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[D―3 グローバル水循環系のリン・窒素負荷増大とシリカ減少による海洋環境変質に関する研究]

(1)リン・窒素・シリカ流入変動に対する海洋の応答に関する総合解析

独立行政法人 国立環境研究所

 

 水土壌圏環境研究領域 海洋環境研究室

原島 省

 〈研究協力者〉国立環境研究所 流域圏環境管理プロジェクト

亀山 哲

         (財)海洋化学研究所 

紀本岳志

         (財)日本気象協会

若林 孝・利安忠夫

[平成14〜16年度合計予算額]

 平成l4〜16年度合計予算額 55,171千円
 (うち、平成16年度予算額 18,522千円)

[要旨]

  「シリカ欠損仮説」、すなわち「停滞陸水域の増加とリン(P)と窒素(N)の負荷の増加が複合し、自
然に風化溶出する溶存態ケイ素(DSi)の海域流下が減少するため、海洋生態系においてケイ藻類(無害)
よりも鞭毛藻類(潜在的に有害)のほうが有利になる」を検証するため、琵琶湖(仮想大ダム湖)-淀川-瀬戸
内海(以下BYS水系と略記)を対象水系としてデータ解析を行った。その結果、琵琶湖がSiのシンクにな
っていること、高度経済成長期にN、P負荷増大でSiのシンクが強まったが、1990年代にはP負荷削減
でSiシンクが弱まった(Si濃度が回復した)と推定できた。海域のケイ藻/非ケイ藻量比の応答は単純で
はないが、海域を河口隣接域(大阪湾奥部)とその他の海域を分けて取り扱うことで説明できる。すなわち、
河口隣接域では、上流停滞水域でDSi/DINの相対比が下がっても、海域に流入するDSiの絶対濃度は
海域表層よりも高く、しかも陸から直接負荷されるN、Pが高いため3元素ともに制限要因にならず、成長
率の早いケイ藻類が卓越する。ここでのケイ藻増殖でさらにDSiを奪われた海水が他の海域上層に分散
してDSi濃度を下げ、春季ブルーム後のケイ藻類の沈降を促し、この結果、上層に渦鞭毛藻の増殖する
余地ができるという説明である。
 このような機構をグローバルな水系に適用するため、主要水系のデータを収集、解析した。その結果、
開発が進んだ流域の河川ほどDSi/DIN比が低く、湖水は河川に比べてDSi濃度が低くなっており(静水
効果)、概ね上記結果と整合した。端的な例として、ミシシッピー水系では、同川のDSi/DIN比が低下した
のにもかかわらず、同河口沖ではケイ藻類が増加し、遠隔のフロリダ沖等で渦鞭毛藻が増加し、瀬戸内海
域と同傾向であった。このように、海域生態系への影響は単純ではないが、河口海域の物理構造とケイ藻
類・鞭毛藻類の動態差異を考慮することにより、この仮説の地球規模での有意性が推定できる。

[キーワード]

 シリカ欠損仮説、DSi/DIN比、ケイ藻/非ケイ藻比、海域応答、河口隣接海域