平成12年度第2回陸水域分科会

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資料 1

これまでの検討経緯と今後の検討の進め方

1.これまでの検討経緯

 陸水域生態系に関しては、平成11年度を初年度として3回の検討会を実施し、平成 10年度の陸域、海域と同様にスコーピングの進め方を検討した。
 具体的には変動性や連続性等、陸水域生態系が持つ特性や本分科会で検討する陸水域生態系の範囲について整理した上で、下記の項目についてスコーピングの作業の流れと一連の作業内容について検討を行った。
 検討に際しては、水の作用を通じた変動性と連続性という陸水域特有の特性を踏まえたスコーピングの方法になるよう留意した。また、上位性、典型性、特殊性の視点からの注目種・群集の抽出についても陸水域の特性に応じた考え方や留意点を整理し、併せて注目種・群集を抽出するためのモデル的な手順について作業例を示した。

陸水域生態系の特性

場の成り立ち :水を介した場の成り立ち
変動する場 :洪水等、水や土砂のたゆみない変動
連続する場  :水を介した縦断、横断方向の連続性
地理的隔離性 :地史を反映した種の地理的隔離

環境影響評価において陸水域生態系として扱う範囲

(特殊な場)

河畔、湖畔など陸水域の影響を受ける陸域(移行帯)
集水域などの陸水域に影響する陸域
規模が小さな湖沼や湿原などの陸水域
河口部(汽水域)

陸水域生態系のスコーピングに関する検討項目

  • 事業の影響要因の整理
  • 全国的、広域的な地域特性の把握
  • 地域概況調査による地域特性の把握
  • 陸水域の類型区分
  • 評価する上で重要な類型の選定
  • 生態系の構造・機能の検討
  • 注目種・群集の選定
  • 調査・予測・評価手法の選定

平成12年度の検討範囲について

図−1 生物の多様性分野の検討年次計画

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図−2 陸水域生態系に関するスコーピングにおける作業の流れ

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2.今年度の検討事項(昨年度の中間報告書より)

 今年度検討する陸水域生態系に関する調査・予測、環境保全措置、影響評価、事後調査の内容については、昨年度同様に生態系の保全の観点からより良い環境配慮を事業計画に組み込むための効果的な環境影響評価手法としてとりまとめていく必要がある。
 本検討会の今年度における主要な検討課題として昨年度の中間報告書は次のような事項をあげた。

今後の検討課題

(平成11年度中間報告書より)

 今年度は、陸水域生態系を対象としてスコーピングの進め方を中心に検討を行い、陸水域生態系の特性を整理するとともに、注目種・群集の選定を中心とした効果的なスコーピングの進め方やその実施上の留意点などをとりまとめた。また、陸水域生態系における注目種の選定について作業例を示した。
 本検討会の次年度における主要な検討課題としては次のような事項があげられる。次年度の検討結果を受けて、今回提示した陸水域生態系に関するスコーピングの進め方の内容についても見直しを加え、生態系の保全の観点からより良い環境配慮を事業計画に組み込むための効果的な環境影響評価手法をとりまとめていく必要がある。

(1)調査・予測

  • ケーススタディを実施し、具体的な陸水域の環境特性、地域特性や事業特性を踏まえた調査・予測・評価の進め方と留意点の整理
  • 上位性、典型性、特殊性等の視点から注目される種・群集を通じて生態系への影響を予測・評価する手法
  • 調査・予測・評価段階における基盤環境の類型区分と解析手法
  • 物質循環やエネルギーフローなど生態系の機能、有用な資源価値や多面的な環境保全機能に関する予測評価手法
  • 生態系の動的な側面(陸水域の持つ常に変動を繰り返しながら維持される性質、台風等による増水などレアイベントの発生)の考慮
  • 注目種・群集によらない調査・予測・評価手法
  • 定量的な予測評価手法の検討、定性的な予測評価手法の活用方法、予測におけるモデルの導入
  • 水環境に関する環境負荷の生物への影響に関する予測評価手法
  • 生物の多様性分野の各項目間における調査・予測・評価の連携

(2)環境保全措置

  • 回避、最小化から代償措置にわたる幅広い選択肢の中から、生態系の特性や事業による影響内容に応じて適正な環境保全措置(ミティゲーション)を選択・立案し、その効果を評価するための考え方と手法
  • 環境保全措置の種類やレベルと調査・予測・評価に求められる内容との関係
  • 生態系の変化を継続的に捉えながら、その変化状況に応じて順応的に環境保全措置を講じていく順応的管理(アダプティブ・マネジメント)の考え方の導入
  • 環境保全措置の効果を含め、生態系影響の時間的な変化を捉えていくための手法
    (予測対象時期の設定と時間軸に沿った影響の緩和・増大の程度の把握手法)

(3)影響評価

  • 複数の事業計画案、複数の環境保全措置を踏まえた評価の考え方と手法
  • 複数の注目種・群集に関する調査・予測結果や生態系の重要な機能に関する調査・予測結果から生態系への影響を総合的に評価するための手法
  • 環境保全措置を踏まえた評価結果の妥当性を検討するための考え方と手法

(4)事後調査

  • 調査・予測・評価結果や予測の不確実性の程度を踏まえた事後調査の考え方と手法
  • 事後調査計画(調査項目、調査地点、調査期間など)や事後調査結果の解析方法
  • 事後調査結果を環境保全措置の実施内容に反映させる手法

(5)表現方法、環境影響評価に必要な基盤整備に関する事項

  • スコーピング段階で用いる文献・資料の整備、充実
  • 既存の調査・予測・評価手法や研究成果のレビューと課題の整理、環境影響評価手法の向上のための事後調査結果の活用
  • わかりやすい図書(方法書、準備書、評価書)の作成方法
  • わかりやすいデータの解析・表現方法、GIS(地理情報システム)等の活用による基盤情報の整理、表現方法

3.今年度の陸水域分科会の検討の進め方

 今年度の陸水域生態系については、昨年度のスコーピングの進め方の検討結果を受けて、環境影響評価の実施段階における調査・予測・評価手法、環境保全措置の検討方法、事後調査の手法について検討を行う。

1)調査・予測

 陸域や海域の進め方と同様、調査・予測については、ケーススタディを実施し、検討の成果を総論に反映するとともに、ケーススタディを通じて手法に関する理解を図りやすくする。また、ケーススタディの対象から漏れた環境タイプについては、その環境タイプにおける事業を想定し、特有の留意点について整理する。
 なお、ケーススタディについては、河川上流域のダム事業と河口域の河口堰事業について行うこととし、湖沼、湿地等については、環境タイプ別に留意事項を整理することとする。ダムと河口堰の事業の陸域生態系における影響については、移行帯における場合を除き、陸水域のケーススタディを行う中で特に検討しない。

2)評価・環境保全措置・事後調査

 陸域、海域の両分科会が本年度検討する評価及び環境保全措置の検討については、陸水域分科会においても本年度の後半をその検討に当てることとする。この検討については、現在知られている評価手法、環境保全措置、事後調査の事例をレビューして整理し、これらを行う場合の検討の考え方、手順、留意点、わかりやすい記載や表現方法等について検討するとともに、事例についてはアセスの実施に資する基礎資料として整理するものとする。
 なお、陸水域に生息する動植物を動物・植物項目として扱う場合の考え方については、陸域、海域のそれとあわせて別途の検討を行うこととする。

表−1 平成12年度生物の多様性分野の環境影響評価技術検討会
陸水域分科会 検討スケジュール

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図−3 地域特性の把握の流れ

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図−4 水系群
出典:第3回自然観環境保全基礎調査 河川調査報告書(全国版)(環境庁、1987)(一部改変)

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図−5 湖沼の成因別分布
出典:第3回自然観環境保全基礎調査 湖沼調査報告書(全国版)(環境庁、1987)(一部改変)

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図−6 河床を縦断的にみた場合の類型区分の表示例

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図−7 河床を横断的にみた場合の類型区分の表示例

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図−8 湖沼を平面的にみた場合の類型区分の表示例

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図−9 湖沼を横断的にみた場合の類型区分の表示例

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表−2 マトリックス表の例

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図−10 影響フロー図の例

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図−11 注目種・群集を抽出するためのモデル的な手順の例

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表−3 対象地域(河川)における類型区分、栄養段階別にみた主要な生息種
(表形式と記載の例)

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図−12 基盤環境と生物群集に関する模式図(河川)例

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陸水域生態系における上位性・典型性・特殊性の考え方

1)上位性

(前年度検討会報告書における記載)

 生態系を形成する生物群集において栄養段階の上位に位置する種を対象とする。該当する種は相対的に栄養段階の上位の種で、生態系の攪乱や環境変動などの影響を受けやすい種が対象となる。また、対象地域における生態系内でのさまざまな食物連鎖にも留意し、小規模な湿地やため池などでの食物連鎖にも着目する必要がある。そのため、対象地域の環境スケールに応じて、哺乳類、鳥類などの行動圏の広い大型の脊椎動物以外に、爬虫類、魚類などの小型の脊椎動物や、昆虫類などの無脊椎動物なども対象とする。

 陸水域生態系においても栄養段階の上位に位置する種・群集に着目するが、「小規模な湿地やため池」の例で示されているように、陸水域のスケールに応じた種・群集の選定に留意する必要がある。陸水域を生息域に含む上位種の中には陸域を主要な生息域とする行動圏の広い動物もあるが、陸水域生態系への影響把握という観点からは、陸水域への依存性のより高い種・群集に着目する必要がある。

選定種・群集の例

○陸水域に依存し、栄養段階の上位に位置するもの

  • 哺乳類では魚食性のカワネズミ
  • 鳥類では魚食性のミサゴ、カワセミ類、ウ類、サギ類等
  • 魚類ではイワナ、ヤマメ、ウナギ、ナマズ等
  • 小規模な池沼における肉食性水生昆虫のタガメ等

2)典型性

(前年度検討会報告書における記載)

  対象地域の生態系の中で重要な機能的役割をもつ種・群集や、生物の多様性を特徴づける種、群集を対象とする。該当するものは、生物間の相互作用や生態系の機能に重要な役割を担うような種・群集(例えば、植物では現存量や占有面積の大きい種、動物では個体数が多い種や個体重が大きい種、代表的なギルドに属する種など)、生物群集の多様性を特徴づける種や生態遷移を特徴づける種が対象となる。また、環境の階層構造にも着目し選定する必要がある。

 陸水域生態系においても、上に示した視点を中心に種・群集を選定するが、表流水による河床の攪乱といった基盤環境の変動や、河川の上下流のつながり、水域から陸上への移行部といった連続性など、陸水域が本来典型的に持っている性質に適応した種・群集の視点をより重視する。
 なお、陸水域生態系の機能は陸水域が本来持っている性質と表裏一体と捉えることができるので、機能に関わりが深い動植物が見いだせる場合は、典型性の視点として注目種・群集に選定する。
 前述のとおり、水域の持つ連続的な環境条件を生活の上で利用する「連続性」の視点は、典型性の区分に含まれると考えられるが、特に遡上・降河する回遊性の生物が存在する河川では、事業に伴う移動経路の分断が起こると、影響が単に地域やその周辺のみならず、集水域全体に及ぶことも懸念される。生物の河川縦断方向への移動性は影響を予測評価する視点として重要性は極めて高いと考えられ、水域の連続性に強く依存する種には特に着目し、陸水域生態系の典型性では必ず考慮する必要がある。また、陸水域が陸域や海域と連続していることから、双方を生息の場としている生物種も多く、水域から陸上への移行部、湿原、汽水域などの移行帯の存在を示す連続性の視点も重要である。
 さらに、隔離分布する淡水魚類など、連続性が失われて地理的に隔離された水域を指標する種・群集についても典型性の視点として考慮する必要がある。
 河川では特有の性質として、表流水による河床の攪乱などの基盤環境の変動が大きいことがあげられるが、河川の変動性は事業の実施により損なわれることの多い特性であり、この視点も重要である。
 また、前述のとおり、生活史における水域への依存度を考慮して注目種選定を行う必要がある。例えば、渡り鳥は中継地や渡来地として生活史の一時期を特定の陸水域等に依存して生活するものが多く、この特定の陸水域等にとってはその生態系の構造や機能を規定する大きな要素となっていることも多い。このように一時期であっても生態系に重要な位置を占める種群に着目することも重要な視点である。

選定種・群集の例

生物間の相互作用や生態系の機能に重要な役割を持つ種・群集

  • 多くの動植物群集のハビタットとなるヤナギ群落、ツルヨシ群落、ヨシ群落等
  • 生食連鎖、腐食連鎖等の生産構造を指標する底生動物、魚類(アユなど)
  • 渡来地・中継地として河口部や湖沼に訪れるガンカモ類

生物群集の多様性、生態遷移を特徴づける種・群集

  • しばしば河床が撹乱されることにより存続するヤナギ群落
  • 自然性の高い渓流に生息するカワネズミ
  • 渓流の一定範囲に生活し、水中も利用するカワガラス等
  • 水域で繁殖し、成体は陸上も生息域とするカエル類、サンショウウオ類、ホタル類、トンボ類等
  • 河川形態に特有な底生動物類
  • 河畔の砂礫地に生育・生息するカワラノギク、カワラハンミョウ等

水域の連続性を典型的に特徴づける種・群集

  • 産卵期に河川を遡上するサケ、マス、ワカサギ、イトヨ、シラウオ等の遡河回遊魚
  • 産卵期に海域へ降河するウナギ類、アユカケ、ヤマノカミ等の降河回遊魚
  • 幼期を海域で過ごすアユ、ヨシノボリ、小卵型カジカ等の淡水性両側回遊魚
  • 産卵期に河口部へ降河するモクズガニ等の甲殻類

3)特殊性

(前年度検討会報告書における記載)

 小規模な湿地、洞窟、噴気口の周辺、石灰岩地域などの特殊な環境や、砂泥底海域に孤立した岩礁や貝殻礁などの対象地域において占有面積が比較的小規模で周囲にはみられない環境に注目し、そこに生息する種・群集を選定する。該当する種・群集としてはこれらの環境要素や環境条件に生息が強く規定される種・群集があげられる。

 陸水域生態系では水域が水を通して連続した環境であることや、水底の基盤環境要素が把握しにくいことなどから、陸域にみられるような特殊な地形・地質環境を抽出しにくい面があると考えられるが、例えば湧水地や支流流入部、ワンドや内湖、孤立して残る自然性の高い水域など、局地的に水質、水温等が異なる環境といった視点から注目種・群集を選定することで、影響がより把握しやすくなると考えられる。

選定種・群集の例

○特殊な環境を特徴づける種・群集

  • 河川の中の温水域に生育するチスジノリ
  • ワンドに依存して生息するイタセンパラ

比較的小規模な水辺環境を特徴づける種・群集

  • きわめて限定された清澄な水域に生育するカワゴケソウ科植物
  • 湧水起源のかぎられた水域に生息するホトケドジョウ
  • 汽水域のごく一部に残存するヨシ群落に生息するヒヌマイトトンボ

表−4 定量的な予測が可能な基盤環境要素と予測手法の概要

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