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諸外国における自然再生事業の特徴

[3] 事業の背景

1) アメリカ
 近代アメリカにおける再生の歴史は、20世紀初期のシカゴ大学の造園家であるジェン・ジェンセン(Jens Jensen)による損失を受けた資源、生態系および生息地の修復(repair)に始まり、1930年代のウィスコンシン大学のアルド・レオポルド(Aldo Leopold)らによる活動、そして、大恐慌時代の様々な一般市民による保全隊(Civilian Conservation Corp)プロジェクトと1937年の野生生物(Wildlife)回復条例における連邦政府援助を含んだ法律の制定へと続いている。
 一方、人々が”再生”というキーワードに関心を持つようになったのは、1988年1月にカリフォルニア大学バークレイ校で開催されたRTE(Restoring the Earth)注6)主催の「再生に関する最初の会議」からであった。この会議で初めて、再生に関わる情報を共有することができたといえる。当初は、半日のワークショップとして計画されていたが、反響が非常に大きかったため、最終的には4日間にわたってミーティングが開催され、参加者は大学、行政および自然再生に関わる1,000人以上の関係者、200人の発言者および多くの報道関係者にまで膨れ上がった。
 この会議の成功により、多くのアメリカ人が、ニューヨークタイムズ、ロサンゼルスタイムズ、ニューズウィークなどのメデイアを通じ、再生について学ぶことができた。また、米国ニュース、世界レポートおよび国家の公共ラジオ、カリフォルニア大学バークレイ校TVオフィスによって作成された会議の模様を扱ったテレビ番組は、カリフォルニア中に放送された。会議以来、RTEには再生に関する情報を求める多くの要求が寄せられ、アメリカの人々が自らのコミュニティー内で再生を始めるプロジェクトに関心を持ち始めた。
 注6):RTE(Restoring the Earth)とは、地球の回復を目標に掲げ、多くのボランテイアの協力のもと多様なプロジェクトを実施している団体。
2) イギリス・カナダ
 イギリスにおいて、再生事業等は都市部で多く実施されている。これは都市における自然環境保全活動が都市生活者の生活環境の改善につながり、その結果として、副次的な経済効果が期待できるとされているからである。ENGLISH NATUREから刊行されている「都市における自然保護と青年の雇用」では、都市における自然保護活動の機能が次に掲げる3つの要素またはそれらの組み合わせにあるとしている。
[1] すでに都市に生息する野生動物とそのハビタットの保護および管理
[2] 野生生物と地域住民双方のニーズが両立できる新しいハビタットの創造
[3] 都市に自然が存在することの意義や、その土地により多様な種が生息し得る可能性とその重要性を認め、身近な自然を保全し、育て、楽しむ上で自分たちが果たし得る役割を認識するための住民教育
 また、カナダにおいてもイギリスと同様、経済効果を見込んだ再生事業や環境アセスメントを実施している。カナダの主要な観光資源であり、重要な輸出資源でもあるサーモンの保護目的のため、河川やその周辺への影響が重大と考えられる開発に対しては慎重な環境アセスメントや裁判判例などをもとに議論されることとなる。
3) オランダ
 オランダにおける自然再生事業(Nature/Ecological Restoration)は、持続可能な農業活動・水利用の実施、洪水制御、景観保全、種の保全などを目的に実施されている。インターネットによる情報では、自然再生事業として積極的な再生・回復の取組を実施する事例は少なく、現状環境の保全を目的とした活動が主である。同国における主な自然再生事業としては、「国土生態学的ネットワーク計画(National Ecological Network)」および「ライン川のオランダ国内における自然再生事業(ドイツなどの同河川が通過する国々との協調)」があげられる。
 また、国土生態系ネットワーク計画について、オランダ会計検査院【裁判所】の監査報告では、いくつかの問題点があげられている。まず、同計画は、農水省と地方自治体が主体となって実施しているが、農水省が計画の明確なフレームワークを示していないため、実際に計画を遂行する地方自治体が適切な判断を下せないことがあげられている。また、同計画では、個人の地権者の自発的な取組に負うところが大きいが、行政機関は地権者に対して強制力を持たないため、最適な自然保護地の管理ができていないことや、農水省、住宅地域計画環境省、運輸水利管理省などの関係機関との調整がうまく行われていないことも同計画が適切に実行されていない理由としてあげられている。
~参考文献~
  • 「Environmental Restoration」(John J. Berger,1990,Island Press)
  • 「まちに自然をつくる 英国流環境保全活動実践ガイド」(トラスト・フォー・アーバン・エコロジー編・著、1995) 中央法規
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