III-2 今日の段階からの取組の在り方
III. 今日の段階から取り組まなければならない事項
2. 今日の段階からの取組の在り方
(1)基本的な考え方
2000年以降の取組を定めた京都議定書の採択を受けて、その履行を確実なものとするため、II4(2)に掲げた総合的な施策のうち、今日の段階から取組が可能なものについては、速やかに制度化していくことが基本である。
政府においては、内閣の最重要課題として、具体的な実効ある地球温暖化対策を講じていくという考えの下、平成9年12月19日に地球温暖化対策推進本部を設置した。本部は、平成10年1月9日に省エネルギー等二酸化炭素排出量の削減対策などの具体化を図るとともに、メタン、亜酸化窒素の排出抑制対策、代替フロン等3ガスの排出抑制対策、植林等の吸収源対策等を講じるなど、対策を総合的に推進する方針を定めた。また、これら総合的な対策のうち早急に行うべき施策として、エネルギーの使用の合理化に関する法律(以下「省エネルギー法」という。)の改正等を始めとするエネルギー需要の抑制対策の強化を図ることなどとしており、さらに、早急に対策を強化していくこととしている。
本審議会での検討によれば、地球温暖化防止のために早期に講じるべき施策としては、具体的には、以下の(2)アからカのような事項に係る施策を推進することが必要であり、これらのうち、地球温暖化防止を目的とする法的なルールを定めて推進することが効果的なものについては早急に法制度化を行うことが適切である。
これらの施策は、「2008年から2012年までの第1約束期間に1990年レベルから6%削減」を達成する上での基礎となるようなものとすべきであり、また、その実施のための法的ルールは、近い将来において定められるべき、京都議定書の履行を確実に担保し得る法制度の中で適切に活かされるようにすべきである。
また、その法的ルールは、権利義務の内容を具体的に縛り、特定の行動を強制するようなこれまでの手法を多用するのではなく、現段階においては、温室効果ガスの排出者それぞれによる計画の策定やその結果の公表等のルールを規定し、排出抑制の具体的方途については各主体が自主的に定め、透明性を確保しつつ、実行するような形式にするのが適切である。
その他、現在の法制度でも地球温暖化防止対策に関係するものが多数あることを考慮することも重要である。しかしながら、これらは、いずれも地球温暖化防止を目的としたものではなく、これまでの対策は、これらの制度を便宜利用してきたのであって、このような枠組み自体を改善する必要がある。しかし、他の法制度が地球温暖化防止の観点から改善され、地球温暖化防止に有効な規制が行われるような場合には、これらの法制度による規制と二重の規制になることを避けるべきであり、専ら地球温暖化防止を図ろうとする法制度は、これら他の法制度がカバーする施策との調整を行い、関係の制度を地球温暖化防止の観点から極力活用する工夫をし、政策の総合性を高めるように努めるべきである。
他方、省エネルギー法をはじめ、関係する法制度についても、その改善を進めるべきである。関連する他の法制度の有効性や運用については、環境庁が地球温暖化防止の観点から積極的に関与することによって国の政策の一体性・総合性を高めるように努めるべきである。このほか、政府においては、法によらない取組に関しても可能な最善の取組をすべく、地球温暖化防止行動計画等の見直しなど、その運用改善に最大限努力すべきである。
(2)法制度化が必要な事項等
ア. 温室効果ガスは、排出源が多様であるため、国、地方公共団体、事業者(非営利団体を含む。)から個人まで、全ての主体がそれぞれ自らの活動に伴う排出を抑制し、削減していくことを担保する仕組みが必要である。この仕組みに基礎を与えるため、6種類の温室効果ガスを定義した上、それら6種類の物質の排出を抑制し、削減することが社会構成員それぞれの責務であることを明らかにする必要がある。
(参考)主体別の排出量に関する統計は整備されていないが、発電に伴う排出量を電力需要者
に転嫁し、運輸部門もマイカーと事業用のものとに区分して1995年度における二酸化炭素排出量の内訳を見ると、企業等部門は全体の約8割、家庭部門は約2割である。企業等部門の内訳は、工場(産業、エネルギー転換、工業プロセス、産業廃棄物)が約5割、業務用の運輸部門(海運、貨物車、乗用車の30%、鉄道・航空・バスの50%)が1割強、国及び地方公共団体を含む事業場(民生部門の関係業務のすべてと一般廃棄物の50%)が1割強である。また、それぞれの部門の1990年度から1995年度の二酸化炭素排出量の伸び率は、工場が2%、業務用の運輸が12%、国及び地方公共団体を含む事業場の合計が16%であり、家庭は19%である。
また、今後に予想される排出量の増加は、対策が今日のままであるとすると、2010年時点で1990年比で企業等部門がおよそ4,300万炭素トン以上(90年比約17%)の増、家庭部門がおよそ2,200万炭素トン以上(90年比約38%)の増などと予想される(第2回国別報告書を基に推計)。
イ. 国民各界各層の取組は、社会全体として削減効果を高めるように組み合わせて進められるべきものであるので、取組全体のあるべき姿を基本方針として描き、これを示す必要がある。
基本方針では、温室効果ガスの排出の抑制のための基本的指針や各界各層の取組の実施に関する基本的事項を示すとともに、国、地方公共団体、事業者(非営利団体を含む。)、国民の相互の連携を図って温室効果ガスの排出量の削減に向けた協調的行動をとること、森林、都市等の緑の適切な維持及び拡大により温室効果ガスの吸収量を増大すべきことも示すべきである。
ウ. 温室効果ガスを大量に排出する者(国、地方公共団体、事業者)それぞれが、自らの活動に伴い発生させる温室効果ガスの排出抑制のために行う取組をアカウンタブルなもの(広く説明可能なもの)にするための措置に関する公正なルールが必要である。
- 国、地方公共団体については、その消費活動等が我が国の経済活動のうちの相当部分を占めることから、その活動による温室効果ガスの排出が抑制されるように、自主的に取組の内容を定める計画を立て、確実に実行する仕組みを作るべきである。
また、国の取組状況については、本審議会が客観的立場から点検するなどにより、その実効性の確保を図るべきである。
- 温室効果ガスの排出を伴う設備、機器の具体的な設置や管理は、工場・事業場単位で行われており、温室効果ガスの排出抑制のためには、工場・事業場における取組が不可欠である。したがって、相当量以上の温室効果ガスを排出する工場・事業場単位で、国や地方公共団体と同様に、自らの取組の内容を定める計画を策定して、これを実施することにより、着実に排出量を抑制していくことが重要である。なお、この場合、関連する制度の活用が適切に図られる場合には、いわゆる二重規制といったことにならないような配慮が求められる。
事業者が自主的な内容の排出抑制計画を策定する際には、工場・事業場を全国展開している企業のような場合には、生産の集約による生産の効率化等の企業単位の取組が有効な場合もある。そのような場合においても、工場・事業場の生産工程を最もよく知り、その取組を行うに当たっての判断の材料を提供できるのは、地域において操業している個々の工場・事業場の管理者である。具体的な排出抑制の取組は、ISO14001の認証制度の例を見ても、また省エネルギー法による省エネルギーの場合においても、工場・事業場単位で進められるものである。したがって、工場・事業場単位の取組を基礎として事業者の排出抑制計画を策定することが適切である。しかし、工場を全国展開している場合には、全国に展開する企業としての一体的な取組が評価されるような適切な方策について考慮すべきである。
- なお、工場・事業場からの排出量が多くない事業者にも、法で義務付けるものではないが、計画を策定することが奨励されるべきことは言うまでもない。
- 地球温暖化による気候変動に対しては、地球全体の問題であることを踏まえた全国共通の取組も重要であるが、国の施策だけで地球温暖化防止が図られるわけではない。既に、一部の地方公共団体において取組が始められているが、地球温暖化問題は地域の個々の発生源からの排出により生じているものであるから、地域の住民、事業者が自らの在住する地域において取り組むことが不可欠であり、また、地域住民と日常的に直接接触を持つ行政主体としての地方公共団体によるきめ細かな取組も地球温暖化防止対策の実施にとって重要である。さらに、工場・事業場単位での取組は地域におけるインフラストラクチャーの整備や環境対策の動向等の地域の特性に合わせて行う必要があり、これまで各地の事情に応じて展開されてきた地方の環境行政の経験から、地方公共団体に蓄積された豊富な情報やノウハウを活用する意義も高い。したがって、地球温暖化防止、特に京都議定書に定められた6%の削減目標を達成するには相当の対策も必要になることに鑑みれば、国のみならず、地方公共団体においても、事業者を含む地域住民への働きかけを行うことが考えられる。例えば、工場・事業場を単位とする当面の最大限の自主的内容の取組を地域の事情を踏まえつつ支援することなどについては、都道府県、政令指定都市がこれを行うことに不都合はなく、また、国に比べ効率的に行うことができると考えられる。また、このことは、事業者の取組の透明性の確保にも役立つ。
他方で、事業者の取組に選択の幅を持たせつつも全体として温室効果ガスの排出を抑制の方向に誘導するとともに、地域によって指導等の内容に不合理な差異が生じないようにするために、国が事業者の努力すべき方向を示すガイドラインを示し、公表することが重要である。国において温室効果ガスの排出の全国の状況を把握し、ガイドラインの適切な改正等が行えるような仕組みとするとともに、都道府県等においては、温室効果ガスの排出量を国全体として削減することが重要であることを認識しつつ、事業者に適切な助言等の支援を行うことが望まれる。
以上を要約すると、国が事業者の努力を誘導するガイドライン的な基準を策定し、都道府県知事等の指導や助言や支援の下で、事業者が自らの取組の計画を策定することや、その計画に基づいて取り組んだ成果を都道府県知事等に報告し、公表することなどにより、事業者の取組を全体として一層実効あるものとする仕組みにするのが適当である。さらに、都道府県知事等が、事業者による計画の実施について、上記ガイドラインに照らしつつ指導、助言、そして必要に応じて勧告を行うことなども、実効性を一層高める方策として考えられる。
- また、地域における中小零細な製造事業者、商店、事務所、ドライバーなどについても、都道府県知事等が、それぞれの活動の内容に応じたきめの細かい助言やルールづくり等を行うことも考えられる。
- 事業者は、地球温暖化防止に資するものであって、全国一律的に適用される国の施策にも対応しなければならない立場にあるので、地球温暖化防止を目的とする新たな法律等に基づく届出等の手続に伴う工場・事業場の負担を軽減するため、報告等の義務づけをするに当たっては、既存制度への対応に伴う事務と二重になることを避けるなどにより、事業者の事務作業量の増加を最小限にするよう工夫すべきである。このため、例えば、省エネルギー法に基づいて提出される報告データを環境当局において利用することなども考えられる。
- 工場・事業場単位の現場での取組に加え、事業者団体毎の全国レベルでの有意義な自主的取組についても、第三者的な立場にある者が審査を行うなど、取組の実施に関して透明性を高め、自主的取組の履行の確保と効果の発揮を促す必要がある。このため、本審議会において、事業者団体の負担が過重なものとならないよう配慮しつつ、定期的に各事業者団体の自主的取組についてヒアリングすることも考えられる。
- このほか、HFC等の化学物質に関する対策については、先端的な生産技術についての理解などが重要であり、これら物質を取り扱う事業者と環境行政部局の情報交換を一層緊密化することが望ましい。
エ. 消費活動等日常生活における温室効果ガスの排出は増加傾向にあるのでこれを抑制傾向に転換する必要がある。すなわち、地球温暖化防止のためには、現在の大量消費、大量廃棄型のライフスタイルを、環境への負荷の少ない環境にやさしいものへと切り替えていかなければならない。このため、{1}普及・啓発のための環境整備、{2}環境教育・学習関連施策の充実、{3}消費財の選択の際の具体的な判断材料の提供、{4}環境に負荷の少ないライフスタイルを実行しやすくするインフラストラクチャーや制度の整備を図る必要がある。また、{5}民間団体や事業者等による地球温暖化防止のための活動を支援し、広範な取組の促進を図る必要がある。
(参考)1995年度における二酸化炭素排出量について、家庭部門を見ると、マイカーなど運輸関係(乗用車の70%、鉄道・航空・バスの50%)が二酸化炭素の排出量全体の1割弱、家庭(民生部門のうちの家庭の全てと一般廃棄物の50%)が全体の1割強をそれぞれ占めている。また、これらの1990年度から1995年度の伸び率は、マイカーなどが26%、家庭が16%である。
- ライフスタイルそのものが温室効果ガスの排出量の増加に大きく影響していることに鑑み、地球温暖化防止のためにライフスタイルの見直しを進める目的から、国民への普及・啓発活動を効果的に進める体制を構築することとし、例えば推進員の委嘱や推進拠点の整備等の具体的な方策を全国各地で講ずべきである。
- 国民各界各層を通じた参加が一層促進されるよう、地球温暖化防止月間の創設等を図るほか、地球環境基金、国際ボランティア貯金等により、NGOの活動を支援する必要がある。地球温暖化防止への取組を国民に訴える自主的な運動の実施を支援し、事業者等の行う地球温暖化防止に資する事業活動の拡大に向けた自主的取組を奨励・支援する必要がある。
- 地球温暖化防止のためには、国民各界各層が環境とライフスタイルとの関わりについて理解し、環境にやさしい行動を身につけることができるよう、学校、地域、家庭、野外活動の場等多様な場において連携を図りつつ、環境教育・学習を推進することが必要である。また、その際、広報啓発活動等においては、安易な男女の役割の固定化につながらないようなことも必要である。
- また、企業人を含め地域住民それぞれの活動の内容に応じたきめの細かい普及・啓発、環境教育・学習を展開すべきである。その際には、地域における条例なども活用するよう積極的に検討すべきである。
- 大量に生産される消費財については、同種の製品の間でも、二酸化炭素の排出量のより少ないものを選択するよう適切な措置をとることが効果的である。例えば、国民が製品ごとに二酸化炭素の排出原単位を把握し、適切な選択が行えるように国が情報提供することが考えられる。また、積極的に排出量の削減に役立つ一方で相当の費用を要する太陽光発電装置等の普及促進のための措置を推進すべきである。
特に、各種温室効果ガスの排出増加の原因となっている自動車については、例えば、国民が自動車単体から排出される各種温室効果ガスの量を知った上で適切な選択を行えるよう、自動車から排出される各種温室効果ガスの量に関する情報を国民に示すことが考えられる。また、低公害車の普及促進のための補助、税制上の優遇措置等や、燃費の悪い車への経済的負担の増加等の経済的措置についても、適切なものとなるよう検討した上で、その推進、拡充を図っていくことも効果的である。
- 都市のインフラストラクチャーなどがライフスタイルに与える影響が大きいことに鑑み、環境にやさしい生活行動を促す観点からの都市づくり、公共サービスの制度などについても積極的な配慮が必要である。
- 地方公共団体が地球温暖化防止に進んで取り組むこととし、地域住民の取組の目標設定、都市づくりの事業などを始めとする様々な施策を盛り込んだ計画を定めるなどの動きがあり、その支援を図る必要がある。
オ. 地球温暖化防止を直接の目的としていない国の施策で運用上地球温暖化防止にも資するものがあることに鑑み、政府の行う規制、事業等の施策について、吸収量の増加に係る施策を含め、幅広く充実強化を図るべきである。あるいは施策を運用する上での地球温暖化防止の配慮を強化すべきである。
- 温室効果ガスの排出量や吸収量を増減させる国の施策や事業において温室効果ガスの排出を抑制する義務があることを明らかにする必要がある。また、温室効果ガスの排出抑制又は吸収増加に相当程度資すると期待される施策については、それによる削減効果の公表及び効果の一層の確保に向けた環境庁長官からの協力要請が必要である。
- 政府全体の環境保全予算の見積り方針の調整の活用など、予算における地球温暖化対策への配慮の強化が図られる仕組みが必要である。
- 公共交通機関の利用促進及び物流の効率化、交通対策の推進、渋滞解消のための道路整備などによる二酸化炭素排出量削減の誘導措置を強化する必要がある。また、木材生産の対象となる森林の適切な管理による吸収量の増加措置についても強化する必要がある。
カ. 気候変動枠組条約に盛り込まれた義務を履行するとともに、同条約に定められている究極的な温暖化防止の目的を達成するための取組の基盤を強化すべきである。
- 気候変動の予測精度のなお一層の向上のための研究、大気中における温室効果ガスの濃度、気候の変化の生活環境への影響の観測及び監視、地球温暖化による気候の変化及びその生活環境への影響の予測や評価に関する研究などを強化することが重要である。
- 温室効果ガスの排出量の削減又は吸収量の増加に関する技術など地球温暖化防止のための技術開発、技術評価の強化が必要であり、その支援体制についても強化することが重要である。
- 地球温暖化問題について市場メカニズムの一層の活用策、環境保全資金の確保のための世界的な革新的メカニズム等の新たな政策手段の活用による対策戦略を実践的に研究するなど、地球温暖化防止のための内外の政策の在り方についての研究の強化が重要である。
- 地球温暖化防止対策を将来に向けて充実させていくための基礎となるよう、関係各方面に分散している各種の情報を環境庁で集中的に活用できるようにすべきである。
- 先進諸外国及び開発途上国において行う具体的対策プロジェクトの実施や対策の充実についての協力を強化すべきである。