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[キーワード] バラスト水、セディメントトラップ、植物プランクトン、バラスト水処理装置、バラスト水管理条約

[D-072 大型船舶のバラスト水・船体付着で越境移動する海洋生物の動態把握と定着の早期検出]

(6)バラスト水管理条約批准後のバラスト水による生物移動量の推定[PDF](501KB)

 東京大学 アジア生物資源環境研究センター

福代康夫

 <研究協力機関>

 

 (社)日本海難防止協会

二ノ倉彰一

(株)エム・オー・マリンコンサルティング

和氣惇・松井博・佐藤雅彦

 (株)水圏科学コンサルタント

吉田勝美・久城圭

 東京大学 アジア生物資源環境研究センター

大村卓朗・長濱幸生

  [平成19〜21年度合計予算額] 17,681千円(うち、平成21年度予算額 5,071千円)
※予算額は、間接経費を含む。

[要旨]

 海運活動による生物広域化には、バラスト水を介する機構と、船底などに付着して運ばれる機構との2つがある。これらの対策としては、前者には国際海事機構(IMO)で2004年に採択されたバラスト水管理条約、後者には今秋IMOで採択される生物船体付着対策ガイドラインがある。前者はすでに26カ国が批准し、条約成立まであと1−2年と予想されるようになっており、さらに各国でバラスト水管理システムの開発と条約批准の動きが活発になると思われる。一方、後者はガイドライン策定が進んでおり、2010年秋のIMOの第61回海洋環境保護委員会(MEPC61)において最終化される予定になっている。このように、海運による生物移動を防ぐための国際的体制は整いつつあり、数年内には海運による生物広域化問題は回避できると考えられる。
 上記国際的規制の設定に協力すると同時に、規制の有効性を検証する目的で、現在就航中の2隻の船舶のバラストタンクに堆積物捕集装置を設置してタンク内の生物量を推定し、さらにバラスト水処理システム導入後の生物混入と生残の可能性についても検討した。長期にわたる観察の結果、この捕集器により捕集された堆積物の乾重量は、航路およびバラスト水の漲水地によって異なり、0.022−0.326g/L、あるいは0.008−1.830g/Lであった。この堆積物から発芽した植物プランクトンは珪藻類が大半で、その多くはバラスト水管理条約の規制対象の大きさよりも小さい種であった。また、継続的に発生する種があり、一度でも取り込まれるとタンク内に潜伏し、条件がそろえば再び増殖を開始すると考えられた。就航中の船のタンク内には微細藻類や細菌が生息しているが、これらの生物の殺滅処理は、堆積物のため処理に用いられる活性物質の働きが弱まるので難しいと考えられた。すなわち堆積物が多いと、現在のバラスト水処理システムでは漲水前にタンク内にいる生物を殺滅することが困難であるため、今後は生物量だけでなく、沈澱堆積物量を減らす工夫も必要で、そのことをIMOなどに強く呼びかけることが大事と思われた。