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[研究代表者] |
労働省産業医学総合研究所 職業病研究部 ●山田博朋 |
18,661千円
(平成7年度予算額4,193千円)
UVBは、35nmの帯域に過ぎない280−315nmの波長の紫外線をさす用語である。この為か、UVBの生体への影響を論ずる際、UVBはまとめて取り扱われる例が多くみられる。しかし実際に、モノクロメータで分光した特定波長の紫外線を細胞に照射してみると、UVBの短波長側成分を照射した時のみ、重金属やデキサメサゾンによるメタロチオネイン(MT)の誘導が強く阻害されることを見いだした。この阻害は皮膚由来細胞以外の細胞(HeLa)を用いても観察され、紫外線によるMTの誘導阻害が、普遍的なものであることが窺える。ノーザンブロットで検出したところ、Cd添加後、4時間で誘導されてくるMT−IIA−mRNAの量は、紫外線照射により著しく減少しており、MT誘導の阻害の作用点が、転写の段階である事が判明した。
以上のように、紫外線がMT−mRNAの誘導レベルの上昇を抑え、細胞内でのMTの合成を阻害するなら、紫外線を照射された細胞は重金属に対して耐性が弱まっていることが推定される。本研究の結果は、この推定どおり、紫外線と重金属の複合曝露が、各々の単独曝露より、細胞に与える損傷が大きいことを示した。紫外線による重金属耐性の低下は、これまで紫外線の生命に対する影響として、想定されることのなかった現象である。MTは、重金属以外にも、ラジカル等の様々な刺激に対する防衛に関与すると考えられている蛋白である。従って、紫外線が地球上の生物に与える障害の中には、単純な物理的有害因子としての作用によって引き起こされる障害以外にも、種々の有害刺激に対する防御蛋白と考えられるMTのmRNAの誘導レベルの低下を介して、これまで考慮されていなかったような生命活動の局面に影響を及ぼしている可能性が考えられる。
UVB照射、ヒト皮膚由来細胞、メタロチオネイン、mRNA誘導抑制、重金属耐性低下