エコジン10・11月号

エコジン10・11月号 page 19/36

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知床半島の海岸線。この地は海域から陸域まで、バラエティ豊かな生態系が一体となっている。急増したエゾシカが越冬の際、木々の樹皮を食べてしまうなどの食害が問題となっている。2005年、ユネスコの世界自然遺産に....

知床半島の海岸線。この地は海域から陸域まで、バラエティ豊かな生態系が一体となっている。急増したエゾシカが越冬の際、木々の樹皮を食べてしまうなどの食害が問題となっている。2005年、ユネスコの世界自然遺産に登録された知床。原生的な自然環境が保全されており、陸域、海域でさまざまな生物が生息し、特徴ある生態系を作っている貴重な場所だ。三宅悠介さんは、この地でレンジャーとして活躍している。「知床は流氷の南限です。流氷が運んでくる豊富な栄養分によって大量のプランクトンが発生し、それをエサにする小魚や、さらにはクジラ、トド、シャチなどの海獣類、海鳥など、多くの海の生物がいます。秋になるとサケは川を遡上し、ヒグマやオジロワシなどに捕食されます。一方、陸の生物の死骸は土に返って森林の栄養になる。このように、海と陸とをつなぐ生態系があるのです。また、海岸から高山まで、環境に適応した多様な植物が生育し、シレトコスミレなどの固有種も確認されています」その知床半島の太平洋側の羅臼町が、三宅さんの事務所の管轄だ。「今は羅臼湖に向かう歩道のルート変更と再整備、利用のルールの合意形成に取り組んでいます。人が歩くと、希少な湿原の植生を傷めてしまうので、対策が必要なのです。7月上旬まで残雪がある自然環境なので、山中で宿泊しての巡視などは夏しかできません。その分、事務的な仕事は冬に取り組むようにしています」ルートの変更に際しては、地域の人にも一緒に歩いてもらって、議論する。さまざまな関係者の調整役としての役割もある。世界遺産登録直後よりは観光客の訪問は減ってきてはいるが、それでも公園利用に伴う植生の荒廃や、野生動物への影響が出ている。他にも、エゾシカの増加により希少植物が食べられたり、アライグマやセイヨウオオマルハナバチ、アメリカオニアザミなど外来種の侵入という問題もある。「問題や課題の現場を実際に見て、その地域の理想的なあり方を考え、地域の人とともに実現に向けて努力する。自然環境の保全と利用のバランスを図りつつ地域づくりに携わることができるのが、仕事のやりがいであり醍醐味です」私の仕事道具知床では、ヒグマが高密度に生息しているため、巡視時に必ず持参しているという「クマスプレー」。唐辛子の辛味成分であるカプサイシンを噴射するもので、射程は3~4メートル。ヒグマに遭遇して、襲われそうなときに使う。いざという時、すぐ出せるよう専用ホルダーを使って腰に装着する。「まだ実際に使ったことはありません」(三宅さん)。19