることながら、変動性を念頭に置いた複数年にわたる調査に基づく予測が必要である。

(2)事業そのものにより新たに出現する生態系(ダム事業における湛水域等)に関する予測

 ダム事業のように新たにできる水塊等のように、新しく出現する生態系の環境要素を整理するとともに、アセスメントの類似事例や他の調査事例など複数の例を参照として、基盤環境の構造と生物との係わりを整理する必要がある。
 魚類等の生息予測では、生息環境条件の他に、予測される生息個体の供給源を把握する必要がある。

(3)環境保全措置により新たに出現する生態系に関する予測

 環境保全措置のうち代償措置により新たに出現する生態系の予測は、措置の効果の予測を踏まえて行う。
 環境影響評価のみならず、環境創造的な事業の類似事例を広く収集、利用して予測する。

3 調査・予測・評価と環境保全措置の関係

 調査・予測・評価は一連の作業フローの中で行われるものであり、その過程で環境保全措置 の検討あるいは事業計画へのフィードバックが繰り返される。予測・評価の実施段階では複数 の事業計画案や環境保全措置のケースごとに予測・評価を行い、必要に応じて方法書に記載し なかった新たな調査・予測手法を取り入れるなど、柔軟が対応が必要である。

図−4 調査・予測・評価と環境保全措置の関係

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