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[キーワード] 水田生態系、生物種多様性、生物現存量、安定同位体比分析、通年湛水

[F-072 トキの野生復帰のための持続可能な自然再生計画の立案とその社会的手続き]

(3)エサ場創出維持技術の確立[PDF](475KB)

 新潟大学大学院 自然科学研究科 准教授

関島 恒夫

<研究協力者>

 

新潟大学大学院 自然科学研究科 博士研究員

大石 麻美

博士研究員 

武山 智博

  [平成19〜21年度合計予算額] 35,982千円(うち、平成21年度予算額 13,500千円)
※予算額は、間接経費を含む。

[要旨]

  トキの主な採餌場所は水田や河川等の湿性環境であるが、新潟県佐渡島に見られる湿性環境のうち、その約8割は水田が占める。そのため、圃場整備や耕作放棄等が原因で、水生生物の生息数や生物多様性が低下した水田をいかに再生させるかが、トキの生息環境再生のポイントとなる。本サブテーマの目的は、水田の生物現存量や生物多様性を高め、かつトキの好適な採餌環境として再生・維持するため、生態学的評価に基づく水田の管理手法を確立し、具体的な自然再生計画を立案することである。平成19年度は、水田生態系に対する通年湛水の効果に着目し、水田を対象とする場合には「江」の新規創出が、休耕田を対象とする場合には「湛水」という処理が採餌環境整備において有効であると位置づけ、それらを創出した際の水田におけるトキの主要な餌生物を含む生物の現存量および種多様性の観点から、通年湛水の効果を立地環境とともに評価した。平成20年度は、これらの経年的な評価に加え、新規に水田生態系における生物多様性の規定要因を明らかにするため、食物網構造の評価について安定同位体比分析を実施した。その結果、トキの餌生物を含めた水生生物群集の生物現存量および種多様性に対する通年湛水環境の効果は、創出の初年と同様に2年目でも認められ、持続的な効果が示された。「江」は、小面積でありながら湛水休耕田と同様の生物現存量増加の効果をもつことから、採餌環境の創出としてより有効な方法であると結論づけられた。水田の食物網は、水中の懸濁態有機物(植物プランクトンを含む)と表泥上に堆積した有機物が一次生産者であり、魚類が最高次の消費者であるという構造であった。この食物網の構造は立地環境に依存せず、江と湛水休耕田の両方の湛水方法で共通して見られた。一方、一部の水生昆虫類は、上述の一次生産者と基点とする水田内の食物網に属していなかった。これらの結果から、水田の水生生物群集の多様性は、水田内の食物網に属する生物と、水田外の食物網から水田内へ移動してきた生物の両方で構成することが示唆された。