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概要

エコジン10・11月号

磯辺篤彦(いそべ・あつひこ)九州大学応用力学研究所教授。専門は海洋物理学、沿岸海洋学。おもに大陸棚上あるいは内湾の海洋循環、海洋プラスチック汚染(漂流・漂着ごみ、マイクロプラスチックス)や大気海洋相互作用などの研究に携わる。応用編 海洋ごみの問題は既に20 年以上前から表面化していましたが、研究者を含めて社会の大きな関心事になったのはここ10 年ほどでしょうか。東シナ海や日本海の海岸では、日常生活で生じるごみだけでなく、海上投棄された漁業ごみも目立っています。海上投棄をいかに防ぐか、周辺各国の連携した取組はいまだ不十分と言わざるを得ません。 近年、海洋ごみの70%を占める廃プラスチックが微細化したマイクロプラスチック(3 時間目参照)が、魚類や甲殻類、貝類の内蔵や筋肉から見つかったという研究論文が数多く発表されています。また、2015 年には動物プランクトンからもマイクロプラスチックが発見されたとの論文が発表されました。ただし、これらが生態系にどのような影響をもたらすのかは、いまだ研究の途中であり、確かなことはわかっていません。しかし、海水中に薄く広がっている化学汚染物質がマイクロプラスチックの表面に濃縮されて吸着することは既に研究でも確認されている事実なので、誤食されたマイクロプラスチックと共に化学汚染物質が生態系に入り込む可能性は十分に考えられます。 今後さらにマイクロプラスチックの浮遊密度が増え続ければ、プラスチックとともに生態系に入り込む化学汚染物質も増え、生態系への悪影響が表れるという最悪のシナリオも考えられます。現在、私たち研究者もマイクロプラスチックの動態解明に乗り出しているところです(5 時間目参照)。 海洋ごみを減らすには、日常生活で余計なプラスチック製品を使わないことです。しかし、全てのプラスチック製品を社会からなくすことは不可能なので、人とプラスチックの良い関係を築くことが大切だと思います。運輸や医療など人の安全に関わるもの、快適な生活に必要不可欠なもの、社会を維持・発展させるための経済活動など、プラスチックがなければ困ることもあります。ただ、木やガラス、あるいは自然環境で分解する新素材が生まれ、それらをプラスチックの代わりとして許容する社会になれば、状況は大きく変わるはずです。そのためにも、プラスチックのリスクを正しく社会に伝える研究を今後も続けていきたいと思います。特別講義今回の講師磯辺篤彦先生九州大学応用力学研究所教授海洋ごみの大半を占めるプラスチックのリスクを知り、人とプラスチックの良い関係を築くことが大切。今回のおさらい19