特定外来生物の解説
写真はチュウゴクモクズガニ(上海ガニ)
- 和名
- モクズガニ属の全種
- 科名
- モクズガニ(Varuridae)
- 学名
- Eriocheir属
- 英語名
- Any species of the genus Eriocheir
- 原産地
- 朝鮮半島西岸から中国沿岸部原産。
- 通称
- 上海ガニ
- 特徴
- 成体の最大平均甲幅5-6cm。近縁のモクズガニとほぼ同サイズだが、チュウゴクモクズガニの方が甲前縁の額域の棘も前側縁の突起も鋭く、特に前側縁の突起4歯が明瞭。
淡水・汽水・海水への適応性を持ち、気候や水質汚濁等の無機的環境に対して幅広い耐性を有する。 中国では1000~1500kmも川を遡上する。北海からエルベ川上流700~780kmのプラハ周辺において稚ガニが発見されるなど、高い移動能力を持つ。
E. hepuensis は形態的には甲の凹凸の程度がチュウゴクモクズガニに近いがそれほど激しくはなく、モクズガニよりははっきりしている。分布は中国南部で、少なくとも福建省から江西省、広東省、広西壮族自治区のベトナム国境近くにかけて採集されているらしい。 同定マニュアル - 定着実績
- 定着の実績はないが、食材として輸入され生きたまま販売されている。ただし、2004年に東京湾奥部にて生きた成体の雌と死んだ成体の雌が発見されている。
- 被害状況
- ■生態系に関わる被害
- 近年、世界各地に移入して生態系に悪影響を与えており、移入先で在来の無脊椎動物と競合している。
- 原産地の中国では、養殖施設で病原性のリケッチアの感染による大量斃死が生じており、日本に定着した場合、在来のモクズガニにも感染して疾病が蔓延し、病死による死亡率を高める恐れがある。
- 飼育下では、日本在来のモクズガニとの交雑が容易に可能であるとの報告があり、遺伝的攪乱が懸念される。
- 土手に最長2m、最大容積1000cm3に近い巣穴を営巣する習性があり、大発生時に河川の特に河口部で堤防の浸食被害を引き起こし、河川の沿岸生態系を崩壊させたことが報告されている。
- ヨーロッパのバルト海からビスケー湾までの広範な海域・淡水域と、アメリカの五大湖・ミシシッピ川・サンフランシスコ湾の海域・淡水域に侵入し、大発生をした時期(1930・1960・1990年代)には、営巣作用による堤防の浸食被害、沿岸域・河口部・河川の淡水域の生態系に対する被害が報告されている。
- 淡水魚や淡水性水生無脊椎動物の多くと食物が競合するため、ヨーロッパでは水生生物への、イギリスでは在来の絶滅危惧種であるザリガニの減少要因になっている。
- 取扱い上の注意
- はさみに注意
- 備考
- 中華料理の高級食材として有名であり、中国では養殖も盛んに行われている。選抜育種により、1年で出荷できるサイズに達する品種もある。生きたまま大量に食料として輸入されている。
ヒトなどの哺乳動物を最終宿主とするウエステルマン肺吸虫(Paragonimus westermanii) の中間宿主であり、中国を訪れた日本人が本種を食べて感染した記録もあり、日本でも野外へ逸出した個体を生食した場合、国内で寄生虫症の被害が広がるおそれがある。
1910年代にバラスト水を通じてドイツに移入したのをはじめ、海域を通じて1940年代までにヨーロッパの広い範囲に分布拡大した。
意図的な導入もあり、北米での侵入経路は不明である。バラスト水か、アジアの市場から仕入れられた成体が放逐された可能性がある。
ヨーロッパ・アメリカなどでは捕食作用による水産業への被害が報告されている。
エビのトロール漁で本種が大量に(一例では200杯以上)網に入ると、漁網から不要な本種を外す時間とコストがかかる等、海外では漁業や水産養殖業では年間十万ドルの損害と算出されている。 ヨーロッパやアメリカでは採水施設の魚類回収設備に多数のカニがトラップされたり、発電所の排水施設にカニが入り込み水流を妨げるなどの被害が報告されている。 アメリカ合衆国でも、近年本種が五大湖やカリフォルニアなどで増加して問題となり、食用も含め法律(Lacey法)で本属(Eriocheir)の国内への持ち込みや商取引が禁止されている。カリフォルニア州、ワシントン州、オレゴン州ではチュウゴクモクズガニの所有も禁止している。 IUCNの「世界の侵略的外来種ワースト100」に、IMO(国際海事機関)でも「侵略的外来種の世界のワースト10」に挙げられている。
※ 通称につきましては、必ずしも正確なものではない可能性もありますので、ご注意ください。
※ 被害状況につきましては、代表的な事例を挙げています。