1 日時 |
平成16年11月29日13時~15時 |
2 場所 |
経済産業省別館第1028会議室 |
3 出席者 |
(委員)土田 浩治(座長)、池田 二三高、小野 正人、五箇 公一、横山 潤 |
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(利用関係者)豊橋農業共同組合 山口 雄二
マルハナバチ利用普及会 光畑 雅宏 |
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(環境省)生物多様性企画官、野生生物課課長補佐 |
(農林水産省)生産局野菜課課長補佐 |
4 議事概要 |
(山口氏、事務局、横山委員、光畑氏、小野委員、五箇委員の順に資料を用いて説明)
〔セイヨウオオマルハナバチの取扱いについて〕
<逸出防止ネットの利用状況>
- 豊橋市では、ネットの利用は現在どのぐらい進んでいるのか。
- サイド、天窓、谷型、アーチ面入り口など、ハウスにおける換気口の形態も多様であるので、具体的説明はしにくいが、最も展張しやすいサイドについては、かなり高い数値でネットの利用が普及しており、谷型もサイドと同じ程度普及していると認識している。一方、天窓は高い位置で換気するため、農家が自力ではネットを展張できず、業者への委託が必要となる。業者側もどのように天窓ネットを普及していくか模索中である。農協としても普及推進を図っている。
- ネット展張をせずセイヨウオオマルハナバチが野外に逸出した場合に生態系に与える影響について、農家ではどの程度意識されているのか。
- 新聞等のマスコミ、または業者や農協を通じて、農家に対してセイヨウオオマルハナバチに関する問題を示しているため、農家におけるネット利用の意識は高い。しかし、ネットというものは1度展張すれば終わりというものではなく、3、4年で破れて張り替えなければならない。その分コストがかかるため、展張できるところから展張していくというやり方にならざるを得ない。
- 現在の農家は農薬使用量を減らそうという意識が高く、農薬を使わない防虫という観点からもネットを利用しようとする意識が高い。
- コストの点が重要な問題ではないか。平均コストは計算しにくいと思うが、ネット展張によって、一戸あたりだいたいどれほどのコストが必要なのか。
- ハウスの換気口の形態や、ネット展張の方法にもよるが、豊橋では天窓が両開きになっている「両天」という形態のハウスについて、ネット展張を業者に委託すると、約50万円必要となる。
- 農水省、環境省に質問するが、農家に対してネットの展張を義務付けるというケースでは、助成金等を支給することは可能か。
(農水省)ネットは生産資材にあたるが、個人の財産形成にあたるネット経費については、補助事業の対象にはできないというのが基本的な立場である。
(環境省)外来生物の防除という観点からの予算措置はあり得るが、生産という観点からはない。
- 現時点ではネット展張に助成金は出せず、展張するとすれば農家の負担になる。そうなると、利用に伴うコストの上昇で、セイヨウオオマルハナバチを利用する意味が無くなってくるのかもしれない。有り体に言えば、行政がどう対応するかが焦点となる、ということである。
光畑氏の資料説明では、ナス受粉に利用するセイヨウオオマルハナバチの販売においては、半強制的にネット展張を推進しているとのことであったが、やろうと思えばできる事なのか。農家の採算性という点は問題ないのか。
- 採算性に関する詳細なデータはない。セイヨウオオマルハナバチの利用が進んだ背景には、他産地のナスとの競争、差別化という意図があり、競争力を高めるため特色ある生産体制を作るという方針があった。その中でセイヨウオオマルハナバチを利用するようになったため、ネット展張が利用の前提条件として理解されたという経緯がある。ネットの経済的メリットとしては、セイヨウオオマルハナバチを捕食から守る他に、鱗翅目害虫を防除するという副次的効果もあり、それらのメリットを全て考慮すれば採算がまったく合わないものではない。
- ネットの展張によって、鱗翅目害虫を防除するための農薬が減少したというデータはあるか。
- 鱗翅目害虫としては、オオタバコガ、ハスモンヨトウなどが該当するが、農薬使用量についてはメーカー販売量の推移として把握できる可能性がある。害虫には発生推移があるので一概には言えないが、傾向はつかめるかもしれない。
- ネット展張について、農水省も環境省も助成金は出せないということであった。これまでは個人レベルで防除などの対応をしてきたが、今回の法律は後から制定されたものであり、この法に沿った補助金のあり方も考えるべきでないか。
- 一般農業害虫への対策においても同様であるが、ネット展張に関しては、農家は余程切迫しなければ動かない。農業害虫の事例から言えば、被害が明らかに認識され、全力で防除するということになれば、100%近く防除することは可能であるが、そのためには相当の指導や補助が必要となる。
- 独立行政法人野菜茶業研究所による試験では、軒高3メートルのハウスにネットを展張したところ、地上1メートルにおける気温が3.4度上昇した。また、軒高4.5メートルのハウスでは屋根にネットを展張したところ、気温が1.9度上昇した。湿度の上昇も考慮に入れると、日照量が低ければ病気の発生も考えられるため、コストが上昇する可能性がある。ネット展張に対する助成金だけでなく、風通しの良いネットの開発など、農水省に技術開発面で支援してもらうことはできないか。
- もし今回の法でセイヨウオオマルハナバチを指定するのであれば、ネットの展張は必須となる。原産国オランダではセイヨウオオマルハナバチを、天敵も含めその利用に適した施設とセットにして考えた上で利用していたが、日本にはそのマテリアルだけ持ってきてしまった。ネットの展張も、根本的には農業環境を整備するという観点で捉えられるのではないか。
- ネット展張にかかるコストを、農家、自治体、国の間でどのように負担してゆくか。この話題はこの会合の範囲外かもしれないが、提言の準備はしておくべきだと考える。
- ネット展張に関するコストを正確に算出するのは難しいが、全農のアンケート調査によると大体10aあたり10万円となっている。これは、農家にとって収穫の前に行う先行投資になるため、そこでの補助の有無は大きな違いである。
- また、ネットを展張するタイミングについても留意が必要である。作物の植え付け前でなければ展張できないため、仮にネット展張を義務づけるとすれば、全国一律ではなく、作物の季節による各地域の違いに合わせ猶予を見る必要がある。
<利用済み巣箱の処理>
- ネット利用に関する意識が向上していることは分かった。それでは、古い巣箱について、利用後の処理はどうしているのか。
- メーカーからの指導により、使用後は外に逸出しない形での処分を推進している。ひとつの巣箱の利用期間としては、だいたい1,2ヶ月であるが、もっと長いものもある。農家の中には、働いてくれたハチに対するお礼の気持ちから、殺してしまうのもかわいそうだという意識がある。
- 基本となるのは、ひとつの巣箱が終わったら外に出すのではなく、シーズン中はハウスから出さないことである。作付けが終わった後はハウスを閉め切って熱で処理する、あるいは殺虫剤を使う農家もある。
<野生化の状況>
- 横山委員の資料説明では、2003年の平取町での野生個体捕獲数の推移に関連して、ネット展張の効果が高いというデータが出ている。この程度の減少なら効果があると言えるのではないか。
- 既に野外に定着しているものは別に考えなくてはならないが、2003年のデータで言えば、ハウスから逸出する新規加入個体群が減っているとは考えられる。このデータからだけでは科学的にまだ十分でないが、個人的にはネット展張の効果はあると思う。
- 資料からは、セイヨウオオマルハナバチが圧迫しているのはエゾオオマルハナバチであるように受け取れる。
- セイヨウオオマルハナバチとエゾオオマルハナバチは利用環境や生態特性が似ている。現時点では、エゾオオマルハナバチに与える影響が大きいという印象を持っている。
- 横山委員の資料にある、札幌、小樽、函館のデータは、「松浦,2004」の論文によるとのことだが、いつの時代のデータか。
- 論文に正確には書いていないが、90年代のデータと見受けられる。都市部でのデータであり、人為的な影響も大きいため、実際の野外におけるマルハナバチの生息状況と考えて良いかどうかは不明である。
- イギリスでもマルハナバチの多様性が低下しているという研究がある。それは、植生などハビタットの変化として捉えることができるが、ハビタットについては都市化が影響している可能性もあるので、鵡川町の過去のデータがあれば良いが、ないとすれば近隣で在来マルハナバチの生息状況に関するデータを取ることが必要となるだろう。
- 横山委員の資料に、セイヨウオオマルハナバチのワーカーとエゾオオマルハナバチの女王が同じ巣に入る場面の写真があるが、この巣はその後どうなったのか。エゾオオマルハナバチの生産カーストの発展に、セイヨウオオマルハナバチが一役買ったと誤解されかねないので注意が必要である。
- セイヨウオオマルハナバチの雄や女王の生産は確認されていない。
<天敵・寄生生物>
- 五箇委員に質問するが、現在日本においてNosema bombiは見られるのか。
- 商品個体からも野生個体からもほとんど発見されていない。ヨーロッパの工場では対処しているようである。逆に言えば、それだけ影響力の強いパラサイトであり、野外よりもむしろ工場内においてより大きな問題となるものである。
- 今後は検疫についても整備していかないと、Nosema bombiの影響で工場が閉鎖されたアメリカと、同じ状況になってしまう。
- ポリネーターであることを考えると、花から花へとヒッチハイク的に病害を伝播するという可能性はないのか。
- 寄生生物に汚染された花に訪花する際に、Nosema bombiなどが水平感染する可能性があるが、植物病害の媒介例はない。ただし、遺伝子組み替え生物の花粉を運んでしまう可能性はあり、アメリカではその点に関するリスク評価を行っている研究がある。
<防除の取り組み>
- 平取町の事例では、防除への具体的取り組みをどのように行っているのか。
- ネットの展張や、定期的捕獲などを行っており、場所を決めて巡回し、訪花しているところを捕獲している。防除として最も効果があるのは、女王バチを捕獲することであり、100頭以上発生する働きバチを捕獲しても効果は薄い。その意味では、新女王が発生する春先の捕獲が防除にとって重要であると考えている。
- 防除に伴う農家の負担感はどうか。
- 平取町では、防除の重要性について良く理解されていると思う。負担感については、現場レベルではそのような声が聞こえてくることもあるが、基本的には皆割り切って防除をやっていると理解している。
- 平取町の捕獲は、根絶を目的としたものなのか。今までに、侵入害虫を撲滅した事例はいくつかあり、本気で取り組むのであれば根絶も可能である。もし、本当にセイヨウオオマルハナバチの根絶に取り組むのであれば、外来生物防除のモデルケースとなりうるし、その際には、農業害虫駆除の事例が参考になるだろう。
- セイヨウオオマルハナバチを特定外来生物に指定して、駆除を事業として実施するようになれば、そのような可能性も考えられる。その際重要となるのは、事業としてどれほど予算がつくのかという点である。今は農家等が個人レベルで、ボランティアとして取り組んでいる。法で規制するとなると、こうした個人事業も考慮に入れながら、事業予算をどれだけ確保できるか、という点が課題となる。その点について、環境省の努力に期待したい。
- 平取町における捕獲について補足意見を述べる。平取町では、セイヨウオオマルハナバチの利用によって、農薬使用を減少させ、生産物の品質を向上させている。これは、最終的には生産物を消費する消費者の利益に適うものであり、平取町の生産者には、自分たちは環境保全型の農業をやっているという自負があった。しかし、現在ではセイヨウオオマルハナバチの問題が指摘されるようになったため、生産者は胸を張り続けるために、防除に向けた様々な努力を続けているのである。
<フェロモンによる生殖攪乱>
- 小野委員の資料説明について、フェロモンの残存時間はどれくらいか。また、下唇腺のフェロモン量が最も多い種は何か。
- フェロモンの主成分はエステール、アルコールといった揮発性の成分であり、抽出した純度の高いフェロモンをガラス板に垂らしておくと、すぐに揮発してしまう。しかし、ハチにおいては、吸着剤のようなものを使って、徐々に揮発するようになっており、だいたい1,2日間程度残存すると考えている。
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マルハナバチ一匹あたりのフェロモン化合物は、非常に多い部類に入る。体重300mgの雄一匹について、単一の化合物が2~3mg入っている。傾向としては、オオマルハナバチ亜属、コマルハナバチ亜属は大量に持っており、トラマルハナバチ亜属はやや少量であるが、個々の種間での違いは不明である
- 小野委員の資料でフェロモンの違いの説明をしているが、実際の生物試験的な研究はどのくらい行っているのか。
- 野外での実験は行っていない。室内実験においての閉鎖空間では、オオマルハナバチ、クロマルハナバチの新女王がセイヨウの雄に誘引されることや、オオマルハナバチとクロマルハナバチでは互いに忌避する事例を確認している。
<まとめ>
- 本日は、ネット展張に関するデータと、フェロモンによる遺伝的攪乱の可能性に関するデータが提示された。さらに具体化したい点は、農業も含めたコスト面のデータである。また、助成金など政策的な論点や、セイヨウオオマルハナバチに変わる代替技術についても次回の課題となる。
(事務局)7万コロニーが流通しているという利用実態について、もう少し具体的データを集めたい。
- 代替技術の可能性があるのは、在来クロマルハナバチであるが、北海道にも持ち込まれてしまうという可能性がある。在来クロマルハナバチの利用実態のデータはないか。
- 在来クロマルハナバチを扱っているのはアリスタ・ライフサイエンスだけであり、そこの販売データが全流通量ということになる。次回にデータを提示したい。
- 室内調査のレベルでの証拠をもって予防的にセイヨウオオマルハナバチを特定外来生物に指定してしまうのか、あるいは、より詳細な野外データを集めるのか、次回はその辺りを議論する必要がある。
〔その他〕
- 日本農業新聞にセイヨウオオマルハナバチは特定外来生物として規制しない方針であるという記事が載っていた。もしこれが決定済みの事項であるなら、この会合で意見を述べる意味はない。
(事務局)現時点では全く何も決まっていない。今後、会合の議論を受け、農水省と協議した上で決定する。最終的には、予算なども含め検討したい。
(事務局)次回の会合は12月15日に開催する。
- 次回、座長は出席できない五箇委員に座長代理を御願いする。
(了承)