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諸外国における自然再生事業の特徴

[1] 自然再生事業の対象

 収集した事例について、自然再生の対象に着目し、生物種、ハビタット、生態系、景観に区分して整理した。

1) 生物種

 再生対象には、危惧種(Endangered Species)がもっとも多く取り上げられているが、最近では在来種に影響を及ぼしていると考えられる外来種(Invasion Species)の対策を取り扱った事例もある。かつて、アメリカでは種の情報が散在していたため、国土全体での分布状況が不明確であったが、新たな行動計画(Action Plan)において種の情報の総合化を実施し、データの明確化を図っている。また、44 州において、自然遺産プログラムを利用した動植物、自然群集(Natural Communities)の調査を実施しているが、州によって種の情報に関する量や内容に差異があるため、ワークショップや専門家の意見を取り入れたアセスメントを実施し、この差異を埋めようとしている。

 また、アメリカにおける種の保存法では、科学的に絶滅のおそれがあると認められた種は、定められた基準に従い「絶滅危惧種」または「危急種」に指定される仕組みとなっている。それらの指定には、長官(内務省長官または商務省長官)が指定手続きを開始する場合と市民の申請により開始する場合の2つの手順があるため、長官が指定手続きをとらなくとも、市民が申し立てることにより指定することができる。

 さらに、「絶滅危惧種」または「危急種」の保全措置には、「連邦行政官庁の保全義務」を定めている。連邦行政官庁は、絶滅危惧種および危急種の依存する生態系を保全するための資金提供や、その連邦行政官庁が実施する施策に関する行為を承認する際には、絶滅危惧種等の生存を脅かしたり重要生息地の保全の観点から、魚類野生生物局と「協議」を実施することになっている。また、本法における「捕獲」の概念は広く、「生息地の改変または破壊」は「侵害」(捕獲の一態様)になりうるとしている。「市民訴訟」注1)の規定は、本法の施行過程に市民の参加と監視の役割を保証するものであり、保全の履行の確保に役立っている。

 注1)市民訴訟は、絶滅危惧種法の実施過程において市民の監視・参加の役割を果たせるものであり、市民訴訟規定の11条(g)によれば、「何人も絶滅危惧種法を実施するために連邦地方裁判所に訴えることができる」としている注目すべき制度である。


2) ハビタット(生物生息空間(habitat))

 アメリカおよびカナダでは、ハビタットの保護や管理を実施することにより、多くの種の保護や管理が可能となるため、ハビタットの再生を重要視している。一方、種についての調査は経済的な負担が大きいため、管理者と一般住民との間に合意が得られないケースもある。

 アメリカにおけるハビタットや景観(Landscape)の保全への取組は、特定種の再生努力(Recovery Effort)から複数の種の再生努力へと方針を転換した絶滅危惧種法(Endangered Species Act)に基づいている。現在、31 州においてハビタット分布図が作成されており、その他の州でも別の手法による取組が行われている。別の手法の例として、ワイオミング州では、ハビタットの質を評価するため、健全なハビタット(Habitat Intactness)と比較することによって対象ハビタットの質を判定している。健全なハビタットは、消失(Loss)、断片化(Fragmentation)、劣化(道路密度、表流水の利用、外来種など)といった多くの要因を調査することで決定される。また、ハビタットという空間的なものを解析することを重要視する目的は、国全体の保護エリアのネットワークにおいて、ハビタットデータが不十分であることに対して直接的に国民等の注意を向けさせることにある。

 イギリスにおいて、自然保護活動は伝統的に地方に集中しており、自然保護区の設置、希少種の保護や消失しつつある野生生物のハビタットの保護が活動の中心であった。しかしながら、今日、より大型の農業機械を導入したことによる生け垣(Hedgerow)の消失、農薬と化学肥料の大量使用など、集約的な農業による自然への脅威が増大していることに対して、地域に生息する動植物のハビタットを守る活動が繰り広げられている。

3) 生態系

 アメリカでは、2004年12月にフロリダ州オーランドで生態系の再生(ecosystem restoration)に関する会議が初めて開催された。会議には国および出先機関の行政官、水資源エンジニア、環境コンサルタント、生態学者、水文学者、環境団体など、43 州から 900 人以上が参加した。

 この会議では、エコロジカルネットワーク構築の目的として、フロリダにおける重要な在来生態系や景観の保護ならびに生態系と景観における生物潜在性の維持などが議題としてとりあげられた。

 自然再生事業は、生態系レベルや景観レベルといった上位レベルで開始されたとしても、様々な要因や意見などにより、下位のレベル(ハビタットや種レベル)に変更されることが多い。しかし、対象を下位レベルに限定したものとすると、具体的な結果を得やすい一方で、上位レベルの視点ではまったく効果が出ていないことが多い。

 失敗した再生事業としては、生態学的な観点ではまったく効果的でない箇所で実施されたものや、再生事業の終了後に発生した嵐によって破壊されてしまった事例などがある。また、別の事例では、ある生態系の保全を目的に設計された再生計画が、他の生態系に対して悪影響を及ぼしてしまったというケースもあった。このような失敗事例の共通点として、再生計画が地理的、時間的、生態的な視点を持っておらず、事業実施区域だけの狭い範囲で対応した点があげられている。

 自然再生事業の管理については、多くの研究論文やホームページ等で、環境を破壊することなく継続的に利用するという原則に従い、生態学的に適切で、経済的にも可能であり、社会的、政治的にも受け入れられるものではなければならないとしている。

4) 景観

 アメリカでは、過去30年間、政府、NGO、その他の企業等とのパートナーシップにより景観の保護が進められている。2000年には州の野生生物の補助金制度(State Wildlife Grants Program)に関する会議が開催され、ハビタット解析のスケールや手法等が協議された。各州において野生生物の行動計画を作成したことが、この補助金制度の重要な点である。景観に関する行動計画では、景観の変化を予測することにより、種やハビタットの劣化を抑えることが景観劣化を防ぐ解決策として提示されている。アメリカでは、景観生態学から導かれた概念が資源管理や土地利用計画にも影響を与えている。一方、わが国では、アメリカやオーストラリア、ニュージーランドに見られる自然システム重視の研究とヨーロッパに見られる文化的な側面重視の研究とを融合させることにより、新しい考え方が生まれる可能性がある。

 なお、わが国におけるエコパークやミティゲーションの計画において、これまで景観について着目されることは少なかったが、自然再生の過程において自然再生に対する理解を広げ、事業を進めていく上で「景観」をどのように織り込むかが重要な課題となりつつある。現在は自然再生事業において、生態系と同時に景観を形成する手法が確立されていないが、今後、重視すべき事項である。

5) 公表データの利用

 カナダにおけるデータベースは、植生図、土壌図、地形図、傾斜図などのわが国でも公開されている GIS データのほか、国や州が発行している“ 陸域生態系マップ(TEM :Terrestrial Ecosystem Mapping)”、種によってはハビタットマップが整備されている。また、国や州以外にも、私企業が持つデータを有料で活用する仕組みも存在する。

 環境影響評価における植生図やエコシステムマップ注2)を作成する場合、国や州が提供しているものだけでは不十分であるため、現地調査を行うことが多い。現地調査の手法には、その正確性を期すため、エコシステムマップの作成手法を記載した“生態系マップの正確性評価手順(Protocol for Accuracy Assessment of Ecosystem Maps)”や、ハビタット解析時の区分(重要さの重み)付けを行うための“ブリティッシュコロンビア野生生物ハビタット評価基準(British Columbia Wildlife Habitat Rating Standards)”といったガイドラインが存在する。

 ハビタットマップやエコシステムマップは国や州によって整備されるが、地域によりそのスケールが異なるため、事業の種類や影響度に応じたレベルの目標や図面のスケールが要求される。

 カナダと同様にアメリカにおいても、ミシガン自然インベントリー(Michigan Nature Features Inventory)やノースウエストハビタット協会(NHI:Northwest Habitats Institute)では、ある地域のインベントリーデータのほか、ハビタットマップ、生態機能マップなどをダウンロードできるシステムをホームページ上で公開している。なお、種に関しては、乱獲などのリスク回避を目的に個人への情報公開を禁止している場合もある。

 注2)エコシステムマップとは、カナダにおいて1900年代後半に作成され、そのスケールは20000分の1から50000分の1が主であるがさらに詳細なスケールもある。表示内容は、マップユニットといわれる生態系の機能の組み合わせ、すなわち、気候、土壌、地質、植生などの状況を記号化し、図化している。環境影響評価や森林管理、野性動物管理、生物多様性管理など、多くの分野で役立てられている。



~参考文献~

■ 「生物多様性の保全と復元 都市と自然再生の法政策」(坂口洋一、 2005 )上智大学出版

■ 「景観生態学 生態学からの新しい景観理論とその応用」(M.G.Turner, R.H.Gardner, R.V.O’Neill著 中越信和・原慶太郎監訳,2004)文一総合出版

■ 「自然再生」(亀山ほか,2005)ソフトサイエンス社

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