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産業医科大学 産業生態科学研究所 |
高橋謙・實珠山務 |
福岡県、沖縄県の地域住民を対象に、熱中症の発生率と気象環境要因の影響について解析する目的で、1997〜99年の6月1日〜9月30日の福岡県と沖縄県における消防本部救急搬送記録による熱中症症例について、男女別発生率(/10万・日)を算出し、両県の気象観測台による観測値(1日平均気温、最高および最低気温、日照時間、降雨量、風速)および大気汚染指標(福岡県のみ:SO2、SPM、NOx)と熱中症発生率との関連を、多変量Poisson回帰により分析した。熱中症発生数は、福岡県682例(男性487、女性195)、沖縄県244例(男性198、女性46)であり、その発生率は、福岡県で男性0.0546〜O.0945、女性0.0185〜O.0314、沖縄県で男性O.0504〜O.122、女性0.0074〜O.0224と推定された。両県とも男性で熱中症発生がより多かったが、沖縄県でより男女差が大きく、1999年では12.7対1であった。沖縄県の女性を除き、1998年の発生率が最も高かったが、両県とも月別平均気温は1998年8月が最高で、福岡県28.O℃、沖縄県29.3℃であった。大気汚染指標と熱中症発生との間には有意な関連は見られなかった。Poisson回帰分析では、目的変数の日別熱中症症例数と説明変数の1日最高気温との関係をより明確にするために、気象観測台の管轄区域毎(福岡県12区域、沖縄16区域)に分け、また、各症例の社会行動要因による交絡影響を除くために平日(月〜金曜)と週末(土、日曜および祝日)とに分けて行った。熱中症発生の閾値を1日最高気温27.0℃とした。1日最高気温の熱中症発生に対する統計的に有意な影響は、福岡市の男女、那覇市の男女をはじめ、一定数以上の発生があった全ての区域で認められた。その影響の強さは、報告例数の多さと関連していたが、平日と週末とで特に差は認めなかった。夏季の暑熱気象条件がより著しかった沖縄県では、福岡県に比べて、特に男性で熱中症発生影響がより大きく発現していたが、一方、沖縄県の女性には、その影響はむしろ福岡県女性よりも小さいものと思われた。その理由として、沖縄県の女性に、暑熱要因への生物学的耐性や社会的適応行動などが備わっていることが考えられた。
熱中症、疫学、最高気温、男女差、暑熱耐性