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[キーワード] トキ、鳥類生態、生息環境、中国、自然再生

[F-072 トキの野生復帰のための持続可能な自然再生計画の立案とその社会的手続き]

(6)中国におけるトキの生態情報の収集[PDF](476KB)

 財団法人 山階鳥類研究所 所長

山岸 哲

保全研究室長

尾崎清明

客員研究員

蘇 雲山

<研究協力者>

 

環境省関東地方環境事務所佐渡自然保護官事務所

越田智恵子

 新潟大学大学院自然科学研究科環境共生科学専攻

関島恒夫

  [平成19〜21年度合計予算額] 22,853千円(うち、平成21年度予算額 8,190千円)
※予算額は、間接経費を含む。

[要旨]

  トキの野生個体群が存在する中国陜西省において、トキが要求する生息環境を把握し、その結果を佐渡におけるトキ個体群の生息地管理計画立案に資することを目的とした。
  まず、中国のトキ営巣位置と巣立ち雛数の情報を用い、営巣適地を予測する統計モデルを構築したところ、起伏、林縁形状、広葉樹林・針葉樹林・住宅地の割合の5変数で構成されるモデルが最適となり、各変数のモデル係数のうち起伏のみが負でその他は正に寄与していた。営巣適地モデルを佐渡全域に外挿し営巣適地と評価された地域は、大佐渡南西部と小佐渡東部・南西部にかけて遍在していた。生息適地に関する情報は、生息地再生など保全計画の立案に有効となろう。
  つぎに、トキの餌環境を評価するため、中国の野生個体と佐渡の放鳥個体を対象に、餌場環境ごとの採餌行動とその季節変化を比較した。餌環境は、冬期をのぞけば日本の方が恵まれており、これは比較的エネルギー量の多いドジョウが豊富に存在するためと考えられた。しかし日本では、冬期にドジョウやミミズの減少の影響でエネルギー獲得効率が著しく低下していた。一方、中国における餌環境は採餌効率やエネルギー獲得効率は日本より低いが、特定の餌生物にかたよらず、季節変動も日本より少なかった。中国では、河川は採餌経験の乏しい幼鳥に重要なエネルギー供給源となっている可能性があり、今後の餌環境の管理・改善に、これらの点は検討に値する。
  1981〜2009年の29年間における中国の野生トキ個体群の消長から、個体群回復の原因を明らかにした。最近10年間はトキ繁殖期の降雨量の変化が繁殖成功率に影響があると考えられた。また、洋県と寧陝県で実施したトキ放鳥実験個体の繁殖状況を、野生トキ29年間の繁殖実績と比較した結果、放鳥個体は野生個体より繁殖能力が低いことが明らかになった。現在、地域住民の協力を得てトキの個体数は順調に増えているが、餌場環境に悪化の兆しがあり懸念される。トキ生息地の自然環境と社会環境の変化に注目し、適切な措置が求められる。