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特定外来生物等の選定について
第9回特定外来生物等分類群専門家グループ会合(昆虫類等陸生節足動物)議事概要
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日時
平成27年5月13日(水)15時30分~16時30分
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場所
一般財団法人 自然環境研究センター 7階 会議室
3 出席者(敬称略)
(委員)石井 実(座長)、荒谷 邦雄、小野 展嗣、平井 規央、森本 信夫
(環境省)自然環境局野生生物課外来生物対策室長 曽宮 外来生物対策室長補佐 立田、外来生物対策係長 森川
(農林水産省)大臣官房環境政策課課長補佐 畠沢
4 議事概要
〔第9回専門家グループ会合(昆虫類等陸生節足動物)開催の経緯〕
(事務局から参考資料1、2、3にもとづき説明)
(荒谷委員)届出のあった輸入の目的について、差し支えなければ教えていただきたい。
(環境省 森川)研究目的とのことである。
(小野委員)届出では、数量や飼育実験に要する期間なども申請されるのか。
(環境省 森川)今回の届出書には、具体的な数量等まで記載する項目はない。今後、ツヤクロゴケグモを特定外来生物に指定することになれば、飼養等の際は、申請が必要になり、そのときにそういった項目を含めて正式に申請をしていただくことになる。
〔ゴケグモ属に関する情報〕
(事務局から資料4、資料5を説明)
(環境省 森川)資料5の下の表のとおり、現在、ハイイロゴケグモ、セアカゴケグモ、クロゴケグモ、ジュウサンボシゴケグモが特定外来生物に指定されており、これら4種と在来種のアカオビゴケグモを除くゴケグモ属全種が未判定外来生物に指定されている。今回、ゴケグモ属に属するツヤクロゴケグモの輸入の届出があったが、資料4のとおりゴケグモ属全種が同様の毒性また生態特性を持っていることから、人の生命又は身体に被害を及ぼすおそれがあるという点で他種も同様の特性があるのではないかと事務局では考えている。そのため、資料5の上の表のように、在来種であるアカオビゴケグモを除くゴケグモ属の全種について特定外来生物に指定することを事務局として提案したい。種類名証明書の添付が必要な外来生物については、これまでと同様にゴケグモ属の全種が対象となる。
(平井委員)ゴケグモ属31種全てが有毒であるという認識でよいのか。また、同じヒメグモ科の近縁の属などで、同じような毒を持っている種はいるか。
(小野委員)ゴケグモ属は、そこに属する種が皆似ていて非常にまとまった属である。全種について毒性が調べられているわけではないが、被害の多いクロゴケグモやジュウサンボシゴケグモ、ハイイロゴケグモ、セアカゴケグモについては毒性がよく調べられており、十分、全種に毒性があると推測しうると考える。逆に近縁属については、その毒性自体が人間の身体に影響を及ぼすということが確認されたものはない。全てのクモは昆虫を捕食するために毒を持っていて、人間が噛まれると微量でもクモの毒が体内に入る。ゴケグモ属の特殊性は、その毒性自体に人間の神経系に影響を及ぼす成分があるということであり、他のクモにはほとんどそれがない。噛まれたときのアナフィラキシーなどを想定すると、ヒメグモ科全種が問題になるが、それは問題にしなくてよいと考える。
(平井委員)今の説明を聞いて、事務局提案は妥当であると考えている。
(荒谷委員)基本的にはゴケグモ属全種を特定外来生物に指定することで問題ないと思うが、そうなると一般への教育・普及啓発が必要になる。資料4にゴケグモ属の形態的特徴が一通り挙げられているが、特に雌について、腹部の赤い斑紋でゴケグモ属であることを一般の人でも認識できるという理解でよいか。いたずらに不安を煽らず、且つ、安全を守れるように、判別方法や雌に対する注意を促す必要がある。
(小野委員)クモは孵化したときにはクモの姿をしており、脱皮をしながら成体になるが、幼体の時期は非常に判定が難しい。特に孵化してすぐのクモは、ヒメグモ科かどうかは割と判定しやすいが、それ以上はなかなか難しい。ただし成体になると、腹部の下にはっきりとした赤色ないし白色の斑が出るので、他属との区別は容易である。また、毒性が問題になったり刺咬例があるのはほとんど雌の成体のため、成体だけを問題にすることでよいと思う。
(石井座長)評価の理由について、人の生命又は身体に係る被害を及ぼすおそれがある、という考え方で選定したいということだが、この点に関してはいかがか。
(小野委員)このクモは一見猛毒には見えないところや、攻撃性が意外と少なくて目立たないところが問題。例えばスズメバチは攻撃性があるのですぐにわかり、マムシやハブを見て大丈夫だと思う人も余りいないと思うが、このクモは一見1cmぐらいと小さく、ちょっときれいで、子どもが掴んでしまうようなこともあり得る。そういう意味で、その毒性をアピールすることは重要と考える。
(森本委員)原案でよいと思う。
(石井座長)日本に侵入した場合の定着可能性は、どう考えられるか。
(小野委員)ヒメグモ科全体が、割に人為的に広がっていく傾向がある。セアカゴケグモとハイイロゴケグモは日本に既に定着しているが、それ以外の種も定着する可能性が非常に高いと思う。現に、真相は不明なものの、ツヤクロゴケグモとみられるクモが米軍の基地で大発生したという事例があるので、ツヤクロゴケグモやクロゴケグモが日本に定着する可能性は常に考えておかなければいけないと思っている。
(石井座長)ゴケグモ属の分布は、大体、世界の亜熱帯、熱帯地域という理解でよいか。そうすると、日本への定着は困難ということはないか。
(小野委員)属全体としては熱帯~暖温帯という言い方でよいが、種によって違いはある。例えば当初セアカゴケグモは熱帯性だと言われていたが、実際にはオーストラリア全土に生息しており、日本でも岩手県に定着するなどかなり適応力がある。恐らく野外で冬に長期間氷点下になるような場所では定着が難しいだろうと考えられるが、推測にすぎない。特にこのクモが見つかるのは市街地が多く、市街地は自然環境より温度が高く、コンクリートの隙間など隠れる場所が多いので、十分日本の気候に適応しうると考えている。またイスラエルなどの砂漠にいるような種類もあるが、市街地の環境は海岸の岩場や砂漠といった過酷な環境とよく似ており、そういうところに分布する生物が定着している例もある。そうしたことから、ゴケグモ属全種が、人為的に持ち込まれた場合は日本の自然環境、とくに市街地の環境に適応して繁殖しうると申し上げたい。
(荒谷委員)九州大学では、3年前に伊都キャンパスでセアカゴケグモが初めて1頭見つかった。キャンパス移転中で、恐らく建築資材に紛れて付いて来たのだろうと判断していたが、瞬く間にキャンパス全体に広がり、昨年度は数え切れないぐらいと言ってもよい状況。福岡の港部分で発見されているアカカミアリやアルゼンチンアリなどが建築資材に紛れて入って来るのと同程度かと思っていたが、その比ではない。営巣して、それが隙間に入って来て広がる、という部分がある。今最も危惧している問題が、クラブハウスや授業を行う建物の中に入り込んだ場合の影響である。全学一斉の年中行事として行っていたキャンパスの清掃や草刈りも、空のペットボトルや牛乳パックなどにセアカゴケグモが入っていた事例があったため、昨年度から止めている。建物の中などに入ることによる越冬や、拡散およびその数の増え方などには、予想以上のものがあると実感している。
(小野委員)昨年、東京都で初めてセアカゴケグモが見つかったときに、オーストラリアのクイーンズランドミュージアムにいるゴケグモの第一人者に話を聞いた。オーストラリアでも時々大発生し、理由は分からないがやはり市街地の、特に公園や大学キャンパスのようなところに大発生するという話であった。そういう場合、公園であれば閉鎖して、薬剤を撒かず物理的に(人が捕獲して)駆除をするとのことであった。日本でも同じようなことになりうると十分に考えられると思う。
(荒谷委員)九州大学では卵嚢をつぶしていたが、その駆除方法でよいか。
(小野委員)卵嚢をつぶすことは有効である。ただし、既に卵嚢から子グモが孵って出て行っている可能性があるので、(卵や子グモが入っている状態の)卵嚢のうちにつぶすのが最も大事なことである。卵嚢から孵った子グモは1mmに満たないぐらいに小さく、もう見分けがつかないため、卵を産む時期より前に駆除するのが一番よいと思うが、たいてい大発生して目に付く頃はもう繁殖期になっている。日本ではそれが秋なのだが、その時期より少し前の幼体の時期に駆除するのが本当は望ましい。
(小野委員)市街地に多いということに関して、オーストラリアの研究者の推測によると、子グモの時代にけっこうほかのクモに食われるのでこの時代に天敵が少ないことが大発生の一要因になっている、ということであった。
(環境省 立田)オーストラリアで駆除に薬剤を使っていないのは何か理由があるのか。
(小野委員)そこまで詳しく話を聞いていないため、わからない。もう少し情報を集めたい。
(環境省 立田)卵嚢に薬剤は効くか。
(小野委員)中に卵が入っている状態で、かなり薬剤がかかれば多分死ぬと思う。しかし発生が進んで孵化寸前の頃に薬剤が多少かかった程度では、卵を覆っている糸が膜状でけっこう固いため、効くかどうかはわからない。薬剤の種類や散布の程度などによる実験が必要だろう。
(環境省 立田)資料4、p2の分布の記述について確認したい。「イスラエルにも分布するが、人為による導入と考えられている」というのは、ツヤクロゴケグモのことか。また、先ほどの小野委員の話は、それとは別にイスラエルには砂漠などに適応している別のゴケグモがもともといる、ということでよいか。
(事務局 石塚)「イスラエルの分布が人為による導入と考えられている」というのは、ツヤクロゴケグモについての記述である。
(小野委員)そのとおり。さきほど申し上げたイスラエルの砂漠にいる種類というのは別の種類のことである。
(石井座長)では、それがわかるよう修文してほしい。また同じ文中に「移入」という言葉があるが、環境省の用語である「導入」に訂正をお願いする。
(平井委員)ツヤクロゴケグモの群馬県での発見例は、どういう原因が考えられるか。
(小野委員)ロサンゼルスから中古車を輸入した会社の駐車場で発生した。数匹見つかり、そのうち2匹ほどが私のところに送られてきて私が同定した。すぐにその駐車場に薬剤散布等して様子を見ていたが、次の年以降はもう発生せず、余り騒がれずに収束した。
(小野委員)資料5のアカオビゴケグモの学名がL. indicusとなっているが、L. elegansに訂正していただきたい。L. indicusはセアカゴケグモのシノニムになり、現在は使われていない学名。
(環境省 森川)現状では、施行規則にL. indicusと記載されている。過去はこうだったが、分類学上の変更があったということか。
(小野委員)その通り。当時は、L. hesperusもL. mactansと同じ種という扱いにされていたかもしれない。セアカゴケグモもクロゴケグモの亜種になっていたという経緯があり、今は別種とされているものが、クロゴケグモの亜種とされていた時期があったので、その影響かもしれない。参考文献の⑯World Spider Catalogに最新情報が載っていて、インターネットで閲覧可能なので、確認できるかと思う。
(環境省 曽宮)既に現状の施行規則の中でL. indicusとして記載されて公になっているため、事務局としてもきちんと事実を承知しなければいけない。後程、詳しくお聞かせいただきたい。
(石井座長)資料5の表に関しては慎重に扱いたい。下表の記述はこれを指定した時点においてはL. indicusだったのでこのままにして、上表の記述については慎重に調べてから、ということにしたい。そのときに資料4が重要な根拠資料になるのであれば、この中に種名の変更について記述する必要がある。
(石井座長)ほかに特にご指摘等なければ、当昆虫類等陸生節足動物会合として、輸入の届出のあった未判定外来生物のツヤクロゴケグモを含むゴケグモ属全体に対して、資料4にある「評価の理由」にもとづき、人の生命・身体に被害を及ぼすおそれがある生物として特定外来生物に指定するべきである、という結論としたいが、よろしいか。
(一同了承)
〔指定に向けた今後の手続きについて〕
(環境省 森川)本年3月6日に輸入届出を受理しているため、その半年後の9月5日が被害の判定のリミットとなる。それまでに、今回の専門家グループ会合でいただいた御意見をベースに、WTO通報および専門家全体会合の委員への意見聴取等をさせていただく。その後、政令指定に向けた法制局の審査等を経て、パブリックコメントを7月上旬ごろに実施し、8月中旬ごろの閣議決定、政令指定を目指したい。
(荒谷委員)WTOは検疫など手間がかかることには割と指摘してくる印象があるが、ゴケグモに対して属全体の指定をするのは日本が初めてか。周辺国の状況など、何か御存じか。
(環境省 森川)今時点で、情報は持っていない。ただ、WTOは基本的に貿易の阻害にならないようにというところの機関であり、これまでの経緯を見ても、ゴケグモ属はもともと未判定外来生物で、相談があったのも今回初めてなので、基本的に特に支障なく進めていけるのではないかといった感触は持っている。