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[キーワード]酸性沈着、熱帯季節林、物質収支、東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EANET)、集水域

[C-052 酸性物質の負荷が東アジア集水域の生態系に与える影響の総合的評価に関する研究]

(3) タイ熱帯季節林集水域における物質収支解析に基づく酸性沈着の生態系影響評価[PDF](1,546KB)

  財団法人日本環境衛生センター
  酸性雨研究センター 生態影響研究部


佐瀬裕之

<研究協力者>

 

  京都大学大学院農学研究科

太田誠一・山下尚之

  酸性雨研究センター 生態影響研究部

上迫正人

  タイ国 王室林野局

Jesada Luangjame

  タイ国 環境研究研修センター

Hathairatana Garivait

  [平成17~19年度合計予算額] 22,426千円(うち、平成19年度予算額 6,899千円)

[要旨]

  本サブテーマでは、これまで熱帯地域への適用例がほとんどなかった集水域単位の生物化学的物質循環を基礎とした酸性沈着の生態影響モニタリング地点を、タイ国東北部の丘陵地帯に分布する熱帯乾燥常緑林に設定し、継続観測を実施した。また、新潟県に設定された既存試験地の解析結果との比較から、異なる気候帯の集水域の特質を明らかにした。
  熱帯乾燥常緑林に設定されたサケラートSRS試験地は、1000 mm以上の蒸発散量により、物質の流出が大きく制限された物質集積型の生態系であることが示唆された。本試験地のように乾季と雨季に明確に分かれている熱帯季節林帯においては、乾季の間に大気中に滞留したSO42-、NO3-を多く含むガス状・粒子状の汚染物質が、雨季初期に降水によってウォッシュアウトされ、沈着量が著しく増大することが明らかとなった。また、本集水域内の土壌酸性は季節・空間変動を示すことが明らかとなり、特に、大気沈着の影響を広域的にモニタリングする場合、空間変動を考慮した反復サンプリングが必要なことが示唆された。さらに、土壌中のN動態の評価にも、季節・空間変動を十分に考慮する必要があることが示唆された。渓流水質は、乾季・雨季という気候的特性や、それによって変化する土壌化学性や内部循環の影響を受けながら、明確な季節性を示すことが明らかとなった。渓流水質へのN沈着の直接的影響は現時点では明らかではないが、大気沈着に由来すると考えられるSO42-が流出することにより、一時的な渓流水の酸性化が生じていることが明らかとなった。
  東アジア地域の森林集水域は、モンスーンの影響を強く受け、大気沈着について明確な季節性を示す一方で、渓流水質を含む物質循環過程は、各地域の気候的、土壌学的特質の影響を強く受け、大きく異なることが明らかとなった。本サブテーマで得られた各集水域の特質は、今後、各地域の影響を評価する上で重要な基礎情報となり、EANETモニタリングへの貢献も期待できる。