水質汚濁に係る人の健康の保護に関する環境
基準の項目の追加等について(第1次答申)

平成11年2月

中央環境審議会


目 次

1.はじめに

2.基本的考え方

2-1検討対象項目
2-2環境基準健康項目の基準値及び要監視項目の指針値の設定の考え方
2-3環境基準の適用に当たっての考え方

3.個別項目ごとの評価

3-1環境基準健康項目への移行を検討した項目
3-2要監視項目としての指針値の変更を検討した項目

4.測定方法

5.今後の対応

6.おわりに

別添1 検出率が高い7項目に関する毒性評価の詳細

別添2 環境基準健康項目の追加に係る測定方法


1.はじめに

環境基本法に基づく水質汚濁に係る環境基準のうち、公共用水域の水質汚濁に係る人の健康の保護に関する環境基準及び地下水の水質汚濁に係る環境基準(以下、「環境基準健康項目」という。)は、現在、それぞれ23項目について定められている。
また、人の健康の保護に関連する物質ではあるが、公共用水域及び地下水(以下、「公共用水域等」という。)における検出状況等からみて、直ちに環境基準健康項目とせず、引き続き知見の集積に努めるべきものが、平成5年3月に「要監視項目」として位置付けられ、現在フッ素、ニッケル等の25項目が定められているところである。これらの要監視項目については、継続して公共用水域等の水質測定を行い、その検出状況の推移を踏まえ、環境基準健康項目への移行等を検討することとされている。
要監視項目に係る水質測定については、環境庁が平成6年度から8年度にかけて行った全国調査によれば、一部の項目について、公共用水域等における指針値を超える検出事例が相当数見られている。
また、WHO(世界保健機関)は、平成5(1993)年の飲料水水質ガイドラインの一部の項目について見直しを行い、平成10(1998)年3月に同ガイドラインの一部改訂版を公表した。厚生省においても、平成4年の水道水質基準の項目追加以降、WHOにおける検討や環境庁におけるゴルフ場で使用される農薬による水質汚濁の防止に係る暫定指導指針の項目の追加等の動きを踏まえ、水道水質基準の見直しを視野に入れた検討を行っているところである。
このような状況を踏まえ、現在要監視項目となっている項目の環境基準健康項目への移行等の検討、及び要監視項目以外で新たにその毒性の問題が明らかとなってきた化学物質について、我が国における検出状況等を踏まえつつ、適切に対応するための検討が必要である。
以上の認識の下、平成9年5月14日に環境庁長官から諮問がなされた事項について、ここではまず、要監視項目のうち公共用水域等において比較的検出率が高い項目等13項目について、環境基準健康項目への移行等について検討した。本第1次答申はその検討結果をとりまとめたものである。その他の項目については、引き続き検討を行い順次答申としてとりまとめる予定である。
2.基本的考え方

2-1 検討対象項目

(1) 検討対象項目の範囲
本審議会では平成9年5月の諮問に関し、
@平成5年の環境基準改定時において「人の健康の保護に関連する物質ではあるが、公共用水域等における検出状況等からみて、直ちに環境基準とせず、引き続き知見の集積に努めるべきもの」として定められた「要監視項目」(25項目26物質)。
AWHO飲料水水質ガイドラインの対象物質であって平成10年に改訂または追加された物質(18物質)。ただし、我が国で登録されていない農薬など汚染の可能性のないものについては、検討の対象としない。
B新たにゴルフ場で使用される農薬として暫定指導指針が定められた物質(5物質)
を検討していくこととしているが、第1次答申においては、@のうち、平成6〜8年度の公共用水域等の調査において比較的検出率が高い10項目及び平成5年の設定当時からの状況の変化のため指針値の変更について検討する必要のある3項目の計13項目について検討を行った。

(2) 要監視項目から環境基準健康項目への移行についての考え方
平成5年1月の中央公害対策審議会答申「水質汚濁に係る人の健康の保護に関する環境基準の項目追加等について」(以下、平成5年答申という。)においては、環境基準健康項目は、「水環境の汚染を通じ人の健康に影響を及ぼすおそれがあり、水質汚濁に関する施策を総合的にかつ有効適切に講ずる必要があると認められる物質」とされている。
また、要監視項目についても、平成5年答申において、「人の健康の保護に関連する物質ではあるが、公共用水域等における検出状況等からみて、直ちに環境基準とせず、引き続き知見の集積に努めるべきもの」とされている。
こうした考え方に基づき、上記(1)において選定した比較的検出率が高い10項目に対して、毒性情報等の知見に基づき得られる人の健康の保護の観点からの指針値を勘案し、我が国における水環境中での検出状況、生産・使用の実態等を踏まえて要監視項目から環境基準健康項目への移行について検討した。
この際、水道水質に関する基準の設定状況も考慮しつつ検討を行った。
2-2 環境基準健康項目の基準値及び要監視項目の指針値の設定の考え方
環境基準健康項目の基準値及び要監視項目の指針値(以下、「環境基準値・指針値」という。)は、平成5年に要監視項目として設定された指針値をもとに、平成5年答申の基準値の設定の考え方を踏まえ、我が国や国際機関において検討され集約された科学的知見、関連する各種基準の設定状況等をもとに検討した。
まず、飲料水経由の影響(主として長期間の飲用を想定した影響)について は、WHO等が飲料水の水質ガイドライン設定に当たって広く採用している方法をもとに、他の暴露源からの寄与を考慮しつつ、生涯にわたる連続的な採取をしても健康に影響が生じない水準をもとに安全性を十分考慮するとの観点から毒性評価を行い、水道水質に関する基準の検討に際し採用されている考え方及びその数値も参考として検討し、さらにその上で、水質汚濁に由来する食品経由の影響(長期間の摂取を想定した影響)についても、現時点で得られている魚介類への濃縮性に関する知見を考慮して環境基準値・指針値について検討した。
なお、近年、環境中に存在するいくつかの化学物質が、内分泌攪乱作用(動物の体内のホルモン作用を攪乱することを通じて、生殖機能を阻害したり、悪性腫瘍を引き起こすなどの悪影響を及ぼす作用)を有するとの指摘がなされており、環境保全行政上の新たな重要課題の一つとなっている。この問題に関しては、人への影響を示唆する報告もなされてはいるが、報告された異常と原因物質との因果関係、そうした異常が発生するメカニズム等に関してはいまだ十分には明らかにされていない状況にある。したがって、今回の環境基準値・指針値の設定については内分泌攪乱作用についての評価は行っていないが、今後、科学的知見の集積が進み、内分泌攪乱作用についての評価が可能となった時点において、環境基準値・指針値の見直しが必要である。

2-3 環境基準の適用に当たっての考え方

(1) 基本方針
水質汚濁に係る人の健康の保護に関する環境基準については、健康への影響という観点から広く見た場合、飲料水経由の影響に加え、魚介類経由の食物摂取による影響、水域からの大気への循環等も考慮する必要があること、さらに、人の健康の保護に関する環境基準の設定が、実質的に水生生物等への影響を含め広く有害物質の環境汚染の防止に資することを念頭におくことが望ましいと考えられることから、これまでどおり河川、湖沼、海域を問わず全ての公共用水域に適用することが適当と考えられる。
また、地下水と公共用水域は一体として一つの水循環系を構成していることから、全公共用水域に適用している水質汚濁に係る人の健康の保護に関する環境基準の考え方と整合性が保たれるべきであり、地下水についても公共用水域に適用する環境基準と同じ基準を適用することが適当である。

(2) 自然状態で環境基準値を超える海域での特例
(1)の基本方針にしたがって全公共用水域に環境基準を適用しようとした際に、海域において自然由来で存在する物質が、適用しようとする環境基準値を自然状態での濃度で既に超えている場合がある。このような場合は、その物質の存在がもともと海そのものの性状であることから、当該物質を環境基準健康項目とする場合には海域に環境基準を適用しないことが適当である。

(3) 自然的原因による水質汚濁の取扱い
平成5年答申に示されているように、基準値自体は自然的原因の場合と人為的原因の場合とで異なる性格のものではないことから、(2)のような特別な場合を除き、自然的原因により環境基準健康項目が公共用水域等において検出される場所においても一律に適用することが適当である。
なお、公共用水域等において明らかに自然的原因により基準値を超えて検出されたと判断される場合には、測定結果の評価及び対策の検討に当たってこのことを十分考慮する必要がある。

3.個別項目ごとの評価

個別項目ごとに、以下のように評価することが適切である。
(検出率が高い7項目に関する毒性評価の詳細については別添1参照)

3-1環境基準健康項目への移行を検討した項目

硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素
Waltonら(1951)による硝酸性窒素濃度と乳児におけるメトヘモグロビン血症発生との関連に関する調査結果をもとに、水道水質基準も勘案し、指針値を現行のとおり硝酸性窒素と亜硝酸性窒素の合計で10mgN/lとする。
この指針値と公共用水域等における検出状況を比較すると、硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素は公共用水域等において比較的広くかつ高いレベルで検出されていることから、環境基準健康項目とする。
なお、定量的評価が定まっていないものの亜硝酸性窒素単独での毒性についても指摘されていることから、「硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素」で環境基準健康項目とすることにより行われるモニタリングの中で亜硝酸性窒素単独での濃度も明らかにし、公共用水域等における亜硝酸性窒素単独での状況の把握に努めることが重要である。

フッ素
斑状歯発生の予防の観点から、水道水質基準も勘案し、指針値を現行のとおり0.8mg/lとする。
この指針値と公共用水域等における検出状況を比較すると、フッ素は公共用水域等において比較的広くかつ高いレベルで検出されており、海域以外でも指針値を超えるレベルで検出されているところがあることから、環境基準健康項目とする。
なお、海域におけるフッ素は2-3(2)の特例に該当することから、海域には環境基準を適用しないこととする。また、海域以外においても、汽水域において明らかに海水の影響により基準値を超過した場合、その他明らかに自然的原因により基準値を超えて検出されたと判断される場合には、測定結果の評価及び対策の検討に当たってこのことを十分考慮する必要がある。

ほう素
Price(1996)によるラットの生殖毒性試験をもとに、現行の指針値の根拠であるTDI(1日耐容摂取量)0.088mg/kg/dayを0.096mg/kg/dayに変更し、さらに、厚生省が平成6〜9年に行ったマーケットバスケット調査(日常摂取する各種の食品(約90種類)を市場(マーケット)より購入し、各々の平均摂取量を試料として、食品経由の各汚染物質のヒトへの暴露量を明らかにする調査)の結果を踏まえて飲料水経由でのほう素の暴露寄与率を40%として、指針値を現行の0.2mg/lから1.0mg/lに変更することとする。
この指針値と公共用水域等における検出状況を比較すると、ほう素は公共用水域等において比較的広くかつ高いレベルで検出されており、海域以外でも指針値を超えるレベルで検出されているところがあることから、環境基準健康項目とする。
なお、海域におけるほう素は2-3(2)の特例に該当することから、海域には環境基準を適用しないこととする。また、海域以外においても、汽水域において明らかに海水の影響により基準値を超過した場合、その他明らかに自然的原因により基準値を超えて検出されたと判断される場合には、測定結果の評価及び対策の検討に当たってこのことを十分考慮する必要がある。

フタル酸ジエチルヘキシル
Morton(1979)によるラットの亜急性毒性試験をもとに、指針値を現行のとおり0.06mg/lとする。
なお、フタル酸エステル類については内分泌攪乱作用の疑いがあるとされ、この方面からの検討も必要ではあるが、現在のところまだ十分な知見が得られていないと判断されることから、今回は内分泌攪乱作用に関する評価は行っていない。
この指針値と公共用水域等における検出状況を比較すると、フタル酸ジエチルヘキシルは指針値超過地点は1地点であり、また、全体的に検出レベルは低く、水道水質に関する基準において監視項目とされていることも勘案すると、全国的な対策を取る必要はないと考えられる。したがって、環境基準健康項目には移行せずに引き続き要監視項目とする。
なお、1地点とはいえ指針値超過地点があることから、要監視項目として発生源の存在状況を考慮しつつ重点的なモニタリングを行い、指針値超過地点が見つかった場合には、地方自治体においてその発生源を把握し、地域の実情に応じて個別に対応をとることが重要である。

モリブデン
Chappellら(1979)によるヒトでの調査をもとに、指針値を現行のとおり0.07mg/lとする。
この指針値と公共用水域等における検出状況を比較すると、モリブデンは指針値超過地点が3地点であり、また、自然状態でモリブデンが含まれている海水の影響を除けば全体的に検出レベルは低く、水道水質に関する基準において監視項目とされていることも勘案すると、全国的な対策を取る必要はないと考えられる。したがって、環境基準健康項目には移行せずに引き続き要監視項目とする。
なお、3地点とはいえ指針値超過地点があることから、要監視項目として発生源の存在状況を考慮しつつ重点的なモニタリングを行い、指針値超過地点が見つかった場合には、地方自治体においてその発生源を把握し、地域の実情に応じて個別に対応をとることが重要である。

ニッケル
現行では、Ambroseら(1976)によるラットの2年間慢性毒性試験をもとにTDIを0.005mg/kg/dayとしているが、これは定量的評価を確定するには十分な試験ではなく、WHOが平成10(1998)年の評価において暫定的な値としたことも勘案し、暫定的なTDIとして0.005mg/kg/dayとする。これより、従来の飲料水経由の摂取の観点から指針値を導くとすると、現行のとおり0.01mg/lとなる。
しかしながら、毒性についての定量的評価を確立するには十分な試験結果がない状況で指針値を示すことは、不確定な毒性評価をもとに環境中の存在状況について適切とはいえない評価を誘導する可能性があることから、これを考慮してニッケルについてはこれまでの指針値を削除する。
なお、定量的評価が定まっていないとはいえある程度の毒性があることがわかっている本物質が公共用水域等において比較的広く検出されていることから、引き続き要監視項目として発生源の存在状況を考慮しつつ重点的なモニタリングを行い、毒性評価が固まった時点で環境中の存在状況を評価し環境基準健康項目への移行について迅速に検討することが必要である。

アンチモン
現行ではSchroederら(1970)によるラットの生涯試験をもとにTDIを0.86μg
/kg/dayとしているが、これは定量的評価を確立するには十分な試験ではなく、暫定的なTDIとして0.86μg/kg/dayとする。これより、従来の飲料水経由の摂取の観点から指針値を導くとすると、現行のとおり0.002mg/lとなる。
しかしながら、毒性についての定量的評価を確立するには十分な試験結果がない状況で指針値を示すことは、不確定な毒性評価をもとに環境中の存在状況について適切とはいえない評価を誘導する可能性があることから、これを考慮してアンチモンについてはこれまでの指針値を削除する。
なお、定量的評価が定まっていないとはいえある程度の毒性があることがわかっている本物質が公共用水域等において比較的広く検出されていることから、引き続き要監視項目として発生源の存在状況を考慮しつつ重点的なモニタリングを行い、毒性評価が固まった時点で環境中の存在状況を評価し環境基準健康項目への移行について迅速に検討することが必要である。

フェニトロチオン
平成5年に設定した指針値0.003mg/lと公共用水域等における検出状況を比較すると、公共用水域等における検出率は比較的低く、指針値超過地点は1地点であり、農薬による影響は時期が限られていることを考慮して環境基準健康項目には移行しないが、引き続き要監視項目として年間を通した濃度が適切に評価されるようにモニタリングを行う必要がある。
イソプロチオラン
平成5年に設定した指針値0.04mg/lと公共用水域等における検出状況を比較すると、公共用水域等での検出率は比較的低く、検出レベルも比較的低いことから、環境基準健康項目には移行せずに引き続き要監視項目とする。

イプロベンホス
平成5年に設定した指針値0.008mg/lと公共用水域等における検出状況を比較すると、公共用水域等における検出率は比較的低く、指針値超過地点は3地点であり、農薬による影響は時期が限られていることを考慮して環境基準健康項目には移行しないが、引き続き要監視項目として年間を通した濃度が適切に評価されるようにモニタリングを行う必要がある。

3-2要監視項目としての指針値の変更を検討した項目

クロロタロニル
平成5年の指針値策定以後、農薬登録保留基準改正に当たりADI(1日許容摂取量)が0.015mg/kg/dayから0.018mg/kg/dayに変更されたことを踏まえ、指針値を0.04mg/lから0.05mg/lに変更する。

ジクロルボス
平成5年の指針値策定以後、食品衛生調査会がADIを0.004mg/kg/dayから0.0033mg/kg/dayに変更したことを踏まえ、指針値を0.01mg/lから0.008mg/lに変更する。

フェノブカルブ
平成5年の指針値策定以後、食品衛生調査会がADIを0.006mg/kg/dayから0.012mg/kg/dayに変更したことを踏まえ、指針値を0.02mg/lから0.03mg/lに変更する。

4.測定方法

今回環境基準健康項目に移行する項目の測定方法は、別添2「環境基準健康項目の追加に係る測定方法」によることが適当である。
なお、引き続き要監視項目としたものについては、測定方法についても引き続き平成5年答申のとおりとすることが適当である。

5.今後の対応

諮問事項に対し、これまでの要監視項目の検出状況について評価し、要監視項目のうち比較的検出率が高い項目等について、毒性に係る最新の科学的知見を集約すること等により検討を行い、その結果を以上のようにとりまとめたが、最近の化学物質の開発及び利用・普及は急速にかつ幅広く進展しており、また化学物質の環境中での挙動、人の健康への影響のメカニズム等はなお未解明の部分も多い。したがって、これらの化学物質による人の健康への影響の未然防止の徹底のためには、関連する科学的知見の集積・評価が不断に行われ、その結果が施策に的確に反映されることが極めて重要である。特に環境基準は国及び地方公共団体における環境政策の根幹をなすものであり、科学技術の進展、国民生活の向上、国民意識の変化等にも留意しつつ、国民の健康と生命を守り生活環境を保全する上で、また将来の世代も含めて国民が健全で恵み豊かな環境を享受していく上で適切なものとなるよう、その枠組みや運用の面も含め、常に改善を図っていく努力が必要である。
以上を踏まえて、以後、次の課題に十分留意することが重要である。

(1) 環境基準等の継続的見直し
環境基準健康項目及び要監視項目全般について、今後とも新たな科学的知見等に基づいて必要な追加・削除等見直し作業を継続して行っていくべきである。
そのためには、健康影響等に関する科学的知見の集積はもとより、環境中に存在する可能性のある物質の抽出とその環境中における存在状況の体系的な把握が不可欠である。国は、地方公共団体、各種研究機関と連携し、また国際的な研究・情報のネットワークにも積極的に参加し、さらに既存の調査体系との整合にも留意しつつ、化学物質に関する調査研究の推進、知見の体系的な集積とその評価のための体制の整備を行うべきである。その際、水以外の媒体も含めた、より総合的な有害物質対策の実施に向けての一層の前進が望まれる。

(2) 今回、環境基準健康項目に移行することとした項目に係る今後の課題
ほう素及びフッ素については、海域における濃度が自然状態で指針値を超えていることから、環境基準を海域には適用しないことが適当であるが、これは人為的負荷を許容したという意味ではないことに留意する必要がある。すなわち、海域での濃度が大幅に増加することが環境保全上望ましいとは言えないことから、自然状態の濃度を大幅に上回らないような対応を検討する必要がある。

硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素については、環境への排出源が工場・事業場のみならず、生活排水、家畜ふん尿、施肥等かなり広範・多様であることから、今後の対応に当たってはこれらを十分考慮する必要がある。また、窒素は動植物の生育に必須な元素であり人の生活と密接な関わりを有していること及び窒素化合物は環境中で循環しつつ形態を変化させており、その過程で亜硝酸イオンや硝酸イオンに変化することがあることについても考慮する必要がある。

6.おわりに

本答申では、諮問事項に対し、要監視項目のうち比較的検出率が高い項目等のみについて検討を行い、結果をとりまとめているが、引き続き、要監視項目の残りの項目についても評価を行い、要監視項目からの除外を含めて今後の取り扱いについて検討を行う必要がある。また、WHOや我が国における水道水質基準等の最近の動向を踏まえ、要監視項目への新たな項目の追加についても検討を進める必要がある。