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[キーワード]オランアスリー、エンパワーメント、林産物、協働、住民参加

[E-4 熱帯域におけるエコシステムマネージメントに関する研究]

(3)地域社会における生態系管理へのインセンティブ導入のための基礎研究[PDF](796KB)

  京都大学 地域研究統合情報センター

阿部健一

<研究協力者>

 

  京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究科

内藤大輔

  広島大学大学院総合科学研究科

奥田敏統

  Center for Orang Asli Concerns

Colin Nicolas

  [平成14~18年度合計予算額]  12,448千円(うち、平成18年度予算額 2,141千円)

[要旨]

  本研究では、多民族からなるマレーシア社会において日常的に森林との関わりを保ってきた少数先住民オランアスリーに焦点をあて、オランアスリーを取り巻く政策的な環境の変化や森の劣化が民族固有の文化・生活や森との関わり方に及ぼす影響について調査を行った。その結果、パイロットサイト内のオランアスリー集落では森林産物採取などの占める経済的な役割は根強く残っているものの、森自体の存在が文化的・精神的な拠り所として比重を増していることが確認された。また、こうしたオランアスリーと森林との関係が、経済社会的文化的背景の異なる地域でも普遍的に見られるのかについて広域調査を実施した。その結果、程度の差はあるが、調査を行った集落のほとんどが、かつてのように森林に生活の大部分を依拠しているわけではなく、たとえばゴム園・アブラヤシ園などの自営者・労働者として、生計を維持していることが明らかになった。こうした状況で、生態系管理のために必要なのは、社会的に経済活動の中心から周辺部へ追いやられ孤立しているオランアスリー社会を、どのように「外世界」と結びつけるのかが課題であることが鮮明になった。すなわちオランアスリー社会と外の世界とつなぐ「媒介者」という役割が、外部のものに期待されていることが分かった。これまでの研究で、マレー農村社会が、かつての日本の農村と同様の急激な過疎化状態にあることも再認識されたが、森林に関しては、マレー系住民は、もはやまったくの外部者となっていることもわかった。すでに森の外部者となった、近代都市に居住する農村出身のマレー系の人々の間では、近年では開発一辺倒ではなく、先進国と同じ環境保全という考え方が徐々に浸透し、熱帯林保全への関心が高まりつつある。地域社会における生態系管理へのインセンティブ導入を図るときには、森に近いオランアスリー社会だけでなく、こうした環境保全意識の潜在的に高い人々を巻き込んでの「協働」が必要となると考えられた。すなわち、森林をとりまく社会環境・認識の変化の中で、オランアスリー社会のもつ森林保全への潜在的可能性を最大限に引き出す環境を整備(エンパワーメント)することが必要であることが示唆された。