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[C―6 流域の物質循環調査に基づいた酸性雨による生態系の酸性化および富栄養化の評価手法に関する研究]

(2)流域における窒素、イオウの循環プロセスの解明

東京農工大学農学部

楊 宗興

独立行政法人 森林総合研究所

 

 関西支所 森林環境研究グループ

谷川東子

 立地環境研究領域 養分環境研究室

高橋正通

 立地環境研究領域 土壌特性研究室

吉永秀一郎

独立行政法人 農業環境技術研究所

 

 地球環境部 生態システム研究グループ 物質循環ユニット

大浦典子

 

 

 〈研究協力者〉  東京農工大学農学部

藤田俊忠

            平岡環境研究所

苗村晶彦

            昭光通商株式会社杉戸研究所

佐藤里恵

[平成14〜16年度合計予算額]

 平成l4〜16年度合計予算額 16,039千円
 (うち、平成16年度予算額 5,578千円)

[要旨]

  重要な大気沈着物質である窒素、イオウはいずれも生態系と強い相互作用を行う元素で
ある。大気沈着物の生態系影響を解明するため、森林生態系におけるこれら元素の動態(内部循
環、集水域での物質収支、土壌の微生物作用、蓄積等)を検討した。【窒素】都市近郊の森林集
水域から流出するNO3-は年間加重平均濃度209μmolL-で、大気沈着窒素量にほぼ相当し、典型的
な窒素飽和の状況を示した。この森林では、広葉樹のコナラ、針葉樹のヒノキ若齢林、壮齢林の
いずれにおいても、葉中の窒素含量およびリターフォール量が増加、窒素転流率が低下していた。
リターフォールによる内部循環量は対照地の2倍にも達し、窒素の過剰化が葉の旺盛な繁茂を引
き起こしている実態が明らかになった。また、土壌では独立栄養菌による硝化過程が活発で、そ
れにより、温室効果ガスであるN2Oの多量の放出が生じていることが示された。一方、対照地の
一つでは硝化はほとんど行われず、N2O放出もきわめてわずかであった。これらの違いは土壌の
C/N比に依存しており、また添加実験から、基質供給の多寡のみならず硝化菌の有無という微生物
生態学的理由も介在している可能性が示された。以上より、窒素サイクルの各過程、構成要素、
微生物フローラを含む生態系全体の改変として、窒素飽和状況が生じていることが明らかになっ
た。【イオウ】本邦の火山灰性土壌は非火山灰性土壌や欧米の土壌に比べ、著しく大量のイオウ
を蓄積していることが明らかになった。HI-reducible Sと無機の吸着態硫酸イオンがその主要な蓄
積形態であり、それぞれはアルミニウムや鉄の酸化物に保持されていると考えられた。アルミニ
ウム・鉄酸化物含有率の高い土壌ではHI-reducible Sの無機化速度は低く、アルミニウム・鉄酸化
物との共存でHI-reducible Sが分解抵抗性を獲得していることが明確になった。イオウ循環プロセ
スを最も強く制御する土壌要因は鉱物特性であり、鉱物を豊富に含有する火山灰性土壌はイオウ
蓄積能が高く、大量のイオウが大気から沈着し蓄積されている可能性が示された。

[キーワード]

 森林生態系、窒素、イオウ、大気沈着、内部循環