環境省自然環境・自然公園特定外来生物等の選定について

第7回 特定外来生物等分類群専門家グループ会合(昆虫類等陸生節足動物)議事録


1. 日時 平成18年4月19日(水)10:00~11:50
2. 場所 経済産業省別館 944号室
3. 出席者  
   (座長) 石井  実
   (委員) 荒谷 邦雄
小倉勘二郎
桐谷 圭治
高桑 正敏
梅谷 献二
小野 展嗣
五箇 公一
         
   (環境省) 名執野生生物課長
三村外来生物対策室長
堀上外来生物対策室室長補佐
長田移入生物専門官
4. 議事  

【環境省 長田専門官】 それでは予定の時刻になりましたので、ただいまから、特定外来生物等専門家グループ会合の昆虫類等陸生節足動物会合(第7回)会合を開催したいと思います。
 まず初めに、野生生物課長の名執からごあいさつを申し上げます。

【環境省 名執課長】 おはようございます。野生生物課長の名執でございますけれども、委員の先生方には年度初めの大変お忙しいところ、また急なお願いにもかかわりませず、第7回の特定外来生物等分類群専門家グループ会合、昆虫類等陸生節足動物グループの会合にご出席いただきましてありがとうございます。また、先生方には日ごろより外来生物の問題を初めといたしまして、野生生物保護行政に種々ご助言・ご協力をいただいておること、この場をお借りして御礼申し上げたいと思います。
 また、今回から、以前から臨時委員として、本グループ会合に出席いただいておりました九州大学大学院の荒谷邦雄先生に、正式に甲虫の専門家として委員に加わっていただくことになりました。どうぞよろしくお願いいたします。
 まず最初に、先生方へのご報告でございますけれども、この4月1日に野生生物課に新たに外来生物対策室が設置されました。外来生物対策室では、外来生物法と、それから遺伝子組替え生物の規制に関する、いわゆるカルタヘナ法、この両方を担当することとなっておりまして、隣に座っております室長の三村以下9名の体制でスタートしたところでございます。今後とも、さらに積極的に外来生物などの対策に取り組んでいきたいというふうに考えておりますので、よろしくお願いいたします。
 さて、これまで先生方のお力添えによりまして、特定外来生物の第二次指定につきましては本年4月に無事終了いたしまして、また、セイヨウオオマルハナバチにつきましても、パブリックコメントやWTO通報の手続を終えまして、指定に向けた準備を進めているところでございます。
 本日、お集まりいただきましたのは、クモテナガコガネ属及びヒメテナガコガネ属について検討いただきたいというものでございます。これは、外来生物法の施行後、全分類群を通じて初めて未判定外来生物の判定に係る検討となります。未判定外来生物でございますけれども、外来生物法上では生態系等に係る被害を及ぼすおそれがあるものである疑いのある外来生物ということで、省令で指定することとなっておりまして、また、基本方針では、原則として我が国に導入された記録のない生物、または過去に導入されたけれども野外で定着しておらず、現在は輸入されていない外来生物を対象とするということにされているところでございまして、外来生物法に基づきまして、未判定外来生物を輸入する、しようとする場合につきましては、主務大臣に届出が必要ということになっております。また、届出を受理した日から6カ月以内に主務大臣は被害を及ぼすおそれがあるか否かについての判定をしなければならないということになっております。先ほども申し上げたとおり、初めての未判定外来生物の検討となりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

【長田専門官】 それでは、室長からごあいさつ申し上げます。

【環境省 三村室長】 先ほど野生生物課長の方から紹介いただきました。新しく4月1日付で、外来生物対策室の初代の室長ということで参りました三村と申します。どうぞよろしくお願いします。
 私自身はここに来る直前は、仙台にございます東北地方環境事務所というところで、統括自然保護企画官ということで、自然保護分野全体の取りまとめをするという立場でございました。東北では伊豆沼でブラックバスの対策のモデル事業というのをちょうど進めておりまして、そこいらのヘッドというんでしょうか、推進の方を担当していて、今回、こういう形で、今度は正面から外来生物、それから遺伝子組替え生物ということで対応するということになりました。これから勉強しながら追いついていくという立場でございますので、引き続き、また、先生方にはいろいろ、場合によると多少外れてしまったような質問も差し上げることになるかと思いますが、ぜひよろしくお願いしたいと思います。また、ほかのメンバーはご案内のとおりほとんど変わらずにスタートをしてございます。したがいまして、今までの流れを止めることなく加速するというようなことで動けていけたらというふうに考えてございますので、どうぞよろしくお願いいたします。

【長田専門官】 それでは続きまして、お手元にお配りしました資料の方の確認をさせていただきたいと思います。順番に確認してまいりたいと思いますけれども、一番上に議事次第がございます。議事次第の次に委員の名簿です。名簿が1枚ございます。それから、右肩に資料番号がついておりますもので、まず資料の1、未判定外来生物について、資料の2が今回提出されました未判定外来生物の輸入届出の概要というカラーの資料になっております。それから資料の3が、一番上がクモテナガコガネ属に関する情報(案)となっておりまして、その後に、ヒメテナガコガネ属に関する情報といいますものが資料3でございます。それから、参考資料の1としまして、第二次選定の検討の際に作成をいたしました資料をお配りをしております。特定外来生物等分類群専門家グループ会合資料(第二次選定時資料)というふうになっております。それから参考資料の2として、1枚ですけれども、ヤンバルテナガコガネについてというペーパーをお配りしております。それから、委員の先生方には机上に冊子で、特定外来生物被害防止基本方針の方をお配りしております。こちらは、会議後回収というか、ちょっと残部が不足しておりまして回収させていただきたいと思います。よろしくお願いいたします。資料に不備がありましたら、事務局の方にお知らせいただければと思います。よろしいでしょうか。
 それでは、議事進行につきましては、昨年度から引き続きまして、石井座長にお願いしたいと思います。石井先生、どうぞよろしくお願いいたします。

【石井座長】 皆さん、おはようございます。朝早くからお集まりいただきありがとうございます。私のスケジュールに合わせていただいた面もありまして、とても早くなってしまいまして本当に申しわけなく思っております。
 それで、本日は、新しい議題としまして未判定外来生物の判定ということで、先ほど課長の方からプレッシャーかけられましたけど、初めてのケースということですので、慎重にやらせていただきたいと思います。
 それでは、議事に従っていきたいと思います。議事の1番目が、未判定外来生物の判定について(クモテナガコガネ属及びヒメテナガコガネ属)となっております。
 それでは、最初に資料1、資料2に基づきまして、事務局から続けてご説明をお願いいたします。

【長田専門官】 説明いたします。資料の1、資料の2について、続けてご説明をしてまいりたいと思います。
 まず資料の1の方をごらんください。資料の1につきましては、こちらはその外来生物法上の未判定外来生物に関する規定を改めてご確認をいただく意味でお配りさせていただいております。順にご説明をしてまいりたいと思います。
 まず、その法律の中で未判定外来生物がどのように位置づけられているかということでございますけれども、法律の概要のところに法律の関連条文を抜粋しておりまして、第21条というところに、「未判定外来生物(在来生物とその性質が異なることにより生態系等に係る被害を及ぼすおそれがあるものである疑いのある外来生物として主務省令で定めるものをいう)」と。こちらを輸入しようとする者は、あらかじめ、主務省令で定めるところにより、その未判定外来生物の種類その他の主務省令で定める事項を主務大臣に届け出なければならないというふうになっておりまして、特定外来生物の場合は、在来生物とその性質が異なることにより生態系等に係る被害を及ぼすおそれがあるものというふうになっておりますが、「である疑いのある外来生物」というのは未判定外来生物となっているということと、それを輸入しようとする人はあらかじめその未判定外来生物の種類その他の情報を主務大臣、今回のような未判定外来生物については、主務大臣は環境大臣と農林水産大臣ということになっておりますので、その両者に届け出なければならないというふうになっております。
 そして、22条の方ですけれども、この届出があったときには、その主務大臣、環境大臣及び農林水産大臣は、その届出を受理した日から6カ月以内にその届出に関する未判定外来生物について在来生物とその性質が異なることにより生態系等に被害を及ぼすおそれがあるか否か、つまり、特定外来生物と同じような性質を有するか否かということになりますが、これを判定してその結果を届出をした人に通知をしなければならないという規定になっております。
 23条につきましては、その輸入をしようとする者は、この生態系等に係る被害を及ぼすおそれがあるものでないという通知を受けた後でなければ、その未判定外来生物を輸入することはできないという規定になっております。
 より細かくは、その法律に基づく法律の施行規則の方で規定をされておりまして、施行規則の28条では具体的に別表というのが定められて、その中で今回のクモテナガコガネ属とヒメテナガコガネ属についても未判定外来生物に指定をされているということでございます。これは、今年の2月1日に行われました第二次指定の際に、テナガコガネ属が特定外来生物に指定されたのと合わせて、それに似ている性質を持っている可能性があるということで未判定外来生物に指定をされたものでございます。
 それから第29条ですけれども、この法律の21条また24条の届出は、24条というのは21条とほとんど同じなんですけども、日本に輸出をしたい人が届け出るという規定ですけれども、いずれにしても、届出については、次に掲げる事項を日本語で記載された届出書を提出して行うということになっておりまして、未判定外来生物を輸入、輸出しようとする者の住所、氏名、それから輸入または輸出しようとする未判定外来生物に関する次に掲げる事項として、生物の学名、それから入手しようとする国ですね、入手国、それから、生態特性に関する次に掲げる情報として、まず本来の生息地または生育地の分布状況。それから、文献その他根拠を示す資料。それから、その他既に入手している情報であって提出が可能なもの。こういったものを届出の際に提出をするということになっております。
 これを模式的に示しましたのが、2ページにあります法律の概要というところですけれども、真ん中に未判定外来生物というものがございます。未判定外来生物については主務省令で指定をしますということで、今、クモテナガコガネ属、ヒメテナガコガネ属についても未判定外来生物になっておりまして、輸入の制限が課せられているということでございます。輸入をしようとする人については、真ん中のところにありますように、届出義務があります。判定が終わるまで、つまり、最長で6カ月ということになりますが、判定が終わるまでの一定期間輸入を制限しますと。
 それから、主務大臣の判定というひし形の部分がございますけれども、ここで主務大臣として被害を及ぼすおそれがあるかどうかについて判定をして、被害を及ぼすおそれがなしということになりますと、外来生物法上の規制は特段設けられないということになりますし、被害を及ぼすおそれがあるということになりますと、その6カ月の間に特定外来生物に指定をしていくというようなことになります。現在、この主務大臣の判定に当たって、専門家の知見をいただきたいということで、専門家会合の結論をいただくというところでございます。
 それから3ページ以降は、特定外来生物被害防止基本方針において未判定外来生物についてどのような記述がなされているかということでありますけれども、まず、未判定外来生物については基本方針の中の第5、その他特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する重要事項というところに記載されているんですけれども、まず、未判定外来生物の選定、現在は選定をされているものの判定ですので、今回の議論の中心ではございませんけれども、簡単にご紹介をしたいと思いますが、まず原則として、我が国に導入された記録の無い生物又は過去に導入されたが野外で定着しておらず、現在は輸入されていない外来生物を未判定外来生物の選定の対象とするということで、大量にコンスタントに輸入をされていたり、既に国内に定着して蔓延しているようなものについては、その輸入制限が基本になります未判定外来生物というものの選定の対象にはしないということでございます。
 それから、個体としての識別が容易な大きさ、形態を有し、特別な機器を使用しなくても同定が可能なもの。菌類、細菌類、ウイルス等は対象としない。これは特定外来生物と同じでございます。
 それからウの部分について、これも特定外来生物と同様でございますけれども、遺伝子組換え生物に関する法律、それから植物防疫法などの他法令の措置により、外来生物法と同等程度の輸入、飼養その他の規制がなされていると認められるものは未判定外来生物の選定の対象とはしないということです。
 それから選定対象となる外来生物、(2)のところですけれども、特定外来生物のように被害事例の報告や被害を及ぼすおそれの指摘はなされていないものの、ある特定外来生物と似た生態的特性を有しており、その特定外来生物と生態系等に係る同様の被害を及ぼすおそれがあるものである疑いのある外来生物について、原則として特定外来生物が属する属の範囲内で、種を単位として、必要があれば属、科等一定の分類群を単位として選定をするということになっておりまして、現在は特定外来生物として、第二次選定のご検討の中で、テナガコガネ属を指定するという結論をいただきましたので、そのテナガコガネ属と似た生態的特性を有している可能性があるものとして、ヒメテナガコガネ属とクモテナガコガネ属が属の単位で未判定外来生物にそれぞれ指定をされているということでございます。
 それから、選定に関する意見の聴取、これについては、基本的には特定外来生物と同様でございます。専門の学識経験者から意見を聞く際に、特定外来生物の指定の際に、あわせて未判定外来生物の指定に関する意見を聴くということで、これが第二次選定の際に、この2つの属を未判定外来生物に指定する際にも、同様にご意見を伺わせていただいたところでございます。
 それから、パブリックコメントとWTO通報手続については特定外来生物と全く同じように必要な手続を行うということでございます。
 裏の方にまいりまして、判定に係る届出事項の内容ということですが、先ほど法律の中でご説明をいたしましたように、未判定外来生物を輸入しようとする人は、原産国や生態的特性に関する情報を主務大臣に届け出させるものとするということになっております。
 それから、この未判定外来生物が、当然輸入の届出を出すということは、被害をもたらすおそれがない可能性があるというふうに考えて届出を出されるわけですけれども、未判定外来生物が生態系等に係る被害を及ぼすおそれがあるか否かの判定は主務大臣が最終的には行います。
 それから、当該おそれがあるか否かについて輸入しようとする人に情報提供の義務は課さない、つまり、例えば被害をもたらすおそれがないということを、輸入の届出を行う人がみずから証明をする義務は法律上課されていないということでございますが、自主的な情報の提供は受けることとするということになっております。
 それから、判定の手続でございますけれども、届出があった場合は、第2の2から4まで、これは基本方針の中の第2の2から4ということでございますが、この実体は、特定外来生物の指定に関する考え方が記載されている部分でございます。この第2の2から4までの考え方に沿って、予防的な観点を踏まえつつ、最新の科学的知見を用いて適正に判定することとする。それから、その際、判定に支障がない範囲で判定期間を極力短くするよう努めるものとするとなっておりまして、未判定外来生物の場合、特定外来生物に関する記述、考え方に加えて、この「予防的な観点を踏まえつつ」という記述がございます。予防的なということで、未判定外来生物については基本的には情報が少ないというところは先ほどのご説明の中でも触れましたけども、その中で、最大限、利用可能な情報を活用しまして、被害をもたらすおそれについて判断をしていく必要があるということでございます。
 それから、届出の行われない未判定外来生物についても、必要があれば国の科学的知見を充実させて、被害を及ぼすかどうかの判定を順次行うよう努めるものとするとされておりまして、届出がないものについても、知見が集積されて特定外来生物にすべきという結論をするということもあり得るということでございます。
 ここまでが、法律の制度の概要ですけれども、続きまして、未判定外来生物の輸入届出の概要についてもご説明をしたいと思います。今回、提出されました未判定外来生物の輸入届出の中身について、ここでご説明をしております。届出は、昆虫輸入業者から3月11日付で行われまして、3月13日にこちらの方に届きまして受理をいたしました。届出の種類は先ほどご説明した法律の21条、つまり未判定外来生物を輸入しようとする人の届出ということになります。この届出に当たっては、未判定外来生物の種類、入手国名、生態的特性に関する情報等をあわせて提出する必要がございますので、届出者の届出の中にありましたものを、そのままこちらで表に引き写しをしております。未判定外来生物の種類としては、ドウナガテナガコガネ、セスジドウナガテナガコガネ、ヒメテナガコガネ、ダビィドヒメテナガコガネ、この4種について届出が行われました。後ほど詳しくご説明いたしますが、これが今回未判定外来生物に指定されております2つの属のうちの既知の種のすべてでございます。入手国名はそれぞれインドネシア、フィリピン、トルコ、中国となっておりまして、生態的特性に関する情報として、本来の生息地・生育地の分布状況というところでは、今回の届出においては、このように生息地として知られている場所が箇条書きで書かれておりましたけれども、いずれも、いずれかの生息地から入手をしたいということでございます。
 それから、文献その他の根拠を示す資料というものについては、「テナガコガネムシ・カブトムシ」、それから「ヤンバルテナガコガネ」と書いてありまして、これは日本の図鑑のことを指しております。この届出自体にこの図鑑のコピーがついておりまして、届出に添付されてきた資料としましては、まず、届出者みずからが作成した資料としまして、「在来種との交雑の可能性について」、それから「本邦への生態系への影響について」というタイトルでコメントが付されているもの。それからテナガコガネ属と、それからクモテナガコガネ属に属する種の交尾器の写真がついております。
 それから先ほどもご紹介したそのテナガコガネに関する図鑑としまして2冊、コレクションシリーズというふうなものと、テナガコガネ・カブトムシというところのこの4種に関する記述、それからヤンバルテナガコガネという図鑑についても、この4種についての記述が書かれておりまして、このコピーが届出に添付をされてきたということでございます。
 資料2のページ番号が振ってあります、1ページのところから説明してまいりますけれども、まず在来種との交雑の可能性については、届出者からはCheirotonus(テナガコガネ属)は複数の種類の混生地域が存在し、交尾器については図示された僅かな差異を以て生殖的な隔離が存在するというふうに書かれておりまして、「添付の交尾器の画像は」と書いてありますが、この裏側に交尾器の写真がつけてありまして、「左が」と「右が」と書いてありますが、右と書いてあるのが上の方でございます。左と書いてあるのが下の方でございますが、下の方はCheirotonus属の種の交尾器、それから右の方がEuchirus属、今回届出のあったドウナガテガネコガネ、クモテナガコガネですね、の交尾器の写真でございます。両者のサイズ、形状において著しい差異が認められると。本邦における在来種、ヤンバルテナガコガネのことだと思いますが、Cheirotonusであるが、分類上別属に分類され、形態的にも著しい差異をもつ両者間に交雑は困難であると思われるということでございます。
 それから、本邦への生態系への影響についてということについては、届出者はヒメテナガコガネ、クモテナガコガネ共に、適応している現地の環境においても「珍品」であり、環境の異なる本邦の野外での繁殖は困難であると思われるというふうに指摘をしております。
 それから、3ページ以降は図鑑のコピーでございますが、簡単に見てまいりますと、3ページからがそのコレクションシリーズという図鑑、99年に出たものですけれども、こちらの方で例えば4ページには、ヒメテナガコガネ属の2種について写真が掲載されております。下にあるのはヤンバルテナガコガネですけども。それから5ページの方は、セスジドウナガテナガコガネ、これはセスジクモテナガコガネと呼んでおりますけれども、それの写真でございます。それから6ページがドウナガテナガコガネ、これはクモテガナコガネとも呼ばれますが、の写真。それから、次の7ページについても、ドウナガテナガコガネの別亜種の写真でございます。これらに関する記述というのが8ページ、9ページ、10ページ、11ページはテナガコガネ属の分布域ですけども、と続いておりまして、12ページには腕ですね、前足の写真とか、それから交尾器、これはCheirotonusの交尾器の写真ですので、既に指定されているテナガコガネ属になります。
 それから13ページからは、ヤンバルテナガコガネという写真集といいますか、図鑑の記述ですけれども、同じように14ページからヒメテナガコガネ、それからシナヒメテナガコガネというのは先ほどの図鑑の方ではダビィドヒメテナガコガネと書いてあったと思うんですけども、シナヒメテナガコガネとありまして、写真についてもヒメテナガコガネ等のものがついておりまして、最後の18ページにはチャイロクモテナガコガネ、これはクモテナガコガネで、セスジクモテナガコガネが先ほどの図鑑だとセスジドウナガテナガコガネというふうになっておりまして、和名がいろいろあって混乱しますけれども、こういった形で日本の図鑑のコピーが添付をされてきておりました。届出の概要と、それから未判定外来生物について説明をいたしました。
 以上でございます。

【石井座長】 どうもありがとうございました。ただいまの未判定外来生物について、それからまたその取扱いについての制度の概要と、それから今般の届出の概要ということで説明いただきました。実際、この2つの属の取り扱いについてはこの後議論しようと思いますけれども、現時点で、今の資料の1と資料の2のご説明について、ご意見、ご質問があったらお願いします。いかがでしょうか。よろしいですか。はい、どうぞ。

【小倉委員】 被害を及ぼすおそれがあるものか、被害を及ぼすおそれがないものかという判定をこちら側でしなきゃいけないということになるんだと思いますけども、疑いがある場合というふうなことがどっかに書いてありましたね。予防的な観点を踏まえつつという、一番最後のこの判定の手続の中にありますけども、確実に被害を及ぼすおそれがないと断定するのは無理なんですよね。だから正直言って、予防的な観点を含めて言えば、全部もうすべてだめということになってしまうと思うんですけども、その辺どうでしょうか。

【長田専門官】 そうですね。被害を及ぼすおそれがあるかないかということについては、法律の中でも、被害を及ぼすおそれがあれば特定外来生物と、ある疑いがあれば未判定外来生物、なければ規制がないということで非常に簡潔に整理をされておるわけですけれども、基本的には、特定外来生物というのは非常に厳しい規制がかかるもので、法律上被害を及ぼすおそれがあるものというふうに規定をされておりますので、被害を及ぼすおそれがあるかないかを、いずれにしても、その少ない情報の中で判定をしなければならないということでございます。未判定外来生物自体が、非常に情報が少ないために未判定外来生物になっているという前提を踏まえて、この基本方針の中では「予防的な観点を踏まえつつ」というふうに書いてありますけれども、これは予防的な観点を踏まえつつというのは、被害をもたらさない可能性が高いけれども、念のため入れておこうというような意味ではございませんで、例えば、その被害を、情報が十分にある種というのは、第3国で被害をもたらしているですとか、日本に侵入して被害をもたらしているとか、そういうものに、今までの特定外来生物はそういうものがほとんどなわけですけれども、未判定外来生物の場合はそういった情報がないということがございまして、その場合、例えば、食性、繁殖生態、気候適性そういった入手可能な情報を最大限活用して、被害をもたらすおそれの蓋然性について、やはり判断をしていかないといけないということでございます。被害を及ぼすおそれがないという判定は、ご指摘のとおり非常に難しいとは思いますけれども、制度上はその判定を入手し得る最大限の情報の中で判断しなければならないということになっておりまして、その少ない情報の中で判断をしなければならないということを踏まえて、ここにその「予防的な観点を踏まえつつ」と、こういう記述が含められているということでございます。

【石井座長】 小倉委員、よろしいでしょうか。なかなか説明も難しいんじゃないかと思うんですね。堂々めぐりしちゃう部分もあって、情報が少ないから未判定。だけど、そういう少ない情報から推定しなきゃいけないというのが、今回の会合ということになるのかなと思うんですけども、この件に関して、何かありますでしょうか。はいどうぞ、小野委員。

【小野委員】 すこし基本的なことをお伺いしたいのですが、この資料2の2は図鑑のコピーですが、これは届出者から提出があったものなのですね。それについては、環境省の方でさらに調べるとか、あるいは専門家に意見を聞いたということはあるのでしょうか。

【長田専門官】 まず、ご指摘のとおり、この資料は届出者の方から提出があったものでございます。届出者の方から提出がありました情報は、その専門家、つまり専門家会合でご判断をいただく際には、すべてやはり、こちらから事務局からはご提出をして、判断の材料として活用していただく必要があるというふうには考えておりまして、届出者から提出された資料は、今回全部お配りをしております。実は、この2つの図鑑なんですけれども、海外の専門的な文献等からも引用した情報が記載をされておりまして、比較的信頼のできる情報だというふうに考えております。実は、二次選定の際に、テナガコガネ属を特定外来生物の候補とする際の資料をこちらが作成した際にも、この2つの文献については参考にしておりまして、今回も、後ほどご説明します資料の中でも、今回の文献については同じように参考にしております。それ以外、また、この文献自体が引用したものですとか、それ以外の海外の文献についても、こちらの方では精査をいたしまして、総合的に判断をして事務局の案として作成をしております。

【小野委員】 わかりました。そうすると、科学的な情報が確かかどうかということは、この場では議論しがたいということですか。

【石井座長】 それはできないことです。

【小野委員】 例えば、同定とか、学名が正しいかどうかというようなことですね。それは、一度置いといて。

【石井座長】 どうぞ、事務局。

【長田専門官】 基本的には、科学的な部分も含めてご判断をいただきたいと思っておりまして、後ほどご説明をする個表の中で最も参考にしたのは、そのテナガコガネ亜科に関する総合的なレビューを行った論文というのがございまして、多くの情報はこの2つの図鑑においてもそこから引いているということは、こちらの方でも確認はしております。

【小野委員】 わかりました。届出に値する一応手順を踏んでいるということですね。届出者の方が。はい、わかりました。

【石井座長】 そうしたら、ほかにございますでしょうか。ここがまさに専門家グループ会合なので、事務局の方で集めていただいた後で出てくると思いますけども。それから、今般は荒谷先生の方からも資料で説明していただけると思うんですけど、そのような内容を踏まえまして、本当に専門家会合として実力を発揮するときが来たのかなというふうに思っておりますので、よろしくお願いします。ほかは何かありますでしょうか。ちょっと私の方から、確認……。梅谷委員、どうぞ。

【梅谷委員】 このケースで、業者から輸入していいかと未判定害虫の届出があって、その都度、会議を開くのは昆虫の種数からいっていかがなもんかという気がしますが。そして、リスクをどこに置くかですが、あいまいなところにリスクを置いたら、大抵ならだめですよね。僕は、トリバネの輸入解禁について、これ植物防疫法の問題なんですけど、それの検討委員会をつくって検討したことがありますが、結局害虫かどうかしか判定のしようがないんです。とにかく、桐谷さんなどの意見もあって、ウマノスズクサは漢方薬に使われて、将来、有用植物になる可能性があると。一方ではその理論じゃ通らなくて、結局、その委員会は、2つの案の併記の形で、提出したら、結局、農水省は禁止の方をとった経緯があります。今後とも業者が申請のたびにこうやって集まって、ただ1種のために検討するというのはどうでしょうかね。それについてはどうお考えですか。

【石井座長】 事務局。

【名執課長】 今回はとにかく初めてのケースでもありますので、先生方にお集まりいただきまして、しばらくはこういう形で続けていただく必要はあるというふうに思っておりますけども、ある程度、経験を積んだ時点で文献を先生方にご覧いただいて、その上で個別にコメントをいただいて、あと、座長とご相談してというやり方でもいいのではないかという時期が来ることもあるかと思いますが、しばらくはこういう形で未判定外来生物の届出があるたびにお集まりいただけたらというふうに考えております。

【梅谷委員】 もう一つ、これをこういう良心的な業者じゃなくて、届出なしに、この法律に違反して輸入した場合、多分罰則規定があると思うんですが、そうして輸入されてしまったものに対しては、これが有害かどうかは別途審査するわけですね。有害じゃないとなったら、その人は無罪になるわけですか、その辺はきちっとしたマニュアルはもうつくったんですか。

【長田専門官】 制度上のお話で申し上げますと、前々回ぐらいに植物防疫法のご説明などもありましたが、それと似ている部分がございまして、未判定外来生物については、制度上は輸入に関する制限しかございませんので、もし仮にその密輸入に成功してしまったという場合には、国内で流通をするということは可能性としてはございます。実際に、例えば、その未判定外来生物であるにもかかわらず、大量に国内で流通しているというような状況があれば、そこは早急に届出があるなしにかかわらず、ご指摘のとおり早急に生態系等に関する知見を事務局の方で集積をして判定をしていかないと、その法律の目的である被害の防止というのが十分に効果を発揮しないというふうには考えております。

【石井座長】 梅谷委員、よろしいでしょうか。

【梅谷委員】 会議進まないので、それで結構です。

【石井座長】 わかります。ここは慎重にやった方が私もいいと思います。ただ、未判定外来生物を密輸したケースでこの外来生物法というのは何ができるかというと、それは何か決まっているわけではないんですね。

【長田専門官】 輸入自体は当然違法になりますので、それが明らかになれば、罰則の適用対象にはなり得るということです。

【梅谷委員】 しかし、実際はそれを後で検討してみたところが、問題ない生物だったというときは非常に複雑なことになりますね。

【長田専門官】 ただ、制度上その輸入者に対しては6カ月間という期間があって、輸入をしたい方はあらかじめ届け出るというような制度になっておりますので、当然ながらその輸入をしたい方は正規の手続に添ってやっていくべきということになります。ですから、結果として、もし仮に無害、有害でないという判定が出る、将来的に出る未判定外来生物を輸入したとしても、その輸入した時点では当然法律上用意されている手続を踏まえなかったということになれば、それは明らかに外来生物法違反ということになります。

【石井座長】 よろしいですか。

【梅谷委員】 多分そういうことだろうと思います。

【石井座長】 ほかはありますでしょうか。ちょっと、僕がもう一点いいですかね、いいですか。はい、どうぞ。じゃあ課長の方から。

【名執課長】 念のため未届で未判定外来生物を輸入した場合、罰則についてご紹介させていただきます。

【環境省 堀上補佐】 法律で罰則の規定が33条にありまして、そこで一応その未判定外来生物を違法に輸入した場合……。

【長田専門官】 基本方針の23ページにございます。

【堀上補佐】 法律の方の33条にございます。こちらの方は1年以下の懲役もしくは100万以下の罰金ということでありまして、23条の規定に違反した者については100万以下の罰金がかかります。ですから、その後で未判定について判定されるか否かにかかわらず、その輸入時に違反をした場合には罰則はかかり得るということでご紹介いたします。

【石井座長】 この件はよろしいですね。わかりました。ほかはございますでしょうか。そうしたら、今回の件はご説明にあったように、未判定外来生物の申請があったものに対して問題があるかどうかの判定なんですけど、これがもしも問題あるとした場合には、このまま特定外来生物に入るという認識でよろしいですね。ある意味、だからそういう会議でもあるということですね。
 それともう一つ、和名の点なんですけど、和名というのは学名と違ってどれを使わなきゃいけないということはないと思うんですけど、ちょっと法律的にはいろいろ問題があるのかなと思うんですけどね。この和名どれを使ったらいいかについて、今回はクモテナガコガネを使ってますけども、これ何かご意見ありましたらお願いします。

【梅谷委員】 これは大変な問題で、いつか昆虫学会の小委員会でも言ったことあるんですけど、和名の差別語については直そうという雰囲気があって、ひとつメクラカメムシについてはカスミカメムシという和名に改称されました。でも、まだ残ってます。同じように「シナ」という言葉が大変和名で多いんですよ。シナというのは中国がひどく嫌って、差別語になっている。一応チャイナという言葉は構わないし、東シナ海も構わない。のに、日本がシナと言う場合は非常に敵視しますね。これがもしも通っちゃって、こういう名前、こういう和名が、日本の官庁から外に流れたときに、すごく刺激することになると思うんです。1つは、昆虫学会の方にシナというのはもう自動的に全部チュウゴクと、僕自分で使うときにはシナゴキブリはチュウゴクゴキブリと自主的に改めて使ってますけど、それを一度流していただいた方がいいんじゃないですか。一応昆虫学会でご検討ください。

【石井座長】 もう私は会長ではありませんので、まあわかりました。例えば、ゴミムシでもそんなのありますけどね。

【荒谷委員】 その点は、今、日本昆虫目録をつくっておりまして、その中でそういう差別用語についてはかなり厳しく議論しておりますので、恐らく安定した形に近々なると思います。

【梅谷委員】 シナは入ってないんじゃないですか。

【荒谷委員】 シナについては、今、検討の中で外れるべきだという方に入っております。地域名とそれから職名に対する差別用語というのを含めて検討しておりますので。

【石井座長】 小野委員。

【小野委員】 それを先取りして、ここで別の名前を使ってよろしいのではないかと私は思います。つまり和名に関しては命名規約もありませんから、この有識者会議の場で決めるというくらいの自負を持っていてよいというふうに思います。

【石井座長】 ということで、差別用語含んだ部分は使いたくないというのもあって。そしたらどうしましょうかね、資料の2の方の届出者の方の使い方、ドウナガテナガなんですよね。これを環境省の事務局側ではクモテナガというふうに言ってるわけですけども、これはどっちがいいんですかね。ドウナガテナガ、別にドウナガって差別でもないですね。

【梅谷委員】 和名というのは先取権も何もないから。

【石井座長】 でも申請者がドウナガと言っているのに、こっちがクモと言っているというのが、ちょっと僕違和感あるんですけども、ちょっとご説明を。

【長田専門官】 まず、制度の現状の運用状況からご説明しますと、現在その省令ですね、農林水産省・環境省令の中で未判定外来生物が規定をされておりますけれども、その中でヒメテナガコガネ属とクモテナガコガネ属という属名を使っております。これは、先ほどの添付されてきた図鑑ですと、ヤンバルテナガコガネという図鑑ですね、そちらの方で使われている記述でございまして、一般的に昆虫関係の方々が通称よく使う表現でもあることから、基本的にはこの、私どもとしてはヤンバルテナガコガネという図鑑で使われている和名表記を使って、今回の省令を二次指定の際に書いたというところがございます。
 ただ、実は先ほど梅谷先生のご指摘にもございましたけれども、シナという表現については学会の方でもいろいろと議論があるというところがございましたので、例外的にシナヒメテナガコガネについては、もう一つの和名として使われておりますダビィドヒメテナガコガネを表記に利用させていただいて、ただ、シナヒメテナガコガネと言わないと認識ができない方がいると困るということで、括弧書きで後ろの方にそのシナヒメテナガコガネという表記をつけております。
 ですから、届出の中身と私どもがこれからご説明する資料3の方で用いている表記と必ずしも一致しないというか、複数の和名をこちら括弧書き表記で一応資料としてはつくっておりますが、省令の段階なり政令の段階では一定のルールに沿って、やはりどれぐらい認知されているかですとか、学会で用いられてる和名表記がどちらが主流かというようなことも参考にしながら判断をさせていただきたいというふうに考えております。

【石井座長】 わかりました。ほかはないでしょうか。そうしたら、次にいきたいと思います。これら2属を、ではどのように取り扱うかということについての、これ実質の部分ですけども議論したいと思います。
 最初に、事務局の方から資料の3ですね、クモテナガコガネ属及びヒメテナガコガネ属に係る情報についてということでご説明をお願いします。

【長田専門官】 それでは、資料の3をご説明したいと思います。資料の3はクモテナガコガネ属、それからヒメテナガコガネ属に関する情報についてなんですけれども、まず最初にこれの5ページをご覧いただければと思います。
 資料3の5ページでございます。まず、今回検討対象としますものがどういう位置づけになっているかということについて、分類学的な部分と外来生物法上の取り扱いということを現状について整理をした表でございます。現在、コガネムシ上科昆虫、カブトムシ、クワガタ等を含むコガネムシ上科昆虫全部がこの大きな枠でくくっております輸入の際に種類名を証明する書類の添付が必要な生物ということになっております。コガネムシ上科昆虫の中には一般的に13科あるというふうに言われておりまして、ここではすべては表記をしておりませんが、その中の1つの科がコガネムシ科ということになっております。コガネムシ科には11亜科あるという説をここで参考にさせていただきますと、その中に例えばカブトムシ亜科ですとか、ハナムグリ亜科といったものがございまして、その1つに3属を有するテナガコガネ亜科がございます。テナガコガネ亜科については特定外来生物として指定されておりますテナガコガネ属Cheirotonus属9種、このうち1種が在来種のヤンバルテナガコガネですので、実質的には8種のテナガコガネ属が特定外来生物に現在指定をされておりまして、それと生態的に似た特性を有する可能性があるものとして、未判定外来生物にクモテナガコガネ属とヒメテナガコガネ属それぞれ2種ずつの合計4種が指定をされているということでして、先ほどもご説明しましたが、未判定外来生物としては属の単位で現在指定をしておりまして、クモテナガコガネ属、ヒメテナガコガネ属という表記になっておりますが、今回輸入をしたいという方から届出のあった4種については、これらすべての種ということで、今回ご説明させていただく資料の3の方では属の単位でこの情報票を作成をしております。
 それでは、資料の3の1ページに戻っていただきまして、ご説明をしてまいりたいと思います。まず、クモテナガコガネ属でございますけれども、まず、原産地と分布ですが、インドネシアのスラウェシ島、それからスラウェシ島の東の方に位置しますマルク諸島、昔はモルッカ諸島と言っていたところですけども、そこのセラム島、マニパ島、アンボン島等に生息をしているチャイロクモテナガコガネ、和名がいろいろあって恐縮ですが、チャイロクモテナガコガネ、あるいはドウナガテナガコガネと、それからパラワン島にはいないようですが、フィリピンのマニラ、ルソン島ですとか、主な島には大体生息をしておりますセスジクモテナガコガネ、あるいはセスジドウナガテナガコガネと呼ばれているものの2種でなっております。定着実績については、日本における侵入や定着の実績はないということでございます。
 評価の理由をちょっと飛ばしまして、被害の実態・被害のおそれでございますけれども、まず、生態系に係る被害としまして、まず、飼育下の情報等によってテナガコガネ属と同様の生態を有する可能性が高いというふうに考えられておりまして、沖縄本島北部にしか分布をしていないヤンバルテナガコガネ、それから南西諸島に広く分布しますけれども、いずれの種も絶滅のおそれがあると言われておりますマルバネクワガタ類、こういったものの生息地に侵入した場合には、気候的にも暖かいところの原産でございますので、定着をして、例えば、幼虫の餌として利用されております樹洞や木の根元、根際等にできます腐植質、その餌そのものや餌のある場所としての生息環境、生息場所をめぐってこれらと競合するおそれがあるというふうに考えております。
 それから、被害をもたらす要因でございますが、生物学的要因としてはテナガコガネ属、既に特定外来生物に指定されておりますテナガコガネ属と同様の条件で飼育が可能ということで、実は野外の生態に関する知見というのは、この種については海外文献も含めて非常に少ないというかほとんどない現状でございますが、野外でも同じテナガコガネ亜科の種として同様の生態を持っているものと考えられます。
 それから、大型、この3属の中では、最も大型の属でございまして、大型で幼虫の摂食量が多いということで、野外に逸出した際には、幼虫の生息環境中での在来種との競合が懸念されるということです。
 それから、特徴としては、日本には同属の種、つまりこのクモテナガコガネ属は分布しませんけれども、同じテナガコガネ亜科のテナガコガネ属に属するヤンバルテナガコガネが沖縄本島北部に生息をしております。先ほど触れましたように、テナガコガネ亜科の中では非常に大型で長い体形を有する属ということになっております。
 その他の関連情報としては、わずかですけれども、国内で流通や飼育をされているという例が、例えば、インターネットのホームページ等では確認をされております。この種については、野外での生態に関する学術的な知見というのが非常に不足をしておりますが、飼育下ではテナガコガネ属と同様に腐植質を食べているということ。それから、分布域は熱帯地域、インドネシアとそれからフィリピン、それぞれというところで気温の高いところになりますけれども、例えば、マニラの平均気温というのが大体20何度から30何度というところで非常に上の方は高いわけですが、一般的にテナガコガネ属の飼育下の情報等では高温には弱いということが言われておりまして、これぐらいの高温の地域で生息できているものが必ずしも低温の地域で生息できないということにはならないということですとか、例えば、ヤンバルテナガコガネについては、木のスダジイ等の木の上の方にできるうろを利用することが多くて、マルバネクワガタ等についてはどちらかというと根際の環境等を利用するということが知られておりますけれども、そういった環境のいずれかとは競合するおそれが非常に高いというふうに考えております。
 それから、クモテナガコガネ属で評価の結論をご説明したいんです。その評価の理由のところに書いておりますが、日本にまだ定着していないが、侵入して定着すれば、特定外来生物であるテナガコガネ属と同様に、幼虫の食物であると考えられている腐植質や生息場所をめぐって、在来種で絶滅のおそれのあるヤンバルテナガコガネやマルバネクワガタ類等と競合するおそれがあるということでございます。
 それから、ヒメテナガコガネ属ですが、こちらも同じように2種ございまして、まず中国の江西省中部等に生息が確認されておりますダヴィドヒメテナガコガネ、それからユーゴスラビアの南部からギリシャ、イスラエル、トルコ、シリア、イラン、キプロス等で分布が確認されておりますヒメテナガコガネ、トルコヒメテナガコガネと呼ばれることもあるようですけれども、この2種から構成されております。日本における侵入・定着の実績はございません。被害の実態・被害のおそれとしては、テナガコガネ属と同様の生態を有しており、ヤンバルテナガコガネ等との競合が懸念されるということでございます。こちらの属については、先ほどの属よりは生態等に関する情報がございまして、被害をもたらす要因として、例えばヒメテナガコガネについてはブナ科やムラサキ科の樹木の樹洞で腐植質を食べて生活しており、ヤンバルテナガコガネと同様の生態的地位を占める可能性が高いということでございます。一般的に、荒谷先生の過去のご研究等でも、利用する腐植質というのは特に樹種を選ぶのではなくて、腐植質の状態に左右されるというようなことがございますが、ちなみにブナ科ということでは、沖縄でヤンバルテナガコガネがよく利用するスダジイもブナ科でございます。チシャノキに関する木本は日本では余り一般的ではないと思われます。それから、ヒメテナガコガネについてはイランからギリシャまで幅広い緯度の間で生息していて、1000メートルを超える高標高地にも生息をしているということでございまして、沖縄本島のみではなくて本土でも定着をする可能性があり、樹洞を利用するほかの生物と、例えばオオチャイロハナムグリですとか、そういうほかの生物とも競合の可能性もあるということでございます。
 それから、ダヴィドヒメテナガコガネはその生息地、確実な生息地情報、標本に基づく生息地情報というのは江西省のものがあるんですけれども、からも日本で広く定着する可能性を有しておりまして、樹洞を利用する種との競合が懸念をされております。
 それから、日本には同属の種は生息しませんけれども、テナガコガネ属の国内希少種であるヤンバルテナガコガネが沖縄本島に生息するということと、この属についてはテナガコガネ亜科では最も小型の属であるということになっております。
 その他の関連情報として、国内で流通、飼育をされている例が一部確認をされております。飼育に関する情報についてはインターネット等で把握をできているもので、科学的と言えるかどうかというところは若干議論の余地があるとは思いますけれども、テナガコガネ属とあわせてこれらの属の生物についても飼育をされているということで、インターネット以外の情報ですと、例えばカブトムシ、クワガタムシを飼育する趣味の雑誌として幾つかございまして、例えば、「BE-KUWA」という雑誌ではそのテナガコガネの飼育方法等について紹介がされたことがございます。
 それから、今回、ご説明をしてきましたテナガコガネ属によって被害を受ける可能性があるものとして、ヤンバルテナガコガネというのがあるわけですけども、現在荒谷先生の方でヤンバルテナガコガネに関する遺伝的な位置づけ等について最近の研究の成果が出ているということですので、少しご紹介をいただければと思います。
 すみません、ちょっと準備の間に、ヒメテナガコガネ属の結論のところを読み上げたいと思いますが、評価の理由としまして、日本にまだ定着していないが、侵入して定着すれば、特定外来生物であるテナガコガネ属と同様に、生息場所である樹洞や幼虫の餌となる腐植質をめぐって、在来種で絶滅のおそれのあるヤンバルテナガコガネ等と競合するおそれがあり、また、本土にも定着し、樹洞の腐植質を利用する昆虫と競合するおそれがあるというふうに考えております。
 以上です。

【荒谷委員】 それでは、私の方から今回の未判定外来生物でありますヒメテナガコガネ属及びクモテナガコガネ属と一番競合の可能性があるということでおなじみのヤンバルテナガコガネでございますけれども、このヤンバルテナガコガネについて、今まで沖縄の中琉球だけにいるということで、非常に遺存固有的な珍しい種類であるという、ある意味こう、どちらかというと科学的と申しますよりは虫屋の直感的なイメージでの通説があったわけですけども、それが私の方のミトコンドリアDNAを使った結果からもきちんと科学的データに基づいて裏づけられたということを少々ご紹介したいと思います。
 ご用意いただきました参考資料の方に、1の方にテナガコガネ属に関する情報ということで9ページ以下、それから参考資料2ということで、ヤンバルテナガコガネについてという資料をご用意いただいていますので、こちらの方と少し照らし合わせながら、テナガコガネ亜科全体についての説明も少し加える形で説明させていただきたいと思います。
 そして、ちなみにこれは昨年度の日本鞘翅学会の方で発表したスライドをそのまま使わせていただきますので、少し今回の内容とは外れる部分もあるかもしれませんがご了承いただきたいと思います。
 それでは始めさせていただきます。ミトコンドリア16SrRNAの遺伝子からみたテナガコガネ亜科の系統関係という中で、このヤンバルテナガコガネの遺伝的な位置、その他遺存固有性の議論から分布の拡大経路、今の分布の成立要因ですね、そのようなことを議論してまいろうと思います。
 最初に、使ったヤンバルテナガが一応天然記念物云々でちゃんとこういう許可をとっているという言い逃れ、失礼、言いわけでございます。マックでつくりました関係で少しちょっとデフォルメされたような形になってしまったりしておりますが、ご愛嬌と思ってください。先ほどからご説明があったように、テナガコガネ亜科と申しますのは、コガネムシ科の中の群で、コガネムシ科というのは、いわゆる糞を食べる食糞群と呼ばれている、クソムシと呼ばれるものですね、それと、カブトムシ等を含みますいわゆる食葉群と呼ばれているもの、この2つに大きく分かれます。その食葉群の中でテナガコガネ亜科というのが一体どういう位置づけになるかということを、まず最初に大きく探らせていただきました。先ほどご説明があったテナガコガネ亜科の中で、ヒメテナガコガネ属、そしてテナガコガネ属、ドウナガテナガ属、実はそれともう一つ、化石種として実はテナガコガネの中で日本からイナバテナガコガネというのが鳥取県から化石で1,500万年前の地層から出ております。これが年代推計のとき1つキーになりますので、最初にご記憶いただければと思います。
 それから、ヤンバルテナガが含まれますテナガコガネ属Cheirotonusですけども、実は大きく2つの種群に分かれるというふうに考えられております。パリー種群と呼ばれるもの、それからマクレイ種群と呼ばれるもの。このうちヤンバルテナガコガネは赤で示しましたパリー種群というのに含まれると。これは実は交尾器等の外部形態に基づく知見からの話です。それが、今回また遺伝的にも裏づけられたということを補足させていただきます。
 分布につきましても、先ほどから一応箇条書きということで出てまいりましたけど、大きく視覚的に見ていただくとこんな感じです。トルコヒメテナガコガネ、あるいはヒメテナガコガネと呼ばれるものがかなりヨーロッパの南部を含めて広くいる。そして、ダビィドにつきましては、本当に中国の一部というところでございます。テナガコガネにつきまして、まずそのパリー種群の4種について大きくこのような分布になっております。ヤンバルテナガコガネが日本の沖縄本島だけ、そして中国大陸の方、東半分に大きくヤンソンテナガコガネ、ヤンソニーと呼ばれるものが分布しております。現在までの外部形態の知見では、恐らくヤンバルテナガコガネはこのヤンソンテナガコガネに一番近いものであろうというふうに通説として言われておりました。そのほかパリーテナガとマレーテナガというものが生息しております。
 なお、先ほどの未判定外来生物についての届出、その中で、テナガコガネ属については複数種が混生しているという表記がございましたが、その表現は必ずしも正しくないということをちょっとこの場で強調させていただきます。広い意味では、この種群を含めてテナガコガネ属はすべて異所的もしくは側所的というふうに理解できます。本当にインドシナの一部で、ごく一部確かに混生地はございますが、決して全域において混生しているというわけではなく、むしろほぼ完全にすみ分けている。そして、後から申し上げるように、現在の分布の成立要因として現在の分布ができ上がる過程には、おそらく競合による絶滅というのがあったであろうということも推定できます。逆に申しますと、樹洞という非常に限られた環境にいるということで、そういう競合の結果というのはかなりシビアな影響を与えるのではないかという気がいたします。その辺のことを最初に強調させていただきます。このように分布が実はこれパリー種群だけを見ると歯抜け状に見えますのが、実はマクレイ種群がこの間にちょうど入るんですね。このパリー種群がスコンとあいているあたりに実はマクレイ種群が入るという、確かにこの分布の一番端のところでは混生地がございますけれども、大きくは種群レベルでもこのようになぜか側所的な分布をしているということを強調させていただきます。マクレイテナガコガネと呼ばれるのがインドの方に、ゲストロイと呼ばれるのがインドシナにかなり広く、そして少し外れたところに、中国の一番北部にフジオカイテナガコガネ、そしてバータリー、そして台湾にformosanusということでテナガコガネというのがおります。ヤンバルテナガにつきましては、先ほど申し上げたように、この中国から海南島を含めて居りますヤンソンテナガに一番近かろうとは言われておりますが、地理的に一番近いところにいる台湾のこのテナガコガネそのものですね、これとのやっぱり系統関係というのが非常に気になるところであります。形態を反映したものが本当に真の系統であるのかというあたり大きな問題があったわけです。その辺も含めてちょっと話を進めさせてまいります。
 今回問題になりましたドウナガテナガコガネについては先ほどご説明があったとおり、ドウナガテナガがいわゆるスラウェシから、それからマルク諸島、そしてセスジドウナガ、dupontianusと呼ばれているのがフィリピンのほぼ全域にいるということになります。
 先ほど申し上げたように、今回の目的として、ヤンバルテナガの近縁種はパリー種群のヤンソンテナガなのか、あるいは実は地理的に一番近い台湾のテナガコガネの可能性も否定はできない、そして、ヤンバルテナガが遺伝的に非常に分化した独立種と本来認めていいものかどうか、そのあたりもきちん検証したいということです。そして、ヤンバルテナガがいつごろ沖縄本島に現在のように隔離した分布が成立したのであるかというあたり、それを調べてまいったわけです。このようなサンプル、ひとしきりのものを使いましたが、ちょっとマクレイ種群でマクレイそのものとかが使われておりません。それから、残念ながら、今回ちょっと問題になっておりますドウナテナガはちょっと解析が間に合っていないという現状なので、系統樹の方からは外れております。
 実験の方法といたしましては詳しくは省略いたしますが、ミトコンドリアの中の16SrRNAをコードしている領域を使っております。大体それの1,000塩基対、1,000ベースペアの長さを使っておるということで、信頼性はそこそこであるというふうに自負しております。
 まず最初に、コガネムシ科の科内におけるテナガコガネ亜科全体の位置なんですけれども、食葉群と呼ばれている、カブトムシ等を含めるいわゆるコガネムシの中で一番外側に来る、簡単に申しますと一番祖先的な群であるというのがはっきりいたしました。そのほかのカブトムシからコフキコガネ、それからスジコガネ、ハナムグリ等おなじみのコガネムシとはちょっとかなり違った位置にある。そして、現生の種類数が非常に少ないということから考えても、やはりコガネムシ科の中でこのテナガコガネ亜科というのはかなり祖先的な一群、今かろうじて生き残っているようなそんなイメージがするものだということがはっきりしてまいりました。
 テナガコガネ属Cheirotonusの中でのそれぞれの系統的な関係、そして遺伝的な距離を一気にあらわしたのがこの図でございます。ヒメテナガコガネが一応テナガコガネ属の外には出る形で、きれいにテナガコガネ亜科が単系統群を成しております。その中で、少し見にくいんですが、青で示したマクレイ種群と赤のパリー種群というのが明確に2つに分布しております。ですから、形態で呼ばれていた種群というのが遺伝的にもしっかり裏づけられたということです。そして、ご注目いただきたいのが、パリー種群の一番上に、ちょっと絵がつぶれてしまっておりますが、ヤンバルテナガコガネがやはりヤンソンテナガコガネと一番近い。ヤンソンテナガが姉妹群であるということがはっきりいたしました。
 ただ、ここでご注目いただきたいのが、マクレイ種群の中で同じように大陸の方に分布しておりますこのゲストロテナガと台湾という島に分布しておりますテナガコガネとの遺伝的な距離というのは、この枝の長さで見ていただければわかるんですけども、それに比べてヤンバルテナガとヤンソンテナガの間というのはすごく離れてるんですね。ですから、地理的に大陸と台湾、そして同じようにやはり大陸と日本という形で分布している、違う種群ですけれどもよく似た分布状態を示している2種間が、ヤンバルテナガというのはヤンソンテナガとやっぱり非常に違うということがはっきり出てきたわけです。
 補足説明いたしますと、先ほど1つ問題になっておりました、地理的に近い台湾のテナガコガネとはやはりヤンバルテナガは全然違うものだと、中国に本来分布していたヤンソンテナガとの共通祖先から派生したもので、しかもそれは沖縄というところに遺存的に残されている、かなりの独立性をもって残されているということがはっきりしたということになります。
 生息地の成立について簡単に議論をしてみたわけですけども、最初にパリー種群とマクレイ種群の分化というのは、おそらくヒマラヤの東あたりで起こったのであろうと。そして、パリー種群の中でマレーテナガコガネということでマレー半島の方にかなり今一番最南部の分布域ですけど、そちらの方に行くものと、それからヤンソンテナガ系、ヤンバルテナガコガネの恐らく祖先種を含むヤンソンテナガ系というのが大きくまた分かれて、そして日本に入ってきた経路については、また後ほど推定のご説明を申し上げますけれども、ヤンソンテナガコガネと共通祖先と考えられるものが沖縄に入ってきたのであろうと。マクレイ種群については、ヤンバルとちょっと離れますので、簡単に説明いたしますと、恐らくやっぱりヒマラヤの東の方から、先ほど申し上げたパリー種群の間をちょうど縫うような形で分布を広げたのではないかと。一番問題になりますのが、今中国の東側にかなり分布しておりますこのヤンソンテナガの分布域にマクレイ種群も本来はいたのではないかと考えます。そうじゃないと台湾への侵入が説明できない。にもかかわらず、今この広域において絶滅が起こっていて、フジオカイであるとかバータリーと呼ばれているものがかろうじて残っているというのは先ほど申し上げたこのテナガコガネ属全体の中でやはりかなり広域に競合のようなものが起こって、その結果、片方が絶滅をして今の分布ができ上がったのではないかと。逆に申しますと、非常に微妙なバランスで、こいつらの生息状況というのは決まっているのではないかということを我々としては考えております。
 最後にヤンバルテナガがいつ沖縄本島に侵入して、現在のように隔離分布をしたかということで、この点については実は我々もちょっと結論を得ておりません。大きく2つの仮定ができるということです。
 1つの方は、上の方に書きました、先ほど化石として出ているイナバテナガコガネ、あれが1,500万年前ということですので、その年代を、アット・リィスト(at least)の推定になりますが、テナガコガネ属とヒメテナガコガネ属の分岐の最初のスタートというふうに置きます。そうすると、大体600万年前ぐらいに日本に入ってきたであろうと。そうなりますと、この場合には実は北の方から回ってきたルートというのをちょっと仮定することになります。それに対しまして、ノコギリクワガタ等で我々が得ている知見からでは、200万年ぐらい前にという、これちょっと別の推定なんですけど、この推定値どちらが正しいか今のところちょっと結論できておりません。片方は化石に基づいた推定、もう片方はその中のコガネムシ上科から得られた進化速度の数値を引用しております。こちらの方ですと、200万年前という形が出てきておりまして、そうなると、今度は台湾を経由した南ルートということが考えられます。その場合に今度は今現在台湾には、先ほど申し上げた別の種群のタイワンテナガしかいない。言い方をかえると、ここで今度はヤンバルテナガの祖先種に相当するものと、後から入ってきたであろう台湾のテナガコガネとの間にやはり競合のようなことが起こって、今度はヤンバルテナガの祖先種の方が絶滅したのではないか、あくまで推定ではありますけど、そのようなことが考えられます。
 つまり、ここで強調申し上げたいのは、先ほど申し上げた現在のテナガコガネ属の分布ができ上がる過程でかなりこの競合等による絶滅によって、歯抜け状態の分布にうまくはまるような形でお互いができ上がっている。そういう非常に微妙なものではないかという気がするということです。
 ちなみに、今申し上げたことについてもう少し補足しますと、ちょっと説明忘れましたが、この図の一番右下の方にヤンバルとヤンソンの間の塩基置換率、それとタイワンとゲストロイの塩基置換率ということでパーセンテージ(%)で示しておりますが、ヤンバルとヤンソンの方がタイワンとゲストロイの関係、大陸と島というお互い同じような関係ですけども、倍ぐらい塩基置換率がある。つまり倍ぐらい古いと、非常に単純な言い方ですけど、そのようにお考えください。ですから、先ほど考えた、もし南回りのルートであれば、台湾に先に侵入していたであろうヤンバルテナガの祖先種を後から侵入したであろう台湾のテナガコガネが恐らく駆逐したのであろうという推定が成り立つということを補足させていただきます。
 以上、ちょっとはしょった説明でございましたけれども、ヤンバルテナガの近縁種というのはやはりパリー種群のヤンソンテナガであろうということ。そして、ヤンバルテナガは遺伝的分化の進んだ独立種、塩基置換率がこのミトコンドリア16Sで9%というのはもうバリバリ独立種であります。現在の分布状況から考えても、過去通説で言われておりました、かつて古く広く分布しておりましたものが今沖縄の北部だけに残されている、いわゆる遺存固有という形であるということがはっきり遺伝的にも示されたということです。そして、現在の分布の成立要因につきましては、これについてはちょっとまだ結論を得ておりませんが、600万年前あるいは200万年前、いずれにしても、かなり古い時代というふうに考えることができると思いますが、沖縄本島に隔離されたものであろうという推定が得られたということです。
 以上、ちょっとはしょった説明で申しわけなかったんですが、ヤンバルテナガコガネの実情と申しますか、イメージがかためていただければ何よりかと思います。ありがとうございました。

【石井座長】 それでは、ご説明どうもありがとうございました。それでは、実質的な審議ということで、この2属の取り扱いについてご意見を伺いたいと思います。では、まずご説明の方からなんですけども、資料の3ですね、クモテナガコガネについてのご説明とご提案として、やはり競合ということが考えられると。ヤンバルテナガコガネ、それからマルバネクワガタというお話です。それから、ヒメテナガについてもほぼ同様な結論でして、ヤンバルテナガと競合するおそれがあるというふうになっております。
 それでは、ご意見、ご質問お願いします。
 このイナバテナガというのは、これ、学術的な議論は余りしてはいけないのかなとも思うんですけど、化石種で、明らかに別種で、これはパリー種群だということも確実だと。

【荒谷委員】 種群についてはわかりません。化石の状態でございますので、そこまで詳しい判断はできないということです。

【石井座長】 もちろんDNA云々なんてできない。

【荒谷委員】 はい。

【石井座長】 何かございますでしょうか。議論はこのような判定をするかどうかということになると思います。五箇さん、何かありますでしょうか。

【五箇委員】 初めての未判定の判定ということですので、できるだけ黙っておきたいなと思ってたんですけれども。本当に情報が少ないからこそ未判定になっているということもあるので、実際のところは今ある、ここに提出された情報しかないという中でどう判定するかということになれば、ここにもう既に評価の理由として「おそれがある」というふうに表示がされてるということで、これをもって、その危険性に関して、認知せざるを得ないのかなというふうには考えております。
 あとそれと、やはり今荒谷さんの方から説明ありましたように、日本にはヤンバルテナガコガネという希少種がいるということですね。その希少性についても今ご説明あったように、そのDNAという科学的なデータをもって、生態学分野でいうところの進化的重要単位ですね、Evolutionarily significant unitとしての価値が非常に高いということを証明されていると。これをこういった固有性の高いものを今後守っていくという上では、そういう危険性のあるものについていかに管理していくか、防除するかということが一番大事であろうというふうに考えられますから、そういった点からこの2属についても判定すべきではないかなというふうには思っております。ここで個人的にだから黒ですとはちょっと今言えないというか、皆さんの意見を踏まえてそういうことで、判定するのは環境省だというふうには考えておりますので、今、私の個人の意見としては、ヤンバルテナガコガネという非常に希少性の高いものが科学的にも裏づけられたと。今、ここにこの沖縄にしか生息していないこのコガネムシというものの進化的な重要性というものを踏まえた上で判定すべきであろうということが私の意見です。

【石井座長】 ありがとうございます。引き続き、甲虫といえば高桑さん。

【高桑委員】 五箇さんは、大変今、慎重な意見を述べられましたけれども、多分、こんなこと言っていけないんですけど、皆さんは同じ考えだろうと思います。やっぱりその少ない情報でもって未判定外来に選定したわけですけれども、その少ない情報に今荒谷さんの方から科学的な情報を入れてもらって、それを勘案するならば、まさにこの評価の理由に書かれているとおり、その競合するおそれがあるというのは、これは当然だろうと思います。ましてや、その本来の判定にかかわる内容、判定の手続のところであるように、予防的な観点を踏まえつつというのがあるならば、これはもうそのおそれが強いと言わざるを得ないと思います。この資料3の、この評価の理由がクモテナガコガネ属と、それからヒメテナガコガネ属と2つそれぞれ書いてありますが、同じような内容なんですけれども。そこで、ここではどういう競合があるかというと、「幼虫の食べ物であると考えられている腐植質や生息場所をめぐって競合するおそれがある」とあるんですけども、これは別に幼虫に限ってない可能性もあるわけですよね。何かというと、それは成虫の食べ物としての、例えばヤンバルテナガの場合には、これ私は実際に確かめてないですけども、その本によれば、スダジイの樹液を吸うという写真があります。そういう記述もあります。例えば、クモテナガの方にしても、そういった木の蜜、要するにヤシ類とか、ヤシとかシュロでしたっけ、そういったものの樹液に来るということですから、やっぱりその樹液をめぐっての成虫の競合も当然考えられ、考えておかなければならないということですね。そういったものも含めれば、ますます日本のヤンバルテナガと、あるいはマルバネクワガタ類と競合するおそれが強いとしか言いようがないと、私、そう思います。

【石井座長】 ありがとうございます。お二人の甲虫研究者の方からご説明いただきましたけども、そういうことでよろしいですね。方向性としては、そういうことなんですけれども、もう少し議論を深めたいと思います。何かご意見、ご質問ございますか。
 梅谷委員、どうぞ。

【梅谷委員】 コガネムシの亜科はいろいろありますが、カブトムシみたいに同じ亜科の中で生活型が随分違っているものが入っている亜科がありますね。植物を食べるグループから腐植や肉食のグループ、そんなのはやっぱり慎重を期さなきゃいけないけど、テナガコガネ亜科みたいにこんな少ない種類で、いわゆる生活型がそっくりなものの場合、前にこのテナガコガネ属を規制したときに、どうしてこれ亜科まで広げて一緒にやっておかなかったのでしょうか。全然それで差し支えなかったと思うんですが。この場合は。決して大まかだとも言われなかったでしょうし。

【長田専門官】 やはり既知の情報がそのCheirotonus属、テナガコガネ属に非常に集中をしていたということと、それと後はテナガコガネ属の個表を今回参考でおつけしておりますが、テナガコガネ属の場合、メインはやはり今回と同じ競合なんですけども、それに加えて交雑、遺伝的撹乱の可能性もあるということで、そこの評価に合致するものとしてはテナガコガネ属がそれに当たるだろうという判断をしまして、このほかの2属については情報が少ないというところはやはりそれなりに科学的な知見をもとにというところで踏まえなければいけないということで、未判定の候補にさせていただいたと。

【梅谷委員】 これを機に、今後こういうケースについては広くとらえてやっておいた方が後々少しでも楽になるなと。
 それから、遺伝子撹乱という大義名分がなく、ただ生息場所の一致による食の奪い合いによる影響だけの場合、それから定着の可能性が多分なかろうと、そういうケースではこの委員会についてどう判断するかはある程度申し合わせておいた方がいいのではないですか。

【長田専門官】 今のご指摘なんですけれども、今回の2属については、遺伝的撹乱の可能性というのは、私ども事務局の案の中では評価をしておりません。届出者の添付資料の中にも交尾器の形状が違うという指摘がございまして、これについては、もし知見があれば先生方のコメントをいただければと思いますけれども、交尾器の形状については既存の論文等でこのテナガコガネ亜科についてかなりレビューをされたものがありまして、それぞれ形態は違うということもありますし、今回はその交雑のおそれというものは評価をしておりません。やはり今回競合をする相手が非常に在来のものが貴重であるということと、競合する相手が利用する環境が量として非常に限られていると、その大木の樹洞というところかつ分布域も亜熱帯に限定されているというようなものがヤンバルテナガコガネやマルバネクワガタでございますので、そこを重視をしたというところでございます。あわせて届出者の資料の中に生態系への影響については、「両方の属とも適応している現地の環境でも珍品であり」と、環境の異なる本邦での野外での繁殖困難であるというようなコメントもありました。ここについてもちょっと考え方に触れさせていただきたいんですけども、1つはその珍品であるかどうかということ自体が侵略的、別の国に行ったときに侵略的になるかならないかということの根拠には必ずしもならないというのは、これまでのほかの種の例でも明らかでございますし、テナガコガネについては知られている範囲では、非常に成虫の移動性が低かったり、成虫自体の発生期間が短かったりということで、その種の性質として、親の個体が捕獲をされる可能性が低いということもあると思いますので、このコメント2つ、交雑の可能性は低いだろうということについては、こちらは知見がないので低いとも高いとも言えないために評価の理由としては用いていないということ。それから、現地で珍品であるということが、すなわち日本に定着して被害をもたらすおそれがないということにはならないだろうというふうに判断をしたというところでございます。

【石井座長】 ということで、梅谷委員の言われた遺伝的撹乱がないケースで今回は議論しなきゃいけないということです。

【梅谷委員】 この亜科にはそのケースはあるわけですね、ほかの種ではね。

【石井座長】 ということで、ご提案の方は、事務局側の、幼虫の特に食物のところで競合する可能性ということで、高桑委員の方からは成虫の方もある可能性もあるということですね。
 そうしたら、私の方からちょっと荒谷さんに聞いた方がいいのかな、これ分布は平面的に見させてもらったんですけども、標高について、たしかヒメテナガの方は1,000メートルを超える高標高地にもという書き方をしてるから、これは低地から1,000メートルという感じですよね。クモテナガの方はどんな感じでしょうかね。

【荒谷委員】 クモテナガにつきましては、余りその辺のこともよくわかっておりません。採集地ラベル上出てくるのが実は標本の集積地のラベルが出てきているということがあって、その意味では、実はごくごく低標高のところにしかしないように見えますが、フィリピン全域にほぼ分布しているとか、実際にとったことがある虫屋さんの話なんか伺うと、結構5~600近いところでもとれているようなので、知られているよりはかなり垂直分布でも幅広くいる可能性は高いと思われます。

【石井座長】 わかりました。それから、これは事務局が書いているから事務局に聞いたらいいのかと思うんですけど、クモテナガの方は評価の理由の中に、マルバネクワガタ等との競合というのがありますけど、ヒメテナガの方では、「等」という字は入ってますけどマルバネは特に書いてませんね。これはどうしてでしたっけ。

【長田専門官】 ヒメテナガにつきましては、具体的に樹洞で腐植質を食べているというような知見が既存の文献の中にございますので、ヤンバルテナガコガネが最も競合相手として懸念をされるというふうに判断をしておりますけれども、クモテナガについては、一般的にライトでとられたり、その蜜に集まってきたものが捕獲をされたりということでして、全くの自然生態、例えば幼虫の確認事例というようなものがほとんど皆無でございます。その中で、腐植質を食物として利用しているだろうということは推測はできるわけですけれども、その腐植質が発生する場所が大木の樹洞の中なのか、もうちょっと根際に発達するような腐植質が蓄積をしたような場所なのかというところは必ずしも今の知見では判断ができないというふうに考えておりますが、日本の南西諸島、一番定着する可能性がある最も温暖な南西諸島の環境に生息している希少種ということを考えてみますと、ヤンバルテナガコガネだけでなくて、その根際の腐植質等をよりよく利用するマルバネクワガタ等も生息しているということで、この両方の問題に触れておく必要があるというふうに考えました。

【石井座長】 わかりました。
 はい、どうぞ、荒谷委員。

【荒谷委員】 今の件につきまして、少し私の方から個人的な経験も含めて補足させていただきますと、実は沖縄のそういう腐植をめぐる環境というのは非常に微妙なバランスで成り立っております。要するに、樹洞という状態のところにヤンバルテナガコガネが入って、その樹洞の下の部分がすこーんと抜けて根際に落ちてきたりする、もう少し後の状態になったときにマルバネが入るんですね。さらに、そこに実はオキナワカブトムシも入るという3者の関係というのが実はありまして、ヤンバルテナガとマルバネとオキナワカブトムシ、オキナワカブトムシもやっぱり沖縄県の方では絶滅危惧種として非常にレッドリストに挙げられているようなそういう希少性の高いものですけども、その3者が木の「遷移」の中で非常に微妙に時期をたがえて、何とかかろうじてやっているという現状なんですね。我々の調査でも、今実は沖縄のやんばる全域でヤンバルテナガが確認されている材というのは、高木の樹洞というのは実は数えるほどしかございません。そういう中に完全に生活環境がかぶるような、例えばヒメテナガが入ってくる。クモテナガの場合には、もう少し幅広く考えたとしても、マルバネ及びオキナワカブトムシと競合するのはほぼ目に見えているんではないかという気がいたします。

【梅谷委員】 ヤンバルのいないところはどうですか、石垣とか西表。

【荒谷委員】 石垣、西表あたり、ヤンバルのいないところでは、マルバネクワガタがもう少し幅広く入っている場合がございまして、いずれにしても、マルバネクワガタとの競合は恐らく避けられないんではないかという気はいたします。

【石井座長】 あとは、本州なんかも含めてひょっとしたら定着する可能性というのがヒメテナガに書いてますけど、マルバネは本州部分ではいなかったでしたかね。そうすると、あとは樹洞の腐植質というと、オオチャイロハナムグリかなんかでしょうかね。

【荒谷委員】 一番各都道府県のレッドデータブックで一覧に挙がってくる名前というのはオオチャイロハナムグリですけども、そのほかにレッドリストの状態で都道府県レベルで出るものとしては、ヒラヤマコブハナカミキリとかPachypidoniaなどのカミキリとか、そのあたり含めて樹洞性のものというのは、やはり非常に祖先的で、非常に原始的な感じで非常に弱々しい、非常に希少性の高いものというふうに一般に位置づけられるものがかなり含まれておりますので、その辺がもろやられる可能性が高いというふうに考えます。

【石井座長】 大体、そんなところかなと思うんですけど、1つは気候的な問題で、ちょっとあいまいな部分がありますけども、日本の野外に放たれた場合に定着する可能性があると、生き残る可能性がある。それから、その場合に入ってく環境として、樹洞あるいは、これはわからないけども、根際等の腐植質なんかを食べる、その食べているさまざまな甲虫類と競合する可能性があるということですね。このことをもって、今回の判定にしてよろしいかということなんですけれども、この点よろしいでしょうか。
 はい、どうぞ。

【堀上補佐】 ちょっとよろしいですか。競合の可能性ということでおそれがあるということで私ども出させていただきましたが、競合の結果、やはりヤンバルテナガコガネの絶滅を引き起こすだろうということで、今回の先生方のご判断はそういうふうにとらえてよろしいかどうかということをちょっとお聞きしたいんです。

【石井座長】 なかなかこう難しいところなんですけど、重要なポイントなんですが、ご意見ございますでしょうか。
 

【梅谷委員】 絶滅まで書くことないんじゃないですかね。たとえそうかもしれないけど。多大の影響を、生存に多大な影響を与える可能性があるぐらいの方がいいのではないでしょうか。
 それから、申請あったからこれは多分こういう結論になるとして、似たような条件にある多種類のクワガタなどを差しおいて、こっちを先に公表するわけですか。

【長田専門官】 クワガタについては二次選定の過程でまさに三次選定において重点的に検討すべき種というご指摘もいただいておりますし、前回ご紹介しましたように、その指定に伴う大量遺棄というようなことも避けねばなりませんので、普及啓発等も積極的に進めているところでございます。また、被害に係る科学的知見、そこは今まさに蓄積をしている状態というところでして、今回のテナガコガネ、クモテナガコガネ属とヒメテナガコガネ属については、私どもの意思というよりは、法律の制度上届出があればそのときの知見で判定をしなければならないというところがございまして、先生方にはご迷惑をおかけしますけれどご理解いただければと思います。

【石井座長】 小野委員、どうぞ。

【小野委員】 ちょっと今のおはなしに関連して、現在、日本にどのぐらいテナガコガネの類を飼っている人とか、あるいは業者がいるのでしょうか。つまりこれによって、実際の規制対象者といいますか、困る人が出てくると思うのですけれども。その辺の情報はどのぐらい把握されているでしょうか。

【長田専門官】 数については、全く実は把握をしておりません。現在、そのテナガコガネ属については特定外来生物に指定をされましたけれども、現在、飼育をしている方についてはその飼育をしている個体に限って、その愛玩観賞目的で飼育を継続するということで許可申請を出していただいて手続をとっていくというような形になっております。今後、新たに飼育をすることはできないということになっておりますが、今回の結論でヒメテナガコガネ、クモテナガコガネがテナガコガネ属と同様の扱いになりますと、これらについても基本的には飼っている、愛玩目的で飼っている方は、その今買っている個体だけを飼育をしていくということになるわけでございますが、私どもも統計的な把握手法がございませんので、例えばインターネットですとか、雑誌ですとか、そういった情報をもとに判断をしますと、もちろんクワガタ等よりはもうけたが違う、かなり少ない飼育者ということになりますが、特にこの2属については飼育をしている方はテナガコガネ属よりはかなり少ないだろうというふうには推定はしております。

【小野委員】 わかりました。昆虫学の普及ということから考えると、せっかくのブームに水を差すというようなことを書いたり言ったりする人もいるかと思うので、そういうことも多少必要かなというふうに思います。

【石井座長】 荒谷委員、どうぞ。

【荒谷委員】 少し補足をしておきたいことがございまして、今回、交雑の可能性云々について最終的な評価に入れるかどうかという話はちょっと別問題だと思うんですが、この申請、届出があった方の方、実はこれ交尾器の問題でやっているのはこれ、クモテナガの方だけなんですよね。実はヒメテナガ、交尾器ほとんど変わりません、クモテナガ、失礼、普通のテナガコガネ属と。サイズ的に小さいんですけども、小さなオスが大きなメスと交尾をするというのは物理的にも全く可能なので。ただ、染色体その他の知見がございませんので、何とも申しませんけども、「機械的」には交尾は可能というふうに、私の観察結果からも判断しております。

【石井座長】 実際に、子孫ができるかどうかは別としてというメカニックな話ですね。そうしたら、そろそろ結論に持っていきたいんですけど、書きぶりとしてその評価の理由のところに、ヤンバルテナガコガネ、マルバネクワガタ等のこと、絶滅とかいうところまで書くかどうかですけど、これについては、ほかの委員のご意見ございませんので、梅谷委員の言われるように、書くとしたら、「多大な影響を与える可能性がある」というところかなと思うんですけども。どうぞ。

【堀上補佐】 テナガコガネ属の方ですが、参考資料の1の、一番最後のところなんですけれども、テナガコガネ属に関する評価の理由のところで、「競合により、在来種で絶滅のおそれのあるヤンバルテナガコガネを絶滅させるおそれがある」という記述をしております。同じような書き方でよろしいかどうか。

【梅谷委員】 はい、結構です。前にも前例があるなら。

【石井座長】 在来種で絶滅のおそれのあるヤンバルテナガコガネを絶滅させるおそれがあるというところまで書くかどうか、要するにこれに倣って書くかどうかですね。いかがでしょうか。五箇さん、オーケーでしょうか。

【五箇委員】 オーケーです。

【荒谷委員】 実はヒメテナガにつきましては、インターネットの情報等以外にも幾つか飼育研究とかのいろんなことがありまして、実は大きさは小さいのですが、産卵数とか繁殖能力は実はかなり高いということが実際わかっております。クモテナガの場合には非常に大型で摂食量が多いという評価がございましたが、ヒメテナガの場合には小さいんですが、繁殖能力その他から考えると十分にヤンバルテナガを脅かすだけのものはあるというふうに私は判断いたします。

【梅谷委員】 結構です。

【石井座長】 結構ですというふうに変わりましたけれども、よろしいでしょうか。そうしたらそろそろ結論としたいと思いますけれども、書きぶりとしてはテナガコガネ属のヤンバルテナガのときに用いた書き方ですね、これを倣ってもよいということで、絶滅のおそれがあるというところまで書き込むということですね。ということにしまして、クモテナガコガネ属及びヒメテナガコガネ属ともに資料の3、評価の理由についてはもう少し書くということにしますけれども、生態系に係る被害をもたらすおそれのある生物であるため、特定外来生物に指定すべき、このような結論にしたいと思うんですけれども、これでよろしいでしょうか。よろしいですか。では、どうもありがとうございました。

【梅谷委員】 ちょっと伺いたいのですが、こういう希少種が原産国で何か特別な扱いされているところ、どこかありますか。

【荒谷委員】 あります。そのことはちょっと本論とは外れますので、今回あえて説明申し上げませんでしたけども、実はテナガコガネ属そのものでは、ゲストロイとパリーがタイで実際に保護動物に指定されてますし、ヒメテナガについてはトルコで実は保護動物に指定されております。ですから、そういう観点からも、今回我が国がこういう毅然とした態度を示すというのは必要ではないかと考えます。

【石井座長】 ありがとうございます。よろしいですか。なければ、次の議題というのはもうなくてその他ということになっています。その前に、今の指定についてのスケジュール、これについて事務局からご説明お願いします。

【長田専門官】 説明いたします。今回、昆虫グループ会合として、特定外来生物に指定すべきという結論をいただきましたので、この後、特定外来生物等専門家会合、いわゆる全体会合のご意見を聴取する必要がございます。スケジュールの関係、それからこの1種について、梅谷委員からもご指摘ありましたけど、この1種について各分類群の座長を集めるのかということも考えますと、座長とご相談をした結果、意見聴取要領に定めているとおりの文書による意見聴取という方法をとりたいと考えておりまして、全体会合の委員の先生方には今回の議論の結果を資料とともにお送りをして、文書による意見聴取を行いたいというふうに考えております。その後、特定外来生物の指定という話になりますと、今までの二次指定等と同様に指定に係るパブリックコメント、WTO通報等の所要の手続を踏まえまして6カ月以内に指定に向けた取り組みを進めていくということになりますが、パブリックコメント等の結果を踏まえてということになると思います。

【石井座長】 そのスケジュールというのは、あくまで最後のところが9月の10何日になりますかね、6カ月後ということですけども。それはじゃあ事務局の方にお任せするということでよろしいですか。今の件、ほかにありますでしょうか、スケジュール等ということですけれども。ないようでしたら、最後、2番目その他ですけれども、事務局の方からは特に具体的な議案はないと聞いておりますけれども、この際、委員の方からございますでしょうか。
 どうぞ、桐谷委員。

【桐谷委員】 大体この仕事が済んだもんですから、ちょっと付随的なほかのことをお話ししたい。それは、サミットでも地球温暖化の問題と、それから生物多様性の2つの問題が出てきて、この2つというのは余り具体的には結びついたような形で問題が提示されてない場合が多いんです。具体的な例を1つ挙げますが、きょうの審査でも、この虫について十分な情報がないと、随分出ていました。それにもかかわらず判定したんですが、私がかかわっているミナミアオカメムシというのがあるんです。これはもう我々が物すごく研究したもんだから、情報は世界的にも一番僕らのところが持ってると思うんです。いろんなところでも全部我々の仕事を引用してますから。その場合でもまだいろんなことは起こっている。というのは、最近地球温暖化でどんどん北上してきてるんです、その虫が。かつては、40年ぐらい前は和歌山の南と、それから九州の宮崎あたり、そのぐらいしか見つかってなかったんです。ところが、それが見つかったところではそれまではアオクサカメムシが、ネイティブなやつですね、おったのに、ミナミアオカメムシが侵入害虫ではないんですけど、いつか入ってきたんだと思うんです、アフリカが原産ですから。結局日本が一番の北限になったわけです。その北限になったところで全部アオクサカメムシが追い出されて、ミナミアオカメムシだけの単棲地帯がそこにできてたわけです。それはなぜかと言いますと、先ほどからの種間交尾というのが出てますが、子供ができないんです。遺伝子の汚染ということじゃなしに、交尾するだけでも1つの問題があるということがまずあるんです。そのメカニズムは何かと言いますと、沖縄県なんかの不妊虫のミバエの不妊虫の例を考えていただいたらいいんですが、不妊虫をワイルドの個体数よりもはるかに多量にまくと、そのことによって交尾をしても子供はできないんですね、不妊虫と交尾したワイルドのメスは全部不妊になってしまうわけです、結果的には。そのことによって、絶滅が成功したわけです。四、五十年前には稲を早くつくり出したんです。そのために、稲がずっと長い期間、早いときから10月、11月まであるという状況で、ミナミアオカメムシだけが非常にどんどんふえたんです。きょうの話でもハビタットが重なるのが非常に大事なんで、ふえても全く独立なら問題ないんですね。こちらは稲でふえている、こちらは豆でふえているというのは。ところが、アオクサカメムシは余り目につかないんですが、ミナミアオカメムシは稲にもつく、それから従来のアオクサカメムシの食べていたような豆とかそんなものにも全部つくんです。ですから、完全にそのハビタットというか、そのニッチは後からふえたミナミアオカメムシの方が全部先住者の方をカバーしてしまうんですね。そこで種間交尾が起こるんです。だから、交尾器が違っていても、そのぐらい種間交尾は平気でやるわけです。子供はできないんです。ですけども、その結果、アオクサカメムシがだんだん駆逐されるんです。というのは、交尾はすぐ行わないんですね。羽化してから2週間ぐらいたちますから、自分らの兄弟同士の交尾というのはなかなかできないんです。最終的には、私たちが調べたときには、アオクサカメムシがおって交尾してるのを見たら、全部ミナミアオカメムシとの種間交尾で、最終的にはもうそれでなくなってしまうと。ところが、今、地球温暖化で、最近、大阪まで入っていたと思ったら、つい最近は調べていったら、静岡にまで来てるんです。それで、静岡でも調べたら、全部アオクサがなくなってしまってミナミアオカメばっかりになってると。それから今、九大の湯川君らが論文書いてるんですけども、九州でも北の方へどんどん上がってきて、そして数年前はアオクサが3でミナミアオカメが1だったのが、もう今になると逆転して、アオクサが1、ミナミアオが3と。もともと日本にもそうやって長いことおった虫ですけども、ミナミアオカメムシというのは。これが北上することによって、今までおったやつを全部絶滅させていってるんですね。ですから、単に地球温暖化で虫が北上するというそういう現象だけやなしに、そのことは同時に、今までおったやつまで、駆逐して絶滅させてしまうというような形になってくると。この場合も何も種間交尾は全然遺伝子が行くわけじゃないんですね。種間交尾するということだけで、そういうふうに置きかわってしまう。というのは、カメムシは長い間交尾してるんですよ。ですから、1回つかまってるといつまでもやってますからね。だから、なかなかそのほかのもんが入りきれないんですね。そのうえミナミアオカメムシはアオクサカメムシに比べて世代数が多いんです。
 だから、今申し上げたことの整理しますと、まずミナミアオカメムシはアオクサカメムシに比べて増殖率が高いことが1つです。それからその次には、ミナミアオカメムシがアオクサカメムシと完全にその生息場所が重なるということ、これが2つ目の条件。その個体数がそうやって、ミナミアオカメが非常に多いということから、要するに不妊化法のときのワイルドと、それから不妊化虫との関係みたいに非常に個体数がもうアンバランスになる、そこで種間交尾を起こすと、もうこれが最終的なとどめになって、そしてアオクサカメムシがなくなっていくと。
 ハウスも地球温暖化の典型的な僕はモデルだと思ってるんですね。私ら、ハウスなんか調べたときの30年前は日本のネイティブの虫しかいなかったんです。だけど今ハウスの中におる2分の1、10種類は外国産、外国からの侵入種です。なら結局、ちょうど地球温暖化の先取りの状況をしてるんで。
 ですから、これから我々の問題、これ考える場合も、ヤンバルテナガもこれ地球温暖化になってきたときに、ああいう限られた生息場所におるときに、その上にそういう物すごい大きなインパクトを受けるわけですから、その辺までも考えておく必要はあるんじゃないかなと、そういうふうに思っているんです。ちょっと長かったですが。

【石井座長】 どうもありがとうございました。いろいろ示唆に富んでいたかなと思います。今後の参考になればと思っております。ほかにございますでしょうか。
 どうぞ、小倉委員。

【小倉委員】 甲虫の専門家の方いらっしゃるんで、ちょっとお聞きしたいんですけど。チョウチョなんかの場合ですと、野外でもパピリオ同士の交雑なんかも起きてますけど、甲虫の場合、かなり交尾器の形が違うというと、単純にメスに挿入するという行為で大体交尾が起こるのが普通ですよね。カブトムシなんかでも大きいの小さいのと相当交尾器の形も大きさも長さも違いますけども、それでも同じ種ですから当然交尾しますよね。ほかにも属間だろうと何だろうと、甲虫類というのは割と交尾、さっき遺伝という型は余りないとは思いますけども、雑交が起きる可能性というのはかなりあると思うんですが、どうなんでしょうか。

【石井座長】 その辺は五箇さん、大小の話といったら、五箇さん。

【五箇委員】 クワガタムシの交雑実験をうちの研究所の方でもメインでやっていますけれども、ご指摘のとおり、非常に遺伝子レベルでかけ離れていて、遺伝距離から見てももうほぼ別種と考えられるようなものでも比較的簡単に交雑をするし、雑種も生まれてくるんですね。以前にもこちらの方で少し報告はさせていただいたんですけれども、特にヒラタクワガタとかオオクワガタというもの、メインで商品で出回ってるものを重点的に評価した結果、むしろ日本のものと東南アジアみたいな遠いところに生息してるものの方が交雑の可能性が高いというようなことも起こると。これはいわゆる進化生物学的に見て非常に珍しいケースともいえるんですが、ある意味、ちゃんと説明もつくことで、異所的に種分化しちゃってるもんですから、実は生殖にかかわる根本的な部分というのは何も変わらないままきちんと受精して子供ができるという部分が、本来ならば、種分化する過程でそういったものが生殖隔離という違う系統同士が交わらないようにするというメカニズムですね、そういった部分が本来は進化しなきゃいけないのが、もともと土着性の高い生き物でそれぞれ島や山ごとに分断されてしまうと、もう出会うチャンスがもう最初からないわけですから、そういったものを進化させる必要がないと。そういった形で日本と東南アジアという、実に500万年ぐらい離れてるんじゃないかと思われる系統同士でも平気で交雑をして、むしろその系統内の交雑よりも繁殖力が高かったりするということが平気で起こってしまうと。そういったところがやっぱり、これから言えることは、とにかく単純に遺伝距離からはそういった生殖隔離というものは類推することは非常に難しいということ、そこが1つの生物としてのリスクの高さですね。生き物ゆえに本来の、人間のこれまでの既存の知見をまた超えたところにまたそういう例外事例というものは幾つでも起こってしまうと。特に生き物は進化していくものですから、そういった部分では従来のその人工化学物質とかそういったものとのリスク評価とは全くわけが違ってくるということですね。だから、結局1つ1つやっぱり事例を取り上げて見ていかないことにはわからないというのがあると。今ご指摘あったように、交尾1つとってもそういうことがある。だから、今の不安要素というのは確かにあると思うんですね。交尾器の形とか大きさだけでは判定は不能なんだろうなというのがやっぱりあると思います。特にこの甲虫類ですね、クワガタムシのように大型のものは移動能力がもともと乏しいがゆえに、異所的種分化という形で、姿形こそ変わってるんだけど、そういう生殖という部分の本質は実は何も変わってないという事例もやっぱりあると。こういうことも結局でも調べてみないとわからないというところもあるというので、その辺が特に梅谷さんからもご指摘あったように、これだけ膨大な数の種類、地球上で最も種類が多いと言われる昆虫でこれを1つ1つ検証していくというのは、多分人類史上全部通しても無理なんだろうと思うんですけれども、果てしない話なんですが、一応もう法律もできてしまった以上はこういった形で1個1個事例として取り上げて、可能な限りリスクというものを科学的に検証して理由づけをしなくてはならないんだろうというふうには考えています。

【石井座長】 よろしいでしょうか。ほかにないでしょうか。特にないようでしたら、第7回の専門家グループ会合、これで閉会にしたいと思います。どうもご協力ありがとうございました。