アジア地域におけるオゾン・エアロゾル前駆体物質(窒素酸化物(NOx)、非メタン揮発性有機化合物(NMVOC)、二酸化硫黄(SO2)、一酸化炭素(CO))と炭素粒子(ブラックカーボン(BC)、オーガニックカーボン(OC))の排出量を1980~2020年について算定し、アジア地域排出インベントリREAS 1.1(Regional Emission inventory in Asia Version 1.1)を開発した。REAS 1.1は、アジア地域の過去から将来における人為起源の大気汚染排出量を対象に開発された最初のインベントリであり、統一的な方法論に基づいて排出量を推計していること、主要な人為発生源と大気汚染物質をほぼカバーしていること、などの特徴がある。代表的なオゾン・エアロゾル前駆体物質である窒素酸化物(NOx)は、2000年におけるアジア全体の排出量が年間2,730万トンであり、中国(41 %)とインド(17 % )の排出量が非常に多い。最大の排出国である中国では、石炭火力発電所(34%)、工場等の石炭燃焼(25%)、自動車等の石油燃焼(25%)が大きな割合を占める。また、NOx排出量は1980年から2003年の間に2.8倍に増加し、中でも中国における増加は3.8倍と非常に大きい。さらに、将来の排出シナリオ(中国については持続可能性追求型(REF)、対策強化型(PSC)、現状推移型(PFC)の3種類、その他の国については1種類)を設定し、2020年までの将来排出量を予測した。その結果によると、2020 年における中国のNOx排出量は、REFとPFCでは、2000年に較べて、それぞれ、1.4倍 、2.3倍に増加する。一方、PSCでは、2000年レベルに比べ、わずかではあるが減少する。しかし、2000年以降の排出量や燃料消費量の増加傾向や衛星観測結果などから判断すると、現在のNOx排出量は既にPFCシナリオの2020年予測値付近まで達している可能性がある。さらに、旧ソ連(アジア域)の1980~2005年におけるNOx、SO2、CO、BC、OCの燃料燃焼起源排出量を推計し、ユーラシア大陸東部をカバーする排出インベントリを構築した。