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[環境庁自然保護局野生生物課] |
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(委託先)東京大学大学院農学生命科学研究科生物多様性科学研究室 |
●樋口広芳 |
56,320千円
(うち、平成12年度予算額、 18,183千円)
1998年, 1999年,2000年の秋? 冬期,ロシアのアムール川中流域の繁殖地から南下するタンチョウ Grus japonensis,マナヅル G. vipio,およびコウノトリ Ciconia boyciana について,また1999 年,2000 年,2001 年の冬? 春期,インド西部の越冬地から北上するクロヅル G. grus について,人工衛星を利用して追跡した.
追跡に成功した個体のうちタンチョウ1個体およびコウノトリ2個体は,繁殖地から越冬地への追跡から継続して,越冬地から繁殖地への追跡も行なうことができた.
南下の追跡に成功したタンチョウ4個体のうち3個体は,繁殖地から南下したのち中国東岸の渤海沿岸を経由して,揚子江河口の北方,塩城とその周辺に到着した.そこで越冬したものと思われる.残りの1個体は中国東北部のリョウゲンを経由して朝鮮半島に入り,半島西部の漢江河口に到着して越冬した.これまで同じ繁殖地のタンチョウは同様の経路をとって同じ越冬地に到着すると考えられていたが,今回の調査によって少なくともヒンガンスク地域のタンチョウは,中国東岸と朝鮮半島の二つに分かれて越冬することがわかった.春の北上は渤海以北の経路が南下の時より北側の経路をたどり,前年の繁殖地へ到着した.
コウノトリは繁殖地から南下後,中国東岸の渤海沿岸を経由して,揚子江中流域のポーヤン湖に到着し,その付近で越冬するものが多かった.しかし,渤海沿岸にて越冬する個体もいた.北上は,タンチョウと同様に北よりの経路を通ったが,2000 年春に北上を追跡した個体は中国黒竜江省チチハル付近まで,2001 年春に北上を追跡した個体は吉林省農安付近まで北上した.いずれも前年の繁殖期に放鳥した地位とは異なっていた.南下の追跡では,10個体が上記の経路をたどり,ポーヤン湖付近で越冬した.残りの3個体は,渤海沿岸で越冬した.
インド西部からの北上の追跡に成功したクロヅルは,ウズベキスタン,カザフスタンのキルギス平原を経由してロシア・シベリアの繁殖地へ到着した.さらに,北上を追跡した個体の1個体は,南下開始の時期は不明であるが,ブータンのNingsang La付近を経てインドのカーティアワール半島モルビ周辺で越冬した.捕獲された越冬地とは別の場所で,次の冬,越冬したことが確認された.
これらの渡りの中継地や越冬地のいくつかには,生息地の環境の変化や有機塩素化合物による汚染など,保全上の問題があり,対象種の存続が危惧されている.
タンチョウ,コウノトリ,クロヅル,衛星追跡,湿地保全