1.日時
平成17年11月21日(月) 10:00~12:30
2.議題
京都議定書に基づく国別登録簿制度を法制化する際の法的論点の検討
3.議事内容
会議及び資料は非公開で行われ、議論がなされた。
○主なコメント
【クレジットの法的性質について】
- クレジットは、他人の行為を引き出すことはないため、債権ではない。無体物なのか有体物なのかということなのだが、知的財産権的な無体物なのかどうかということについては詰める必要がある。他方、有体物とすれば、特定物か非特定物かという議論になる。クレジットは、シリアル番号が付される点で個性があるので、特定物的な色彩が強い。クレジットに占有が観念できないという話があるが、準占有(民法第205条)的に捉えればよい。特定動産的なイメージ。
- クレジットは、シリアル番号により特定可能であるものの、特定しなくてもよい。テレビに付いている製造番号みたいなものであり、製造者が特定しようと思えば特定できる程度の話。
- 現段階で、クレジットを動産扱いしてもらわないと困るのは、準拠法の関係の整理。法例第10条では動産について準拠法を所在地法とする一方、法例第12条では債権について準拠法を債務者の住所地法としており、現状では裁判管轄の問題が明確に整理できない。また、今後、クレジットの関係でどのような問題が発生するか想定できず、何か問題が発生した場合にクレジットをどういう存在として捉えるのか、裁判準則となるべき基準が必要。動産扱いという整理は、必ずしも条文上でなされなくてもいい。最低限、クレジットが財産権的な存在であることが分かればよい。ただ、哲学としてクレジットを動産的に考えるということが検討会の議論の結果として残すことができれば、裁判の際に援用できる。
- 不明確なところは、今後、学説として固めていけばよく、すべてについて明文の規定が必要というわけではない。
- 現時点で、クレジットを動産とみなす意義は乏しいのかもしれない。クレジットの移転の原因行為は売買契約であり、取引については、民法555条以下の売買に関する規定を準用すればよい。クレジットが財産権であると必ずしも明示しなくてもよい。
- 種苗法の育成者権、半導体集積回路配置法の回路利用配置権などの無体財産権が参考になるのではないか。これらは限定的に権利性を条文に書いている。
- 強制執行との関係で、民事執行法第167条の準用という案があるが、第167条準用ですべてがきちんとワークするわけではない。ただ、第167条以外の部分を今後の運用に委ねることは可能。
【クレジットの取引の安全の確保について】
- 国別登録簿制度を法制化し、登録を効力発生要件と構成することは民間事業者にとって取引の阻害要因になるという懸念があるが、むしろ、それは手数料の高さによるところが大きい。自分が保有するクレジットを登録せず、法的に不安定な状態のままにしておく民間事業者はいない。
- 仮に振替社債制度のように中央のシステムを整備する話になれば、行政としても膨大なコストがかかるのではないかという懸念があるが、システムとしては中央のシステムを置くものと、そうではないものと複数ある。効力発生要件で構成するから中央のきちんとしたシステムが必要という話ではない。
- クレジットについて、できれば質権が設定できた方がいいが、譲渡担保や担保目的信託でも対応できる。マラケシュ合意では質権云々の話はされておらず、国際的に今後検討される課題という整理ではないか。
- マラケシュ合意では「legal entity」が口座を設置できることとされており、この用語の解釈が問題となる。厳密な意味の法人よりも緩いのかもしれない。ファンドなど有限責任事業組合は含めるのかどうか。マラケシュ合意では自然人の口座設置を排除しているわけではないので、法文上は、自然人が含まれるような書き方でもよい。
- クレジットの登録の効果を効力発生要件とする理由は、対抗要件という概念が海外で通用しないので、必然的に効力発生要件として構成するということ。海外で効力発生要件として構成しているのかどうか必ずしも把握できていないが、対抗要件という概念を認めないのであれば、当然、効力発生要件的に考えているはず。日本の国内法制的には、対抗要件か効力発生要件のどちらかに整理しないと、裁判の際に混乱が生じる。法文上に何も書かないと、原則どおり意思主義→対抗要件主義となるが、電子上でのみやり取りされるクレジットについてわざわざ対抗要件主義を取る意義が見いだせない。
- 効力発生要件と考えるのかどうかについては、本来はマラケシュ合意上で規定されるべき話であり、日本が効力発生要件と規定することにより他国よりも突出してしまうという懸念はある。しかし、マラケシュ合意で規定がない以上は、独自対応せざるを得ない。
- クレジットの売買契約の約定と国別登録簿上の登録との間にタイムラグが生じるという話で、将来的に取引量が増加した場合にはそのタイムラグを縮める方策を検討しなければならないが、法制度というよりは、システムの問題であり、取引量の増加に応じてシステムを強化していくだけの話。
- CDM登録簿から新規発行のクレジットを受け取るという行為をどのように整理するのかについては、マラケシュ合意では明確になっていない。原始取得だと考えているが、承継取得なのかもしれない。技術的な話なので、法文上でどうこうという話ではない。
- 善意取得があり、国別登録簿上のクレジットの総量が増加した場合の国の責任について、その中身として償却責任なのか損害賠償責任なのかを考える必要がある。同じシリアル番号のクレジットを誤って2つ登録してしまった場合はどちらかを償却しなければならない。クレジットの個性を重視すれば償却責任となるが、かなりの部分は損害賠償だろう。そこまで個性を重視する話でもない。国の過失の推定規定を置けばよい。
- 海外法人が日本の法人にクレジットを譲渡する際、譲渡人が申請するという整理にすれば、海外法人が日本政府に申請しなければならないおそれがある。譲渡人が代理人を設定して、委任状を持たせて申請させるということは考えられる。ただ、外国政府と日本政府とに2回申請させられるのは民間事業者としては面倒くさい。国際取引ログ等でクレジットの真正が確認できることを前提に、「海外からクレジットが移転する際には、譲渡人の申請があったものとみなす」という整理でもよいのではないか。二重申請を防ぐ方法を考える必要がある。この話は、手数料を誰から徴収するのかという議論とも関係する。
- 日本法人を中心に考えるのであれば、海外からクレジットが入ってくる際には譲受人が申請し、海外へクレジットが出ていく場合には譲渡人が申請するということになるのかもしれない。