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[キーワード] 放射性炭素14、安定同位体、土壌動物、分解系、炭素蓄積

[F−073 土壌生物の多様性と生態系機能に関する研究]

(3)同位体を用いた土壌食物網による炭素利用の解析[PDF](479KB)

 国立大学法人京都大学 生態学研究センター

陀安一郎

<研究協力者>

 

(独)国立環境研究所

内田昌男

岡山大学 新技術研究センター

兵藤不二夫

 京都大学大学院理学研究科

原口 岳

  [平成19〜21年度合計予算額] 10,681千円(うち、平成21年度予算額 3,474千円)
※予算額は、間接経費を含む。

[要旨]

  本研究は、土壌有機物および土壌動物の放射性炭素14の天然存在比および炭素・窒素の安定同位体比を用いることにより、土壌炭素の蓄積履歴および土壌動物の有機物利用を解明することを目的とした。まず、北海道大学苫小牧研究林において、1960年代の核実験由来の放射性炭素が増加する以前に樹種の交替があった森林と樹種交替のない森林を比較し、樹種タイプが落葉堆積層の分解速度および土壌動物群集を変化させ、土壌動物(とくにミミズ)による炭素の混合効果が土壌炭素集積に影響を与えていることを示した。また、土壌炭素の中でミミズが利用した炭素の年代を決定することにより土壌動物の炭素利用が多様であることを示し、森林植生.土壌有機物.土壌動物多様性の関係を示した。次に、八ヶ岳においてキシャヤスデの発生の履歴の異なる森林土壌の比較、茨城大学農学部附属農場の農地土壌における土壌団粒の炭素年齢の測定、および茨城県北茨城市小川における食物網の研究を行った。八ヶ岳においては、土壌有機物およびキシャヤスデの炭素・窒素の安定同位体比に関して大きな変化があることがわかり、放射性炭素分析(Δ14C)結果はキシャヤスデが異なる炭素年齢の土壌有機物の混合効果に影響を与えていることを示した。さらに、茨城大学農場の研究では団粒に比べて細土に含まれる炭素の起源が新しいことがわかり、団粒構造で古い炭素が固定化されることが推察された。最後に、茨城県の小川においては、樹上のクモ類が新しい炭素起源を持つ生食連鎖と古い炭素起源を持つ腐食連鎖系を連結しており、クモ間の捕食行動の違いが、食物網連結機能に相違をもたらしている事が明らかになった。これらを通して、本研究は生態系の中の「炭素循環の時間軸」を土壌有機物・落葉堆積層・デトライタス食者・捕食者に至るまで明示することの重要性を示した。この推進費研究の結果は、生態系の中に放射性炭素14(Δ14C)を用いて時間軸を明示することで、「当年の」環境変動が食物網を通じてどのような波及効果を及ぼすかを理解することができることを示した。