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[キーワード]エンドファイト、落葉分解、クロサイワイタケ属菌類、培養温度、化学組成

[RF-086 葉圏菌類の多様性プロファイルに基づく環境変動評価・予測手法の開発]

(2)葉圏菌類の機能評価[PDF](502KB)

国立大学法人京都大学
生態学研究センター 生態学研究部門

大園享司

  [平成20〜21年度合計予算額] 5,939千円(うち、平成21年度予算額 2,936千円)
※予算額は、間接経費を含む。

[要旨]

  葉圏菌類であるエンドファイトがブナ林において落葉分解に関与することを実証的に明らかにした。ブナ林を構成する93樹種の生葉と落葉を対象に、クロサイワイタケ科のエンドファイトの分離を行い、そのDNA塩基配列の比較を行った。分離された289菌株のうち、DNA塩基配列の検討から243菌株がクロサイワイタケ科に属することがわかった。この243菌株は15のoperational taxonomic unit(OTU)に区分された。もっとも菌株数が多かったのはXylaria sp.1であり、Nemania sp.、Biscogniauxia sp.1がそれに続いた。これらのOTUは一般に樹種特異性が低く、リグニン分解により落葉の漂白を引き起こしていることが実証的に示され、調査地のブナ林においてクロサイワイタケ科エンドファイトは分解初期段階にある落葉の主要なリグニン分解者であることが明らかになった。また、ブナ林の主要構成樹種であるカバノキ科の4属11樹種を材料としたエンドファイトの多様性調査から、ブナ林の主要な葉圏菌類であるクロサイワイタケ科エンドファイトが亜高山帯から亜熱帯までの幅広い気候帯に広域的に分布することを示した。Xylaria sp.1の菌糸生長の最適温度は25.30℃であり、5℃から25℃までの範囲では温度にともなって増加したが、35℃では菌糸生長が認められなかった。Xylaria sp.1によるブナ落葉の分解の最適温度は25℃であり、5℃から25℃までの範囲では温度にともなって分解活性が増加したが、30℃では活性の低減が認められ、35℃では分解がほとんど認められなかった。Xylaria sp.1は20℃・25℃ではセルロースの選択的分解を行っており、30℃ではリグニンの分解活性が増加した。続いて、培養温度20℃で行った15樹種の落葉への接種培養試験では、Xylaria sp.1が引き起こした落葉の重量減少率は6.7.26.4%(初期重量に対する%)の範囲にあった。ブナ葉圏菌類の中で分解に関与するXylaria sp.1は落葉分解に重要な役割を果たすとともに、環境変動によりその機能が変化する可能性がある。