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諸外国における自然再生事業の特徴

[2] 自然再生に関する基本となる計画

 欧米諸国における自然再生事業は、オランダやバルト三国におけるエコロジカルネットワーク、アメリカにおける各種行動計画(アクションプラン)、EUにおけるハビタット指令など、国土全体の生態系保全のあり方を見据えた自然再生に関して基本となる計画を踏まえ、個別の事業を実施していることが特徴である。
 なお、今回収集した事例はインターネットの検索および海外の再生事業に関する図書や論文などを可能な限り整理し、わが国における自然再生事業の参考となると考えられる計画を記載した。

1) アメリカ

[1] アメリカにおける戦略計画

 アメリカでは、1993年に施行された政府行政成果法(GPRA: Government Performance and Result Act)により、すべての省庁が業績を評価するため、各省庁で目標を設定し、その達成状況を定期的にフォローアップする仕組みとなっている。
 具体的には、各省庁は数年に一度「戦略計画(Strategic Plan)」を策定し、戦略計画に掲げた目標を達成するために実施する内容を明記した「年次業績計画(Performance Plan)」を毎年発表する。さらに、年度末にはその成果、達成度を報告する「年次業績報告(Performance and Accountability Report)」を発表している。
 即ち、アメリカにおいては、自然再生事業についても戦略計画に基づき予算化(=Performance Planがそれに該当)されるとともに、事業実施後において、その成果が報告されている。

[2] 環境保護庁における戦略計画(EPA Strategic Plan)

 環境保護庁(以下、EPAとする)も連邦組織の一環として、2006-2011年にEPAにおける戦略計画(2006 - 2011 EPA Strategic Plan)を策定しており、戦略計画をブレイクダウンしたアクションプランがある。
 この戦略計画では、複数の目標が設定されているが、自然再生に関しては、目標3:土地の保護と再生(Goal 3: Land Preservation and Restoration)が設定されており、このなかで、具体的な目標や数値目標が設定されている。これらを達成するために、年次業績計画(Performance Plan)を策定しており、現在は会計年度2005年度業績計画(FY 2005 Annual Performance Plan)となっている。また、EPAも毎年、業績報告による見直しを行っており、最新版としてはEPAの会計年度2006年度における業績報告(The U. S. Environmental Protection Agency's FY 2006 Performance and Accountability Report)を発表している。
 さらに、戦略計画の目標3:土地の保護と再生(Goal 3: Land Preservation and Restoration)の見直しも行っている。



2) 欧州

[1] EU

 EUでは、これまで自然環境の保護が積極的に実施されてきた。特に、1980年代には絶滅危惧種の保全の必要性が叫ばれ、1990年には「エコロジカルネットワーク」の考え方が打ち出された。さらに、2000年には欧州会議から「水枠組み指令」が提出されたことにより、加盟国は、2009年を期限として人間活動が生態系に対して重大な影響を及ぼさない状態まで河川流域環境との関係を回復することを目標とした河川流域管理計画の策定が義務付けられた。これにより、加盟国では、河川管理の視点を流域全体にまで広げた河川の自然再生事業が進められつつある。

 EUにおける生物多様性の保全と再生は、1979年の「野鳥指令」と1992年の「生息地指令」によるヨーロッパ・エコロジカルネットワークの形成という法政策で実施されている。
 野鳥指令は、野鳥にとって好ましい保全状態を維持することを目的としており、本指令の付属書Iに掲載されている絶滅のおそれのある野鳥のほか、渡り鳥の保護のためにも特別保護地域(special protection areas:SPA)の指定を各加盟国に求めている。また、EUでは生息地指令によって、生物多様性保全の目的実現のために、NATURA2000と名づけられる保全特別地域(SPECIAL AREAS OF CONSERVATION:SAC)によるエコロジカルネットワークが形成され、これを生物多様性条約に基づく義務の履行のための対応戦略としている。

 なお、EUの規制については、「指令(DIRECTIVE)」、「規則(REGULATION)」、「決定(DECISION)」、「勧告(RECOMMENDATION)」、「見解(OPINION)」の5種類が存在する。それぞれの適用基準についてみると、「指令」は、加盟国に直接適用されるものではなく、一定期間内に加盟国内で法制化することが義務付けられているものである。 「規則」は、EU法の中でももっとも拘束力が強く、すべての加盟国に適用されるものである。なお、EU法と国内法に相違がある場合はEU法が優先される。 「決定」は、拘束力という点では規則と同じであるが、対象とする特定の個人や団体に対してのみ拘束力を持つに過ぎない。「勧告」は、加盟国、企業、個人などに一定の行為の実施を期待することを表明するもので、拘束力はない。「見解」は、特定のテーマに関しての意思を表明したもので拘束力はない。

[2] デンマーク

 デンマークでは1989年に施行された自然管理条例(Nature Management Act:現在は自然条例(Nature Act))により、森林14,000haの再生および自然生態系の再生などが実施されてきた。また、デンマークの生物多様性保全戦略によれば、1995年から2025年までに、湖と川を30,000ha、森林を150,000ha再生し、ヒース(荒地)地域を2,000ha、海岸草原を8,000ha創出することを目指している。


[3] イギリス

 イギリスでは、EUの環境支払い制度注3)が開始された1987年以降、農業環境政策が順次拡大されてきた。1987年に始まった環境脆弱地域事業(Environmentally Sensitive Areas,ESAs)では、環境面で影響を受けやすい地域45箇所(イギリスの農地面積の15%程度)を指定し、環境の維持・増進に必要な農法や生け垣の再生などの取り組みを10年以上実施する農業者に対して、政府との自主的な契約にもとづき交付金を交付している。また、1990年代には、対象地域を限定することなく、伝統的な農村風景を維持復元するために、「農村風景の維持復元助成制度」(Countryside Stewardship Scheme:CS)を制定し、直接支払いによる環境保全・再生への取組を拡大した。さらに、2005年には、より包括的で、広範な農家が参加できる「環境スチュワードシップ」(Environmental Stewardship)を開始した。「環境スチュワードシップ」では次のようなことを目指している。

 [1]野生生物(生物多様性)の保全
 [2]ランドスケープの質と特徴の維持
 [3]歴史的環境および自然資源の保護
 [4]市民による田園の利用および理解の増進

さらに、これらに含まれる副次的な目標として
 [5]遺伝的多様性の保全
 [6]洪水管理
が掲げられている。

 注3):環境支払い制度とは、農業従事者が環境負荷を減少ないし、環境便益を増加させるような農業活動を選択した結果、負担せざるを得ない費用などについて公的な支出で補完するというものである。


[4] ドイツ

 ドイツの自然再生事業とわが国のそれとの大きな違いは、前者において自然再生に関する基本となる計画(ユネスコやEU-LIFE注4)、Natura2000注5)の他、連邦政府の上位計画など)が存在することである。これは、ドイツがEUに加盟していることや州による連邦制を採用していることなど、政治的背景に起因している。自然再生に関して基本となる計画が存在するため、個々のプロジェクトの目的が明確になっており、これらの計画からの金銭的サポートは、プロジェクトを推進するための大きな役割を果たしている。

 注4):EU-LIFEとは、1992年にEUにおいて導入された環境問題に関する金融支援活動であり、その活動には、LIFE-NATURE(EU加盟国の自然保護政策やNature2000に伴う生息地や野生動物の保護に関するもの)などある。

 注5):Nature2000とは、EUにおける生物多様性を保全するために設けられた自然保護地域のネットワークである。1992年に採択された生息地指令(HABITATS DIRECTIVE)と、1979年に採択された野鳥指令(BIRDS DIRECTIVE)で構成されるネットワークである。


[5] ニュージーランド

 ニュージーランドでは、約1,000年前のマオリ族や約200年前の欧州人の入植の影響を受けたため、独自の多様化の歴史を経て形成された生物多様性に危機が訪れている。主要な産業である農業や牧畜、林業などの人為活動によるハビタットの破壊やヒトによって持ち込まれた外来種が、長い間孤立してきた生態系に及ぼした影響は著しいものであった。ニュージーランドにおける生物多様性保全の歴史は19世紀までさかのぼる。1880年から1980年までの取組では、生態系の衰退をとめることができなかったが、1980年代になり、カピチ島で外来種であるフクロギツネの根絶に成功し、保全に係わる人々に希望と自信を与えた。それから10年間で、多くの島から導入されて野生化していたクマネズミ、ワラビー、ウサギ、オコジョ、ネコなどを根絶し、固有の動植物が生き残る条件が整えられた。


~参考文献~

■ 「生物多様性の保全と復元」都市と自然再生の法政策、坂口洋一、ぎょうせい2005

■ 欧州における川の自然再生への取り組み事例調査報告
  http://river.ceri.go.jp/saisei/houkoku.pdf

■ 「地域と環境が蘇る水田再生」(鷲谷いづみ編著、2006)

■ United Nations (2006) Population, Resources, Environment and Development: The 2005 Revision

■ 「自然再生 持続可能な生態系のために」(鷲谷いづみ、中公新書、2004)


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