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[キーワード]アンチモン、同位体比、ヒ素の起源解明、分離濃縮法、マルチコレクター型ICP質量分析計

[RF-084 アンチモン同位体比に基づくバングラデシュの地下水ヒ素汚染の起源解明]

(1)天然試料中のアンチモン同位体の測定法の開発[PDF](567KB)

独立行政法人海洋研究開発機構高知コア研究所
同位体地球化学研究グループ

谷水 雅治

広島大学大学院理学研究科
地球惑星システム学専攻

高橋 嘉夫

<研究協力者>

 

 広島大学大学院理学研究科(研究員)

浅岡 聡

  [平成20〜21年度合計予算額] 1,549千円(うち、平成21年度予算額 762千円)
※予算額は、間接経費を含む。

[要旨]

  アンチモン(Sb)同位体比に基づくバングラデシュの地下水ヒ素汚染の起源解明の研究において必須であるSb同位体比の高精度測定をマルチコレクター型ICP質量分析計(MC-ICP-MS)で行う手法を確立した。Sb同位体比の測定精度を見積もるために、Sb標準溶液のSb同位体比(=23Sb/121Sb)を繰り返し測定した。本研究で必要な高精度な同位体比分析において重要な問題となるのは、分析装置内で起こる同位体の質量差別効果 (mass discrimination)であり、同位体比測定において、測定試料が本来保持している同位体比を正しいデータとして得るためには、この効果の補正が重要である。本研究ではこの質量差別効果を、Sbと質量数が近いスズ(Sn)を外部標準として添加し、その同位体比をモニターすることで補正した。その結果、用いたSb標準溶液のSb同位体比の測定精度は123Sb/121Sb = 0.74692±0.00004 (2SD)となった。
  次に天然試料からのSbの分離濃縮法の確立を行った。この方法では、MC-ICP-MSによる高精度同位体比測定のために、天然試料中のマトリクス元素や内標準に用いるSnからSbを分離濃縮する必要がある。まず固体試料の分解法には、通常の混酸による方法が適用できることが分かった。その際、Sb(III)のハロゲン化物の散逸による回収率の低下が問題になるため、酸化剤を添加してSbを5価に保ち、その揮発を抑制する必要があることが分かった。こうして得たSbを含む分解液からは、同位体比測定のために他の元素からSbを分離する必要があり、その分離法の最適化を行った。最終的に、HClを溶離液に用いたThiol Cotton Fiber(TCF)法による分離法を採用し、Sbを3価に還元しチオール基に対して結合させることでSbを保持し、さらに適切な濃度のHClでSbを選択的に流出させることにより、Sbの分離・回収を行った。本法によって添加回収実験を行ったところSb回収率は99.5%であり、本法適用前後の同位体分別も認められなかった。したがって、今回開発した分析法はSb同位体分析に向けたSb分離濃縮法として有効であることがわかった。