1 日時 |
平成16年12月15日10時~12時 |
2 場所 |
経済産業省別館第1111会議室 |
3 出席者 |
(委員)石井 実(座長)、梅谷 献二、小倉 勘二郎、桐谷 圭治、五箇 公一、高桑 正敏 荒谷 邦雄(クワガタ関係) |
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(利用関係者) 小島 啓史(@ニフティ昆虫フォーラムサブマネージャー) 藤田 宏(有限会社むし社代表取締役) |
(環境省)野生生物課長、生物多様性企画官、野生生物課課長補佐 |
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(農林水産省)生産局花き対策室課長補佐、水産庁生態系保全室課長補佐、林野庁森林保全課専門官 |
4 議事概要 |
〔天敵農薬について〕
(事務局(農薬対策室)から天敵農薬について説明(資料2-1))
- (事務局)農薬取締法上、天敵は農薬とみなす。
- 環境省の(天敵農薬環境影響評価)ガイドラインに沿っているとのこと。評価の方法についてご説明願いたい。
- (事務局)1.情報調査(文献によるもの)2.試験によるもの [1]ホストの特性 [2]休眠性 [3]交雑性 の結果から整理している。ガイドラインについては、環境省のHPで公開されている。
https://www.env.go.jp/water/report/h11-01/index.html
- 既存の天敵や、今まで使っていたものは、評価対象に入っていないのか。
- (事務局)平成14年に法律が改正されている。登録がなければ、販売・製造は禁止されている。
- 天敵昆虫について種、亜種、変種、地域個体群などの取り扱いはどうなっているのか。
- (事務局)亜種、変種といったレベルでは区別されているものとされていないものがある。
- その辺は心配がある。最初にチェックすると、後から入ってくるものは(亜種が異なっても)チェックしないことになる。
- (事務局)実際に販売されているものをチェックして、農薬登録されているものかどうかは確認している。
- 例えば、ミヤコカブリダニは日本にも在来のものがいる。天敵農薬としては外国産のものを使っているが、日本産のものとの区別はしないのか。
- (事務局)農薬登録をするときには製造場所も登録することとなり、違う工場で作ると違反になる。日本のものかどうかはわからないが、基本的には検査のときに提出された見本品との同一性をみている。
- 農薬登録されている15種については、野生化するかどうかについて調べてはいるのか。
- (事務局)温度耐性、休眠の有無をみて、越冬可能性をチェックしている。また、寄生習性や捕食習性の把握もある。このほか、交雑の可能性について、在来種に近縁種がいないかなどを見ている。
- 農薬登録したものについて、追跡調査はしているのか。
- (事務局)野生化したかどうかの確認はしていない。(もっとも、農薬取締のもっと前からチリカクレダニが定着しているとの文献がある。)ただ、天敵農薬は使う場所がハウスの中に限定されており、また、野外で定着してしまうと、メーカーも商品として売れなくなる。今のところ野外で定着したとの情報はない。
- 環境影響評価ガイドラインは、輸入を認めるかどうかの判断に使っているのか。それとも天敵としての有効性を確認しているのか。
- (事務局)農薬登録にあたっての環境影響を判断するガイドラインであり、問題があるもので登録できなければ製造も輸入もできない。ただ、法改正が平成14年であり、平成15年3月から施行されて間もないため、今のところ拒否した例はない。
- 輸入されているヤマトクサカゲロウは学会レベルでは、交雑実験が行われ、在来のヤマトクサカゲロウと交雑することが分かっている。
- それは同種の話ではないか。
- 同種ではあるが、ヨーロッパと日本で異なる。
- (事務局)交雑の可能性は否定できないと考えているが、現実的には大きな問題ではないと判断した。
- ナミテントウは国産だと思うが、産地はどうなっているのか。
- (事務局)国産であり全て茨城産である。天敵農薬は生産場所が限定されるので、日本で流通しているのは、茨城産のみ。
- 本法の対象外ではあるが、国内移動の心配はある。
- 天敵農薬はまだシェアが非常に小さいと思うが、輸入量を数字で出してほしい。ハウス内で使っているから大丈夫だというが、セイヨウオオマルハナバチもそう言っていて野外での定着が確認された。個人的には、現時点でインパクトは余り大きくないと思うが、今後の利用の発展を考えるときちんと評価するための評価ガイドラインとモニタリングシステムが必要である。
〔外来クワガタムシ類について〕
(事務局から資料2-2を用いて説明)
(荒谷委員より説明~主な意見~)
- クワガタムシについてはどこまでの一つの種、亜種とするのかが課題
- 日本の在来クワガタは世界の1200種のうち39種にすぎないが、固有種率は高い。また、世界の属や亜科の半数以上が分布し、日本のクワガタは世界のクワガタの縮図とも言える。
- 熱帯産クワガタも標高の高いところに生息するものが多く、本土の大部分で定着は可能と考える。
- 在来のクワガタはうまく棲み分けをしているが、ここに外来のものが入ることでバランスが崩れる可能性がある。
- 成虫よりも餌資源をめぐる幼虫の競合の方が大きな問題。
- 原産地では大型だが、日本では小型にしか成長しない可能性もあり、競合対象となる在来種が想定とは異なることとなる場合もある。競合の判断は難しい。
- 幼虫の中には在来種の幼虫を捕食するものあり、捕食の影響もあり得る。
- スマトラヒラタクワガタの学名は確定していない。和名のみが先行しており、分類学的整理ができていないので、学名で規制をかけることは不可能に近いのではないか。
- 基礎的データの蓄積が不可欠だが、それにはアマチュアの協力が重要。
- 規制は現実的でなく重要なのは、外部に遺棄されないことであり、余ったクワガタを引取ができるようにすべき。
(小島氏より説明~主な意見~)
- アマチュアの研究者、ユーザー側の立場から発言。
- クワガタ、カブトムシ類は、繁殖飼育することを楽しむために購入する。近年は飼育容器が改善しており逸出防止が図られている。
- 外来クワガタを規制するのは手遅れ。延べ5億匹が輸入され、繁殖を考慮すると50億匹が国内で飼われている。このマスの大きさを考慮すると飼育することに厳しい規制をかけることはできない。そんなことをすれば大量に遺棄され、本法の趣旨に反する結果となる。軟着陸させることが重要。
- 飼育モラルの普及が重要。
- 事務局資料2-2に何点か質問がある。(2の最初の○の)外来クワガタと国産クワガタの交雑実験について、科学的に継続して稔性があることが確認されているのは、スマトラヒラタクワガタと対馬型ヒラタクワガタのみのはず。多くはF1で終わってしまい、交雑が続いていくことはないはず。これ以外の例について記述があるが、その根拠を教えてほしい。
- (1の2つ目の○の)輸入量が多いものとして4種説明があるが、アトラスオオカブトとコーカサスオオカブトは気温が16度を下回るとたいていの幼虫は死んでしまう。アルキデスヒラタクワガタは逆に気温が25度を超えると死んでしまう。オオヒラタクワガタは日本のヒラタクワガタの生息域であれば生存可能だと考えられる。クワガタ類については大型のものよりも、熱帯の高い山にすんでいるサイズの小さなものが危ない。
- 原産国では保護対象になっているクワガタ類が輸入されているのはいただけない。これらを放置しておくことは国際問題となる。
- 現状を見ればここで極端な輸入や飼養の禁止をすると大きな問題が生じることになる。
(藤田氏より説明~主な意見~)
- 採集用品などを販売する立場と鞘翅学会の創立以外の幹事で日本のクワガタ類20種を新種亜種として名前をつけた専門家としての立場と両方の複雑な立場から発言する。
- むし社で世界のクワガタ図鑑を発行しているが、大型のクワガタ類は同定が困難。現場の防疫官の人で、判断できる人はいない。
- だいたい1~2万人のコアのアマチュアに10万人の大人の愛好家がおり、その背後には100万人単位の子供たちがいる。
- 子供たちは菌糸瓶の中で、卵から幼虫、さなぎ、成虫と育ててきている。コンピューターゲームと異なり、はるかに教育上は良いはず。急な規制は子供たちへの影響も考慮すると問題が多い。
- 規制をかけても愛好家は殺すことはしない。逃がされたら大きな問題になる。
- 植物防疫法が解禁して5年間野放しにされてきて、膨大な量が流通しているものに対して、これから指定して効果があるとは思えない。
- (資料2-2の2の交雑に関する部分について)パラワンとダイオウの交雑についてはインターネット情報なので科学的なものではない。国立環境研究所で確認されたもので言えば、スマトラと対馬型(在来)はF3まで、スマトラと本土型(在来)はF1まで、アルキデスと本土型はオスのみF1までで次は無理、グランディスと本土型はF1どまり。野外で確認されたスマトラと在来ヒラタの交雑個体も、室内で交雑してから逃げたのか、野外で交雑したのかは判定不能。つまり、室内ではF1からF3までいくものが確認されている。外国産ミトコンドリアDNAを持つものが野外で見つかっているということが事実。
- 現に膨大な数が入ってきており、規制するにしても多大な労力とコストがかかる。しかし、野外に逃がしたら問題があることは確実。個人的にはどうすれば良いのかは分からない。科学的データを集め、リスクがあるということを一般の人に如何に理解してもらうかが重要ではないか。
- 3つの問題に分けられる。一つは原産地で保護されている生物が輸入されているという問題だが、これは別の問題。もう一つは、輸入をどうするのかという問題。最後は、国内に既に入っているものをどうするのかという問題。これらを切り分けて考えるべきである。国内に入っているものが一番の問題。
- 遺伝子汚染については、F1と親との戻し交雑が一番問題。F1同士ならその次は不稔になるが、戻し交雑だと外来の遺伝子がいつまでも残っていくことになる。
- 室内実験ではスマトラヒラタクワガタと対馬型との交雑により得られたF1と対馬型との間でB1が得られた。交雑実験としてみれば、B1は普通に繁殖しており、生殖隔離はないに等しい。
- (競合の問題について)日本のオオクワガタ成虫は余り戦わないのに対し、外来種は相手が死んでしまうまで戦う。在来種と外来種のニッチが近ければ完全に競合する。定着するかどうかについての学術的なチェックが必要ではないか。
- クワガタの飼育情報は、新しいものの飼育に成功するとすぐにインターネット上に情報が載る。こういった情報をきちんと公開し、それに対して専門家が意見を言えるようなホームページを作ってみてはどうか。
- 成虫の競合は野外で起こるのか。
- あり得ると思うが、成虫は飛んで逃げることができる。しかし、幼虫は逃げることができない。シロテンハナムグリとカブトムシを一緒に飼うと先にカブトムシはいなくなる。
- 幼虫は、窒素源の吸収のため、かなり広く捕食をする可能性がある。先に大きくなるハナムグリは他の幼虫を食べてしまう。アフリカ産のゴライアスハナムグリは、ヌードマウスを与えると良いと言われているくらい。ネズミを引きずりこんで食べる幼虫もいる。幼虫段階では捕食の影響の可能性もある。
- 日本の樹液をめぐる生物のコミュニティができあがっているが、外来種により樹液をめぐる生態系が崩れるとの観点も必要。
- (用語の問題について)「遺伝子汚染」というよりも「遺伝子攪乱」又は「遺伝的浸透」という方がよい。
- 実際に科学的データがあるかどうかが重要である。
- クワガタに限らず、昆虫類については何をデータとするのかによって変わってくる。証拠品はあるが科学的根拠として使えるようになっていない。競合のデータもあるが科学的なジャーナルでオーソライズされていない。その部分をどう判断していくのか。
- 室内でのデータはあるが、リスクに対して野外でのデータがどれだけあるのかが重要。
- クワガタについての情報が一番豊富なのはインターネットだが、インターネット情報は引用できない。ただ、実際に見ているアマチュアが一番情報を持っている。灰色に近いものもクロと見た方がよい。
- 冷暖房をかけずに飼える外国産のカブトムシ、クワガタムシは日本で定着可能。繁殖環境はかなり限られるものもいる。
- 海外で害虫として認知されているものもいるが、輸入許可されている。侵入害虫として一度でも入ったものは植物防疫法の原点に立ち戻って考えていく必要がある。
- 実際に野外にどれだけ外国産のものがいるのかというと、輸入が解禁されて5年経過してものすごい量が入ってきた割にはほとんど見つかっていない。どこの湖沼でも見つかるブラックバスとは天と地の開きがある。
- 外来クワガタムシが定着する可能性はかなりある。その影響としては、遺伝子攪乱、競合、害虫化などが指摘された。遺伝子攪乱はヒラタクワガタ類ではありそうだ。
- 予防原則が理想ではあるが、現状では規制による影響は大きいので、より十分な科学的知見の収集が必要。規制をかけようとして一斉に逃がされると侵入圧としての影響は大きいので、その点は考慮に入れないといけない。逃がさないことをアピールしていくことが必要。
- 害虫であるウンカは日本では定着していないが毎年入ってくる。カメムシの大発生にも温暖化の影響が関係していることが分かっている。細かいところで議論をしていると判断を誤ってしまうのではないか。
- 故意に放す人に対してはどう規制しても確信犯的にやられたらどうしようもない。蝶のアカボシゴマダラなどもそうだ。確信犯のやることは規制では対処できない。いかに遅らせることができるかの問題だ。
- 国内の規制はできなくても輸入禁止にはできるのではないか。
- 累代飼育しているものがいるので、輸入禁止しても同じではないか。
- 輸入禁止にはできるかもしれないが、現在飼われているものは仕方がない。小鳥の雛が巣から落ちていた場合、拾わないでくださいとPRをしたことで、届出が少なくなっている。それと外国産クワガタの問題も同じで、モラルの問題。一緒懸命にPRしていくのがよい。
- 11月27日付けの毎日新聞によれば、環境省は外国産クワガタ類を指定する方針との報道があるが、これは事実か。
- (事務局)この報道には正確でない情報が入っている。基本的にはこの会合での結論を踏まえてやっていく。
(文責:環境省自然環境局野生生物課 速報のため事後修正の可能性あり)