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[C―6 流域の物質循環調査に基づいた酸性雨による生態系の酸性化および富栄養化の評価手法に関する研究]

(1)貧栄養流域における酸性物質の動態と収支の推定

信州大学理学部

 

戸田任重

独立行政法人農業環境技術研究所

 

 

 地球環境部生態システム研究グループ 物質循環ユニット

大浦典子

信州大学理学部

 

鈴木啓助

北海道大学北方生物圏フィールド科学センター

波多野隆介

名古屋大学理学部

木平英一

東京農工大学農学部

小倉紀雄(平成14年度のみ)

 

 

〈研究協力者〉北海道大学農学部

中原 治

[平成14〜16年度合計予算額]

 平成l4〜16年度合計予算額 29,624千円
 (うち、平成16年度予算額 9,383千円)

[要旨]

  乗鞍岳東斜面の前川流域と北海道札幌近郊の白旗山を貧栄養な共同調査地として選定し、
2002年から2004年にかけて3年間にわたり観測を継続した。前川流域では、窒素降下量、リター
フォール量、土壌水や渓流水中の硝酸イオン濃度、一酸化二窒素など温室効果ガスの放出量は、
茨城県、多摩地域の富栄養流域での値よりいずれも低く、また奥日光など他の山岳観測結果と比
較しても極めて貧栄養状態にあることが示された。
 同じく貧栄養な札幌近郊の白旗山流域では、窒素降下量は少ないものの、5集水域間で窒素降
下量には3倍、窒素流出量には2倍の差異が認められた。また、窒素降下量とカラマツの生長量
とには有意な正の相関が認められ、窒素降下による施肥効果が示された。短期間(3週間)の窒素降
下は、メタン吸収を抑制し、一酸化二窒素発生を促進する効果がある事も分かった。さらに、カ
ラマツのN/P比が高いことから、白旗山流域の生態系が極めて強いリン制限にあること、リン制限
のために、比較的小さな窒素降下量に対しても、硝酸イオン流出や一酸化二窒素の放出のような
窒素流出が起きやすいことが示唆された。
 全国1,242渓流の硝酸イオン濃度は、5-20μMが全体の約半数あり、平均濃度は26.2μM、中央値は
18.lμMであった。硝酸イオン濃度の低い渓流は、北海道から東北に集中しており、濃度が高い渓
流は、東京近郊、大阪近郊、瀬戸内、北九州でみられた。渓流水の硝酸イオン濃度は、気温とは
正の、降水量とは負の相関関係を示したが統計的には有意ではなかった。それらに対し、大気由
来の窒素負荷量と渓流水の硝酸イオン濃度とには有意な正の相関関係が認められた。約50年前に
実施された全国調査と比べると、溶存イオンの中では硝酸イオンとアンモニウムイオンのみが顕
著に増加していた。渓流水質は、気候や植生、母材などの要因にも影響を受けるが、窒素に関し
ては大気汚染を通じた人間活動の影響を強く受けていることが判明した。

[キーワード]

 酸性降下物、窒素負荷、渓流水、一酸化二窒素、硝酸イオン