第三 他の産業分野における環境関連産業創出のための環境整備

1.医療福祉関連分野

ア.成長が期待される産業の将来像

 直接の医療分野に限らず広く健康増進の分野を含めて考えると、次のような将来像が考えられる。

 まず、環境悪化に対し抵抗力の劣る高齢層の増加に伴い、医療や疾病の予防の充実等が引き続き必要と考えられる。さらに、疾病の積極的な予防の観点から、日常における歩行の励行やアウトドアスポーツが好まれるようになり、ウォーキングシューズ等の用具の需要が増えるとともに、遊歩道の整備等の要求が高まると考えられる。また、健康志向の高まりとともに、温泉等を含む健康回復・増進のためのサービス業の成長が期待される。健康サービス業として、特に、中高年齢層で意識の高い健康の維持や体力増強の観点から、良好な自然環境の中での健康的な過ごし方をアドバイスし、必要な用具等を提供する自然ふれあいサービス業(仮称)の発生と成長が望まれる。このような事業により、ルートや技術のみならず、自然とのふれあいを仲立ちする各種ガイド、滞在目的に応じた宿泊施設の紹介・斡旋、必要な道具のレンタル等が進むと考えられる。

 一方、食品中、環境中の有害化学物質についての国民の関心が増してきており、有害化学物質に関する情報、無添加食品、無農薬・低農薬の食品等の提供、供給が増加するものと考えられる。

イ.総合的な施策パッケージ

<技術開発の推進>
 各地における作物の低・無農薬有機栽培技術等の技術開発を支援する。また、各種疾病と環境との関わりの究明や、環境悪化と関わりのある疾病の予防手法の開発を促進する。

 温泉と健康の関係に関する科学的な研究を推進し、温泉の有効利用を図る。

<生活空間・社会環境整備>
 健康の維持、増強及び自然とのふれあいを求める人々を支援するために、自然ふれあい関連施設の整備とソフトの充実を総合的に推進する。また、社会的弱者の利用にも十分配慮した施設整備や利用の便の増進を図る。

<情報化の推進>
 自然ふれあい推進業に関する情報の効率的な提供のため、関係情報の蓄積を推進する。

2.生活文化関連分野

ア.成長が期待される産業の将来像

 21世紀においては、自然環境の貴重さが高まり、国民の自然志向が一段と進むことが想定される。このため、余暇の中での自然とのふれあいへの需要が増大するのみならず、日常生活や身近な居住環境の中でも自然豊かな雰囲気を求める気持ちが高まるものと考えられる。これに応じて、余暇関連産業のひとつとして、自然ふれあい産業(アウトドア活動用具の製造・販売、ふれあいの場・具体的メニューの提供、関連情報の提供、専門家による自然解説等)の成長が期待される。また、室内における観葉植物、生け花の利用、花壇等のガーデニング、従来のペット以外の種類の動物のペット化等も進むと考えられる。

イ.総合的な施策パッケージ

<人材育成>
 自然ふれあいに関する潜在的需要を的確に把握し、それらを充足するサービスを具体化する能力を持った人材及び自然ふれあいや自然教育等の活動を指導する人材の育成・活用を行う環境の整備を行う。

<情報化の推進>
 自然ふれあいに関する潜在的な需要を適切に吸い上げ、自然環境の保全にも十分配慮しつつ、適切な時期に適切な場所でふれあい活動ができるよう、情報の蓄積・提供を行う体制づくりを推進する。

<インフラ整備>
 自然とのふれあいを求める人々を支援するために、自然ふれあい関連施設の整備とソフトの充実を総合的に推進する。自然ふれあいを円滑に進めるために必要な情報を適切に提供しうるような情報通信、人的ネットワーク等の情報ネットワークの基盤を構築する。

 自然ふれあい活動を支える基盤の整備やこれらの取組を側面的に支援するような組織等の環境整備を行う。なお、貴重な自然環境等については、ふれあいの推進によりその保全に支障が生じないよう十分配慮するとともに、必要に応じ修復等の措置を講じる。

 生物多様性に係る環境庁の施設を中核にして、全国の動物園、博物館とも連携を取り、生物多様性への国民の理解が深まるよう、情報、標本等を含めて全国的なネットワークを形成する。

<アウトドアグッズ・ショップ、ペットショップ等における環境配慮の推進>
 野外において使用する各種の用具・機具が環境負荷の少ないものとなるよう、これら用具等のメーカーとの連携を図るとともに、アウトドアグッズの商店、ペットショップ、花き販売店等において、国民に対する自然保護情報の提供を行えるように要請する。また、ペットショップや山野草販売店等における希少生物種等の販売競争を招かないよう指導や監視を強め、自然環境ビジネスが公正なルールの下で行われるよう図る。

3.情報通信関連分野

ア.成長が期待される産業の将来像

 コンピュータを用いた情報処理やインターネットによる通信は、それ自身が社会の情報化を進める中核的な活動であるとともに、産業のあり方や経営、雇用に大きな影響を及ぼしつつある。特に、インターネットの世界的な普及、人工衛星による精緻な観測、光ファイバー等による大容量・超高速のデータ送信等の発展には近年目を見張るものがあり、これら技術を様々な目的に活用する可能性が大きく広がってきた。

 これらの情報通信技術の進展による影響は企業の活動内容のみならず、行政、教育、医療等の公的部門や一般家庭にも及んでおり、環境保全の部門や活動も例外ではない。また、情報通信技術の進展は、交通流の円滑化等に資するほか、交通の一部代替や紙資源の節約等を通じて環境負荷低減に資する可能性がある。

イ.総合的な施策パッケージ

 高度な情報通信技術は、環境保全のため、例えば、以下のように活用することができる。このため、環境保全に係わる官民のあらゆる分野で、情報化社会の恩恵を積極的に役立てることとし、これに向けて必要なソフトウェア、ハードウェアの開発導入を促進する。また、これらの技術を容易に利用できるようなインフラストラクチャーの整備、さらに研究・技術開発や利用のための人材育成を進めるよう、環境行政施策の中で配慮を強める。なお、情報通信機器の使用電力、待機電力の低減を促進するとともに、その廃棄に際してのリサイクルにも十分な配慮がなされるようメーカー等に働きかける。また、併せて、情報通信機器の使用者にも無駄な通電を行わないような日常の行動を促していく。

[具体的な活用の例]
電子情報の利用拡大を社会全体のペーパレス化に有利な方向に誘導することによる、資源やエネルギーの投入量の削減と、廃棄物の発生量の削減
インターネットを利用した行政、企業、団体、NGO、市民等における環境保全の取組、イベントに関する情報提供。特に、環境にやさしい商品・エネルギー、環境カウンセラー等の紹介斡旋
学校、図書館へのコンピュータ導入による世界的な環境教育資源へのアクセス、インターネットによる学校間での酸性雨等の環境観測データの交換。
高度のセンサーとコンピュータ制御を活用した生産システム等における省資源、省エネルギー
コンピュータ支援の配送システムによる製品運送の合理化、省エネルギー
汎用性のコンピュータソフトウェアの普及によるISO14000認証取得の促進、環境監査の充実
高度な情報通信ネットワークを利用した工場・事業場の環境上好ましい地方分散化。在宅勤務やサテライトオフィス化による人流の削減
サイバースペース上でのリサイクル資源の情報交換、マーケットの形成
GIS(地理情報システム)を利用した自然資源の管理、環境アセスメントの支援、化学物質の管理。円滑な走行による交通公害の軽減・解消
GPS(半地球測位システム)、モーバイルコンピュータを利用した自然環境調査、大気・水質測定の支援と高度化
図書館情報ネットワークによる遍在している環境保全の書籍情報へのアクセスと利用
人工衛星からのリモートセンシングによる地球環境の観測の高度化
学術ネットワークによる地球環境監視データの研究所間での大容量、超高速な転送
環境法令の申請・届出手続きの電子化による国民負担の軽減
LAN、WANによる中央及び地方の環境行政の電子化・効率化の促進。インターネット等による環境情報の提供

4.新製造技術関連分野

ア.成長が期待される産業の将来像

 製造分野における我が国の産業活動は、海外の生産拠点に対して「母工場」の役割を果たすことが期待され、このため、革新的生産技術の開発に挑戦する活動が国内において顕著に行われるようになるものと思われる。このような革新的生産技術が満たすべき要件を考えると、将来の世界における資源の減少、人口の増加等に照らせば、省資源型で物的な効率の高いことが極めて重要である。このため、ゼロ・エミッションなどの省資源型、低環境負荷型の生産技術開発の取組が進展するものと期待される。

イ.総合的な施策パッケージ

<知的基盤の整備>
 環境保全型製造技術の開発・利用を効率的に推進するための基盤として、技術の種類、開発状況、環境保全面からの評価等に関する情報の提供システムを整備する。

 環境保全型製造技術の集中的な開発への貢献を目的の一つとする環境技術開発機関(仮称)の設立を促進する。また、環境庁において技術評価を幅広く継続的に行っていく体制を整備する。

<独創的な研究開発の推進>
 環境保全や資源・エネルギーの観点から望ましい独創的な製造技術の研究開発を経済的に支援するための制度を検討し、その導入を図る。

 環境保全や資源・エネルギーの観点から望ましい独創的な製造技術の研究開発に対する適正な評価を行う。その一環として、研究開発の十分なインセンティブとなり得るノーベル賞レベルの表彰制度等を設けることを検討する。さらに、長期・超長期の環境技術開発目標を設定する。

<リサイクル対応生産システム(インバース・マニュファクチャリング)の確立>
 有害物質の使用削減、リサイクルが容易な構造等の環境への負荷の少ない製品の開発を経済的に支援するための制度を検討し、その導入を図る。

<社会システムの整備>
 容器包装等の特定の物にとどまらず、広く各種製品について該当するように、リサイクルに係る各主体の責任及びそれに基づく費用負担のあり方を明確化する。

 各主体の責任に応じた具体的な取組(回収等の活動、費用負担)を適切に表現したリサイクルの仕組みを逐次あらゆる製品について制度化する。

<人材育成>
 科学技術分野の高等教育の抜本的な改革に協力し、環境保全について生産と一体的に考慮し得る能力のある人材の育成を図る。

 教育の現場(小学校から大学まで)において、環境庁職員(国立環境研究所研究者を含む。)、地方公共団体の職員(地方公害研究所研究者を含む。)、企業の環境保全担当者等による「特別講義」、「出前講義」を精力的に行い、環境保全と技術開発の関心を高める。

 社会(企業、官公庁)において、技術者に対する環境保全に関する再教育の機会の提供、教育を了した者の処遇(給与、昇進、報償制度等)の大幅な改善に努める。

<国際的相互承認を踏まえた国内規制体系等の見直し>
 製造技術の環境保全面からの評価に関する国際的に統一された手法を確立し、一定の評価を受けた技術の採用を促すための国際的な原則や制度を創設する。

<標準化の推進>
 エネルギー、資源等の合理化の観点から製造プロセスの標準化を行うようメーカーに働きかける。

5.流通・物流関連分野

ア.成長が期待される産業の将来像

 競争力のある産業活動にとって、物流等のロジスティックスに係わる経費の節約は一つの焦点となる。物流等の合理化には大きなビジネスチャンスがあるとともに、合理化に伴い二酸化炭素や窒素酸化物といった環境負荷を削減する大きなチャンスにもなると期待される。

イ.総合的な施策パッケージ

 流通、物流、最終消費者への配送等において、用途に応じて低公害車を積極的に活用することに加え、以下のような取組が各地の実情に応じて整合的、積極的に進むよう、公害防止計画その他の地域の環境計画の仕組み等を通じて支援する。

  <流通・物流の合理化>

 (自動車使用の合理化の促進)
積み荷管理の情報システムの共有化等を通じた一層の共同輸配送の推進、幹線共同運行の拡大、営業用トラックの利用促進、高度道路交通システム(ITS)の活用による積載効率の向上と自動車走行量の低減
個別事業者の行ったロジスティックス改革の成功事例の集約、普及などによる、個別事業者への適切な動機付け
自動車利用に当たって低公害車が有利となるような措置の実施

 (適切な輸送機関の選択の促進)
鉄道及び海上輸送の活用の促進
港湾、鉄道施設のアクセス条件の向上(拠点的港湾の機能の戦略的強化、アクセス道路の整備、パークアンドライドのための駐車場の整備等)
貨物列車ダイヤの確保、貨物列車の長編成化等
自転車利用の推進のためのインフラ整備(自転車駐輪場の整備充実等)

 (物流施設の複合化・高度化、計画的配備)
物流施設の都心外の周辺地域への整備
荷さばき施設、冷蔵施設等の省エネ化


  <交通流対策の推進>

交通の分散及び道路機能の分化の促進(環状道路・バイパスの整備促進)
交差点や踏切等の渋滞の解消(交差点改良、踏切の立体化、インターチェンジ部対策等)
違法駐車対策(駐車場誘導案内システム、ビル開発等に当たっての駐車場の付置、違法駐車の取締り)の徹底
交通管制システムの高度化、運転者に対するリアルタイムの交通情報の提供
交通規制の適切な活用


  <次世代の環境低負荷型流通・物流技術の開発>

高度道路交通システム(ITS)や大深度地下無人物流システム、国際・国内天然ガスパイプライン網建設等の先進的な流通・物流技術の開発の促進

6.ビジネス支援・国際化関連分野

ア.成長が期待される産業の将来像

 地球環境に対する国際的な認識の高まりに伴い、事業者においては、今後、環境負荷の低減に配慮した製品の生産・販売・購入等について、より一層の取組を求められることとなる。昨年9月には、国際標準化機構(ISO)において、環境マネジメントシステム及び環境監査の国際規格が発効し、我が国においても、これを翻訳したJIS告示が10月に制定され、その普及のための環境庁告示を行ったところであるが、今後、ISOでは、環境ラベル、環境パフォーマンス評価、ライフサイクルアセスメント(LCA)等、相次いで国際規格化がなされる運びであり、こうした一連の環境規格に適合した企業組織や環境への取組体制作り、さらには、これらの一連の規格に適合した製品の迅速な市場供給ができないと、国際経済取引上不利になる懸念も生じてきている。また、企業として、環境重視の姿勢を内外にどれだけ鮮明に打ち出すことができるかが、社会的な信用の確立、維持にとって大きな影響を及ぼす。

 この場合、環境ISOの動向やその自社適用等に関する専門的知識、ノウハウの蓄積、活用については、効率的な業務の推進から、アウトソーシングされ、その指導・カウンセリングを受けることが考えられ、いわば環境コンサルタント業といったものが確立されよう。一方で、このような一定の規格や制度の導入は、環境への負荷の低減の実行面を支える新規事業の開拓・拡大にもつながることから、各事業者が受け身になることなく、これを自らのビジネス拡大の好機として前向きに捉え、積極的な取組を進めていくことも望まれる。

 さらに、企業活動が国際化する一方で、地球規模の環境変動が生じ、様々なリスクを生み出すおそれが強く、リスクを予測したり、リスクをヘッジしたりするための保険等の業務、国際的環境法アドバイザー等の職務が充実強化されていこう。

 地球温暖化対策が新たな国際約束の下で国際的に強化されることを受けて、共同実施活動、共同実施、排出枠の国際的融通といった新たな制度が逐次整備されていくものと想定される。また、従来からのODAについても、その環境保全的な活用が強化され、さらに民間の海外直接投資においても国際商工会議所等のリーダーシップの下で環境への配慮が強化されつつある。他方、開発途上国においても、環境保全技術や環境保全的な生産技術へのニーズが高まっている。こうした中で環境保全関連産業活動の国際化が進むであろう。

イ.総合的な施策パッケージ

 環境に関する新たな規格や制度等について、今後とも、適時適切な情報提供に努めるほか、これらの新規格等の制定を起因として、カウンセリング業務等の新規事業・新サービスを提供しようとする事業者に対しては、特にその創業期において、財政・金融上の支援措置を講じていく。また、有害物質等の含有量を極力抑えた低環境負荷型の商品や、消費者がこれらを進んで選択し、安心して購入できるようにするための公的制度の導入についても検討していく必要がある。

 具体的には、行政が当面実施すべき施策としては、次のようなものがある。

<環境ISO国際規格化の動向に関する普及啓発>
 今後、ISOにおいて、相次いで国際規格化がなされることから、規格の概要、あるいはこれらの内容をいち早く製品仕様の企画や生産手法に反映・適合させた先進事例を収集し、内外に広く提供していく。

<エコマーク制度の充実>
 (財)日本環境協会が、環境庁の指導・助言の下で実施しているエコマーク事業では、現在は製品の環境情報を申請者の情報に依存しているが、今後は「製品環境負荷調査センター(仮称)」と連携を図り、第三者機関によって評価されたデータを用いて認定事業を行う。さらに、現在のエコマークに加え、定量的な環境情報を消費者に提供できる新たなマーク制度を創設する。

<グリーン購入ネットワークの運営体制の充実>
 環境保全型商品の購入の促進を目的として設立されたグリーン購入ネットワークの運営体制の一層の充実を図るため、地域ブロックごとにネットワークの中核となるセンターを設置し、「製品環境負荷調査センター(仮称)」と連携をとりながら、全国的な活動を展開する。

<企業における環境報告書策定の普及促進>
 企業が自らの事業活動に伴う環境への負荷の程度、製品・サービスに関する環境配慮の状況、環境保全活動への取組状況等を一覧的に明らかにする「環境報告書」について、あらゆる業態・業種にわたる先進的な事例調査等を実施することにより、「環境報告書マニュアル」を作成し、事業者に幅広く配布すると同時に、優れた環境報告書を公表することの効用について啓発する。

<環境ラベリングに関する基準の統一、相互認証等>
 一定の基準に照らし環境保全型であると判断される製品を消費者に分かりやすく情報提供する環境ラベリング制度が、不必要な貿易障害になることなく、各国間で調和を保ちつつ効果的な政策手段として運用されるよう、相互認証等の仕組みの在り方について検討しているグローバルエコラベリングネットワーク(事務局:東京、ストックホルム)を支援していく。

<製品環境負荷調査センター(仮称)の設立>
 企業等からの求めに応じて、製品中に含まれる有害物質の分析等を行い、各有害物質ごとに定める含有目標基準値をクリアした製品に認証マークを交付することやLCAの実施をサポートすること等を主な業務とする第三者機関として「製品環境負荷調査センター(仮称)」を設立し、国民各層が安心して低環境負荷型製品の購入ができる基盤を整備する。

<環境リスクのヘッジのための基盤づくり等>
 開発途上国の環境法制の強化が急進展を見せており、また、先進国間での先駆的制度の伝播が急速化していることから、各国の環境法制やその運用実態、将来の展望等に関する情報を集積し広く内外に提供し得る「国際環境法機構(仮称)」といった役割を果たす組織の整備を促進する。

 また、主にアジア・太平洋地域を中心に、自然環境変化を衛星情報等を活用しつつ継続的に監視する仕組みとして、また、経済をはじめとする人間活動と環境との関係を再現し、予測する詳細モデルを所持し、これを広く一般の利用に供する仕組みとして、「アジア・太平洋環境ウォッチ(仮称)」といった役割を果たせる組織の整備を促進する。

<環境関連の技術移転の基盤整備>
 海外、とりわけ開発途上国に対して移転すべき技術、移転が望まれる技術については、内外の技術格差、発展段階の違いから我が国国内のノウハウ、人材が直ちに動員できることはほとんどないのが実情であり、海外と国内とのインターフェースを設ける必要がある。このようにインターフェース、例えば、「共同実施活動センター(仮称)」は、民間による海外における環境関連の技術移転の基盤を提供するものと期待されるので、このような組織の設立を支援する。

7.海洋関連分野

ア.成長が期待される産業の将来像

 藻場、干潟、沿岸浅海域等は海洋生態系の維持に極めて重要な役割を担っており、その再生、創出等に関する事業は、海洋環境の保全、海洋生物資源の管理の観点から、大幅な充実が期待される。海洋環境の保全の一環として、豊かな生物多様性を支える基盤となるサンゴ礁生態系を復活させる事業の展開が期待される。なお、サンゴ礁は、それ自体が二酸化炭素の吸収の結果であることにも着目し、地球温暖化対策の一環としても積極的にサンゴ礁生態系の保全・修復に取り組む。

 また、良好な環境の海洋レクリエーション空間に対するニーズに対応して、海洋環境保全への十分な配慮の下で、親水空間の保全・創出を積極的に行っていく事業の展開が期待される。

 さらに、先般のナホトカ号の事故の事例を教訓とし、事故再発・被害拡大防止の観点から、油汚染防止に関する技術開発等の推進が必要となっているが、これが海運ビジネスや造船等に大きく影響するものと予想される。

イ.総合的な施策パッケージ

<海洋・沿岸域環境の保全・創出>
 藻場、干潟、沿岸浅海域等や、海水浴場に代表される、良好な環境条件を背景とした親水空間については、公有水面を埋め立てて利用する官民の事業主体、レクリェーション事業者、地方公共団体等の参画を得て、その保全、再生、創出、さらには積極的な活用を図っていく。また、土木工事を専門とする企業等における藻場や親水空間の再生技術の開発を支援していく。

 また、サンゴ礁生態系の保全・修復技術の研究開発を進めるとともに、沿岸漁業者、観光業者、地方公共団体その他一般国民の参加と協力を得つつ、サンゴ礁生態系の保全・修復・創出事業に積極的に取り組む。また、サンゴ礁に関する情報の収集拠点としての機能を果たす「サンゴ礁モニタリングセンター(仮称)」の整備を促進する。

<海洋汚染防止技術の研究開発、導入>
 海洋汚染防止構造(例えば二重底タンカー)を施した船舶の早期導入を、我が国のみならず、国際的な場を通じて諸外国にも求めていく。海洋汚染が発生した場合の被害の極小化のために、沿岸域の生態学的特徴を明らかにし、これに応じた被害拡大防止策をあらかじめ検討しておく事業を、早急に日本沿岸について完了させ、国際協力事業としてアジア、太平洋沿岸についても、このような事業が実施されるよう促す。さらに、悪条件下においても機能し、かつ、海洋環境保全上適切な流出油除去技術の研究開発を進める。

 また、深海底の資源開発に伴う汚染の防止等に係わる技術開発及び低環境負荷型の水産資源養殖技術の開発を促進する。

8.バイオテクノロジー関連分野

ア.成長が期待される産業の将来像

 地球の環境が豊かな生命を育むだけでなく、高度の工業技術を活用した人類の文化的な生活をも支えるものとなっている背景には、多様な生物による活動がある。生命活動を抜きにしては地球環境を考えることはできず、人類の生活の豊かさは他の生物の生命活動に依存していると言っても過言ではない。この生命活動をさらに人類にとって有効に活用しようというのがバイオテクノロジーであり、その本質から見て、今後の人類にとって甚大な影響をもたらし得るものである。したがって、大きなビジネスチャンスが存在し、ほとんど全ての産業分野で極めて活発な企業活動が予想される一方、その力が破壊的に行使されることのないよう、十分な慎重さが要請される。

 また、生命に対する畏敬が損なわれることのないことはもちろん、むしろ、そのような畏敬の念が増進されるよう図ることが重要である。

 バイオテクノロジーに関する産業活動の環境保全への活用方法としては、今後の地球温暖化の進行に伴い予想される病虫害や高温障害、塩類集積等に強い農作物品種の開発、砂漠等の高度乾燥地域で栽培可能な農作物品種や樹種、生物農薬、有害化学物質等に汚染された土壌や水の浄化処理、化学工業等の反応に高機能酵素等を活用することによる省エネ化、排煙中の二酸化炭素や環境大気中の二酸化炭素の吸収固定化、廃水処理等に役立つバイオリアクターなどが予想される。

イ.総合的な施策パッケージ

<知的基盤の整備>
 生物多様性センター(仮称)等の適切な組織の整備を図りつつ、関係組織とも広く連携し、環境分野における有用な生物遺伝資源等の保存及びデータベース化を推進する。

 また、環境分野におけるバイオテクノロジーの健全な開発・利用を効率的に推進するための基盤として、技術の種類、開発状況、環境保全面からの評価等に関する情報の提供システムを整備する。特にバイオテクノロジーを応用した環境修復技術に関し、先行的にシステム整備を図る。

<独創的な研究開発の推進>
 環境保全の観点から望ましい独創的な環境保全型バイオテクノロジー技術の研究開発を経済的に支援するための制度が設けられるよう図る。

<人材育成>
 バイオテクノロジーによる環境影響を評価するための研究者等の人材の育成を図る。

<安全性評価システムの一層の充実>
 天然微生物等の安全性評価システムを整備し、有用微生物の登録システムを設ける。また、環境分野における遺伝子操作生物利用のための安全性評価システムを整備する。

<市場拡大のための環境整備>
 研究成果等と環境との関わりに関し、一般公衆への情報普及の仕組みを整備し、バイオテクノロジー研究者や企業家との間に対話の場を設ける。

<国際的活動への適切な対応>
 OECDの諸活動に積極的に参画し、我が国の先駆的研究成果や行政制度の国際標準化に資する。また、生物多様性条約に基づく国際的活動に積極的に対応する。

9.都市環境整備及び住宅関連分野

ア.成長が期待される産業の将来像

 地球環境問題や都市・生活型公害に対処するためには、環境への負荷が少なく、都市の諸活動が持続可能な形で営み得る都市構造を形成することが避けて通れない。また、都市住民にとっても、身近な自然に恵まれた快適な環境の要請は高く、地方公共団体や住民の大きなニーズとなっている。また、企業活動にとっても、このようなインフラストラクチャーが備わった都市を舞台に活動することには大きな利益があることから、新規産業の創出の可能性は高い。

 具体的には、循環型の社会の形成に向けて、透水性舗装、身近な自然の保護・形成、水辺空間の緑化や親水性の確保、リサイクル関連施設の整備、環境への負荷の少ない地域冷暖房・新たな交通システムの構築、環境への負荷の少ない建築物の建設等に関連する産業の成長が予想される。

イ.総合的な施策パッケージ

 都市の優れた構造は、いわば公共財であり、自由な市民活動、企業活動に委ねているのみでは自然に生成することは期待できない。持続可能な都市づくりに資する産業を育成するためには、21世紀に向けてあるべき都市の姿に関する社会的な合意を形成することがまず求められる。このため、都市の在り方に関して、行政、住民、企業等が共通の認識を深めるとともに、環境保全の観点からの土地利用規制や計画の充実、事業推進制度の充実・活用、環境影響評価や環境への負荷の少ない交通システム等に関して必要な技術の研究開発及び導入等を図る。

<社会資本整備等の事業>
 健全で恵み豊かな環境を維持しつつ、環境への負荷の少ない持続的発展が可能な経済社会の構築を図るためには、事業者や国民が自らの活動に伴う環境への負荷を低減させるだけでは不十分であることから、公害防止計画その他の地域における各種の環境計画の枠組みを活用し、重点的かつ着実に環境保全に関する社会資本整備等の事業を推進する。また、社会資本整備等の事業の実施に当たっては、計画段階からの調査予測等を行い、各種事業が極力整合的に進められるよう、また、個々の事業の実施に伴い、十分な環境保全対策等が行われるように図る。特に、地方公共団体においてイニシャチブを発揮して整備することが期待される社会資本のうち、都市の環境保全に資する産業活動を振興する効果の高いものとしては、廃棄物処理のためのインフラ的施設、リサイクルに関連する施設、フロンの破壊処理施設、低公害車に燃料等を供給する設備、環境への負荷の少ない大量公共交通システム、都市公園や緑道、親水公園等を活用した都市の中の自然のネットワーク、コージェネレーションや工場廃熱、環境熱等を活用した地域冷暖房システム、公共的に整備される住宅団地の先導的な環境共生型住宅団地化、透水性舗装への転換、雨水利用及び地下浸透のための施設等がある。国としても、これらに対する積極的な支援措置に努める。さらに、環境事業団による工場移転事業、緑地整備事業を推進する。

 また、都市における経済活動のうち、環境保全に資するものを有利にするための公共的ルールとしては、エコ商店制度の整備、廃棄物処理の有料化、屋上・屋根といった未利用空間の環境保全的利用の奨励や協力の義務づけ、建築協定等を活用したテナントビル等賃貸建物についての省エネ基準や目標の設定、良好な環境保全性能を有する施設への助成、将来を見直した戦略的な用途地域設定、都心地区での職住接近の誘導、都市内公共交通における環境保全型の料金制度の導入、低公害車の利用が有利になるような駐車規制や駐車場の運営規則の導入、違法駐車や過積載、違法改造の車の取り締まりの徹底等があり、国として制度を改善しつつ、優れた事例の普及等を図る。

<技術開発の推進>
 将来の環境関連産業の発展のためのシーズとなる都市環境改善技術や住宅のエネルギー自給化等の環境保全技術、二酸化炭素吸収源となる森林の持続可能な管理に資する優良な木質建築資材等の生産技術等の開発やその普及及び技術開発に必要な基盤整備に取り組み、また、技術の普及を図るため、初期需要の創出等を通じたコスト低減化等の促進、技術の普及に係わるルールの設定等に努める。

<住宅における環境保全>
 住宅の環境対策を進める上で役立つ産業活動としては、建築工務店における建築主へのアドバイス機能の強化、住宅展示場における家庭用環境保全機器の実物展示、地方公共団体の依頼に応じて民間が行う建築確認や省エネ診断、既存住宅の省エネ改修リフォーム等が考えられる。これらの産業活動の情報の普及等を公的機関が図る。

 また、都市環境の実態に整合し、生活環境保全上の支障を極力回避できるよう、住宅の防音性能の基準化や消費者への防音性能に関する情報提供等、住宅の防音性能強化に向けた施策を推進するとともに、これら良好な住宅の整備を誘導するべく都市騒音の実態に係る情報を提供する。

<人材の育成>
 事務所ビル、集合住宅、戸建住宅の設計段階で環境保全性能を診断し、適切な助言を行える人材、既存のビルや住宅の断熱改修等に関する助言を行える人材、近隣住区や一団地の宅地開発に係わる建築協定に関し、地方公共団体と住民との間に立って円滑な合意形成を図ることのできる人材等が確保されるよう、都市、住宅関係の人材育成方策の中で適切な配慮がなされるよう図る。

10.航空・宇宙関連分野

ア.成長が期待される産業の将来像

 航空分野においては、航空機や空港等からの環境への負荷が一層低減されるようにするための取組が求められる。一方、航空機を用いて広域的な環境の状況を把握し、これをデータベース化し、内外の環境保全施策や産業活動に活用することが期待される。

 また、宇宙関連分野においては、衛星を用いた環境状況の把握及びこれらの情報を活用した環境情報データベースの作成を進め、地球環境保全施策に活用することが期待される。さらに、地表面被覆等を可視光から近赤外領域のスペクトルで高精度に観測し、分析することによって、植生調査、資源探査、農林業等の分野への活用が期待されている。

イ.総合的な施策パッケージ

【航空分野】
<社会資本の整備>
 飛行場の活動に起因する地球温暖化ガスの発生や大気汚染を防止するため、APU(航空機に搭載されている補助動力装置)の規制を検討するとともに、GPU(駐機中の動力としての電気供給設備)の整備を推進する。また、大量に使用されている空港関係車両に低公害車の普及を推進する。このため、空港環境保全対策指針を整備し、以上のような対策の促進を図る。

<航空機の一層の低負荷型への転換> 
 低騒音・低燃費・低排出ガス発生型の航空機用エンジンや機体設計の技術開発を促す。また、国際民間航空機関(ICAO)と連携を図りつつ、低環境負荷型機材の開発のための判断基準を明らかにするよう図る。現に運航されている機材については、点検整備の励行、無塗装化等の促進に努める。

<航空機を活用した環境監視技術、環境情報提供>
 航空機を用いた海洋汚染、陸域生態系、森林管理、大気汚染等の状況の把握、これらの情報を活用した環境情報データベースの整備を図る。また、海外の環境変動に伴う産業活動のリスク発生を防止するため、例えば、「アジア・太平洋環境ウォッチ(仮称)」といった組織の整備を促進し、広域環境データの内外の産業活動への活用の基盤を形成する。

【宇宙分野】
<人工衛星を活用した環境監視技術、環境情報提供>
 オゾン層を観測・監視するため、現在稼働中のADEOS(みどり)の後継衛星の開発を進めるほか、人工衛星によって海洋汚染、森林管理、土地利用や被覆の変化、陸域生態系、オゾン層、温室効果ガス、大気汚染等を精度よく観測するため、超高スペクトル分解能・高空間分解能センサ、広域・高頻度の観測が可能なセンサ、多種類のスペクトルを同時に観測できるセンサ等の開発を進めるとともに、得られた情報の効率的な提供、さらには衛星の打ち上げコストの低廉価を図る。

11.人材関連分野

ア.成長が期待される産業の将来像

 環境問題がかつての公害問題から都市・生活型公害へ、さらには地球的規模の環境問題へと多様化する中で、国民一人ひとりがこれらの環境問題に深い理解と認識を持ち、環境に配慮した生活や行動を行うことが求められている。このため、環境基本法においては、国の基本的施策として「環境の保全に関する教育及び学習の振興」、「自発的な環境の保全に関する活動の推進」等が掲げられており、環境基本計画においても、各主体の自主的積極的行動の促進のため、学校教育や社会教育その他の多様な場における環境教育・環境学習の推進等が位置づけられているところである。

 企業においては、その社会的責任を果たしていく上で、今後ますます環境に対する配慮が求められることは必至であり、環境に関する専門的知識・ノウハウを有する人材の育成に当たる必要がある。また、社会を構成する全ての主体が、それぞれの役割、立場において行う環境保全活動が円滑に機能するような指導・助言を行える専門的な人材育成が社会的にも要請されてこよう。

 こうして、環境に関する専門的知識・ノウハウを有する人材が、業態・業種を問わずあらゆる企業において必要とされ、さらにこうした動きが市民団体、行政等にまで拡大すれば、
[1] 各分野ごとの環境に関する専門的な人材の育成事業(企業等における雇用を想定した専門学校等における環境専門コース・カリキュラムの設置等)、
[2] 各分野ごとの環境に関する専門的な人材データベースの有償提供事業、
[3] 専門的人材の紹介・斡旋・派遣事業
等が新規事業・サービスとして成立する可能性が出てこよう。

イ.総合的な施策パッケージ

 行政としては、環境に関わる人材育成関連分野が新たなビジネスとして成立する可能性を絶えず検証しつつ、具体的なビジネス・シーズが育まれるための環境整備に努めていく。

 当面は、各主体が環境保全活動を行うに当たり、それぞれの関心、理解の程度に応じて、適切な情報にアクセスすることができるよう、情報提供体制の整備、充実に努めていく。

 具体的には、以下に掲げる事業を集中的に実施していく。

<こどもエコクラブ事業の推進>
 全国の小・中学生が自発的に地域の環境保全活動に当たることを目的に設立されたこどもエコクラブについて、各団体間の交流を密にし、相互の取組について意見交換できる機会の充実を図る。

<地球環境パートナーシッププラザにおける情報発信機能の充実等>
 東京・青山の国連大学に開設された「地球環境パートナーシッププラザ」を拠点として各主体の環境保全活動の取組状況等に関する情報発信機能の充実を逐次図っていく。また、全国各都道府県・政令指定都市で整備が加速しつつある地域ベースの環境保全活動促進拠点(環境情報センター、環境教育・学習センター等)との有機的な連携を図っていく。

<環境カウンセラー登録制度の充実・強化>
 環境に関する専門的な知識や豊富な活動経験を有し、市民や事業者等が行う環境保全活動に対して助言等を行う人材を認定し、登録する環境カウンセラー登録制度について、社会のあらゆる階層からのニーズに応えられるよう、カウンセラーに対する研修等の充実を図っていく。

<地球環境市民大学校における研修内容の充実>
 平成9年度より環境事業団が開設する「地球環境市民大学校」における研修内容について、
[1] 市民団体が行う環境保全プロジェクトの進行状況に関する適正管理、
[2] プロジェクトの評価手法、
[3] 団体の活動基盤の確立等に資する実践的知識の習得(経営手法、会計処理等)
等のメニューを設置するとともに、その時々の環境に関わるホットイシューを採り入れるほか、今後、受講者の要望、ニーズに合わせて、適宜充実・強化を図っていく。