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概要

エコジン8・9月号

るように、このまま水温の上昇が進むと、今世紀末までに平均して水温が2~3℃上昇し、毎年白化が起きてサンゴは壊滅状態になると言われています。これを避けるためには地球温暖化をぜがひでも食い止めなければなりません。ただサンゴ礁衰退の原因はほかにも多々あります。それが「ローカルストレス」と呼ばれるもので、埋め立てや土砂の流入、海岸地域の人口密度や観光客の増加による富栄養の生活排水がサンゴ礁に流れ込むことで、サンゴ礁を藻場に変えてしまっていることなどが挙げられます。このように地球温暖化というグローバルな要因とローカルな要因が入り組んでしまっているので、サンゴ礁の危機を世界中に訴えながら、地元でもサンゴのストレスを低減するための方策を行う必要性があるのです。ローカルストレスが低減されて体力のあるサンゴ礁が増えなければ、サンゴは温暖化にはとても耐えられません。しかしここでさらに地球温暖化を止めなければならない理由があります。それが国土の問題です。ツバルやキリバス、マーシャル諸島などの多くの島国は、国土のほとんどが、サンゴ礁がリング状につながった“環礁”から成っています。これらの国々は温暖化による海面上昇で国土が水没してしまうことが危惧されています。環礁は、標高がせいぜい2~3mなので、今世紀中に起こることが予測されている50cmの海面上昇だけで、外洋の波が島に直接打ちつけるようになって浸食が進んだり、標高の低い場所に住む人々の居る場所が失われるという事態が、現実の問題として迫ってきているのです。実際に、人が多く住んでいる環礁の島では、サンゴ礁の衰退や人工構築物による砂浜の消失が起こっています。ここでも、島が本来持っていた、サンゴや有孔虫が「島を造る力」を取り戻すことが重要です。今回の国際会議において、日本政府は「島国まるごと支援」を島しょ国に対して提言しました。これは一連の問題を総体的にとらえて包括的に支援するという内容になっています。2011年の東日本大震災は、コンクリートによる工学的対策だけでは、自然からの脅威に対抗することができないことを、私たちに教えてくれました。10mの防潮堤があっても、津波から沿岸に住む人々を守ることができなかった。これを教訓にして、人工物による対策だけでなく、マングローブやサンゴ礁などの生態系の力を使った島の形成力というものを活用しながら最適解を求めるようにすべきです。そして日本の優れた技術によって、ごみ問題や下水処理、エネルギー問題などにあたり、加えて島しょ国の経済状態にあった費用対効果にしていく。こういったことを各国の人々とともに考えながら進めていくということが必要だと思います。サンゴ礁は海洋の生物多様性を育み、島国の国土自体や経済基盤となっています。地球温暖化や人の活動によるサンゴへのストレスを減らすため、世界の人が手を差し伸べる必要があります。教えてくれた人:茅根創(かやね・はじめ)1959年生まれ。88年、東京大学大学院理学系研究科地理学専門課程博士課程で博士号取得。2007年から現職。地球温暖化に対するサンゴ礁の応答をフィールドと実験室において解明している。日本サンゴ礁学会評議員・事務局長。25