第8次鳥獣保護事業計画の基準(改定案)



 野生鳥獣は、自然を構成する重要な要素の一つであり、自然環境を豊かにするものであると同時に、人間の生活環境の保持・改善上欠くことのできないものである。
 このため、鳥獣保護事業計画は、人と野生鳥獣との共生の確保及び生物多様性の保全を基本として野生鳥獣を適切に保護管理することにより、鳥獣保護及狩猟ニ関スル法律(大正7年法律第32号)第1条の目的を達成するため、以下の基準に従い定めるものとする。

第1 計画の期間

 計画の期間は、平成9年4月1日から平成14年3月31日までの5年間とする。

第2 鳥獣保護区の設定及び特別保護地区の指定並びに休猟区の設定並びにこれらの整備に関する事項

1.鳥獣保護区の設定

  鳥獣保護区は、次の区分に従って設定するものとする。
 なお、自然公園法、自然環境保全法等により保全されている地域で、鳥獣の保護繁殖上重要な地域については、鳥獣保護区の設定に努めるものとする。
(1) 森林鳥獣生息地の保護区
 森林に生息する鳥獣の保護を図るため、大規模生息地の保護区を除き、林野面積がおおむね10,000ha(北海道にあっては、20,000ha)ごとに300ha以上の鳥獣保護区を1箇所設定する。
(2) 大規模生息地の保護区
 樹種、林相、林齢を異にする各種の森林を包括し、かつ、多様な鳥獣が生息する場所のうち、必要な地区について、10,000ha以上の鳥獣保護区を設定する。
 なお、その設定に当たっては、多様な生物群集のタイプが含まれるよう努めるものとする。
 また、国立公園、国定公園を中心とする代表的なものは、国が設定する。
(3) 集団渡来地の保護区
 干潟、湖沼、湿地等であって、渡り鳥等の集団渡来地のうち必要な地区について、その移動性を踏まえ適切な配置となるよう留意しつつ、鳥獣保護区を設定する。
 なお、渡り鳥保護条約等の国際条約によって保護対象になっているシギ・チドリ類、ガン・カモ・ハクチョウ類等の主たる渡りの経路上にあり、地域的に重要な拠点となっているものは、国が設定する。
(4) 集団繁殖地の保護区
 島しょ、草原等であって、鳥獣の集団繁殖地のうち必要な地区について、鳥獣保護区を設定する。
 なお、繁殖する種類、生息数からみて代表的なものは、国が設定する。
(5) 希少鳥獣生息地の保護区
 絶滅のおそれのある鳥獣又はこれに準ずる鳥獣の生息地であって、その保護上必要な地区について、鳥獣保護区を設定する。
 なお、当該鳥獣の代表的な生息地を含むものは、国が設定する。
(6) 誘致地区の保護区
 鳥獣の誘致地区(都市における生活環境の改善のため、鳥獣を誘致することが必要であると認められる地区)について、鳥獣保護区を設定する。
(7) 愛護地区の保護区
 鳥獣の愛護地区(鳥獣保護の普及啓発のため、小中学校、その他法人等が設ける野鳥等の保護地区)について鳥獣保護区を設定する。

2.特別保護地区の指定

  特別保護地区は、鳥獣の生息環境を保全する上で、きわめて重要な地区であるため、次により指定に努めるものとする。

(1)森林鳥獣生息地の保護区については、その箇所数の2分の1以上の地区につき、それぞれの面積の10分の1以上の特別保護地区を指定するよう努めるものとする。
(2)大規模生息地の保護区、集団渡来地の保護区及び集団繁殖地の保護区については、全箇所につき、鳥獣の保護繁殖のために必要と認められる中核的地区について、特別保護地区を指定するように努めるものとする。
(3)希少鳥獣生息地の保護区については、全箇所について広範囲に特別保護地区を指定するように努めるものとする。
(4)誘致地区の保護区及び愛護地区の保護区については、必要と認められる地区について、特別保護地区を指定する。
(5)特別保護指定区域は、希少鳥獣生息地の保護区、集団繁殖地の保護区等について指定するものとする。

3.休猟区の設定

  休猟区は、可猟地域に分布の偏りがないように配慮して設置する。
 休猟区1箇所当りの面積は、1,500ha以上となるよう努めるものとし、さらに、休猟区面積の合計は、可猟地域の面積全体のおおむね3分の1になるよう努めるものとする。

4.鳥獣保護区の整備に関する事項

  鳥獣保護区の整備は、年度別計画を立てて実施するとともに、調査及び巡視等の管理の充実に配慮するものとする。
(1) 管理施設の整備
 鳥獣保護区及び特別保護地区の境界線が明らかになるよう標識等を設けるなど、管理のための施設を整備するものとする。
 
(2) 採餌、営巣環境の整備・改善
 自然条件を勘案して、それぞれの鳥獣保護区の設定目的を達成するため、鳥獣の採餌、営巣等のための環境を整備・改善するよう努めるものとする。
 
(3) 観察等利用施設の整備
 鳥獣の観察に適する場所には、鳥獣の保護上支障のない範囲内で、観察等利用施設の整備に配慮するものとする。

第3 鳥獣の人工増殖及び放鳥獣に関する事項

1.鳥獣の人工増殖

  絶滅のおそれのある鳥獣又はこれに準ずる鳥獣のうち、特に個体数が少なく保護繁殖を図る必要のあるものについて、人工増殖に努めるものとする。
 また、狩猟鳥獣のうち必要のあるものについて、人工増殖を行うよう指導するものとする。
 なお、鳥類の人工増殖に当たっては、亜種間の交雑を行わないよう特に配慮するものとする。

2.放鳥獣

(1) 鳥類
 鳥獣保護区のうち狩猟鳥類の生息適地であって、その増加を図るため必要と認められる箇所については、繁殖に必要な種鳥を放鳥し、休猟区のうち狩猟鳥類の増加を図る必 要が認められる箇所については、必要な羽数を放鳥する。
 なお、亜種間の交雑を防ぐため、放鳥する場所に生息する鳥類と同亜種のものについてのみ放鳥する。
 
(2) 獣類
 獣類については、生態系に大きな影響をおよぼすおそれがあるため、例外的な場合を除き、放獣を行わないよう指導するものとする。
 
(3) 外来種
 外来種の放鳥獣については、生態系の撹乱のおそれがあり、在来の生物多様性を損なう場合があることから、原則として行わないよう指導するものとする。

第4 有害鳥獣の駆除に関する事項

1 有害鳥獣駆除の基本的考え方

  有害鳥獣の駆除は、鳥獣による農林水産物被害、生活環境の悪化、人身への危害又は植生の衰退や在来種の圧迫等の自然生態系の攪乱(以下「被害等」という。)が現に生じているか又はそのおそれがある場合に、その防止、軽減を図るために行う捕獲とする。
 有害鳥獣駆除の実施に当たっては、関係諸機関との連携のもと、駆除の実施や被害防除施設の整備等が総合的に推進されるよう努めるものとする。
 また、農林水産業等と鳥獣の保護との両立を図るため、総合的、効果的な防除方法、狩猟を含む個体数管理等、鳥獣の適正な管理方法を検討し、所要の対策が講じられるよう努めるものとする。
 さらに、人が排出する生ゴミ等への依存が、鳥獣による被害等の誘因となっていることに鑑み、被害等の防止の観点から、生ゴミ等の適正な処理や餌やり行為の防止についても必要な指導を行うとともに、鳥獣の生態や習性に関する知識の普及を含め、関係方面への周知徹底を図ることとする。

2 有害鳥獣の駆除についての許可基準の設定

  鳥獣による被害等の発生予察、駆除の実績及び農林作物等の状況を勘案して、鳥獣の種類別に捕獲許可の基準を具体的に設定するものとする。設定に当たっての基本的考え 方及び方針は次のとおりとする。

(1)基本的考え方

 [1] 許可の考え方
 有害鳥獣駆除のための捕獲許可は、被害等の状況及び防除対策の実施状況を的確に把握し、その結果、被害等が生じているか又はそのおそれがあり、原則として被害等防除対策によっても被害等が防止できないと認められるときに行うものとする。
 狩猟鳥獣、カワウ、ダイサギ、コサギ、トビ、ドバト、タイワンシロガシラ、ウソ、オナガ、サル、マングース又はノヤギ以外の鳥獣については、被害等が生じることは稀であり、従来の許可実績もごく僅少であることに鑑み、これらの鳥獣についての有害鳥獣駆除を目的とした捕獲許可は、特に慎重に取り扱うものとする。
 また、生息数が少ないなど保護上の要請が高い鳥獣の種又は地域個体群に係る捕獲許可は特に慎重に取り扱うこととし、継続的な捕獲が必要となる場合は、科学的で明確な保護管理の目標に基づき計画的に行わせることとする。このような鳥獣については、特に駆除と紛らわしい形態を装った不必要な捕獲の生じることのないように各方面を指導するとともに、地域の関係者の理解の下に、捕獲した個体を、被害等が及ぶおそれの少ない地域へ再放獣させるなど、生息数の確保に努めることも検討する。
 一方、被害等のおそれがある場合に実施する予察駆除は、上記の鳥獣(地域的に孤立しており、地域レベルでの絶滅のおそれの高い地域個体群は除く。)を対象として、常時駆除を行い生息数を低下させる必要があるほど強い害性が認められる場合のみ許可するものとする。
 なお、予察駆除を実施するに当たっては、過去5年間の鳥獣による被害等の発生状況及び鳥獣の生息状況を検討し、鳥獣の種類別、四半期別及び地域別による被害発生予察表を作成するものとする。
 
 [2] 許可権限の市町村長への委譲
 都道府県知事の権限に属する鳥獣の捕獲許可に係る事務については、当該種の生息数及び分布等を踏まえた広域的な見地からの判断の必要性並びに市町村における鳥獣の保護管理の実施体制の整備状況等を勘案した上で、地域の実情に応じて適切に市町村に委譲され、円滑に制度の運営が図られるよう努めるものとする。  都道府県知事は捕獲許可にかかる権限を市町村長に委譲する場合にあっては、法、規則、本基準及び鳥獣保護事業計画に従って適切に事務が遂行されるとともに、都道府県知事に対する許可事務の執行状況報告が行われるよう指導するものとする。
 
 [3] 捕獲実施に当たっての留意事項
 捕獲に伴う事故の発生防止については、万全の対策を講じさせることとし、又、捕獲の実施に当たっては、事前に関係地域住民等への周知を図らせることとする。
 また、必要に応じ捕獲の実施に立ち会う等により、適正な捕獲が実施されるよう対処すること。
 また、許可を受けた者が使用する捕獲用具(銃器を除く。)には、用具ごとに、住所、氏名・電話番号、許可年月日及び許可番号、捕獲目的並びに許可有効期間を記載した標識の装着等を行わせるよう指導するものとする。
 
 [4] 捕獲物の処理等
 捕獲物については、鉛中毒事故等の問題を引き起こすことのないよう、山野に放置することなく、捕獲の目的に照らして適正に処理し、野生鳥獣の保護管理に関する学術研究、環境教育などに利用できる場合は努めてこれを利用するよう指導するものとする。
 また、捕獲物は、違法な捕獲物と誤認されないようにすること。特に、クマ類については、違法に輸入されたり国内で密猟された個体の流通を防止する観点から、目印標(製品タッグ)の装着により、国内で適法捕獲された個体であることを明確にさせることとする。
 なお、捕獲個体を致死させる場合は、できる限り苦痛を与えない方法によるよう指導すること。
 
 [5] 捕獲情報の収集
 鳥獣の保護管理の適正な推進を図る上で必要な資料を得るため適当と認める場合には、捕獲個体の種ごとに、捕獲地点、日時、種名、性別、捕獲物の処理等についての報告を、必要に応じて写真又はサンプルを添付させる等して、捕獲実施者に対し求めること。

(2)捕獲許可基準の設定方針
  有害鳥獣の駆除を目的とした捕獲の許可をする場合の基準は、次の方針により、許可対象者、鳥獣の種類・員数、期間、区域、方法等について設定するものとする。

  ア.許可対象者
 原則として、被害者又は被害者から依頼された者であって、銃器を使用する場合は乙種狩猟免許を所持するもの(空気銃を使用する場合にあっては乙種又は丙種免許を所持するもの)、また、銃器の使用以外の方法による場合は甲種狩猟免許を所持するものであること。
 また、捕獲効率の向上を図る観点から、駆除実施者には被害等の発生地域の地理及び鳥獣の生息状況を把握している者が含まれるよう指導すること。
 さらに、駆除実施者の数は、必要最小限であること。このほか、被害等の発生状況に応じて、共同駆除又は単独駆除による捕獲方法が適切に選択されていること。

  イ.鳥獣の種類・員数
[1]駆除対象鳥獣の種類は、現に被害等を生じさせ、又はそのおそれのある種であること。
[2]鳥類の卵の採取の許可は、原則として次の1)又は2)に該当する場合に行うものとすること。
1)現に被害等を発生させている鳥類を捕獲することが困難であり、鳥類の捕獲だけでは駆除の目的が達成できない場合。
2)建築物等の汚染等を防止するため、巣を除去する必要がある場合で、併せて卵を採取する場合
[3]捕獲数は、被害等の防止、軽減の目的を達成するために必要最小限の羽(頭、個)数であること。

  ウ.期間
[1]駆除期間は、原則として被害等が生じている時期のうち、最も効果的に駆除が実施できる時期において地域の実情に応じた駆除を無理なく完遂するために必要かつ適切な期間とすること。ただし、被害等の発生が予察される場合、飛行場の区域内において航空機の安全な航行に支障を及ぼすと認められる鳥獣を捕獲する場合等特別な事由が認められる場合には、この限りではない。
[2]駆除対象以外の鳥獣の繁殖に支障がある期間は避けるよう考慮すること。
[3]狩猟期間中及びその前後における有害鳥獣駆除の許可については、狩猟の期間中は一般の狩猟と、また狩猟期前後の場合は狩猟期間の延長と誤認されるおそれがないよう、当 該期間における駆除の必要性を十分に審査するなど、適切に対応すること。
[4]予察駆除の許可については、被害発生予察表に基づき計画的に行うよう努めること。
  エ.区域
[1]駆除を実施する区域は、被害等の発生状況に応じ、駆除対象鳥獣の行動圏域を踏まえて被害等の発生地域及びその隣接地等を対象とすることとし、その範囲は必要かつ適切な区域とすること。
[2]被害等が複数の市町村にまたがって発生する場合においては、被害等の状況に応じ市町村を越えて共同して広域的に駆除を実施する等駆除が効果的に実施されるよう市町村を指導するものとすること。
[3]鳥獣保護区又は休猟区における駆除を目的とした捕獲許可は、鳥獣の保護管理の適正な実施が確保されるように行うものとする。この場合、他の鳥獣の繁殖に支障が生じないよう配慮すること。また、慢性的に著しい被害等が見られる場合は、鳥獣の生息状況等を踏まえ、被害等防除対策及び生息環境の改善等の重点的な実施並びに休猟区等の設定区域の見直しを検討することとすること。
  オ.方法
 原則として法第15条で禁止されている捕獲手段は用いることはできないが、従来の捕獲実績を考慮した最も効果のある方法で、かつ、安全性の確保が可能なものであって、同条の規定による環境庁長官の許可を受けたものにあっては、この限りではない。
 また、空気銃を使用した捕獲は、半矢の危険性があるため、中・小型鳥類に限ってその使用を認めること。
 なお、水辺地のうち水鳥の鉛中毒を防止するために選定された地区にあっては、平成12年度の猟期より鉛散弾は使用しないこと。
 また、猛禽類の鉛中毒を防止するために、エゾシカの捕獲に当たっては、鉛が暴露する構造・素材の装弾は可能な限り使用を控えるよう協力を求めるとともに、遅くとも平成13年度より使用しないこと。
 さらに、駆除の対象となる鳥獣の嗜好する餌を用いた捕獲方法をとり、結果として被害等の発生の遠因を生じさせることのないよう指導を行うこと。

3.駆除体制の整備

  イノシシ、シカその他の鳥獣による農林作物の被害が激甚な地域については、その地域ごとにあらかじめ、駆除隊を編成するよう指導するものとする。
 なお、農林作物等に著しく被害を及ぼす鳥獣の駆除を広範囲にわたって実施する必要のある場合にそなえ、効果的な駆除実施体制の整備を図るよう指導するものとする。
 また、駆除の迅速かつ的確な実施のための情報連絡体制の整備、関係者(機関)間の連携強化に努めるものとする。

第5 鳥獣の生息状況の調査に関する事項

 科学的知見に基づいた鳥獣の保護管理を行うために、調査研究体制の整備を図り、必要に応じ次のような調査を実施し、情報の集積に努めるものとする。

1.鳥獣保護対策調査

 都道府県内に生息する鳥獣の種類、分布状況、生息数の推移等を把握するための調査

(1) 鳥獣生息分布等調査
 都道府県に生息する鳥獣の種類、分布、出現の時期、生態等を明らかにする調査
 
(2) 希少鳥獣等保護調査
 絶滅のおそれのある鳥獣又はこれに準ずる鳥獣、都道府県民の鳥獣(鳥獣保護思想の普及の一環として、都道府県民の象徴として定められた鳥獣)等の生息状況及び保護対策を明らかにする調査
 
(3) ガン・カモ・ハクチョウ類一斉調査
 ガン・カモ・ハクチョウ類の越冬状況を明らかにするための生息数を中心とした生態調査
 
(4) 鳥獣保護区等の設定・管理等調査
 鳥獣保護区、休猟区及び捕獲禁止区域の設定及び管理等を行うための調査

2.狩猟対策基礎調査

  狩猟の適正化を推進するための調査

(1) 狩猟鳥獣生息調査
 主要な狩猟鳥獣の生息分布、生息概況、生息環境の変化及び捕獲状況を明らかにする調査
 
(2) 放鳥獣効果測定調査
 放鳥獣する狩猟鳥獣に標識を付して、放鳥獣による効果を測定し、当該地域での定着状況を明らかにする調査
 
(3) 狩猟実態調査
 狩猟者の1狩猟期間における出猟の日数、狩猟鳥獣の増減傾向に関する狩猟者の意識、可猟地域への狩猟者の立入り頻度等についての調査
 

3.有害鳥獣対策調査

  農林作物等に被害を及ぼす鳥獣の防除方法の確立に資するため、主要な有害鳥獣の生態、生息概数等と被害発生との関連を明らかにする調査

第6 特定鳥獣保護管理計画の樹立に関する事項

1 計画作成の目的

 特定鳥獣保護管理計画(以下、「計画」という。)は、それぞれの地域において対象とする鳥獣の個体群について、科学的知見を踏まえつつ又専門家や地域の幅広い関係者の合意を図りつつ明確な保護管理の目標を設定し、これに基づき、個体数管理、生息環境管理、被害防除対策等の手段を多様な事業主体の協力を得て総合的に講じることにより科学的・計画的な保護管理を広域的・継続的に推進し、もって地域個体群の長期にわたる安定的な保護繁殖を図ることにより、人と野生鳥獣との共存に資することを目的として策定する。

2 対象鳥獣

 計画の対象とする鳥獣は、個体数の著しい増加又は分布域の拡大により顕著な農林水産業被害等の人と野生鳥獣とのあつれきが深刻化している鳥獣、個体数の著しい増加又は分布域の拡大により自然生態系の攪乱を引き起こしている鳥獣及び生息環境の悪化や分断等により地域個体群としての絶滅のおそれが生じている鳥獣であって、長期的な観点から当該地域個体群の安定的な維持及び保護繁殖を図る必要があると認められるものとする。
 なお、計画は、原則として地域個体群を単位として作成するものとする。

3 計画期間

 計画期間は、生息動向等の変化に機動的に対応できるよう、原則として3〜5年間程度とする。なお、上位計画である鳥獣保護事業計画との整合を図るため、鳥獣保護事業計画の有効期間内で設定するものとする。
 計画が終期を迎えたときには、計画の達成の程度に関する評価を行い、その結果を踏まえて計画の継続の必要性を検討し、必要な改訂を行うものとする。
 また、計画の有効期間内であっても、計画の前提条件となる鳥獣の生息状況等に大きな変動が生じた場合等は、必要に応じて計画の改訂等を検討するものとする。

4 対象地域

 計画の対象地域は、原則として当該地域個体群が分布する地域を包含するよう定めるものとし、行政界や明確な地形界を区域線として設定することとする。
 なお、計画の対象とする地域個体群が、都道府県の行政界を超えて分布する場合にあっては、都道府県内における分布域を包含するよう定めるものとするが、計画の策定及び実施に当たっては、整合のとれた目標を設定し、連携して保護管理を進めることのできるように、関係都道府県間で協議・調整を行うこととする。

5 保護管理の目標

 保護管理の目標の設定に当たっては、科学的な知見及び各地の実施事例に基づき適正な保護管理の目標を設定できるよう、あらかじめ当該地域個体群の生息動向、生息環境、被害状況、捕獲状況等について必要な調査を行うものとする。
 保護管理の目標としては、当該地域個体群の個体数、生息密度、分布域、確保すべき生息環境、農林水産業被害の程度等の中から、当該地域の個体群の生息状況、被害の実態及び地域の特性に応じた必要な事項を選択して設定するものとする。この場合、個体数又は生息密度に係る目標の設定は、大雪等の環境変動のリスクを見込んでも地域個体群が安定的に存続できる水準を下回ることのないように設定するものとする。
 なお、上記の目標の設定に当たっては、必要に応じて当該地域個体群の生息状況又は生息環境、被害等の実態を踏まえた計画対象地域のゾーニングを行い、それぞれのゾーン毎に目標を設定するものとする。
 目標の設定は、適切な情報公開及びモニタリングの実施やその結果の保護管理事業への反映によるフィードバックシステムの導入の下に、科学的な不確実性の補完及び専門家や地域の幅広い関係者の合意形成を図りつつ問題解決的な姿勢で進めることとする。さらに設定された目標については、保護管理事業の実施状況やモニタリング調査の結果を踏まえて、随時見直しを行うこととする。

6 保護管理事業

 計画の目標を達成するための施策として、個体数管理、生息環境管理、被害防除対策等の多岐にわたる保護管理事業を、多様な事業主体との連携や協力を図りつつ総合的・体系的に実施するものとする。
 なお、目標がゾーン毎に設定されている場合は、各ゾーンの個体群の生息状況又は生息環境、被害の実態、地域の特性を踏まえて、それぞれのゾーン別に適切な事業内容を検討して実施するものとする。
(1)個体数管理
 地域個体群の長期にわたる安定的な維持を図るため、設定された目標を踏まえて、適切な捕獲の調整(捕獲の推進又は抑制)による個体数管理(個体群の個体数、生息密度、分布域又は群構造等に関する管理)を行う。個体数管理に当たっては、年次別・地域別の捕獲頭数の配分の考え方を計画において明示するとともに、毎年のモニタリングの結果等を踏まえ、別途、年度毎の捕獲数及びその算定の考え方等を明らかにした個体数管理の年間実施計画の策定を行うこととする。また、併せてこれらの個体数管理を実行する場合に必要となるきめ細かな狩猟制限や捕獲許可基準の設定等の措置、狩猟による捕獲と許可による捕獲の数を年度毎の捕獲数の枠内で調整するための措置を講じるものとする。
 なお、個体数を減少させる個体数管理を行う場合にあっても、地域個体群の安定した存続を確保する上で特に重要な生息地については、必要に応じて捕獲を禁止するか又は抑制的に実施する措置を講じることとする。
 また、捕獲個体についてはモニタリングの用に供するよう、捕獲報告の内容を充実するとともに、可能な限り歯、角等のサンプルの提供を受ける体制を整備することとする。
 なお、不妊処置による個体数管理は、現時点ではその技術手法が十分に確立しておらず、効果予測も困難であることから、学術研究として試験的に行うにとどめることとする。
 
(2)生息環境管理
 当該地域個体群の長期的観点からの安定的な維持及び保護繁殖を図るために特に重要な生息地については、生息に適する森林の育成、食餌木の植栽、水場の整備等生息環境の整備・改善を当該地域の自然環境条件や生息域の連続性、一体性を考慮しつつ積極的に進めることとする。
 また、これらの地域については、極力鳥獣保護区又は休猟区に設定し、特に重要な地域については、生息環境の保全を図るために鳥獣保護区特別保護地区の指定を検討することとする。また、各種土地利用が行われるに当たっては、必要に応じて採餌・繁殖条件に及ぼす影響を軽減するための配慮を求めるものとする。
 
(3)被害防除対策
 被害防除対策は、被害等の未然防止を図るための基本的な手段であり、又個体数管理や生息環境管理の効果を十分なものとするうえで不可欠な手段であることから、これらの施策と連携を図りつつ実施するものとする。具体的な内容としては、防護柵や防鳥網等による予防対策、忌避剤や威嚇音等による追い払い等の対策を、対象地域や鳥獣の特性を考慮しつつ、地域の関係機関・部局や関係者の協力を得て実施する。

7 計画書の記載項目及び様式

 計画書に記載する項目は、次のとおりとする。ただし、地域の実情に応じ、適宜記載項目を追加して差し支えない。

 特定鳥獣保護管理計画の記載項目

  1 計画策定の目的及び背景
  2 保護管理すべき鳥獣の種類
  3 計画の期間
  4 特定鳥獣の保護管理が行われるべき区域
  5 特定鳥獣の保護管理の目標
   (1)現状
     [1] 生息環境
     [2] 生息動向及び捕獲状況
     [3] 被害及び被害防除状況
     [4] その他
   (2)保護管理の目標
   (3)目標を達成するための施策の基本的考え方
  6 特定鳥獣の数の調整に関する事項
  7 特定鳥獣の生息地の保護及び整備に関する事項
   (1)生息環境の保護
   (2)生息環境の整備
  8 其の他特定鳥獣の保護管理のために必要な事項
   (1)被害防除対策
   (2)モニタリング等の調査研究
   (3)計画の実施体制
   (4)その他

8 計画の作成及び実行手続き

 適切な情報公開の下に合意形成を図りつつ、科学的知見に基づいた適正な目標及び保護管理事業の設定を行うため、次の手順で計画を作成し実行することとする。

(1)検討会・連絡協議会の設置
 科学的知見及び地域に根ざした情報に基づき、合意形成を図りながら保護管理を推進するため、学識経験者、関係行政機関、農林業団体、狩猟団体、自然保護団体、地域住民等からなる検討会を設置し、計画の作成及び実行方法等についての検討、評価等を行う。この場合、必要に応じて生物学等の専門的な観点から計画の実行状況を分析・評価するための委員会を、別途に設置するものとする。
 また、計画の実行に当たり関係行政機関等の連携の強化及び連絡調整の円滑化を図るため、都道府県鳥獣行政部局、農林水産行政部局、天然記念物行政部局等の関係部局、市町村等からなる連絡協議会を設置するものとする。なお、連絡協議会は、検討会と兼ねて設置しても差し支えないものである。
 
(2)関係地方公共団体との協議
 行政界を超えて分布する地域個体群の保護管理を関係地方公共団体が連携して実施するため、計画案については、計画の対象とする地域個体群がまたがって分布する都道府県(教育委員会を含む)と協議するとともに、保護管理事業の一端を担うことになる計画対象区域に係る市町村(教育委員会を含む)と協議することとする。
 
(3)公聴会等の開催
 利害関係人の選定に当たっては、都道府県において計画の内容や地域の事情に応じ、関係行政機関、農林業団体、自然保護団体、狩猟団体等の必要な機関や団体が選定されるよう留意する。また、必要に応じて、公聴会の開催以外の方法による意見聴取の実施についても検討することとする。
 
(4)計画の決定及び公表・報告
 特定鳥獣保護管理計画が決定された後は、公報等により速やかに公表するとともに、環境庁長官に報告するものとする。
 
(5)個体数管理の年間実施計画の作成
 特定鳥獣保護管理計画及び当該計画の進捗状況等を踏まえ、検討会・連絡協議会において検討・協議したうえで個体数管理の年間実施計画を作成し、公表するものとする。
 
(6)モニタリング
 特定鳥獣の地域個体群の生息動向(個体数、生息密度、分布域、性別構成、齢構成、食性、栄養状態等)、生息環境、被害の程度等についてモニタリングし、特定鳥獣保護管理計画の進捗状況を点検するとともに、個体数管理の年間実施計画等の検討(フィードバック)に反映させるものとする。また、モニタリング結果の概要については、公表するものとする。

9 計画の見直し改訂

 計画が終期を迎えたとき等には、モニタリングの結果を踏まえ、設定された目標の達成度や保護管理事業の効果・妥当性についての評価を行い、その結果を踏まえ計画の継続の必要性を検討し、必要に応じて計画の見直しを行うものとする。
 なお、計画の評価結果については、その概要を公表することとする。

10 計画の実行体制の整備

 保護管理を適切に進めるため、前述の検討会・連絡協議会の設置等により調査研究、捕獲管理、生息環境管理、被害防除対策等を実施し得る体制を整備するとともに、必要に応じて鳥獣保護センター等への専門家の配置、地域の大学・研究機関及び鳥獣の研究者との連携に努める。また、行政機関においては、鳥獣の保護管理に精通した人材を育成し、施策の一貫性が確保される体制を整備するよう努める。
 また、保護管理を推進していく上で、地域住民の理解や協力は不可欠であることから、生態に関する情報や被害予防についての方策などの普及啓発を促進する。

第7 鳥獣保護事業の啓発に関する事項

 鳥獣保護の成果を挙げるため、市町村や関係民間団体との連携・協力のもと、広く都道府県民の鳥獣に対する認識を深めるとともに、鳥獣保護に関する活動への参加の促進に努めるものとする。

1.鳥獣保護思想の普及等

 鳥獣保護思想の普及啓発を図ることを目的とした年間計画を立て、地域住民による保護活動等の育成指導、探鳥会等の普及活動、普及啓発資機材の整備・活用等を行うほか、鳥獣保護活動に関する実績発表大会を開催する等地域の特性に応じた効果的な事業を実施するものとする。
 特に愛鳥週間の行事として、探鳥会、講演会、食餌植物の植栽等を積極的に実施するものとする。
  また、鳥獣保護思想の普及啓発等に資するため、傷病鳥獣の保護のための効果的な事業の実施に努めるものとする。その際、油汚染事件による傷病鳥獣の救護について、配慮するものとする。

2.鳥獣保護センターの設置

 傷病鳥獣の保護等鳥獣保護思想の普及啓発、各種調査の効果的実施等を図るため、都道府県に鳥獣保護センターを設置するものとする。

3.野鳥の森等の整備

 都道府県民が親しく鳥獣に接する喜びを体得することができるよう、鳥獣保護区内の野鳥等の観察に適する場所に「野鳥の森」や「水鳥の観察施設」等を整備するものとする。

4.小鳥がさえずる森づくり運動の推進

 地域住民が身近に小鳥に親しむことのできる場としての「小鳥がさえずる森」づくり運動を、地域住民の積極的な参加を得ながら推進するものとする。

5.愛鳥モデル校の指定

 鳥獣保護思想の普及の一環として、愛鳥モデル校を期間を定めて指定するものとする。
 愛鳥モデル校は、小・中学校を対象に地域的な配置を考慮して指定するものとするほか、必要に応じ、高等学校その他の学校についても指定することができるものとする。
 なお、愛鳥モデル校においては、学校周辺に野鳥愛護地区を設定するよう努めるものとする。

6.法令の普及徹底

 鳥獣に関する法令のうち、鳥獣捕獲の規制の制度(かすみ網の使用、捕獲目的の所持及び販売等の規制、とりもち等の使用規制を含む。)及び鳥獣飼養許可制度等、特に都道府県民に関係ある事項については、都道府県広報誌、ポスター、パンフレット等により、その周知徹底を図るものとする。


第8 鳥獣保護事業の実施体制の整備に関する事項

1.鳥獣行政担当職員

 鳥獣行政担当職員の配置は、鳥獣保護事業計画の内容、鳥獣の生息状況、狩猟者登録を受けた者の数等を勘案して行い、鳥獣保護事業の実施に支障のないようにする。
 なお、行政効果を高めるため、計画的に鳥獣行政担当職員を対象として研修(司法警察員としての研修を含む。)を行い、専門的知識の向上を図るものとする。

2.鳥獣保護員

 鳥獣保護員の総数は、地域の実状に応じて市町村数に見合う数を目標とし、その配置については、鳥獣保護区の数、狩猟者登録を受けた者の数、取締りの実施状況、鳥獣保護思想の普及の現況等を勘案して行うものとする。
 なお、行政効果を高めるため、計画的に鳥獣保護員を対象として研修を行い、全員に所要の知識を習得させるものとする。

3.取締り

(1)狩猟の取締りは過去5年間の違反状況の分析の結果に基づき月別重点事項を定めて行うものとする。
(2)特にワシタカ科、フクロウ科の鳥類の違法捕獲、かすみ網の違法な使用、所持及び販売等並びにとりもち等による違法捕獲の取締りを重点的に行うよう配慮するものとする。
(3)鳥獣の輸出入業者、飼養関係者、加工業者、食品関係者等を対象とし、鳥獣及びその加工品を定めて、流通段階における違法行為の取締りを計画的に実施するものとする。
(4)鳥獣の違法な飼養については、取締りを重点的に行うよう配慮する。
(5)取締りに必要な機動力を整備するほか、緊急取締りに対応して鳥獣行政担当職員及び鳥獣保護員の動員体制を整備するものとする。
(6)狩猟事故及び狩猟違反の未然防止のため、講習会の開催等により、狩猟者の資質の向上に努めるものとする。

第9 その他鳥獣保護事業の実施のため必要な事項

1.鳥獣の捕獲等に係る許可基準の設定

 有害鳥獣駆除以外を目的とした鳥獣の捕獲等について、目的別に許可の基準を具体的に設定するものとする。設定に当たっての基本的考え方及び方針は次のとおりとする。

(1)基本的考え方

  [1] 許可の考え方
1)学術研究を目的とする場合
 学術研究(環境庁足環を用いる標識調査を含む)を目的とする捕獲は、当該研究目的を達成するために不可欠な必要最小限の捕獲であって、適正な研究計画の下でのみ行われるものとする。
2)特定鳥獣保護管理計画に基づく数の調整を目的とする場合
 個体数調整を目的とした捕獲は、人と野生鳥獣の共存をめざした科学的・計画的な保護管理の一環として、地域個体群の長期にわたる安定的維持を図るために必要な範囲内で行われるものとする。
3)その他特別な事由を目的とする場合
 上記以外の特別の事由を目的とした捕獲に関しては、原則として次の事由に該当するものを対象とすることとする。この他の事由に関しては、特に必要性が認められる場合に限り、これらに準じて許可することとする。
 また、野生鳥獣の愛がん飼養は、鳥獣は本来自然のままに保護すべきであるという理念にもとるのみならず、鳥獣の乱獲を助長するおそれもあるので、飼養のための捕獲規制の強化に努めるものとする
職務上の必要
 鳥獣行政事務担当職員が職務上の必要があって捕獲する場合
傷病鳥獣の保護
 鳥獣行政事務担当職員や鳥獣保護員等が、傷病鳥獣を保護する目的で捕獲する場合
公共施設等の展示
 博物館、動物園等の公共施設において飼育展示するために捕獲する場合
愛がん飼養
 個人が自らの慰楽のために飼養する目的で捕獲する場合
養殖鳥の遺伝的劣化防止
 鳥類の人工養殖を行っている者が、遺伝的劣化を防止する目的で野生の個体を捕獲する場合
鵜飼漁業
 鵜飼漁業者が漁業に用いるための鵜を捕獲する場合
  [2]許可権限の市町村長への委譲
 都道府県知事の権限に属する普通種等の鳥獣の捕獲許可に係る事務については、当該種の生息数及び分布等を踏まえた広域的な見地からの判断の必要性並びに市町村における鳥獣の保護管理の実施体制の整備状況等を勘案した上で、地域の実情に応じて適切に市町村に委譲され、円滑に制度の運営が図られるよう努めるものとする。
 都道府県知事は捕獲許可にかかる権限を市町村長に委譲する場合にあっては、法、規則、本基準及び鳥獣保護事業計画に従った適切な業務の施行及び都道府県知事に対する許可事務の執行状況報告が行われるよう指導するものとする。
  [3]捕獲実施に当たっての留意事項
 捕獲に伴う事故の発生防止については、万全の対策を講じさせることとし、又、捕獲の実施に当たっては、事前に関係地域住民等への周知を図らせることとする。
 また、許可を受けた者が使用する捕獲用具(銃器を除く。)には、用具ごとに、住所、氏名・電話番号、許可年月日及び許可番号、捕獲目的並びに許可有効期間を記載した標識の装着等を行わせるよう指導するものとする。
  [4]捕獲物の処理等
 捕獲物については、鉛中毒事故等の問題を引き起こすことのないよう、山野に放置することなく、捕獲の目的に照らして適正に処理し、野生鳥獣の保護管理に関する学術研究、環境教育などに利用できる場合は努めてこれを利用するよう指導するものとする。
 また、捕獲物は、違法な捕獲物と誤認されないようにすること。特に、クマ類及びカモシカについては、違法に輸入されたり国内で密猟された個体の流通を防止する観点から、目印標(製品タッグ)の装着により、国内で適法捕獲された個体であることを明確にさせるものとする。
 なお、捕獲個体を致死させる場合は、できる限り苦痛を与えない方法によるよう指導すること。
  [5]捕獲情報の収集
 鳥獣の保護管理の適正な推進を図る上で必要な資料を得るため適当と認める場合には、捕獲個体の種ごとに、捕獲地点、日時、種名、性別、捕獲物の処理等についての報告を、必要に応じて写真又はサンプルを添付させる等して、捕獲実施者に対し求めること。
 特に傷病鳥獣の保護捕獲にあっては、上記のような捕獲のデータの収集及び収容個体の計測・分析等を積極的に進め、保護管理のための基礎資料としての活用を図ること。
 また、必要に応じ捕獲の実施に立ち会う等により、適正な捕獲が実施されるよう対処すること。

(2)捕獲許可基準の設定方針

 それぞれの事由ごとの捕獲の許可をする場合の基準は、次の方針により、許可対象者、鳥獣の種類・員数、期間、区域、方法等について設定するものとする。

[1]学術研究を目的とする場合
  1) 学術研究
    ア. 研究の目的及び内容
      次の各号のいずれにも該当するものであること。
      (ア) 主たる目的が、理学、農学、医学、薬学等に関する学術研究であること。
ただし、学術研究が単に付随的な目的である場合は、学術研究を目的とした行為とは認めない。
      (イ) 鳥獣の捕獲又は鳥類の卵の採取を行う以外の方法では、その目的を達成することができないと認められること。
      (ウ) 主たる内容が鳥獣の生態、習性、行動、食性、生理等に関する研究であること。
また、長期にわたる研究の場合は、全体計画が適正なものであること。
      (エ) 研究により得られた成果が、学会、学術誌等により、原則として、一般に公表されるものであること。
    イ. 許可対象者
      理学、農学、医学、薬学等に関する調査研究を行う者又はこれらの者から依頼を受けた者。
    ウ. 鳥獣の種類・員数
      種類又は員数は必要最小限とする。
    エ. 期間
      1年以内
    オ. 区域
      必要最小限の区域とし、原則として、法第10条(銃器を使用する場合)及び第11条第1項各号に掲げる区域は除く。ただし、特に必要が認められる場合はこの限りでな い。
    カ. 方法
      次の各号に掲げる条件に適合するものであること。ただし、他に方法がなく、やむを得ない事由がある場合はこの限りでない。
      (ア) 法第1条ノ5で禁止されている猟具、猟法ではないこと。
      (イ) 殺傷又は損傷(以下「殺傷等」という。)を伴う捕獲方法の場合は、研究の目的を達成するために必要最小限と認められるものであること。
    キ. 鳥獣の捕獲後の措置
      原則として、次の各号に掲げる条件に適合するものであること。
      (ア) 殺傷等を伴う場合は、研究の目的を達成するために必要最小限と認められるものであること。
      (イ) 個体識別のため、指切り、ノーズタッグの装着等の鳥獣の生態に著しい影響を及ぼすような措置を行わないこと。
      (ウ) 電波発信機、足環の装着等の鳥獣への負荷を伴う措置については、目的を達成するために当該措置が必要最小限であると認められるものであること。
なお、電波発信機を装着する場合には、必要期間経過後短期間の内に脱落するものであること。
  2) 標識調査(環境庁足環を装着する場合)
    ア. 許可対象者
      国又は都道府県の鳥獣行政事務担当職員若しくは国又は都道府県より委託を受けた者(委託を受けた者から依頼された者を含む。)
    イ. 獣の種類・員数
      原則として、標識調査を主たる業務として実施している者にあっては、鳥類各種各2000羽以内、3年以上継続して標識調査を目的とした捕獲許可を受けている者にあっては、同各1000羽以内、その他の者にあっては同各500羽以内。ただし、特に必要が認められる種についてはこの限りでない。
    ウ. 期間
      1年以内
    エ. 区域
      原則として、法第11条の区域は除く。ただし、特に必要が認められる場合はこの限りでない。
    オ. 方法
      原則として、わな、網、手捕とする。
[2]特定鳥獣保護管理計画に基づく数の調整を目的とする場合
 個体数調整を目的とした捕獲の許可は、以下の許可基準による他、法第1条ノ3に基づき都道府県知事が策定した特定鳥獣保護管理計画が適正に達成されるよう行われるものとする。
  ア. 許可対象者
     銃器を使用する場合は乙種狩猟免許を所持する者(空気銃を使用する場合にあっては乙種又は丙種免許を所持する者)、また、銃器の使用以外の方法による場合は甲種狩猟免許を所持する者であること。  
  また、捕獲効率の向上を図る観点から、捕獲実施者には被害等の発生地域の地理及び鳥獣の生息状況を把握している者が含まれるよう指導すること。
 さらに、捕獲実施者の数は、必要最小限であること。このほか、被害等の発生状況に応じて、共同捕獲又は単独捕獲による捕獲方法が適切に選択されていること。
  イ. 鳥獣の種類・員数
    捕獲数は、特定鳥獣保護管理計画の目標の達成のために適切かつ合理的な羽(頭、個)数であること。
  ウ. 期間
    (ア) 捕獲期間は、特定鳥獣保護管理計画の達成を図るために必要かつ適切な期間とすること。
    (イ) 捕獲対象以外の鳥獣の繁殖に支障がある期間は避けるよう考慮すること。
    (ウ) 狩猟期間中の許可については、狩猟の期間中は一般の狩猟と、また狩猟期前後の場 合は狩猟期間の延長と誤認されるおそれがないよう、当該期間における捕獲の必要性 を十分に審査するなど、適切に対応すること。
  エ. 区域
    特定鳥獣保護管理計画の達成を図るために必要かつ適切な区域とすること。
  オ. 方法
     原則として法第15条で禁止されている捕獲手段は用いることはできないが、従来の捕獲実績を考慮した最も効果のある方法で、かつ、安全性の確保が可能なものであって、同条の規定による環境庁長官の許可を受けたものにあっては、この限りではない。
 また、空気銃を使用した捕獲は、半矢の危険性があるため、中・小型鳥類に限ってその使用を認めること。
 なお、水辺地のうち水鳥の鉛中毒を防止するために選定された地区にあっては、平成12年度の猟期より鉛散弾は使用させないこと。
 また、猛禽類の鉛中毒を防止するために、エゾシカの捕獲に当たっては、鉛が暴露する構造・素材の装弾は可能な限り使用を控えるよう協力を求めるとともに、遅くとも平成13年度より使用しないこと。
[3]その他特別の事由の場合
  それぞれの事由ごとの許可の範囲については、原則として次の基準によることとする。
  1) 職務上の必要
    ア. 許可対象者
      国又は地方公共団体の鳥獣行政事務担当職員(出先の機関の職員を含む。)
    イ. 鳥獣の種類・員数
      必要と認められる種類及び員数
    ウ. 期間
      1年以内
    エ. 区域
      申請者の職務上必要な区域
    オ. 方法
      原則として、法第1条ノ5で禁止されている猟具、猟法は認めない。ただし、他の方法がなくやむを得ない事由がある場合はこの限りでない。
  2) 傷病鳥獣の保護
    ア. 許可対象者
      国又は地方公共団体の鳥獣行政事務担当職員(出先の機関の職員を含む。)、鳥獣保護員、その他特に必要と認められる者
    イ. 鳥獣の種類・員数
      必要と認められる種類及び員数
    ウ. 期間
      1年以内
    エ. 区域
      必要と認められる区域
    オ. 方法
      原則として、法第1条ノ5で禁止されている猟具、猟法は認めない。ただし、他の方法がなく、やむを得ない事由がある場合はこの限りでない。
  3) 公共施設等の展示
    ア. 許可対象者
      博物館、動物園等の公共施設の飼育・研究者又はこれらのものから依頼を受けた者。
    イ. 鳥獣の種類・員数
      必要最小限
    ウ. 期間
      6ヶ月以内
    エ. 区域
      原則として、法第11条の区域は除く。ただし、特に必要が認められる場合はこの限りでない。
    オ. 方法
      原則として、法第1条ノ5で禁止されている猟具、猟法は認めない。ただし、他の方法がなく、やむを得ない事由がある場合はこの限りでない。
  4) 愛がん飼養
    ア. 許可対象者
      自ら飼養する者又はこれらの者から依頼を受けた者であって、飼養しようとする者が現に飼養許可に係る鳥獣を飼養しておらず、かつ5年以内に愛がん飼養のための捕獲許 可を受けたことがない場合。
    イ. 鳥獣の種類・員数
      メジロ又はホオジロに限る。数は種の如何にかかわらず1世帯1羽。
    ウ. 期間
      繁殖期間中は認めない。
    エ. 区域
      原則として、住所地と同一都道府県内の区域(法第11条の区域並びに自然公園、自然休養林、風致地区等自然を守ることが特に要請されている区域は除く。)
    オ. 方法
      原則として、法第1条ノ5で禁止されている猟具、猟法は認めない。ただし、とりもちを用いる場合であって、錯誤捕獲を生じない等適正な使用が確保されると認められる場合はこの限りでない。
  5) 養殖鳥の遺伝的劣化防止
    ア. 許可対象者
      鳥類の養殖を行っている者又はこれらの者から依頼を受けた者。
    イ. 鳥獣の種類・員数
      人工養殖が可能と認められる種類で必要最小限
    ウ. 期間
      6ヶ月以内
    エ. 区域
      原則として、住所地と同一都道府県内の区域(法第11条の区域は除く)。ただし、特に必要が認められる場合はこの限りでない。
    オ. 方法
      網、わな、手捕
  6) 鵜飼漁業
    ア. 許可対象者
      鵜飼漁業者又はこれらの者から依頼を受けた者
    イ. 鳥獣の種類・員数
      必要最小限
    ウ. 期間
      6ヶ月以内
    エ. 区域
      原則として、法第11条の区域は除く。ただし、特に必要が認められる場合はこの限りでない。
    オ. 方法
      手捕。ただし、他に方法がなく、やむを得ない事由がある場合はこの限りでない。
  7) その他の特別な事由
     捕獲の目的に応じて個々のケース毎に判断する。
 なお、環境影響評価のための調査、被害防除対策事業等のための個体の追跡を目的とした捕獲は、学術研究に準じて取り扱うこととする。


2.銃猟禁止区域の設定

  近年における野外レクリエーションの活発化に鑑み、多数の住民が散策等に利用している区域については、危険予防のため、銃猟禁止区域の設定に努めるものとする。

3.銃猟制限区域の設定

  休猟区解除後の区域については、狩猟者の集中的入猟が予想されるので、人身に対する危険防止の観点から、必要に応じ、当該区域を銃猟制限区域とするように努めること とする。

4.猟区の設定

  猟区の整備拡大を図るため、森林組合、狩猟団体等による設定が促進されるよう配慮するものとする。

5.鳥類の飼養の適正化

  鳥類の違法な飼養が依然として見受けられることに鑑み、個体管理のための足環の装着等適正な管理が行われるよう努めるものとする。