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[H-12 景観の変化から探る世界の水辺環境の長期的トレンドに関する環境社会学的研究]

(1)水辺環境の古写真収集とディープインタビューによる比較分析手法の開発に関する研究

京都精華大学人文学部環境社会学科

嘉田由紀子

関西学院大学社会学部

古川彰

筑波大学社会科学系

鳥越皓之

京都大学文学部社会学科

松田素二

 〈研究協力者〉 日本ラテンアメリカ協会

古谷桂信

          甲南大学非常勤講師

乾清可

          レマン湖博物館

カリーヌ・ベルトラ

          元パリ国立自然史博物館

パトリシア・ペルグリーニ

          マラウイ大学チャンセラー校

ローレンス・マレカノ、ジョージ・ム

[平成14〜16年度合計予算額]

 平成l4〜16年度合計予算額 16,827千円
 (うち、平成16年度予算額 6,074千円)

[要旨]

  本サブテーマの目的は、世界的に近代化がすすんだ20世紀初頭から現在まで、約100年間の水辺景観の長期的トレンドに埋め込まれたローカルな「水・人間の生態文化的システム」を、それぞれの現地で発掘・収集した「今昔写真」を活用しながら、「資料提示型ディープインタビュー」によるフィールドワーク手法により解明することである。世界各地の水辺から、湖沼と河川を中心に古写真資料の入手できる地域を探し、先進国、途上国あわせて、10ヶ国の水辺を選択した。先進国は、日本(琵琶湖・淀川水系)、フランス(セーヌ川)、スイス(レマン湖)、イギリス(湖水地方)、アメリカ合衆国(メンドータ湖)の5ヶ国であり、中進国として中国(北京、太湖)、途上国として、ネパール(カトマンズ盆地)、グアテマラ(アティトラン湖)、マラウイ(マラウイ湖)、ケニア(ナイロビ川)の4ヶ国を選んだ。
 その結果、きわめて多様な地域条件の中で、以下の3点が共通性として浮かびあがってきた。1点目は生活用排水の利用と保全の社会的主体にかかわる変遷過程である。生活用水の入手が困難でかつ、排水による水汚染問題の深刻な水域であっても、かつては伝統的なコミュニティ型管理時代の人びとは「大地を離れない水」(湧き水、井戸、川など)に価値をおき、安全な水を確保してきたが、近代化、特に上下水道化という集中的な管渠システムの導入の過程で伝統的な社会システムが破壊され、しかし新しい管渠システム管理の社会的主体が機能していない地域である、という点である。また生活用排水問題の背景には、暗黙的な人びとの心性としてのし尿文化が隠されていることも発見された。具体的にはし尿を肥料に利用する「し尿親和文化圏(Feces-Philia)と、生活場面の中からし尿を排除しようとする「し尿忌避文化圏」(Feces-Phobia)であり、「し尿忌避文化圏」(Feces-Phobia)では便所づくりの動機は弱く、水系伝染病などの衛生被害をもたらす潜在的リスクが高い。現在世界的にすすめられつつあるグローバル技術としての下水道技術はし尿忌避文化から生まれたということもわかった。2点目は「生態系としての水域」の変化として、過去50-100年の間に先進国ばかりでなく途上国においても水辺移行帯(エコトーン)は人びとの生活の影響を強く受け、水草帯、ヨシ帯などの破壊が進み、魚類の生息環境や漁業的生括が脅かされていることが分かった。先進国では身近な水域の魚は食の対象からはずれ、途上国においては外来種の侵入や漁獲高の減少が悩みとなっている。3点目は「景観としての水辺」には二つの変化の方向が見られた。ひとつは「美しい水辺」を求める動きであり、もうひとつは「利便性の追求」である。先進国、途上国を問わず、いずれの水域でも美しい水辺イメージは、外部からの影響を受けながら特定の表象システムが生み出され、伝統的には「生活の場」であった水辺が「見る」ことや「観光」に特化をしてきた。と同時に、20世紀後半以降の自動車交通の拡大による道路建設など利便性の追求は、人と水の直接的な接触場面を減らし、特に子どもたちを水辺から追い出し、人の気配の少ない水辺を作り出してきた。

[キーワード]

 生活用排水、上下水道システム、景観、生活の場、観光化