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[B−57 海水中微量元素である鉄濃度調節による海洋二酸化炭素吸収機能の強化と海洋生態系への影響に関する研究]

(2)鉄濃度調節が植物生理・生産に及ぼす影響に関する研究

独立行政法人水産総合研究センター

 

 

  東北区水産研究所 混合域海洋環境部 生物環境研究室

齊藤宏明

北海道大学大学院水産科学研究科

 

工藤 勲

[平成13〜15年度合計予算額]

 平成13〜15年度合計予算額 24,437千円
 (うち、平成15年度予算額 8,766千円)

[要旨]

 北太平洋亜寒帯域のHNLC(高栄養塩低クロロフィル)海域において、鉄濃度調節実験
を行ない、植物プランクトンの生理・生態の応答を調べると共に、鉄不足が亜寒帯太平洋の生態
系に及ぼす影響を調べた。鉄濃度調節実験は、エアロゾルを通じた鉄の供給量が比較的多く、中
心目珪藻が比較的多い西部亜寒帯太平洋と、鉄供給量が少なく羽状目珪藻の多い東部亜寒帯太平
洋のそれぞれで行った。西部亜寒帯太平洋では、鉄濃度が上昇すると、植物プランクトンの光合
成活性の指標である光化学反応中心IIの量子収率が上昇し、調節後6日(D6)にクロロフィルa濃
度の増加が確認された。クロロフィルaの増加と共に、硝酸取り込み速度が増加し、水中の硝酸塩
および珪酸の減少が見られた。クロロフィルa濃度はD9に以降は16.5mg m-3に達して、その後は
安定した。このクロロフィルa濃度の上昇は、過去に南極海や赤道湧昇域で行なわれた同様の実験
では4mg m-3以下だったことに比較して顕著であった。鉄濃度調節により、ほとんどすべての植
物プランクトン種が増加したが、特に、鉄濃度調節以前には極低い密度でしか存在しなかった中
心目珪藻のChaetoceros debilisが非常に早い成長を示し、最大増殖速度は2.9分裂d-1に達した。
その結果、C.debilisは植物プランクトン群集中で最も優占した。東部亜寒帯太平洋において行っ
た実験でも、鉄濃度上昇後、珪藻を中心とした植物プランクトンの増加、PSIIの上昇、栄養塩の
消費が見られた。しかし、植物プランクトンの成長速度は西部に比べて低く、クロロフィルa濃度
が最大値(5.1mg m-3)に達するまでに15日かかった。東部では、数的に優占したのは羽状目の
珪藻であったが、生物量でみると、中心目の珪藻も羽状目と同程度にまで増加した。以上の結果
より亜寒帯太平洋のHNLC海域では、東西両海域において微量の鉄添加が、植物プランクトンの生
理状態を改善し、増殖を活性化し、その結果炭素固定量、栄養塩消費量を増加させる効果がある
ことを立証した。しかしその結果増殖する珪藻種や反応速度には違いが見られ、それは主に生態
系を構成するプランクトン種組成によることが示された。

[キーワード]

 ニ酸化炭素、鉄、亜寒帯太平洋、HNLC、植物プランクトン