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[キーワード]分布域、密度推定、生息実態、人間活動、動・植物相

[F-061 大型類人猿の絶滅回避のための自然・社会環境に関する研究]

(1)大型類人猿の分布と密度に関する研究[PDF](664KB)

  ㈱林原生物化学研究所 類人猿研究センター

伊谷 原一

<研究協力者>

 

  ㈱林原生物化学研究所 類人猿研究センター

座馬耕一郎・田代靖子・吉川翠

  中京大学 国際教養部

小川 秀司

  京都大学大学院 理学研究科

久世 濃子

  日本・インドネシア・オランウータン保護調査委員会

鈴木 晃

  東京工業大学 生命理工学研究科

金森 朝子

  [平成18~20年度合計予算額] 44,493千円(うち、平成20年度予算額 14,789千円)

[要旨]

  アフリカの7地域およびアジアの2地域において、大型類人猿5種(チンパンジー、ヒガシゴリラ、ニシゴリラ、ボノボ、オランウータン)を対象に、各地域の大型類人猿の詳細な生息実態を明らかにするために、分布状況の把握、および生息密度推定に必要な情報を収集した。また、動・植物相、気候条件、地形・地質など、大型類人猿の生息に関わる自然的要因についての資料を収集するとともに、密猟、伐採、開墾、人口移動など人為的要因にも注目し、その規模と大型類人猿の生息密度との関係も検討した。密度推定のためにはライン・トランセクトにおけるネスト・センサス法を用い、その他の資料は直接観察、間接的証拠の記録、聞き込み調査によって収集した。インドネシアではヘリコプターを用いた上空からのネスト・センサスも試みた。大型類人猿は、湿潤帯から乾燥帯まで生態的条件の異なる多様な環境に適応しているが、それぞれの環境に異なる大型類人猿が生息している一方で、異なる環境であっても同種の大型類人猿が生息している場合もある。また、地域によっては異種の大型類人猿の同所的共存も認められた。つまりこれは、多様な生態条件に対する大型類人猿の適応能力の高さを示すものである。しかし、大型類人猿の集団数あるいは生息頭数について過去の記録と比較したところ、一部の調査地で減少傾向が認められた。それらの主要な要因は、森林伐採、開墾、密猟など活発な人間活動に起因することが示唆された。また、内戦などによって人と環境が大きなダメージを受けたところでは、大型類人猿の減少が顕著であった。その反面、継続調査がおこなわれてきたフィールドでは、個体群が維持あるいはわずかに増加している傾向も認められた。また、過去にチンパンジーが未確認だった地域において、あらたにチンパンジーの生存が確認された。これらの資料は、チンパンジーの分布を再評価するのに役立つ。その上で、地域に適した将来的に永続可能な保全プランを作成し、それに基づく保全活動を早急に実現すべきである。