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伊勢志摩国立公園のストーリー

三重県の中央部に位置する志摩半島に広がる伊勢志摩国立公園は2つのエリアに大別される。1つは、伊勢神宮とその背後に広がる豊かな森林環境を有する内陸部のエリア。もう1つは、複雑に入り組んだリアス海岸と多島景観が展開する海沿いのエリアである。
内陸部は「里山」を内包し、海沿いには「里海」が広がっている。いずれも農業、林業、漁業など、人の営みと密接に関わりながら、その生態系が維持されてきた場所だ。そして、人と自然の共存共栄が伊勢志摩で定着した背景の1つに、この地に鎮座し、悠久の歴史を刻み続ける伊勢神宮の存在がある。
里山・里海の自然と伊勢神宮の歴史と文化、地域の暮らしと伊勢志摩の自然。それらはどのようにかかわり合っているのか?そこに着眼することで、伊勢志摩国立公園の奥深い魅力がくっきりと浮かび上がってくる。
今もなお続く里山里海の暮らしの風景
伊勢志摩国立公園にはリアス海岸などの豊かな自然環境があり、その中で育まれた人々の営みが相まって、特有の里海の風景を作り出している。自然と人の営みとの関係性は非常に深く、古代から続く海女漁、伊勢神宮2千年の伝統文化の中に、その神髄を見出すことができる。
現在、伊勢志摩地域には、日本で最も多く海女がいるが、それほどまでに海女漁が健在な背景には、小さいアワビは禁漁としたり、潜水の日数を制限したりする等、漁業資源を守りながら生き抜く伝統の精神がある。自然への畏怖と感謝の念は、地域の人々の信仰とも深く結びついている。
自然の恵みを持続的に享受するための優れた技術や知恵は、20年に1度行われる伊勢神宮の式年遷宮にも顕著だ。社殿が解体される際に出る古材は、神宮内での再利用や全国の神社の建て替えや修復に利用される。また、全社殿に使われる檜材は1万本以上に及ぶが、木材を持続的に確保するために、宮域林での檜の造林が200年計画で進められている。
自然と人の営みと信仰が深いつながりを持ちつつ、風土と文化を創り上げてきた伊勢志摩。今日課題とされるサステナビリティの原点が、人の営みの中に息づく。そんな風景と出会える国立公園だ。


豊かな海の恵みを育む海と森の関係
志摩国(鳥羽・志摩)は2千年も昔から、朝廷や伊勢神宮に海産物を納めてきた歴史があり、万葉集で「御食つ国」と詠われるほど、重要な地位を占めていた。志摩国が格式のある「御食つ国」となった最大の理由は、アワビ、サザエ、カキ、マグロ、マダイ、海藻類等、多種多様な海洋生物を育む、特有の海底地形や豊かな海洋環境を有していたことに起因する。
伊勢志摩の海域は、穏やかな内海と荒波の立つ太平洋の外洋で成り立つ。外洋と内海の漁場ともに、温暖な黒潮が絶えず流れ込み、また、志摩半島の沿岸の里海には、海洋生物のゆりかごとなるカジメやアラメなどの海藻による海中林が広がっている。
こうした伊勢志摩特有の多様な海洋環境が、生物多様性の豊かさをもたらしていることに加え、伊勢神宮の「宮域林」や里山の自然も、豊かな里海の生態系を育むのに一役買っている。
黒潮の影響による温暖な気候は、常緑広葉樹の森を育む。雨が降るごとに広葉樹の森の栄養分が川を通じて海にそそぎ、栄養豊かな海をつくり出す。
海と森の関係性が「御食つ国」の豊富な海産資源を支えている。そのことに思いを馳せつつ、伊勢志摩の美味なる海の幸に舌鼓を打つのも一興だ。




