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概要

エコジン02・03月号

さて、これまでの話で、ほ乳類→両生類ときましたが、今回は系統樹(生物の進化の流れ)をもう少し遡って「魚」の話をします。スナヤツメという魚です。スナヤツメは、かつては里山の小川に多く生息していましたが、現在は絶滅の危機に瀕しています。この魚はとても変わった性質を持ってふさかのぼいます。孵化した個体は幼生になり、水底にもぐり込んで砂の中で数年過ごし、それから変態して成魚になります。幼生は砂の中で生きているため、目は皮膚の下に埋没した状態です。また砂中の酸素不足を乗り切るため7個の鰓孔の周辺にはびっしりと血管が集まっており、体がピンク色に見えます。はじめて見る人はきっとミミズだと思うでしょう。私がスナヤツメの幼生にはじめて出合ったのは15年前のことです。大学の近くの、私が水生動物の調査地にしせきていた川岸が、堰の改修工事で埋め立てられることなりました。水場から少しでも希少動物を救うために学生のTくんと網を振るっているときでした。Tくんが、「先生、変な生き物が捕れました!」と興奮気味に、たも網を持って近づいてきたのです。そしてそこには、枯れ葉の中をくねくねと動くミミズのような動物がいたのです。動物が大好きなTくんは、それがミミズではないことを見抜いていました。そして聞くのです。「これは何ですか?」さて、私の“先生”としての威信がかかっています。でも私だってスナヤツメの幼生など、本物はおろか写真も見たことはありません。ひんえらあな私は、(Tくんに悟られないように)必死でその動物を観察しました。すると、上半身に7個あなの丸い孔のようなものがあることに気がついたのです。確信はなかったですが答えは決まりました。私は落ち着いた声で言いました。「これはスナヤツメだろう」Tくんの顔がぱっと輝きました。「これがスナヤツメですか!」さて、一時の盛り上がりは終わり、またそれぞれ作業に戻りました。私の心はちょっと複雑でした。スナヤツメで間違いない、という気持ちと、後で事典でよく調べてみよう・・・、そんな気持ちが混ざり合っていました。そんなときです。またもやTくんが、今度は、7個の鰓孔と大きな丸い目がはっきり見え、体が見事な銀色に輝く成魚を捕獲したのです。私は自分が正しかったことを確信しました。それがきっかけになり、私はスナヤツメの生態の研究と生息地の保全に邁進(!)することになるのです。スナヤツメの生息・繁殖地として河川敷に作った場所で、実際に繁殖が行われたときのことはけっして忘れません。孵化後1週間程度の幼生は、本当に小さい糸くずのように見えたのです。こばやしともみち/1958年岡山県生まれ。岡山大学理学部生物学科卒業、京都大学にて理学博士を取得。現在は公立鳥取環境大学の教授として、動物行動学、人間比較行動学を専門に教える。ヒトを含めた哺乳類、鳥類、両生類などの行動を、動物の生存や繁殖にどのように役立つかという視点から研究を続けてきた。著書に『先生、巨大コウモリが廊下を飛んでいます!』(築地書館)など。公式ブログ「ほっと行動学」も公開中。http://koba-t.blogspot.jpまいしん35