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[研究代表者] |
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国立環境研究所 地球環境研究グループ 海洋研究チーム ●原島 省 |
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[環境庁 国立環境研究所] |
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地球環境研究グループ |
統括研究官 |
●安野正之 |
海洋研究チーム |
●原島 省・功刀正行・原田茂樹 |
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地域環境研究グループ |
海域保全研究チーム |
●木幡邦男 |
(委託先) |
近畿大学農学部水産学科 |
●津田良平・田中裕志 |
35,359千円
(平成7年度予算額 12,056千円)
環境への人為影響を解析するためには、現場海域における長期かつ高頻度の時系列が必要になる。このため、定期フェリー航路を利用したモニタリングから、栄養塩の年サイクル変動の解析を行った。さらに、同フェリーの有人計測により、植物プランクトン属性および関連した化学量の特殊項目の観測を行った。この結果、春季のブルーム(大増殖)で卓越するのは基本的には珪藻であるが、夏の栄養塩枯渇時に、海域ごとの出現種の違いが現れることが確認された。この違いは、N,P,Siのどの栄養塩が枯渇するかによる。対馬海峡などの大陸棚海域や富栄養化が進んでいない一般海域では、夏の栄養塩枯渇時に、N,Pが枯渇し、細胞サイズの小さいシアノバクテリアが卓越する。一方、大阪湾などでは、夏にSiが枯渇してNが残る傾向があり、このため卓越種がSiを必要としない微小鞭毛藻や渦鞭毛藻などの非珪藻種ヘシフトする傾向がある。また、備讃瀬戸など鉛直混合の盛んな領域では、夏季でもN,P,Siなどの栄養塩が完全には枯渇せず、このため、大型珪藻など、ある程度の植物プランクトンが夏を通じて維持されていた。この海域では夏季にpHが低下し、しかも溶存CO2が高かった。この理由は、底層で有機物が分解し、溶存態栄養塩および無機炭素濃度を高めることによる。
以上のプランクトン種組成の変動は、Siが白然の風化作用で陸から海域に補給されるのに対し、N,Pの負荷は人口増大とともに増加する傾向があることと、珪藻がSiを必要とするのに対し、渦鞭毛藻などの非珪藻種はSiを必要としないことにある。したがって、海域における生物化学量の変動パターンにより、陸からの人為的なN,P負荷が評価できると考えられる(Si枯渇N,P過剰シナリオ)。ただし、珪藻と渦鞭毛藻のどちらが優位になるかは、成層の安定状態にも依存し、風応力等により鉛直混合がより顕著であると、低層からSiが補給され、さらに、鉛直遊泳できる渦鞭毛藻の優位性がくずれることも指摘される。さらに、このような生物化学量の変動は非常に動的なものである。このため、単発の観測では人為影響を評価するために不十分であり、通年・長期間の時系列観測が必要である。したがって、今後、フェリーの海水実測と衛星の相互補完による環境変動評価をより広域に展開してゆくことが重要である。
フェリー、植物プランクトンブルーム、種組成、(N,P)過剰/Si枯渇、pHホール、人為影響