■議事録一覧■

中央環境審議会 自然環境・野生生物合同部会
生物多様性国家戦略小委員会(第2回)


平成13年11月13日(火)

午後2時30分開会


●自然環境計画課長(小野寺) 時間がまいりましたので、中央環境審議会、自然環境・野生生物合同部会第2回生物多様性国家戦略小委員会を始めたいと思います。
 議事に先立ちまして、自然環境局長よりごあいさつ申し上げます。

●自然環境局長(小林) 自然環境局長の小林でございます。先生方には、お忙しいところ本当にありがとうございました。今日は、第2回の小委員会でございます。第1回のしょっぱなから3日間にわたりまして、それもまた合計で16時間という非常に長時間に及ぶ関係省庁からのヒアリングにご参加いただきまして、本当にありがとうございました。 年度内の改訂ということで、新生物多様性国家戦略をつくるという目標のもとに動いているものですから、非常にタイトなスケジュールで、お忙しい先生方を煩わせ申し上げて、大変心苦しく思っています。前回の各省庁のヒアリングの成果も踏まえまして、これから戦略の内容について本格的な議論がまたこれから始まるということでございまして、ますますお忙しいことと思います。
 本日は、生物多様性に関する課題、それから戦略見直しにかかわる論点について整理をするということを目的にして、第2回目の開催を予定してございます。活発なご議論をよろしくお願い申し上げます。
 年度内の見直しということでございまして、頻繁にこの小委員会を開催することになると思います。本当に申しわけなく思いますけれども、今後ともどうぞよろしくご指導お願い申し上げまして、ごあいさつにかえさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

●自然環境計画課長(小野寺) 議事の進行につきましては、辻井委員長よろしくお願いいたします。

●辻井委員長 第1回小委員会につきましては、熱心なご議論をいただいてありがとうございました。各省ヒアリング、今も小林局長からお話があったように、3日間にわたってヒアリングにご参加いただいてありがとうございます。私、最後の1日は出られませんで失礼いたしましたけれども、先日、委員長名で各省に追加の質問書を出しました。この質問に関する今後の取り扱いについて、どうなるかということから始めたいと思いますので、事務局から説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

●自然環境計画課長(小野寺) お手元の資料の中でA4の2枚組みの中程に「追加質問事項」と書いてあるものを事務局と委員長とご相談させていただきまして、既に先週、各省庁にお願いをいたしております。一応、11月いっぱいに答えをもらうようにしておりまして、またこれも委員長と相談させていただいて、集めたものをできるだけそのままの形で早い機会に、この委員会にご提出したいと思います。
 ヒアリング、追加質問に関するスケジュールは以上でございます。

●辻井委員長 どうもありがとうございました。ということで、質問への回答というのでしょうか、11月中にあるだろうということでございますから、ひとつご承知置きをいただきたいと思います。
 さて、今日ですけれども、生物多様性に関する課題見直しの論点を議題にしてありますが、まず、先日のヒアリングについて、3日間全体についてのご感想などを伺ってから始めたいと思います。論点についての議論・ご意見は、後ほど改めて議題として、そのときにご発表いただければと思いますが、ヒアリングに関してのご感想というようなところから、何でも結構でございますが、まずそれを伺いたいと思います。いかがでしょうか。
 服部委員、いかがでしょうか。

●服部委員 服部でございます。ヒアリングの初日の冒頭に、瀬田委員の方から、スケジュールの中で、バイテクの話が随分あるというご指摘があって、私はそのとき余りよくわからなかったんですけれども、ヒアリングをしている中で、特に各省でバイオテクノロジーの展開みたいなものが随分ありまして、生物多様性を保全するという立場から言うと、バイオテクノロジーをどんどん開発して研究していく、それを発展的にやるというのは、どうも違和感があるなと思いました。
 一昔か二昔前に、プラスチック製品がどんどん出てきて、化学的、人工的なもので、むしろ生物多様性というのは阻害された部分が結構あったんじゃないか。そのプラスチックを分解するバクテリアなどの開発のために、人工的にDNAを変えたバクテリアみたいなものを開発していく。それをどんどんやるといった趣旨の話があったと思うんでが、これは生物多様性の戦略としては、どういうふうに位置づけられるのかなと思うんです。
 今日の資料を拝見していますと、バイテクなんかについては、十分に保全するなりしながら、利用という観点も必要というようなことが書いてあるんですけれども、まず保全の部分が重要であって、その開発が行け行けどんどんみたいな形が見受けられた。ヒアリングの中でそういう印象を私は持っているんですけれども、そのあたりを注意しなければいけないんじゃないかなというふうな気がしております。以上でございます。

●辻井委員長 どうもありがとうございました。まず保全というのが先にあって、というべきではないかというご感想だったわけですけれども、ほかに、どうぞございましたら。 いかがでしょうか。阿部先生どうぞ。

●阿部委員 今のご指摘は、まさにそのとおりだと思うんですが、遺伝子をいじるというのは、要するに遺伝子の多様性を壊すということですから、いじり方が多い少ないにかかわらず、要は多様性を壊すということには変わりないわけですから、まさに今のご指摘のとおりだと私も感じました。
 しかしこれは、一度進化に手を突っ込んでしまったわけですから、人間がかき回すようになってしまったんですから、どうコントロールするかということだと思うんです。ただ、なかなか一度手を突っ込んでしまってかき回し始めたら、もう際限はないのではないかという気もするんですが。ヒトという種の内部に関しては、かなりいろいろ規制がありますけれども、それ以外のものに関しては、どこまで行くんでしょうか。余り私は楽観はしていない、むしろ悲観的です。以上です。

●辻井委員長 どうもありがとうございました。
 ほかにいかがでしょうか。今の問題に限らず、どうぞご感想をいただければと思います。
 渡辺委員、どうぞ。

●渡辺委員 日本の緑というんでしょうか、自然というんでしょうか、大部分は国土の3分の2を占めると言われている森林ですけれども、農水省のヒアリングのときにも申しましたが、この森林は、一口に言えば、国有林も公有林も民有林も荒れている。どういうことを言いたいかといいますと、国家戦略を策定するに当たって、今日も冒頭に「現状」と書いてあります。どうも、いろんな事情で森が荒れている結果、私は生物多様性にも、かなりマイナスの影響が出ているんじゃないかなという気がするんですが、その辺の分析が、第1次の国家戦略をよく見たわけではございませんけれども、少し突っ込み不足なんじゃないだろうかという懸念を抱いております。
 それから、ずっと3日間伺っておりまして、主として岩槻先生から用語、言葉の使い方について、「もうちょっとこんなふうに言った方が、より適切じゃないか」というようなご指摘があったと思いますけれども、第1回の国家戦略のときには、こういう審議会の場で時間をかけて議論するということがなかったのではないかなと。そういう点も含めて、第1次の今の国家戦略がまずいということではなくて、必ずしも十分でない点は補うような方向で、よくご検討いただければというのが私の感想です。

●辻井委員長 どうもありがとうございました。
 用語の問題は確かに非常に重要だと思います。例えば、全く違うふうに解釈してということになりますと、それこそ、この前の各省のヒアリングもそうですけれども、同じ言葉を全く違うふうに解釈しているとすれば、答えが違ってくるというのは当然のことになります。十分に気をつけなければいけない問題だと思いますし、それこそ、これをまとめる我々の方でも、それは初めにきちんとしておかなければいけないというふうに私も思います。ありがとうございました。
 どうぞ。

●和里田委員 各省のお話を聞かせていただいても、必ずしも生物多様性ということに真っ向から取り組んで立ててきている政策をご紹介いただいたという印象が非常に薄くて、これまで環境問題という視点で取り上げてきた政策をご披露いただくというのが、かなりの部分であったような感じで、それぞれの省庁が、もう一度、生物多様性という観点で、どう取り組んでいくのかという視点で、それぞれの政策をおつくりになるという大事なときに来ているのではないかという感じがいたしました。

●辻井委員長 どうもありがとうございました。
 ほかにいかがですか。森戸委員、お手をお挙げになりました? どうぞ。

●森戸委員 感想としては、各省庁のヒアリングをやったということ自体は、今おっしゃられたように生物多様性に正面からかかわっているわけではないけれども、広い意味の環境を配慮しながら政策をやっているということを、各省庁がデモンストレーションをした部分もあるし、一部では、この委員会に敬意を表したのか、気にして、「環境省と連携しています」という断り書きをしながらやっていましたね。気になるとすれば、それぞれの省庁のフィールドの中で、場合によれば同じことをやっているわけです。ですから、だんだん重複が出てくるんだろう。
 全く同じことをやっているのなら、かえっていいのかもしれないけれども、適当にずれていながら、しかし同じようなことをやっているというのは、いろいろこれから問題が起こるのではないか。これは、省庁間の問題もありますから簡単にはいかないんでしょうけれども、ある種の連携を基本にした、シンボル的なプロジェクトでも提起して、そういう方向性をはっきり打ち出した方がいいのかなという印象を持ちました。

●辻井委員長 ありがとうございました。
 言ってみると、一つは今のご感想で、私もそう思うんですけれども、どこが何をやっているのかという一覧表みたいなもの、それこそ用語を違って使っている場合もあるかもしれませんけれども一覧表みたいなものにして、つないでみるというのでしょうか、ということも必要なのかなと思います。
 ほかにいかがでございましょう。どうぞ、瀬田委員。

●瀬田委員 前回の多様性国家戦略、それから3日間のヒアリングというところは、いろいろなテーマを各省の視点で束ねたといいますか、縦糸みたいなもので、多分、今度はこれだけのヒアリングをして、その俎上に乗っけていろいろと話をされるんですから、横糸があって織物になるんだろうというふうに思います。きっと小野寺課長ですから、そうした織物を織ってくるんだという期待をしておりますけれども。
 もう一つ、私がわからないのは、生物多様性というのは、「葵の紋所」なのかどうか。いつもそのことを言えば、お経のようにといいますか成り立っているのかどうかというところが若干疑問でして、前回も篠原委員は、例えば都市の中でも、もちろん岩槻先生がおっしゃったように生物多様性という視点が必要だけれども、そのことだけにこだわるのではない都市生活があったりなんかするという、場所場所での一つの組み合わせといいますか。ですから、そのものの織り方が、その場所によって違うといいますか、そういうことがあるというふうに、この計画論としてお考えになるのか、やはり一つの思想として、生物多様性ということをいかにして小さな家庭から地球まで全体に思想として統一をするのか、その辺のところの心配というよりも展開を少し考えてみたいと思います。

●辻井委員長 どうもありがとうございました。
 ほかにいかがですか。
 どうぞ、三浦委員。

●三浦委員 3日間のヒアリングを通して、平成7年度に策定した前回の多様性国家戦略の設定時と比べて率直な感想を言わせてもらいますと、私自身は非常に大きな危機感を持ちました。それで、この国の自然環境と生物多様性が、今後ますます減少していくのではないかというおそれを非常に感じました。
 しかも、前回と違う質を持っているのは、そういう各開発、あるいは生態系の変更なり改変なりというのが、かなり生物多様性という、非常に悪い言い方をすれば、生物多様性という葵のご紋を掲げながら、実質的には生物多様性を喪失させる行為を、ますますエスカレーションしていく状況にあるのではないか。
 渡辺さんに最初のオリエンテーションのときにしていただきました、例えば干潟は昭和20年代に比べて40%近くが消失したといったようなことも、これ自体も幾つかの特定のところを残しながらも、まだまだ消失するだろうし、人工海岸は、本土の全海岸線の40%にも達しているというのも、今後もまだ進行するだろうと思うし、自然河川は皆無に近いといったような現状把握も、ますます悲観的であるという。
 我々は今の自然環境、生物多様性それ自体も、決して先進一流国の陣容からいけば十分な陣立てであるととてもじゃないけれども言えない現状にある中で、こういう最低ラインをどう死守すべきかというところが、非常に大きな課題なのではないかということを感じました。これのモラトリアムを何か作っていく必要があるのではないか。それは、生産系の中に一定の自然破壊が含まれることは当然の話なんですが、とはいうものの、少し度を超している、歯車の回転がとまっているという印象は受けませんでした。

●辻井委員長 ありがとうございました。
 ほかに、どうぞ鷲谷委員。

●鷲谷委員 今の三浦委員のご発言とも多少関連があるかもしれませんけれども、生物多様性という言葉の中に、もともと多様な内容を含んでいて、使う人によってイメージするものが随分違うというところもあるんじゃないかと思いますが、保全生態学という立場から考えますと、やはり東アジアとか日本に固有な種であるとか、特有な生態系を失わせないということが一番重要な目標だと思いますし、それをすることによって、私たちにとっての健全な生態系も持続させられるというふうに思っているんです。
 そういうことを考えると、まだそういうことに本当に有効に寄与し得る、生物多様性というムードの中には入っているのだけれども、そういうことに有効に寄与するような方針というのは十分ではないというか、それを明確な形で持っている、それに寄与するような方針は出てきているとは思うんですけれども、うまく使えば寄与する方針は出てきていると思うんですけれども、明確な形で持っているところが少ないということがありまして、三浦委員もすごく心配していらっしゃいますが、私も野生の植物の生活を見ている目から言うと、衰退傾向とか絶滅のトレンドというのは、とまっていないどころか、ここのところ加速されているような印象もあるんです。
 それで、ぜひこの生物多様性国家戦略の中には、そのトレンドをとめるような、ほかの国がどのくらいそのような方針を持っているかどうかわからないんですけれども、種とかハビタットを具体的に指定して、回復計画みたいなもの、アクションプランですか、そういうものを、この中でつくるというよりは、この中でもできるのかもしれませんけれど、仕組みをつくれたらというふうに思いました。
 それから、森林に関してなんですけれども、自然との共生林というような枠組みができたりはしているように思うんですけれど、まだまだ面積が少ないですし、日本はもともと森林の国ですけれども、本来の森林を住みかにしている動植物の保全ということが十分にできるかどうか、まだ心配な面があると思いますのと、それから、温暖化との関連で、森林というのが吸収源としてかなり期待されているようなんですが、そのことと関連して、また問題が起きてこないかというふうな感じがします。と申しますのは、原生的な森林というのが吸収源としては役に立たないわけですから、吸収源として役に立つ林をつくるとしたら、伐採をして、植林ということになります。二酸化炭素の吸収だけを重視するとすれば、成長の速い樹木ということで、外来樹種の植林地がふえたり、あるいは、吸収能力の低い森林というのを伐採することが奨励されたりというようなことになると、それは二酸化炭素の吸収ということだけに関しては寄与するかもしれませんけれども、生物多様性やそのほかの環境の問題を解決するということを考えると、かなりマイナスになる面もあって、森林に関しては、そういうようなことを、これから注意していかなければならないという印象を強く持ちました。

●辻井委員長 どうもありがとうございました。既に今のお二人のご感想は、今日の論点に入っているんじゃないかと思います。もしよろしければ、本日の議題としております「見直しの論点について」というところに入りたいと思いますが、よろしいでしょうか。 それでは、本題と申しましょうか、本日の議事に。感想は一応伺いました。論点のところで、この前に引き続き、いわゆるヒアリングにおけるさまざまに提示された問題等に触れていただいて、もちろん結構でございます。そういうことで、先に進みたいと思います。
 事務局から、まず資料集に基づいて、説明を受けたいと思います。よろしくお願いいたします。

●生物多様性企画官(渡辺)自然環境計画課の渡辺でございます。失礼して着席させていただいて説明していきたいと思います。
 お手元の資料1でございますが、戦略の見直しに際しまして、事務局としてご議論いただきたい点を挙げてみた1枚紙の資料です。もう1つ資料2は、現行の戦略を要約したものでございます。もうひとつのお手元の冊子は、小委員会の資料集ということで、本日及びこれからの小委員会の検討でいろいろ参考にしようということで、参考資料として作成をしたものでございます。この冊子の資料集も使いながら、自然環境の現状あるいは保護制度の施策の現状、課題といったものについて説明をしつつ、資料1に挙げました見直し論点の各項目について説明をしていきたいと思います。
 この資料1に挙げました項目は、事務局としてご意見を伺いたい点を大まかに拾い出したものでございますが、こういった項目に限らずに、戦略見直しに絡んで重要な点について、本日、幅広くご議論をいただければというふうに考えております。
 初めに資料2の束で、「現行戦略の要約」でございます。現行戦略でございますが、平成5年、条約発効を受けまして、平成7年に策定されております。4部からできていて、
1部が「多様性の現状」、2部が「保全と利用のための基本方針」、3部が「施策の展開」、4部が「戦略の効果的実施」というふうになっています。全体を見渡して、特徴として、条約に素早く対応して条約発効から2年足らずで戦略をつくったということ。それから、生物多様性という新しいキーワードのもとに、各省が初めて同じテーブルについて連携をしながら作業を行ったということ。それから、それを受けて条約の構成に沿って、できるだけ抜けのないように各省の取り組みを整備したということ。多様性の現状として、タイプ別あるいは地域別に生態系の特徴の記述を試みたことなどが挙げられます。
 また、その一方で、条約の構成に準拠して、各省の施策が並列的に記述をされていて、施策レベルの連携の観点が弱いということ、数値的な目標や、目標を達成する道筋の明確さ、あるいは施策提案の具体性に欠けるというような嫌いがあること、現状の分析として、社会、経済的な視点が欠けていること、あるいは生物相や生態系の特性の分析についても、突っ込みが足りなかったことといった点が反省点として挙げられると思っています。
 次に、冊子の方の資料集もところどころ見ていただきながら、自然環境の現状について説明をしたいと思います。
 まず、冊子の24ページでございます。東アジア各国の動植物の種数の一覧表でございます。日本が一番上の段でございます。一般に熱帯で降水量の多い地域ほど、生物の種類数が多いという傾向にありますけれども、日本は温帯に位置していて国土面積は狭いということにもかかわらずに日本の生物相が豊か、特に日本列島だけに生息する固有種の比率が高いというのが特徴となってございます。大陸に沿って南北に長い列島が、湿ったモンスーン気候帯にあって、火山活動が盛ん、地形や土壌の変化に富んでいて、地史的にもヨーロッパのような氷河の影響を強く受けなかったことなどが、こういった豊かさの理由になっているかと思います。
 一覧表に挙げましたイギリスなどヨーロッパの国々と比べても、日本の種数が多く、固有種の割合も全般的に高い傾向にあるかと思います。また、大陸との接続・分断の歴史がありまして、大陸からの移住によって、動物相のストックが形成されて、その後の隔離によって固有種への分化が進んだり、期限的に古い種が生き残る遺存的分布の例も多く見られております。島嶼部、島や山岳部にこうした固有種ですとか遺存種が多く見られますし、河川、水系といった単位で、こういうような淡水生物が多いことも特徴と考えています。
 大陸と近縁の種が多いこと、あるいは渡り鳥の行き来などでアジアとのつながりが大きいことも、日本の生物相の特徴というふうに考えております。
 次、27ページです。これは前回も駆け足で説明をしました改訂版のレッドリストに掲載された絶滅のおそれのある生物種数でございます。絶滅危惧種が合計約 2,660種、脊椎動物あるいは維管束植物だと2割前後が危惧種となっておりまして、日本の多様な生物相のかなり多くが絶滅の危機に瀕している状況です。
 これらの危惧種の内訳を見ますと、島々や山岳などで、もともと限られた範囲にだけ生息する種が選定をされている。と同時にメダカ、あるいはキ今日などのように、生活域の周辺に、かつては広く普通に見られた種ですとか、水辺の生物がたくさん選定されているのが特徴であります。種の減少要因として、ここ数十年間の開発、あるいは生活生産様式の大きな変化に伴う生息地の改変ですとか、生息環境の悪化、あるいは乱獲、移入種の侵入、二次林や草原の放置による遷移の進行といったものが要因として挙げられています。
 次に、自然環境基礎調査の結果から、幾つか国土の自然環境の状況を概観してみます。48ページ以降が、基礎調査の中の植生調査の結果です。人為の影響の度合いから、10の自然度に区分をして植生を分析しています。自然の草地と自然林を合わせた自然植生が、全体の約 700万ヘクタール弱、国土の2割を切っています。自然度別の分布を50ページ以降に自然度別に示しておりますが、56ページには、自然林の分布を出しています。
 これを見ますと、主に本州・中部以北の脊梁山脈あるいは北海道にまとまった分布域が限られてきています。経年比較からは、こうした自然林ですとか二次林の減少が進んでいます。その減少の程度は、近年少し鈍化してきております。
 次は65ページでございます。全国の貴重な植物群落の選定をした調査結果です。この調査では、河川、湖沼、湿原あるいは砂丘、塩性湿地といった特殊な立地に成立する植物群落ですとか、乱獲の圧力を受けやすい希少な群落などで、消失、縮小などの変化が多く生じております。
 68ページは浅海域で、三浦先生からも先程ご紹介がありました干潟あるいは藻場の状況です。平成6年調査では、現存する干潟が全国で約5万 1,000ヘクタール、藻場の方は約20万 1,000ヘクタール。10年ほど前の前回調査と比べて、干潟が約 4,000ヘクタール、藻場の方が約 6,000ヘクタールが消滅をしているという状況です。
 飛びまして71ページ、同じ海でサンゴ礁と海岸の状況です。平成6年調査では、現存しますサンゴ礁域のサンゴ群集面積が、全体で約3万 5,000ヘクタール、10年前の前回調査以降、約 1,500ヘクタールのサンゴ群集が消滅をしています。海岸線、人工化の状況の方は、本土域で見ると自然海岸の割合が45%、5割を切った状態です。
 次のページは、河川、全国 113の主要河川を対象にした河川調査の調査対象河川を図示していますが、この結果でいきますと、人工化された水際線の割合が全調査河川延長の約2割、魚類などが遡上可能な割合が調査河川の区間延長に対して、平均で6割弱というふうになっています。
 次は90ページ以降でございます。ここは、国土の4割程度を占めます里地里山の分析結果を挙げました。農地等を含めたモザイク的な環境が重要でありますが、ここでは「全国的な分析」ということで二次林に限定して分析をしました。囲みの中にポイントを挙げましたように、第1に里地里山の中核をなす全国の二次林、国土の2割程度を占めておりますが、植生によってタイプが違う。ミズナラ林、コナラ林、アカマツ林、シイカシ萌芽林と大きく4タイプに分類をされていて、その自然特性や問題の状況に応じて、異なる取り扱いが必要であること。第2には、里地里山で自然観察などのふれあい活動が行われているフィールドの情報収集をしましたところ、約 1,000件の情報が得られました。それらが主に都市近郊に集中している。都市住民の里地里山に対するニーズが特に高いということ。第3には、絶滅危惧種等が集中して生息する地域の半分程度が里地里山地域に分布をしているということなど、多様性保全上、この地域が大変重要な地域であることが明らかになりました。
 94ページには、そのタイプ別の二次林の分布状況を出しております。その次のページに、タイプ別の特性を整理しています。管理をせずに放置されたコナラ林では、竹林やネザサ類の侵入、繁茂によって樹林の更新や遷移が阻害されている。アカマツ林では、マツ枯れの後にツツジ等の低木林ややぶが形成されて多様性が低下するといった問題が生じつつあります。
  101ページ以降には、動物、植物のレッドデータブック種の集中した分布域ですとか、メダカやギフチョウ、トノサマガエルといった身近な絶滅危惧種、あるいは減少傾向にある身近な生き物の分布域と里地里山地域の重複状況を示しています。かなり高い割合で、それぞれ重複しているという状況がございます。
 里山のふれあい活動フィールドのアンケートからは、里地里山の抱える問題ということで、宅地、道路、ごみ処分場などの開発ですとか、農地整備による自然環境の改変、手入れ不足による雑木林の質の低下、水田の耕作放棄、ごみの不法投棄といった問題が挙げられています。
  110ページに、これは農地・林地から都市的土地利用への転換面積の推移をグラフにしたものです。土地利用転換、全国総体として見ますと、昭和40年代、高度経済成長期、これはグラフのちょっと左で外れていますが、土地利用実施面積はもっと高いレベルでした。そういった時期やバブル期と比べ、土地利用転換は減少してきています。全体としては、安定化の方向にあると考えられます。しかしながら、都市周辺の里地里山などの中間地域を中心に、地域限定的に転換圧力が続いているというふうに考えております。
 多くの種で絶滅のおそれが高まっている一方、シカですとかサル、イノシシ、一部の野生動物の分布域や個体数が近年拡大増加傾向にあります。各地で深刻な農林業被害が発生するなど、社会問題化してきています。
 111ページ以降に、鳥獣関係統計から主な鳥獣の捕獲数推移などをお示ししました。
113 ページのグラフの左側にありますように、これは哺乳類ですが、この10年余りの間にシカ、イノシシ、サルといった鳥獣の捕獲数増加が目立っています。これは、後ほど紹介します栃木県日光のケーススタディーでの、この10年間のシカの激増傾向とも合っております。
 また、国外・国内の他地域から意図的・非意図的に持ち込まれた移入種ですが、日本の在来の生物相に及ぼす影響は広がっております。
 飛びまして 189ページ、 190ページにかけまして、移入種の影響事例を挙げてございます。マングースが奄美大島や沖縄本島の希少生物、あるいはブラックバスやブルーギルが全国の淡水魚に及ぼす捕食の影響、タイワンザルやタイリクバラタナゴと在来近縁種との交雑による影響。ノヤギによる小笠原諸島の植生破壊といった、さまざまなタイプの影響の広がりが指摘されています。
 最後に 219ページですが、これは自然保護雑誌あるいは環境調査月報などから、最近ここ5年ぐらいの間に自然保護問題として社会的な関心を集めた事例を拾い出して、概観できるように全国マップを作成したものです。★印のところは、国立国定公園内の事例であります。アンダーラインをつけたのは、海域・河川・湖沼に関係する事例でございます。6割以上が公園の外側における事例であり、特に浅い海、浅海域や陸水域での開発、ある
いは里山から山地にかけての猛禽類の保護をめぐる事例が、この中では目立っております。
 以上、自然環境の現状を概観してみました。そこで、1枚紙の資料1の方ですが、一番目の項目に、「生物多様性の現状認識」というものを挙げました。第1に、多くの種がレッドデータブックに選定をされている。その一方でシカ、サル、イノシシといった特定の鳥獣の増加に伴う被害問題があります。また、移入種の問題も広がりつつあります。こういった非常に変化の著しい生物の現状を、全体としてどんなふうに認識したらよいか、どういうトレンドにあるのか、その要因をどんなふうにとらえたらよいかという点でございます。
 第2に、森林、草地、農地、都市、河川、沿岸といった環境のタイプ別あるいは地域別に見たときに、特記すべき問題点としてどのような点に注目したらよいか。
 第3に、人口の動向や土地利用転換など、社会経済状況あるいは国民意識が中・長期的に見ますと、相当これまでと局面が大きく変わるものと考えておりますが、多様性ということとの関連で、こうした変化をどんなふうにとらえておけばよいかといった点について、ご意見をいただけたらと思っております。
 資料1の2番は、「生物多様性の理念」に関してですが、まず、『生物多様性の価値』というものにつきまして、条約の前文では、生物多様性の内在的価値及び生態学、遺伝、社会経済、科学・教育、文化、レクリエーション、芸術上の価値というものを挙げております。あわせて、進化及び生物圏における生命保持機構の維持のために重要であることを条約前文では示しています。こういった多様性保全の価値とか意味について、わかりやすく示すことも今回の戦略の大切なポイントと考えています。
 条約が示す点に加えまして、国土レベルの空間スケールから、そして仮に30年から50年先といった長期の時間スケールから見ますと、国土の中で多様性を保全することが、安全な飲み水の確保ですとか自然災害の防止といった、住まい方や生活生産活動にかかわる広い意味での安全性や効率性の確保の問題にも通じるものと考えております。また、多様性保全をして、「自然と共生できる社会」を実現していくという目標を考えたときに、原生的な自然や貴重種などの限られた、限定的な自然の保護という考え方から、国土全体の保全という考え方に転換していくことが必要というふうに考えています。
 その場合に、隔てられた奥山の自然の「厳正的な保護」という考え方に対しまして、人の生活域、生産活動域を含む中間地域、都市域において、人と自然の健全な関係を確保するための理念、挑戦のための原理というものを示していくことが重要な課題かと考えております。
 こうした多様性の価値のとらえ方、あるいは共生の考え方について、ご意見をいただければというふうに思っております。
 それから、保全の強化に加えて、自然が失われた場所、自然の改変が進んだ場所では、自然の再生、修復、喪失に向かうことも、今回の改訂のポイントの1つと考えています。総理主宰の環の国づくり会議が6月にまとめました報告、資料集の16ページに抜粋をつけてございます。
 この中では、衰弱した自然生態系を健全なものによみがえらせることを目的としまして、順応的な生態系管理の手法を取り入れ、積極的に自然を再生する事業を提案しています。その中で、事前の十分な調査・検討を、市民、企業、研究者、NPO、行政などの多様な主体の参加、各種業の一体的な知識、連携の重要性が述べられています。環境省を初め、関係省庁で、この自然再生という枠組みのもとに、連携協同して事業を展開すべく、来年度の概算要求を現在行っているところです。
 前回の各省ヒアリングでも、この再生事業につきまして、いろいろご指摘もいただきました。自然の再生、修復、喪失に関した理念、基本的な考え方について、どう整理していけばよいか、ご意見をいただければなと思います。
 もう1つは、戦略の「目標の設定の考え方」についてです。現行の戦略の中で、資料2の2ページ目、下の方に出てきますが、長期的な目標として、生物地理区分など、さまざまなレベルの多様な生態系、あるいは動植物の保全と持続可能な利用、そして、まとまりのある大面積の地域の保護地域などの適切な管理と有機的な連携の確保というものを挙げています。当面の政策目標として、動植物に絶滅のおそれが生じないことなどを挙げております。
 今回の戦略における目標設定の考え方について、施策の進捗状況を把握するための具体的な指標や物差しといった点も含めて、ご意見をいただければと思っております。
 資料1の3番は、「国土のマクロな捉え方と生物多様性」という点でございます。生物の多様性を成立させています国土の骨格的な要素を試みに挙げてみますと、第1に脊梁山脈などの奥山の自然地域が挙げられると思います。ここには原生的な森林があり、大型動物の中核的な生息域が含まれ、水源地なども含まれています。第2には、原生自然と都市の中間に位置する里地里山などの中間地域、第3には都市地域が考えられると思います。第4には、これらと違う切り口で、河川を軸とする水系域があろうかと思います。水は生物生存の重要な基盤的な要素で、水系の特殊な形として湿原あるいは地下の水系が存在するものと考えています。そして、第5には、海岸や干潟、藻場を含む浅海域などの要素も考えられると思います。
 戦略において、こうした要素ごとに、それぞれの要素の特性ですとか多様性保全上の役割を明らかにしますと同時に、それぞれの要素ごとに自然と人間活動のバランスを確保していくための方向性を示していくことが必要ではないかと考えています。
 国土全体という視点からは、先程の植生自然度区分の分布状況を見ていただきましたが、ああいった植生自然度の区分ごとに、例えば自然度1の市街地では、先日もご議論いただいた都市域の緑の質を高めていく方針、自然度6の人工林については、森林林業基本計画の議論でもありましたように、間伐等の積極的な手入れを行ったり、複層林に誘導したりするなど、場所場所の特性に応じた管理や整備を通じて、環境保全、国土保全の機能を高めていく方針。自然度7の二次林では、先程説明しましたように、二次林のタイプに応じた取り扱いの方針をお示ししていくなど、自然度区分ごとに多様性保全上の位置づけ、あるいはその質を高めていくための取り扱い方針を示すということも有効ではないかと考えています。
 こういった多様性の観点から、国土をマクロにとらえる上で、骨格的な要素として、どんな要素を挙げていけばよいか、また、要素ごとの特性に応じた取り扱いの基本方向について、どう考えればよいか、ご意見をいただければと思っております。
 資料1の4番ですが、「保全のための仕組み」関してです。現行の保全制度の枠組みが生物多様性保全のために十分機能しているか、特に改善すべき点は何かという点でございます。資料集の方で、保護地域制度について、ちょっとご説明をしたいと思います。
 資料集の 129ページ。これは前回、駆け足で説明をしました環境省の保護地域制度の概要でございます。4種類の保護地域が挙げられています。この中で、国土全体レベルで相当程度の面積をカバーしておりますのは、国立公園等の自然公園、そして鳥獣保護区であります。自然公園の方は、自然の大風景の保護と観光利用を目的とした昭和6年の国立公園法が出発点でございますし、鳥獣保護法は、銃による無秩序な狩猟の危険防止を目的とした、明治6年の鳥獣猟規則が出発点であります。2つの制度は、それぞれ異なった秩序のもとに、別々に運用されてきました。
 自然公園は、公園計画によって、特別保護地区、特別地域、普通地域という地域区分、ゾーニングを行いまして、規制の程度に強弱をつけて、風景の保護の観点から工作物の設置や伐採などの開発行為を規制いたします。
 鳥獣保護法では、47種類の狩猟鳥獣以外の鳥獣は、全国的に捕獲を原則禁止としており、鳥獣保護区の中では、狩猟鳥獣も捕獲禁止とされます。さらに、その保護区の中に特別保護地区を設定し、そこでは生息地保護のために工作物設置や伐採等の開発行為が許可制というふうになります。
 次の 130ページの全国マップに示しましたように、国立国定公園、合わせて国土の約9%、開発行為が許可制となる特別保護地区と特別地域は、国土の約7%を占めます。一方、鳥獣保護区の方は、国設、県設合わせて国土の約1割を占めていますが、内訳は県設の割合が大きく、開発行為の規制を行える特別保護地区は、国設、県設合わせても国土の 0.7%にとどまっています。国立国定公園と鳥獣保護区の重複の割合は、全体で46%でありますが、国設鳥獣保護区が公園区域に重なっている場所もあれば、全く重複していない場所もあるというのが実態でございます。
 国立国定公園の配置の特性を見てみますと、 138ページに関東地方の例を挙げました。この例のように、山岳部に公園の配置が偏っておりまして、標高の高い奥山の自然植生は、よくカバーされています。また、 142ページ以降に例示をしていますように、シカですとかサルなどの大型哺乳類の分布域、あるいは高山蝶など山岳部に特有の動植物の分布域は、国立国定公園が比較的よくカバーしております。しかしながら、一方で、丘陵地から平地にかけての里地里山、河川、湿地、干潟等の沿岸域の生物の生息域は、公園は余りカバーしていないという実態にございます。
  165ページには、動物の分布と指定地域の関係を日光地域を例に分析したケーススタディーの一部を挙げています。 165ページは日光の国立公園の周辺の植生の状況を示しました。その植生の状況を見ますと、栃木県下の自然性の高い植生を、かなり高い割合で公園区域がカバーしている様子が出ています。
 また、 168ページの方ですが、これはシカの日光・利根地域の個体群と国立公園区域、鳥獣保護区の関係を示したものです。緑のメッシュがシカの分布域、ベタに色を載せたのが国立公園の区域、青い線のくくりが県設の鳥獣保護区であります。この地域では、昭和59年、豪雪でシカが大量死した後に、暖冬が続いていることなどから、平成に入ってシカの個体数、分布域が急激に増加しております。奥日光や白根山でも、シカが目立つようになりました。農林業被害が急増したことに加えまして、国立公園の湿原植物、あるいは高山植物への被害も激化してきております。
 県では、こうした被害を抑えながら、シカ個体群の安定した維持を図るための保護管理計画を策定しておりまして、計画に基づいて、現在、狩猟等個体数調整による捕獲が進められています。この計画の中では、国立公園の中心的な地区でもあります奥日光を含みます県設日光鳥獣保護区の範囲が、将来的にも、この地域のシカ個体群の中核的な生息地として維持されるように管理目標を設定しております。
 資料1の4番の、保全のための仕組みのところでございますが、保全の仕組みに関して、事務局でポイントと考えられる項目を幾つか挙げてみました。1つ目は、「動物(生態系)と国立公園」という点です。環境省の保護地域制度の中で、自然の改変行為に対して規制力を持って、国土レベルで相当程度の面積をカバーしているのが国立公園等の自然公園でございます。特に、脊梁山脈などの奥山の自然地域を比較的広くカバーしています。 しかし、公園制度は、風景保護と利用の推進を目的に、管理権を取得することなく地域制という制度で制定され運用されてきたもので、風景保護の観点から行為規制を行ってきました。景観上重要な植生あるいは植物の保護には一定の効果を発揮してまいりましたが、動物、生態系の保護については、十分とは言えないと考えております。従来の風景保護の視点に加えて、生態系の視点、特に動物保護の視点を公園の制度に位置づけて、国土における生物多様性の骨格的な部分、屋台骨としての役割を、より積極的に担っていくことが課題というふうに考えています。自然公園と鳥獣保護区との連携を強めていくことも検討課題と考えています。
 2点目は、「里地里山等の中間地域の扱い」です。里地里山地域、その中核をなす二次林と周辺の農地を合わせますと、国土の約4割程度というふうに見積もられまして、かなり広がりを有しています。希少種を含む多様な生物の生息生育空間にもなっています。都市近郊では身近な自然との触れ合いの場としての価値も高まってきているということで、多様性保全上からも軽視できない重要な地域と考えます。
 一方、こうした地域は、場所場所で自然環境の状況や住民の生活生産活動との関係が大きく異なっていて、多様な価値や権利関係が錯綜する多義的な空間となっています。そのために、保全方策についても、一律の対応では問題が解決できずに、従来型の保護地域の指定、囲い込み方の方策のみでは対応ができない地域と認識しております。従来の規制的な手法だけでなくて、NPO活動支援、地権者との協定、税制や助成等の経済的手法、社会資本整備における環境配慮の徹底、生態的な配慮、技術手法の確立・提示など、多様な手法を組み合わせた緩やかな保全の仕組みを構築していくことが課題かと考えております。また、ヒアリングでも出ましたように、森林行政や農政、都市計画行政などとの連携を強めていくことも重要な課題と考えています。
 3つ目は、「陸域の湿地や干潟などの浅海域の保全」という点です。陸域の湿地あるいは浅海域は、これまで非常に大きく改変が進んできた場所と考えています。これに関して、資料集の88から89ページに生物の生息地として、重要な全国500カ所の重要湿地の選定結果を挙げています。この重要湿地には、陸域の湿原、河川、湖沼、湧水池、あるいは農地におけるため池や水路、それから浅海域の干潟、藻場、サンゴ礁などが含まれています。山岳部の湿原ですとか、湖沼は、国立公園等に含まれているものが多くありますが、その他のタイプについては、保護地域外のものが多くなっております。
 こうした重要湿地につきまして、保護地域の指定を進めたり、開発計画における環境配慮の徹底を事業者に促すことなどによりまして、保全の強化を図っていくことが必要と考えています。また、湿地の生物相ですとか生息環境に関しての情報、保全のために必要な基礎データを収集・整備していくことも大変重要かと考えています。さらに、こうした湿地の維持と、周辺の土地利用、森林管理、あるいは水の流れ、土砂の流出移動といった問題が深く関わっておりまして、周辺を含めた広域的な視点が欠かせないものと考えています。
 4つ目は「移入種等野生生物の保護管理」という点です。資料集の 173ページに絶滅のおそれのある種の保存施策の概要を示しています。レッドデータブックの作業、そして種の保存保護の取り組みでございます。 176ページに、これを受けたレッドデータブック種を国内希少種へ指定を進めている状況などをお示ししました。
 レッドデータブック種のリストアップについては、一区切りついてきていると思いますが、国内希少種の指定は、レッドデータブック種全体の2%に過ぎないという状況です。今後、この国内希少種の指定を進め、保護区の設定、保護増殖事業などによりまして、絶滅要因を解消していくための取り組みを加速化することが必要だと考えています。
 加えまして、個別の仕事の対応だけではなく、レッドデータブック種が集中する場所ですとか、全国的に減少が著しい生息地のタイプにおきまして、生態系の保全や再生を進めていくことによって、種の絶滅のおそれを未然に回避する予防的な措置を講じていくことも重要な課題だと考えています。他の保護地域制度の活用ですとか、アセスを通じた環境配慮の徹底なども含めて、さまざまな手法を組み合わせて対応していくことが大事だと考えています。
  178ページは鳥獣保護制度の概要でございます。図の下側に特定鳥獣保護管理計画の策定と実行の流れをお示ししています。この制度は、シカやクマなどの特定の鳥獣の地域個体群が著しく増加あるいは減少している場合に、農林業の被害などを抑えながら個体群の安定した維持・存続を目指していくものでございます。
 さまざまな議論を経まして、平成11年、鳥獣保護法の改正で新たに創設された仕組みです。計画の策定主体は都道府県であります。現状の把握に基づいて保護管理の目標と個体数調整や生息環境管理、被害防除などの目標達成方策を明らかにして事業を実施していく、そして、モニタリング結果によって、保護管理の目標などを適切に見直していくという仕組みとなっております。
 この制度については、保護管理の目標設定の考え方などにつきまして、事例を積み重ねながら、さらに検討を加えていく必要があると考えています。また、的確な制度の運用を支えるモニタリング体制の整備など、取り組むべき課題は多いというのが現状でございます。野生鳥獣の地域個体群を安定的に維持していくために、より科学的な手法に基づく個体群管理のシステムを確立していくことが、今後の大きな課題となっております。
 移入種に関しては、12年度から移入種問題検討会を設置して検討を進めているところでありますが、多様性条約締約国会議でも決議されました中間的原則指針にも示された3つの段階、1つ目が侵入の未然防止、2つ目が侵入した種の初期段階の撲滅、3つ目が定着した種の駆除管理といった3段階の対応が必要だと考えています。侵入の予防につきましては、飼育下の動植物の管理の徹底をまず図る必要があると考えています。さらに、国内での利用に先立って、安全性の管理を行うといった対策も検討課題であると考えています。
 侵入してしまった種の初期段階での撲滅に関しては、迅速な対応が必要かと思います。特に固有性の高い島嶼の生態系など移入種に対して脆弱な地域におきましては、周到な準備をしていくことが重要だと考えています。こういった地域の自治体とも相談をして、侵入の予防や初期段階の撲滅のためのモデルシステムづくりも検討していきたいと考えています。
 定着してしまった種の駆除・管理に関しまして、環境省では現在、奄美大島のマングースのモデル的駆除事業を実施しています。奄美のマングースは 5,000から10,000頭というふうに言われていますが、昨年度 2,800頭を捕獲し、今年度も捕獲継続中です。この種の駆除事業は、大変多大な労力と経費を要するもので、その確保が大きな課題というふうになっています。この移入種の問題は、環境省だけでは解決ができない問題で、水際規制あるいは淡水魚対策など、関係省庁との連携協力が有効な対策の実現のために不可欠というふうに考えています。
 もう1つ野生生物の関係で、海生、海の動物につきましてですが、環境省の基礎調査により、ウミガメ、アザラシ、スナメリ等の生息状況調査を平成9年度から始めております。また、ジュゴンについて、全般的な保護方策検討を目的として、ジュゴンとえさ場となる藻場の広域的調査を実施すべく、現在準備を進めているところでございます。
 資料1の4の保全の仕組みの5つ目ですが、さまざまなタイプの自然特性に応じた効果的な保全手法のあり方というのを挙げております。保全手法ということで、大きく保護地域、ゾーニングによる手法と、その他の調整手法があるかと考えています。後者にはアセスによる環境配慮の徹底、レッドデータブックや重要地域などのリスト化、保全、配慮指針や基準の策定、税制、助成などの経済的手法、参加、合意形成手続など、多様な手法が考えられます。
 この中で、アセスにつきましては、平成9年の環境影響評価法の制定により、評価の視点に生物多様性の保全と自然との触れ合いの確保が導入されました。自然環境への配慮が強化されたところでございます。加えて、個別の事業実施より上位の計画レベル、政策レベルの戦略アセスの導入の検討が進められています。こういった保全対象の特性に応じて、効果的な手法あるいは手法の組み合わせを的確に用意していくことが多様性保全のために重要というふうに考えております。
 以上、保全の仕組みに関して5点ほど挙げましたが、改善、強化すべき点について、ご意見をいただければと思います。
 次が資料1の5番。「自然環境データの整備」についてであります。生物多様性の実態把握調査で、特に不十分な点は何か、今後の方向性をどう考えていけばよいかという点でございます。
 資料集の方の38から39ページの方に、ちょっと字が小さくなっていますが、自然環境保全基礎調査30年の流れと概要をつけました。多様性の現状についての説明などで、成果例を一部ご紹介いたしましたが、基礎調査の調査成果全体をまとめて見ていきますと、まず、植物につきましては、現存植生図を国土・自然環境のベースマープというふうに位置づけまして、継続的に植生調査に力を注いでまいりました。これによって、国土全体の植生分布の実態、あるいはその変化状況が明らかになってまいりました。
 また、原生林や希少群落など重要群落のリストアップも行ってまいりました。動物の関係では、大型哺乳類あるいは繁殖鳥類あるいはレッドデータブック種など、優先度の高いものに重点を置きながら、全国的な動物分布情報の収集を進めてまいりました。分類群によって、かなり分布図の完成したグループもあれば、目録もできていないグループもありますなど、内容に精粗がございます。また、動物、植物とも、植生の現存量ですとか、動物の個体数といった量的なデータの把握は、まだほとんど行われていません。
 陸水域、海域では、物理的な改変の状況あるいはその変化状況は、かなり面的に押さえてまいりました。しかしながら、生物相あるいは生息環境についてのデータは不足しています。
 全体の調査成果の公開や活用についてですが、従来、植生図あるいはアトラスなどを刊行してまいりました。それに加えて、近年はGISやインターネットを活用した情報提供手段も確立してきています。基礎調査の歴史、まもなく30年ということで、これまで全国レベル、中央で約 300名、各地域のレベルでは数千名の専門家の参加と協力を得ながら、大きな成果を上げてきたものと評価しております。
 今後の方向性として、これまでの調査の継続性という点と、調査の質の向上という二つの実務的には矛盾をした要請にこたえていかねばならないと考えています。そのために、例えば地域の専門家やNPOなどのネットワークによりまして、質の高いデータを恒常的に収集する仕組みを構築して、全国的な定点における動植物あるいは環境要因の変動に関する長期的なモニタリング調査を展開していくこと、あるいは開発や汚染の影響を受けやすい浅海域、浅い海の地域を中心に、生物生態系情報の整備に本格的に取り組むといったことなど、基礎調査の質的な転換を図っていくことが必要かと考えています。
 また、各省の調査事業の進展も踏まえまして、各省との連携を強めて、情報の共有、相互利用を可能にしていくことなどが今後の課題と考えております。こうした自然環境データの整備の今後の方向性について、ご意見をいただければと思っております。
 資料1の最後の項目、6番の「その他」でございます。1つ目に「情報公開と参加」を挙げました。生物多様性に関する情報を公開して共有することを通じて、国民の積極的な参加を促していくことも大切なポイントと考えています。環境省では、インターネットなど各種のIT情報技術を活用した情報提供(兼)環境学習用のホームページ、「インターネット自然研究所」を7月から立ち上げたところです。
 資料集には 217ページに概要をおつけしています。この「インターネット自然研究所」、夏休みの期間中だけで 120万件を超えるアクセスがありました。現在は、情報の中身として、全国各地の自然のリアルタイムの映像提供が中心でございますが、先程の重要湿地500 など、自然環境に関する最新の情報を順次追加して提供していく予定でございます。情報発信の手段としてだけでなく、いきもの前線情報などの国民参加で情報を集めて公開していくことも進めていきたいと考えています。
 その他の2つ目には、「多様な主体間の連携と役割分担」という点を挙げました。前回の委員会でもご指摘がありましたように、多様性保全に関する施策につきまして、省庁の枠を超えて一体的な取り組みを進めていくことが、この国家戦略の大きな役割と考えています。自然の再生、里山の保全、環境学習、自然環境調査といった公共事業あるいは非公共事業の両面におきまして、各省の連携、協同化を図っていくことが、大きな課題だと思っています。あわせて専門家あるいはNPO、ボランティア、地域住民といった主体の官業参加の仕組みを設けていくことも重要なポイントだと考えています。
 また、多様性保全のためには、それぞれの地域の特性に応じた県や市町村、地域レベルの計画、取り組みが重要だと考えています。国と県と市町村の効果的な役割分担を整理していくことも大切な課題かと考えています。こうした「情報公開と参加」、あるいは「連携と役割分担」のあり方について、ご意見がいただければと思っております。
 最後は、自然環境保全分野の国際協力についてです。資料集の 193ページに、日本の国際的な取り組みと、関連する国際条約会議などの動きを年表にして掲げたものでございます。
 この 193ページの年表を見ますと、国際的な流れのエポックといたしましては、1972年、ストックホルムの国連人間環境会議、それから92年のリオの地球サミットがあろうかと思います。国連人間環境会議の勧告をもとにワシントン条約が採択され、相前後してラムサール条約や世界遺産条約が次々に採択されました。
 日本はワシントン条約、ラムサール条約には採択から10年おくれて入りました。遺産条約は20年たってから加入いたしました。内外から、日本の国際条約に対する対応が遅い、国際協力に不熱心であるとの批判も受けたところでございます。日本のこの国際協力、国際的取り組みを動かす大きな転機となりましたのは、20年後の地球サミットでございます。多様性条約に早々と締結し、ワシントン条約やラムサール条約の締約国会議を日本で開催するということも実現いたしました。日本の環境ODAも、地球サミットの約束に基づいて大幅に増加されつつあります。
  203ページのグラフにありますように、環境分野のODAが増加してきています。99年度では、ODA全体約1兆円のうち、環境ODAが約 5,000億円、うち、先日のヒアリングでもありましたように、多様性関係をざっと拾い出すと約 100億円程度というレベルになっています。
 次の 204ページのグラフにありますように、自然環境分野の専門家の派遣もふえてきています。 205ページには、派遣先と協力事業のテーマを挙げてございます。こういったJICA事業につきましては、これまでどちらかといえば受け身的かつ単発的な取り組みが多かったのが実情です。この表の一番上にありますインドネシアの多様性保全のプロジェクトで、初めて組織的・継続的な協力に取り組むに至ったというのが実態でございます。
 今後の国際協力の展開を考えますときに、アジアにおける日本の立場あるいは自然環境のつながりといったものを考慮して、重視すべきテーマあるいは重視すべき対象地域、基本的な方向性を、大きな枠組みとして設定していくことが重要かと考えています。
 例えば、これまでの基礎調査のノウハウを生かしまして、アジア地域における生物の多様性や生態系の基礎的な情報の整備といった面で協力を進めていったり、渡り鳥や湿地といった分野での協力を展開していくことなどは、今後の重要なテーマというふうに考えています。加えて、人材・専門家の確保の点、あるいは各国の自然環境等の問題実態や協力ニーズなどの情報収集の充実を図るということも、受け身的、単発的な対応から、積極的、戦略的な国際協力へ転換していくために不可欠な課題というふうに認識しております。どのようなテーマ、どのような地域に重点を置いて、今後の国際協力を進めていくべきか、ご意見をいただけたらというふうに考えております。
 以上、事務局として、ご議論いただきたい点について説明をしてまいりましたが、本日はこれらの項目に限らずに、戦略見直しに際しまして重要なテーマにつきまして、さまざまな観点から幅広くご議論をいただければというふうに思います。事務局で用意しました資料の説明は以上でございます。よろしくご審議のほど、お願いいたします。

●辻井委員長 どうもありがとうございました。
 今、お聞きいただきましたように、説明を一応、資料1と資料集に基づいてやってもらったんですけれども、資料1の論点、「生物多様性国家戦略」見直しの論点についてというところに項目立てて、これは大体、前のいわゆる国家戦略の目次に沿って並んでいるわけですが、これに沿ってということにいたしますが、飛んでも構いません。別にこれに順番にということではなくて、全体をごらんいただいて、どの点からでも結構でございます。ご意見をいただきたい。それから、ご質問がございましたらば、おっしゃっていただきます。
 今も最後の渡辺さんの説明にもありましたけれど、これから戦略を組み立てていく上のキーワードになるようなものが、なるべくたくさんあった方がいいと解釈をしております。どうぞ、どなたからでも結構でございますが、お気づきの点がございましたら、おっしゃっていただきたいと思います。
 もう一つ言い忘れました。ここには今、項目立てて、ご意見をいただく上の参考ということでこの項目を立ててありますが、基本的に例えば欠けている、どうしても「これ、抜けているんじゃないだろうか」というものがありましたら、これも必要なことなのでして、むしろ一番必要かもしれません。前の国家戦略の中にも、あるいは今回改めて見直すわけですから、そのときにどうしてもこれを加えなければいけない。5年もたっているわけですから、当然そういった問題も出てくるかもしれません。それも含めて、どうぞおっしゃっていただければと思います。
 どうぞ、熊谷先生。

●熊谷委員 半分質問なんですが、今、網羅的にご説明をいただいたので、入っているのか、あるいはどこに入っているのかはっきりしないんですが、今回の見直しで、私自身の認識では、前回と違って今回、各省庁から具体的な施策なり考え方をヒアリングしているというところに非常に特徴がある。ということは、やはりこの戦略の中で、生物多様性の構成要素というのも、まだよく理解できていないんですが、生物多様性の構成要素の持続的な利用というところに、かなり検討すべき論点があるのではないかというふうに認識しております。
 それで、今、ご説明いただいたところは、生物多様性の保全とか現状認識とか、そういうことについては非常にきめ細やかに考え方が整理されていると思っているんですが、どこのところで持続的な利用というのをどういうふうに考えるか、あるいは持続的な利用と生物多様性の保全というのは、果たして条約の中でたまたま言われているだけであって、本来きちっと整理つくものなのか、あるいは場合によっては矛盾するのではないか、そういうことを、きちっと整理して、確かに持続的利用ということと、生物多様性の保全ということが同次元で考えることができるのであれば、そこをしっかりと説明すべきだし、あるいは、地域によっては、同時にそれが達成できない場合には、持続的な利用と多様性の保全というのは、しっかりと分けて考えていかないと、先程説明されていたような、国土の戦略としての全体での生物多様性ということについては、もう一つ説得力がないかなというふうに感じております。
 したがって、今回は、私は持続的な利用を、もう少し前回以上に時間をかけて検討して、もっと申し上げれば、最終的には、この持続的な利用の部分については、環境省ではなくて各省庁が責任を持って、そこを施策に結びつけるとか、あるいは、できないところはできないというようなところをはっきりさせる、そういうようなことが作業としては必要かなというふうに考えております。その点、考え方等について、もう少し説明していただければと思います。以上でございます。

●辻井委員長 どうもありがとうございました。いかがですか。これは、今も熊谷委員のおっしゃったように、むしろ持続的利用というのは、各省庁の方で出てくるかもしれない。現に持続的利用のためにこういうことをやりたい、やるんだというふうな説明もあったわけです。環境省としてはどうだということだと思いますが、いかがですかね。どうぞ小野寺さん、座ったままやってください。

●自然環境計画課長(小野寺) 物すごく、そこが本質的に中核の中核みたいなところなので、きれいに答えるということはできませんけれども、いろんなレベルの問題があって、1つは生態学的なと仮に代表すれば、学問的な体系の中で、今の多様性保全と持続的利用の話をどうとらえ直すのかということがあると思いますし、また、例えば土木技術とか、あるいは生体工学的な技術処理の問題としてどう扱えばいいのかということがあると思います。また、ちょっと思想が違うんですが、ある種の手続というか合意形成の一種の手続論的な考え方として、その2つをどう合一していくかという観点があるんだと思います。
 それから、先程もちょっと渡辺企画官の説明の中で一部申し上げましたけれど、スケールというか、タイムスパンの問題があると思います。したがって、ある種の限定した地域の中では多様性の保全と持続的利用が矛盾するものであっても、国土スケールなり国土の中のかなり広大なブロックスケールで考えたときに、実はそれほど矛盾しないという整理の仕方もあるかもしれません。
 ヒアリングのところのお話の中で、瀬田委員が「織物」というふうにおっしゃっていただきましたけれども、そのスケールは空間的なスケールと時間的なスケールの問題もあると思うんです。したがって、今現在及び5年間の例えば安全性の問題、あるいは経済的な効率性の問題と考えたときに出てくる答えと、30年間トータルで経済性なり効率性の問題を考えたときに、またちょっと形が違ってくるのではないかというふうにも思うわけです。そういう意味で、いろんなレベル、いろんな見方、いろんな技術、知識体系の中で組み合わせた上で、多様性の保全と持続的利用という問題は考えていく必要があるんじゃないかというのは、今とりあえず事務局で苦しみながらたどり着いているところです。
 それから、各省との関係については、これまでヒアリングをして、全部ではありませんけれどもかなりの部分を聞きました。その前から、いろんなレベルで生物多様性をめぐっては議論を重ねてきておりますし、知識の交換や会議も重ねてきております。余り論理的な説明ではないんですが、やってきている中では、この間のご説明の中でも感じていただけたかもしれませんが、生物多様性、自然環境保全をめぐって、きわめて流れは、我々のようにずっと自然保護、自然環境の仕事をしてきた人間からしますと、本当に驚くような変化が起きていると思います。
 これは、環境庁が発足したほぼ30年前、それから、多様性の動きで10年史で紹介しましたこの10年、とりわけこの5年、その中でもこの1年という形で、多様性の方に政策が物すごくシフトしてきているということを、我々が本当に肌で感じております。その流れを、まさに熊谷委員がおっしゃったように、具体的な計画の文言の中にいかに書き込むかということが、非常に大きなテーマになると思います。
 まだ、これは来月、素案というか骨子案のご説明の会合になると思いますけれども、そのときに、どううまく枠組みづくりをして、各省がむしろおっしゃったように書いていただく形というのをどうつくるか。つまり、計画をつくるということだけが目的なのではなくて、今回の戦略は、いかに書いた計画を速やかに実践していくか、具体的提案は何かということを非常に大きな目標にしたいと思っているわけです。そういう意味では、各省がうまく一つの方向性で書いていただく、そのために枠組みをどうつくるか、枠組みで実は悩んでいるんですが、例えば森林とか里山といったときに、一義的には森林法で林野庁という考え方もある。しかし、見方を変えれば、都市計画区域内の市街化調整区域の、いわば都市域内の緑地という考え方もある。
 環境省は、もちろんそれを自然環境保全の観点から保護の対象としてとらえるというふうに、とらえようによって3カ所に例えば記述される。もっと多くなるかもしれませんが。その枠組みを、どう縦横うまく整理をして、これは各省の関係ではなくて、読んでわかりやすいことに目的があるわけですから、その全体をどううまく切り分けていくかということを、今、中で議論しているところです。いずれにしろ、ご趣旨に沿って各省の力を合わせて前向きの方向になりつつあるベクトルを生かすべく、やっていきたいというふうに考えております。

●辻井委員長 いかがですか。どうぞ。

●熊谷委員 難しい問題にご回答いただいて大変申しわけなく思っているんですけれども。私は何を申し上げたかったかというと、そういうことも含めて、この小委員会で議論していって、私自身の今考えることを申し上げれば、これは先生方なり皆さんと議論して、私自身もさらに変わっていくかもしれませんけれども、自分なりに考えますと、生物多様性の保全が最終的な目標にあるのではなくて、地球環境を将来の人類に残していく、非常に子供っぽいですけれども、幸せな人類の将来の確保が目標なのではないか。もっと卑近な例で見れば、世界の環境なり、日本の文化なりをどういうふうに構築していくかというところの非常に共通なキーワードとして生物多様性を考えているというふうに私は思っているものですから。
 そうすると、生物多様性を目的にして、この戦略がまとまるというよりも、各省庁のどの施策の中にも、必ず手段として生物多様性が入っているんだと。それは、トータルで見るとしたら、全体の生物多様性というよりも、日本の環境なり文化なりをきちっと考えて、それの重要な要素として生物多様性を各行政なり各地域なりが、それぞれの立場できちっと考えるというようなことなのかなというふうに思っているものですから。
 間違っているかもしれませんけれども、その辺を生物多様性ということを今回キーワードにしてどこまで議論していくか。その中で議論を進めていくのであれば、持続可能な利用ということも十分考えていけるのではないかなというふうに私は思っているものですから、生物多様性すべて、あるいは持続的な利用というようなことで持続的な利用も生物多様性の中に含んでしまうというようなことになると、私は多分混乱するのではないかなというふうに思っております。以上でございます。

●辻井委員長 ありがとうございました。
 ほかにいかがでございましょうか。どうぞ、渡辺委員。

●渡辺委員 あるいは難しい注文かなと思いながら、しかし、この資料1のご説明の最後の方、5番目、自然環境データの整備のところで、自然環境保全基礎調査も30年にわたって調査を進めてきたけれども、量的データの把握が不十分だという話がありました。しかし、干潟が何十年の間に4割減ったとか、自然海岸が減ったとか、そういう数値があると大変私どもはわかりやすいんです。したがいまして、できる限り、新しい国家戦略には数値目標のようなものを取り込んでいただいた方がいいのではないかと。
 現行の国家戦略にも、この戦略の実施の状況を毎年チェックして公表するというくだりが、今日いただい資料にありますけれども、数値的なものが出ていませんと、各省とも、「うちの省はこれをやりました」「これをやりました」と抽象的な施策をやったという話に終わりかねない面があるんじゃないかと思います。効果的な実施を担保する上からも、できるだけ数値を活用するということが必要なんじゃないかなという気がいたします。施策のメニューを羅列するだけのような、あるいは文章だけに終わらないような国家戦略を、ぜひ立案してほしいと思います。

●辻井委員長 ありがとうございました。
 ほかに、どうぞございましたらば。
 先程熊谷先生がおっしゃった文化ということで、多分お話を伺いながら、ちょっと思い出したんですけれども、瀬田委員がいらっしゃればおっしゃるんじゃないかと思うんですが、例えば九州の牧野というか草原ですね。非常に古くから使われていて、それで維持されていて、いわゆる日本では、実質的には自然草原というのはほとんどないわけですけれども、そういうところでの植物種ですとか、それに伴う動物の維持がある。
 したがって、例の野焼きというのも、そういったことを維持するための一つの重要な役割を担っていたというのは、よく瀬田委員がおっしゃっていた。あれも一つの文化だと考えていいと思いますけれども、そういうものに支えられたというのもあるわけですから、非常に難しい問題なんですけれども、そういったことも含めて我々としては考えなければいけないんじゃないだろうかというふうに思います。それこそ、持続的利用という意味では、阿蘇の国立公園のかなりの部分なんていうのは、そういう形での風景の維持でしょうか、それが重要な意味を持っていて、それが人を引きつけているということもあるわけですから、単に風景的なものではなくて、今の草原植生、草原の構成要素がそれで維持されているというふうなことも我々は考えなくてはいけないということかと思います。
 阿部先生、例えば前にちょっと伺ったことがあるんだけれど、例の森林の手入れ不足というようなことが、猛禽類のえさ場を失う一つの原因になっているんじゃないかというお話を聞いたように思いましたけれども、持続的利用というのが、どこかでサイクルが切れてしまっているものだから、不十分になっているのでということが問題になるんじゃないですか。

●阿部委員 今のその問題は、イヌワシとか大型の猛禽類の採餌場となる植林地が森林事業により今までは確保されていたわけですけれども、それが最近では、植林そのものを余りしなくなって、みんな成林してしまって手入れがよくなって、採餌場がなくなるということがあるわけです。このことはよく猛禽類をやっている人からは指摘されております。従来あったような生業の中で、生態系のピラミッドのトップにいるような大型の猛禽類でもうまく組み込まれていたと思うんですけれども、それが今ちょっと環境の変化の方が途切れているものですから、大きな打撃を受けているというようなことがあることは事実だと思います。
 それから、もう一つ、別なことでもよろしいですか。これは国家戦略ですから、戦略というのは、余りたびたび変えてはいけないと思うんです。きちんと5年とかで見直すというのはあるんですが、基本的なところは変えてはいけないと思うんです。ですから、戦術は変えるべき場合がたくさんあると思うんですけれども、そこのところをきちんとしておかないといけないのではないかと私は思います。これが、50年とか 100年、少なくともそれぐらいのことで考えていかないと、たびたび変わったのでは困ると思うんです。そういうところを、もうちょっと議論していただきたい。
 それから、現行の国家戦略で、例えば、生態系や自然生息地の保護なんかのところの基本的な考え方の中では重要なことが書いてあるんですが、その第2節の、例えば河川における生態系及び自然生息地の保護なんていうところになると、内容がまたがらりと違うんです。ここの河川の記述になると、河川というのは手を加えるものだというのが前提になって書かれているんです。これは非常に矛盾しているんです。ですから、こういうところを統一して戦略としてきちんとしておかないと、非常に問題があるのではないかと思います。その点をちょっと指摘したいと思います。

●辻井委員長 ありがとうございました。局長どうぞ。

●自然環境局長(小林) 戦略をそんなにしょっちゅうころころ変えるべきでない、全くごもっともなご指摘で、我々も本質的なところを大きく変えるつもりはないんですけれども、前回の戦略を決めたときには、政府部内だけで議論をして、NGOの方々からも、国民的な議論の中で決めてこられなかったという大きな批判も受けています。
 そういう中で、2回にわたって戦略の議論をするということで、もう少し詰めて議論をしていきたいというふうに思っているところでございますので、大きな方針を変えるということではなくて、いろんな矛盾をはらんでいるところを整理していきたいということだと思います。
 それからもう1点、生物多様性の構成要素の持続的利用の件、生物多様性の条約の中でも、一番大きな概念になっているところでございまして、ここのところを、どういうふうに、この戦略の中の方向づけとして持っていくのかというのは、非常に大事なポイントだと、熊谷先生のご指摘はそのとおりだと思います。
 持続的利用は、先程小野寺課長も渡辺企画官も説明しましたけれど、空間スケール、時間スケールで、いろいろ持続的という意味合いが変わってくるところがあると思います。結局、生物多様性というのは、一つのある価値観を持っている概念ですから、現時点での日本政府として、日本国民として、どういうふうな価値観を持っていくかということの議論で、なかなかまとめるのが大変ということもあると思いますけれども、その価値観をこの小委員会でご議論いただきながら、現時点ではここで方向づけを持とうと、こんなことだと思うんです。
 そういうことで、先程一番最初、今日の小委員会のご議論中でも、遺伝子改変生物というのでしょうかバイオのことの議論があって、いろいろ改変生物を行け行けどんどんでまき散らしていいのかどうかということは、ちょっと違うんじゃないかという意見、まさにそうだと思うんです。ここをどういうふうに考えていくかということです。そこも、遺伝子改変生物の関係については、一つは生物の多様性をいかに持続的に使うかということから始まったことかもしれませんけれど、それが、在来の生態系や他の種に大きな影響を及ぼすようなことであってはいけない。その辺の議論がないまま、持続的な利用だからといって改変生物をどんどん野外に出していくということについての反省というのはあるし、取り組んでいかなければいけない一番象徴的な問題ではないかなと思っています。

●辻井委員長 どうもありがとうございました。三浦委員どうぞ。

●三浦委員 先程の熊谷先生と小野寺さんのやりとりと、それから阿部先生に今、問題提起していただきました「戦略だから基本スタンスは変えるべきでない」という問題と、それから今の小林局長のコメントも含めて、そこのところが非常に重要な問題だと思うんです。
 たしか生物多様性というのは、UNCEDのときの条約の署名のときには、全体の枠組みが持続可能な開発だったんです。要するに、当時の理解は、開発も持続可能性もまだまだ矛盾するものではないという認識だったと思うんです。過ぎた10年は、やはりそういうものでもないだろうということで、これはかなり矛盾してきたわけです。
 私の現状認識のとらえ方は、やや粗削りではありますけれども、やはり現在の生物多様性の課題というのは、日本で言えば、やはり存続基盤そのものが危ういのではないかというところまで行っているのではないかというもので、この3日間のヒアリングを通じて、改めてそれを確認させてもらったわけです。
 そういう意味で言いますと、持続可能な開発などという概念では、もう既になくなっているわけで、一方では、生存基盤そのものを、もう一度つくり直していく、それが『環の国』という一つの方向性だったと思うんです。そういう枠組みの中で、全体として、もう一度、生態系をつくり直す、あるいは多様性を回復させていくというプログラムを、オリエンテーションとしてつくっていくことが、重要だと思うんです。 だから、そういう意味で言うと、阿部先生の問題提起は、私自身は大いに変わってもいいんじゃないかなというふうに思います。その都度、その都度の環境省の枠組みの中で全部がコントロールできるという話であればそうだろうけれども、これはやはり突出する部分と突出しない部分を調整していかなければならないという意味では、柔軟に対応し、ポイントをつけて対応をつけていくということがやはり戦略的にもあってもいいんじゃないかなという感じはします。
 そういう観点でいったときに、幾つかさまざまな議論があると思うんですが、先程の話の中で、保全のための仕組みで、この3日間で私は非常に大きく感じたのは、生物多様性の保全というのは、一つはDNAのレベルの遺伝子の多様性という問題と、種の多様性、それから生態系の多様性ということでありますけれども、遺伝子はともかくとして、これは別の枠組みが非常に重要だと思います。
 環境省としての問題として言えば、種の多様性という問題については、十分か不十分かはともかくとしても、ある程度の担保をしてきた。それに比べると、生態系保全に対応する法律制度といいますか、先程ゾーニングの問題の 129ページの中で、環境省の持っている法律の自然環境保全法がそれに当たるんだろうとは思うんですが、これが法律制度としてどうかという問題があると思うんです。それから自然公園法も、多様性あるいは生態系保全の担保する法律としてどうかという問題があると思うんです。それから絶滅法は、個々の生物種レベルの多様性の保全という、先程の意味で言えば、ある程度対応しているということです。
 そういうラインナップをこうやって見ていきますと、大きく抜けているのは、やはり生態系保全にフィットするような、法律的なラインナップとして十分かどうかという問題が提起される必要があるのではないかという気がします。

●辻井委員長 ありがとうございました。では、鷲谷先生どうぞ。

●鷲谷委員 利用と生物多様性ということなんですけれども、日本列島の自然というのは、まあ自然という言葉はすごくあいまいな言い方ですので、どういうふうにもとれるような言い方になってしまうかもしれませんが、恐らく自然の営力に加えて、石器時代以来、日本に住んでいた人たちが、いろんな形で自然を利用してきたことによって形づくられたというふうに考えなければならないと思います。
 ですから、利用によってつくられた自然という面が、国土の隅々までそうとは言いませんけれども、大部分の場所はそういうところであり、それが、かつては失敗例も幾つもありながら、かなり持続可能なやり方で利用してきたからこそ、今私たちは豊かな自然を享受できているということがあると思うんです。
 そういう利用ができたということは、自然と割合いい関係を、日本に住んでいた人たちすべてではないかもしれませんけれども、つくってきたということがあるように思います。最近NHKで「日本人はるかな旅」という特別番組をやっていて、すごく人気があって、国立科学博物館で展覧会があったり単行本が何冊も出ているので、それで勉強をしてみますと、日本人というのは、すごく多様な起源を持っている。氷河期にマンモスハンターとしてシベリアから渡ってきた人たちもいれば、氷河期には海水面が低下しますから、東南アジア一帯が陸地になって、スンダランドという陸地になってきたときに、そこから海の民としてやってきた人もいる。それから、東アジアのいろいろな地域から、縄文時代、弥生時代にまた日本列島に住み着いてきた人たちもいる。
 こういうことがわかったのは、DNAのいろいろなマーカーの分析であるとか、あるいは顔の骨の形態の多変量解析とかいうことなんですけれども、そういうふうに考えてみますと、いろんな起源を持ったんだけれども、私たちは日本人としてアイデンティティを持っていますし、日本文化というかなりまとまりのある文化もあるんですが、それは何がつくったかといえば、やはり日本のもともとすごく豊かになる要素のある自然というものと、そこで生きるために人とのかかわりがつくってきたのが日本文化というふうに言えなくもないなと思うんです。
 そういう自然として一番イメージされるものといえば、やはり里地里山的な人の営みの場の自然なんです。先程阿蘇の草原の野焼きという例が出てきましたけれども、野焼きというのは、もともとは、きっと火山で山火事というか野火が起こるというようなことを見て、植生管理に人が利用し始めたものではないかと思うんです。
 ですから、そういう自然の攪乱に適応した動植物というのは、今、火山という話がでましたけれども、もともと日本は急峻な地形ですから、河川のはんらんなども多いということで、攪乱に適応した動植物がいるということもありますし、攪乱というのは、自然の中でも多様性を高めるための重要な要素なんです。
 だから、自然の攪乱がある程度ないと多様性が維持されないということもあるんですが、そういう自然の攪乱と規模や程度やタイプにおいて、それほど違わない攪乱であれば、豊かな、本当に極層林的なところの生物というものの生息場所は、やや狭くなってしまうかもしれませんけれども、かなり広く、もともとあった自然の中にある、多様な生物を維持できていたんだと思うんですけど、割合最近までそれができていたと思うんです。
 雑木林の管理なんかも、うまくやっているところでは、そういう要素があって、管理している雑木林の方がずっと生物多様性が高いので、アズマネザサなどが茂ってしまいますと、植物の多様性も低くなりますし、先程猛禽の話が出ましたが、フクロウなどは、えさがとれなくなってしまうんです。
 そういうような面もあって、管理することによって、もちろんそこの場所に住めなくなる生き物もいるんだけれども、かなりそれに依存して生活できるもの、それが私たちにとっての身近な生き物であったと思うんですが、今、そういうものがかなり厳しい状況というか、絶滅危惧種になっているものもありますし、絶滅危惧種にならないまでも、衰退してしまっているものが少なくないですし、何よりも問題なのは、恐らく人と自然との関係というものが、とても希薄になってしまった。そういう人が利用して豊かな自然というのも失われてきていますし、人の側の気持ち、身近な生き物に対する意識とか感覚というのもなくなってきて、今話していると長くなってしまいますので、この辺でやめますけれど、それは子供たちの成長にとってとても阻害要因になっていると思いますし、大人にもきっとかなり影響があるんじゃないかと思います。

●辻井委員長 ありがとうございました。森戸委員、どうぞ。

●森戸委員 先程の熊谷先生のお話を聞いていて、私も少しはわかってきました。私なりの乱暴な理解かもしれませんけれども、今回の国家戦略というのは、「生物多様性論」そのものを展開する話ではない、それが主役ではない。これは論文を書けばいいんだから。これはやはり国家的な行動計画みたいなものを呈示するということに役割があるんだということがはっきりしたなと思うんです。
 そうすると、保護・保全という政策だけではなくて、やはり持続的利用という政策も入っているんだから、両方ひっくるめた行動計画に持っていかなければならない。具体的には、今、先生が言われたように、人と自然の関係に関する行動計画と言ってもいいのかもしれないけれども、行動計画として科学的な、あるいは最先端の生物多様性の成果を踏まえつつも、直接的にはやはり行動計画として展開するというのが基調にあった方がいいのかなと思います。
 それで、戦略に関してなんですけれども、やはり一つはめり張りをつけるということで、別な言い方をすれば、あれもこれも、ともかくみんな記述してあるということよりも、「まず、これだ」というある種の意思といいますか、ストーリー性を打ち出す。これまでは奥山の国立公園を中心にした形で保護行政をしながら自然を守ってきたが、これからは人々がふだん生活している里地里山とかを戦略的なフィールドとして今回設定するんだと、はっきり打ち出す。
 多分、今までのご説明からすると、里地里山とか、あるいは干潟、藻場というところが当面の戦略的なフィールドらしいので、それをめり張りとしてはっきりさせてもらった方がいいのかなという気がします。
 前回の戦略の記述を見ていると、これは条約ができてすぐということもあるが、基本的には条約の枠組みに沿ってというか、条約の構成のストーリーに沿って、それを何となくなぞっているという感じが私はしたんです。でも今回は、条約は背後にというか、基本にはあるんだけれども、条約の解説ではなくて、ストーリーとして独自の展開をすべきだから、そういう意味ではわかりやすいという表現はいけないのかもしれませんけれども、もう少し論理性というかストーリー性が明確になるような記述に変えてもいいんじゃないか。これは、基本的な考え方を変えたわけではなくて、記述は改良していいんではないかという感じがするんです。そうすると、もう一つ戦略というか、裏の戦略かもしれないけれども、環境省だけがつくるのではなくて、各省庁も巻き込んで、言ってみれば共犯というか、一緒に責任をとらせようという趣旨でいくことも大変重要だと思います。
 こういう表現は悪いかもしれないけれども、今、小野寺さんはいろいろ言われたけれど、また内閣がかわれば少し違う話も出てくるし、経済的な条件もあるので、そういう意味で言うと、各省庁は今は環境省に対しては、少なくともこういうつき合い方をして、こういう冠をつけておけば楽だという、それなりの打算というかそういうのもあるので、僕は首尾一貫したストーリーで各省庁が記述できるとは思っていないんです。僕はそれでいいんじゃないかと。各省庁が書いて、参加して、責任の一端を負わされたという段階でいいのであって、そこまで首尾一貫するストーリーにするということにエネルギーを費やさなくてもいいので、むしろ事務局である主体性を持って、しっかりしたストーリーがあれば、各省で適当に矛盾することが書かれていてもいいくらいの感じでやった方がいい。僕はそういう方が戦略的だと思っているんです。
 ただ、それでは余りに寄せ集めだから、さっきちらっと言いましたけれど、本当に今度の生物多様性で連携できるプロジェクトは、僕はプロジェクトとして提起すべきだと思います。記述の問題というよりも、そういうアクションを幾つかきちんと呈示して、それ以外のところはしようがない、でも、こことここだけは一緒に戦略的なフィールドでやっていこうという話だけは、きちんと出した方がいいんじゃないかという気がします。
 せっかくマイクをもらったから、もう一つだけ言わせてもらおうと思います。国際協力がその他のところで出ていて、僕が気になるのは、国際協力ということよりも、国際的視点というものが戦略の中でもっと出ていいのかな、もっと前に出るべきだと思うんです。
 だから、先程熊谷先生が言われたように、地球環境という規模で考えれば、地球の中で、国際的な関係の中で、日本の果たすべき役割は何だという話が明確になってる。例えば、日本の生態系の特性に合わせて、希少種に関してはこうするんだと、日本の生物多様性とか、あるいはそれに支えられた文化みたいなものを守るんだという日本の役割がはっきりする。これも前回のヒアリングのときに出たと思うんですけれども、日本の森林をきちんと守っていても、途上国で乱伐をしている。、そして技術提携か何かでデータを送っているというのでは、日本の役割というのは弱いんじゃないか。
 ですからその他の一番最後に国際協力が出るというタイプの記述ではいけなくて、これはもっと前に戦略として出てくるというストーリーにしてほしいんです。

●辻井委員長 ありがとうございました。ここで、今、最後におっしゃった国際協力というのが、6の「その他」のところになっているのは、こういう章立てにするというつもりではないと思います。つけ足して言うことではなくて、いわば、お話の論点の一つとして、ここに「その他」のところに入っているというだけだと私は思います。
 いかがでしょう、ほかにどうぞ。

●服部委員 今、森戸委員がおっしゃったのに、同感のところがありまして、最後のところでおっしゃった、国際協力というのは、やはり国際的視点というか視野というか、そういう感じだと思うんです。だから、位置の問題だけでなくて、文言のカバーする意味合いみたいなのが、協力から視野という感じだろうと思うんです。
 それから、戦略的なところも、かなり同感の部分があります。各省が施策として展開していくのに都合のいいような項目だと、きっと新しいいろんな方法が出てくるんですね。極端な言い方をしますと、こういうふうに生物多様性の戦略を展開しますよといって、全部、環境省がカバーしてしまうようになっていると、恐らく成功しませんね。各省が入り込んでいって、例えば里山だと小野寺課長がおっしゃった、いろんなところがかかわる分野なんだけれども、かかわれるような格好で書いてあると、それぞれが工夫し実力を発揮することになると思います。各省がおもしろく展開できるような戦略になっていると、実効性が高いんじゃないかと思います。
 それから、もう一つは、戦略で、これもめり張りがあって、ストーリー性があった方がいいとおっしゃったのは、私も賛成です。そういう意味から言うと、網羅的に書くのと比べて、めり張りをつけると、ある部分が良くて、落ちたこの点はどうなるのか、こういう点は重要ではないのかというふうな話にもなってしまいます。例えば、その1、その2といった感じで、「これは全部を網羅している話ではなくて、当面、皆さんが手がけるときに、見えるあたりを戦略として書いたんで、もっと方法はいろいろあると思う」とすれば良い。手にかかる、目に見える範囲のところを戦略として重点的に書く。しかも、総論のところでは、網羅的な書き方が必要なんじゃないかないかなというふうな気がしているんです。
 もう一つは、戦略を展開する上で、NGOなりNPOなりという話があったんですけれども、新しい雇用の創出ができるようなことも入れてもらいたいですね。それはデータの量的、質的な不足部分があるということでしたが、そういうのを専門的にやるような職業みたいなのを盛り込めるということがあってもいいんじゃないかなと思います。以上でございます。

●辻井委員長 ありがとうございました。ほかに、どうぞ川名委員。

●川名委員 ちょっと視点が違うんですけれども、見直しの論点とありますけれど、基本的に何を見直すのかというのがはっきりしない。これは、ほとんど前のと余り変わっていないような気がするので。
 私の考え方としましては、経済的・社会的要因が変わってきたので、それのどこを、この5年間で変わってきたものをどのくらい受け入れるかということが見直しなのではないかと私は何となく思っていたわけです。つまり、経済の効率性というようなこととどれだけ折り合いをつけていくかというようなことではないかと思っていたんです。
 ですから、各省のヒアリングを聞いても、それは経済官庁のことは、例えば、経済産業省の話なども、かなり環境省寄りのところからしかヒアリングをしていないで、本来の経済官庁としてのメーンのところからヒアリングをしていないで、何か大きな世の中の流れから取り残されるんじゃないかというような心配をちょっとしております。

●辻井委員長 ありがとうございました。小野寺さん、どうですか。

●自然環境計画課長(小野寺) 本当は苦手な分野なんですけど。
 ヒアリングについては、一応、全省庁で連絡会議のメンバーになっておりまして、そこに声をかけて、できるだけ積極的に川名委員がおっしゃったような問題意識も含めて投げかけはしたんですが、結果としては相手があることですので、3日間のヒアリングはああいう形になりました。それだけで十分ではないということもあって、再質問というのを出させていただいております。さらにそれでも十分ではないということはあるかもしれませんが、それは、今後検討させていただきたいと思います。
 それから、論点の中にもちょっと挙げましたけれど、社会経済的要因分析、意識変化というところの読み方というか、要因分析と先の計画をつくって、森戸委員のおっしゃる行動計画をつくっていく先にどう見ていけばいいのかというのは、我々なりにちょっと努力をして数字をつくったりもして見ているんですが、非常に大きくは、言葉の読み方、言い方はいろいろあると思いますけど成熟型社会化になっている。端的に言いますと、土地利用転換の量というのは圧倒的に少なくなっているし、人口動態は、むしろ数年以内に減少の方に向かう、それから都市に集中するということから考えると、むしろ国土全体からすれば、生物多様性自然環境に与えるインパクトは、マクロには少なくなる方向に多分向かうだろうと思います。
 そこから先が、また渡辺委員の目標の数値設定その他も含めて難しいところなんですが、目標水準の生物多様性という観点から見た置き方というのが、いわゆるほかの分野のものと違って、なかなか数値化しにくいものがあると思うんです。それは、一つは自然のメカニズム自体がよくわかっていないということもありますが、それ以上に目標の水準のとらえ方が、そのときの社会意識といいますか、国民全体が要求していることがどこまでかということと、きわめて深くかかわるんだと思うんです。
 生物多様性において目標を考えたときに、目標の置き方がなかなか時代によってそもそも難しいということは、そこに理由があると思います。しかしながら、社会意識というふうに社会経済の次に並べて書いてありますのは、我々の意識としては、生物多様性や自然環境にかかわる目標の合意の程度が非常に高くなる方向に向かっているんじゃないかというのが我々の考え方で、高くなっている方向に向かっているものを、どう具体的な行動計画みたいな形で書けるかということなんだろうと思います。

●辻井委員長 どうぞ。

●三澤委員 先程来、人との関係が出てきておりまして、どのようにそこを考えていくかというのは非常に基本的な問題だと思っているんです。今、小野寺課長がご説明のとおり、非常に難しい問題であるけれども、いつの時点で生物多様性をどのように考えるかということが出発点だと思うし、人の暮らしぶり、早く言えば、例えば経済成長率とかいうことに関連して、この生物多様性ということはどんなふうなのか。この辺は、かつての高度成長期において、どういうことがあったというようなことがわかっていると思うんです。
 だから、今後の戦略として、その辺をどう考えるか、つまり、今の暮らしの水準から見て、将来の多様性をどう考えるか。だから、これ以上に多様性に傷をつけないためには、今の暮らしぶりが精いっぱいですよというのか、あるいは、むしろマイナス成長こそ望ましいというのか、その辺が実はいろいろあると思うんです。
 だから、私もそういうものの一つは、先般の『環の国』づくりといったもの、あるいは今の五全総的なもので、将来の国の生活水準、経済水準をどう考えるか、そのときに、これ以上いってしまうと大変危険的な状態になるから、多様性のネックから、それ以上の成長は望ましくないというような言い方ができるのではないかと思っているんです。ある程度の成長はやむを得ないとすれば、ある程度の多様性がこの程度は犠牲になりますよということを、言ってみれば幅で明示していけばいいんじゃないか。そういうことを国民に知らせることが、一つの戦略になるのではないかという気がしております。
 もちろん、これは今後書かれる方には大変な難しい注文になるかもしれませんけれども、そういったことをいろいろ考えて、先程の熊谷先生、あるいは森戸委員のお話のようなことをいろいろ考えながら骨を折っていただきたい。勝手な注文ですが。以上です。

●辻井委員長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょう。どうぞ、熊谷先生。

●熊谷委員 論点として私が加えておいてほしいのは、今回は、戦略というからには、やはり何らかの戦略に基づいて戦術なのか、あるいは実戦なのかわかりませんけれども、そういうものに結びついてほしいというふうに思っているわけです。一方で理想的な将来像というのを見せることは大変大事ですが、具体性もあった方がいいかなということで、例えば、この戦略が実際に実践に結びつけるとすると、多分、予算とか、人事とか。ですから、生物多様性国家プロジェクトというのをつくるんだということに結びつけて、何か考えていくというような現実的な具体案を考えることによって、実際の生物多様性、国家戦略というものがより鮮明になるんじゃないかという気がいたします。
 そして、例えば今までもなかったわけではなくて、特に里地里山の観点から言いますと、首都圏とか近畿圏で、過去に国土庁が音頭をとったと思うんですが、当時の建設省、環境庁あるいは林野庁といったものが同じフィールドでプロジェクトをしているんですが、それの出だしは省庁間できちっと整理をしてやっていこうという形で国土庁から出ている話が、すべてその調査は各省庁で本当に縦割りでやられて、横の整理が全くついていないというようなことで、多分、今回多少、省庁の再編はありましたけれども、同じようなことが起こるのではないかというふうに思います。
 ですから、そういうことの反省にも立って、私はこの国家戦略の中では、具体的なプロジェクトを何か考えて、それを動かせるような形で、どのようなものがあり得るのかというようなことも、論点としては、やっていただけたらというか必要かなという感じがしております。もちろん人事で、環境省の中に生物多様性国家戦略係でもできればいいでしょうけれども。それは冗談ですが、少なくともプロジェクトをきちっと考えていくというようなことを最終的には考えていただければと思います。以上でございます。

●辻井委員長 ありがとうございました。
 ほかに、どうでしょう。どうぞ、阿部委員。

●阿部委員 今までのは大体、多様性と環境が絡むものであったと思うんです。それが、非常に重要な分を占めている議論だったと思うんですが、今ここにも出ております、もう一つ非常に重要で多様性破壊に物すごく大きな力を持つものが、移入種・外来種の問題なんです。
 これは、日本の環境を全くいじらなくても、多様性を根底から崩してしまう問題なわけです。現に、そういう例がたくさんあるわけです。とにかく、種が入れかわってしまうわけですから、全くの多様性破壊といいますか、非常に種間の競争ですから、これは進化と全く同じことを人為的にやっているわけですから、非常に厳しい問題がたくさん起こっています。
 そういう意味では、これを非常にもっと重視しないと、幾ら自然環境を修復できたとしても、あるいは、土着の生物相を維持できたとしても、根底から崩してしまうのが、この問題だと思うんです。ですから、これは今、一部の生物以外は、事実上フリーなわけです。ですから、それを逆転して、特定のもの以外は全面輸入禁止とか、それぐらいのことを考えておかないと、これだけ物流が今後ますます激しくなりますと、それをやっても無理かもしれませんけれども、少なくとそれくらいのことを考えてやらないと大変な問題だと思いますので、その点をちょっと提起したいと思うんです。

●辻井委員長 ありがとうございました。どうぞ、鷲谷委員。

●鷲谷委員 阿部先生の移入種の問題は、とても重要だと思いますので、戦略の中でも、かなり実効性のあるような方針を出していかなければいけないと思います。手を挙げていたのは、その前の国家プロジェクトというお話だったんですけれど、具体的なプロジェクトもあるかもしれませんが、生物多様性国家戦略に基づいて、どのくらい取り組みが進んでいるかということでは、今までは省庁間の連絡の会議があって、あとはフォローアップをされていたということなんですけれども、戦略で書き込んだことを、具体的な計画にしたり、あるいは、各省庁が実践している生物多様性絡みの政策を評価したりというようなことを、省庁、さらにもっと広く多様な主体がかかわって実施できるような、何というんでしょうか、どういう名前で呼べばいいのかわかりませんけれども、外国では、そういう例もあるようなんですけれども。もっと連携を強くするための各省庁の、それから、これからは再生事業などではNPO等の参加ということが求められているわけなんですけれども、そういうところにも、できたら、より広い主体、自然保護とか生物多様性の問題に深い関心を持っている世の中のセクターの人たちが、かかわれるような何か仕組みがあるといいんじゃないかなと。「絵にかいたもち」でなくするやり方の一つなんじゃないかと思うんですけれども。

●辻井委員長 ありがとうございました。
 今の鷲谷先生のお話の4番目の保全のための仕組みのところの、いわば一つのお考えだと思うんですけれども、私も今のおっしゃったことで、仕組みをつくるのはいいんだけれど、だれがやるのかというのが問題なんだろうと思うんですね。今の省庁間の分担みたいなことも、ここに入るかもしれませんけれども、保全のための仕組みも考えなければいけないんだけれども、それをだれがやるのかということをまさに担保しておかないと何の意味もないということになりそうです。その中の一つとして、今おっしゃったNPOなりNGOなりを活用できるんじゃないのか。そういうことを実際にやっているグループもいっぱいあるわけですから、そういったことは非常に重要なことだと私も考えます。
 ほかに。どうぞ渡辺委員。

●渡辺委員 すみません。ちょっと質問に近い話です。
 阿部先生のおっしゃった移入種問題に絡んで、私、どなたかが社会経済の変化ということに着目されていらっしゃいましたので、分厚い資料の15ページの社会経済指標の推移というところをちらっと見たんですが、ほかは大体納得できるんですけれども、海外渡航者数、1980年、わずか20年前は 400万人を切っていたのが、2000年には4倍以上、 1,600万人を超えている。これがまず、事実かどうかをお聞きしたい。余りにも激しいものですから。
 それから、移入種に関連するとすれば、こちらから海外へ出ていく者だけではなくて、外国から日本に入ってくる人の数がどんなものだろうか。あるいは、人が出たり入ったりすることと関係なしに、貿易の数量か何か重量であらわすのかどうかわかりませんが、そんなものもわかれば、後で結構ですけれども。まずこの4倍以上というのにびっくりしました。

●辻井委員長 どうも。何か、どうぞ。

●自然環境計画課長(小野寺) この海外渡航者は事実でございます。大体、役所の計画というのは、いろんな大きな国家的な計画というのをつくると、役人の習性が大体過大に数字を設定するというやり方を一般的にはするんですが、この海外渡航者の数だけは、実は計画よりも現実の伸びの方が大きいという、きわめて珍しい動きです。昭和30年代の前半は、実は10万人を切っておりまして、それから40年ちょっとで、この数字まで来ているという、最も特異な動きをしている数字です。
 それから、入ってくる方なんですが、今ちょっとうろ覚えでしかありませんが、たぶん300 万人から 400万人の間ぐらいの数字が入ってきている。つまり、出ていく人の5分の1か4分の1ぐらい。その入国者のほとんどは、アジアから入ってきている人が大部分を占めている。あとでまた調べてご報告させていただきます。

●辻井委員長 どうもありがとうございました。どうぞ鷲谷委員。

●鷲谷 輸入に関することなんですけれども、植物も動物も輸入して、野外に出てしまう可能性のあるような使い方をされているものもたくさんありますし、ペット等として、本来は出ないんだけれども野生化しているものがたくさんあるんです。
 輸入量で、動物だけについて申し上げますと、ことしの1月から8月までに、税関で7億ぐらいの生きた動物が輸入されているんです。それが、頭なのか、件なのかがわかりません。7億という数字が出ているんです。その中には、馬とか牛とか、ちゃんと項目に分けられているものもあります。それから、割合最近に項目ができたペット、フェレットとかいうものもあるんですけれども、その他の動物という項目があるんです。その他の動物が大部分です。その他の動物が7億幾つです。
 その他の動物というのは、中身はだれも把握できていません。ペットとして利用されるものも入っていますし、恐らく農業資材として使われるようなものも動物の項目に入っているんじゃないかと思われます。実態がわからないというのがむしろ今は一番問題なのかと思っていますけれども。
 すごい数です。よその国では、そんなようなことは恐らくないと思いますし、多種多様なペットを自由に輸入するということも、禁止しているというわけではなくても、そんなに輸入して商品になっているということ自体がちょっと異常な面もあるんじゃないかと思います。

●辻井委員長 ありがとうございました。ただ、7億というのは、べらぼうな数ですね。生きた動物でしょう?

●鷲谷委員 生きた動物の数です。

●辻井委員長 どういうものか、見当がつかないんですけれども、何か。

●自然環境計画課長(小野寺) 物の流入というか、入ってくる輸入に関しては、恐らくもう九十数%が港湾統計の世界でまず把握できると思いますので、今持っていませんけれども、それはちょっと調べてみます。それから、特に家畜、ペットはちょっと悩ましいところがありますけれど、それについても、農水省の検疫関係の数字、ないしその他、少し調べてみて、正確な数字をご報告させていただきます。

●鷲谷委員 ただその他というふうに一括されていて、中身はどなたもご存じないと思います。実は、先週、「週間こどもニュース」で、外来種の問題が取り上げられたんですけれど、そのグラフが出されて説明がありました。

●辻井委員長 ありがとうございました。
 ちょっと7億というのは、べらぼうな数で、到底何だろうと思っても見当が……。

●鷲谷委員 中身ぐらい調査したいところですね。

●辻井委員長 実験用の動物だとしても、大変な数だから。

●鷲谷委員 昆虫もかなりの量を占めているような気がするんですが。

●辻井委員長 渡辺さん何か。どうぞ、黒田さん、何かご存じのことがあったら。

●野生生物課長(黒田) 正確なところは私どももわからないんですが、検疫の方の数字で、やはり細かく統計をとっていないということもあります。
 ただ、全部大型の動物が入っているわけではなくて、例えばセイヨウマルハナバチとか、昆虫も随分入っている。それのシェアが高いのかなということなんですが、これも一頭一頭数えているのか巣ごとに数えているのか、その辺がまだはっきりはしていない状態です。

●鷲谷委員 違います。ホームページで見ることができます。すごい量です。

●辻井委員長 どうもありがとうございました。
 そういう熱帯魚だとか、今のハチだとかいうことになると、相当な数になるということは考えられますね。確かに、そういう膨大な数の動物が入っているということは事実でしょう。それが、すべてが脅威になるかどうかはわからないけれども、さっき阿部委員のおっしゃったような、少なくともその中の一部は、きわめて危険な存在になり得るということは考えておかなければならないということかと思います。
 ほかにいかがでしょうか。まだ十分に時間はございますけれども、もしございましたら、どうぞ。和里田委員、どうぞ。

●和里田委員 これはむしろ私は素人で、教えていただきたいという気持ちも含めてなんですが、先程のご説明で、国土の4割も占めている里地里山等の中間地域の扱いというお話で、貴重種が生息しているから大事なところだというお話なんですが。保全という際に、先程からお話がありますように、里地里山というのは、これまで長い何千年もの人間とのかかわり合いの中で形成されてきたものであるんだろうと思うんですが、しかし、これを4割もの国土のところで、しかも、営農形態その他変わってきてしまっている中で保全するというときには、相当な難物なんじゃないかという感じもします。だから、ある意味では割り切ってしまって、放っておくというのも一つの手段なのかもしれませんが、それこそ、専門の先生方のお知恵を十分いただきながらやらないと。
 保全のためにある程度行政的な仕組みだとか、あるいはNGOの方たちに助けていただくとか言ってみても、5年、7年、10年たったときに、結局何だったんだろうということになるんじゃないかというふうに、ちょっと気になったんですが。

●辻井委員長 ありがとうございました。
 ほかにどうでしょうか。よろしゅうございますか。どうぞ、三浦委員。

●三浦委員 今の移入種の問題で、私自身も、これはやはり入ってくるときに、どう規制するかというのがポイントだと思うんです。そういうことですと、これはやはり今の市場原理のみの流通といいますか、ある意味ではWTOなんかも関連しているわけですが、そういうものに対しての、あるステートメントをこの中で提出できるかどうかという問題があると思うんです。この点をまずお聞きしたいんですが、どうですか。

●野生生物課長(黒田) 先程の説明にもありましたけれど、生物多様性条約の中でも移入種の問題というのは一つの課題といいますか、きちっと書かれていて、ガイドラインを来年の締約国会議で採択していこうということで動いているわけです。我が国も、そのガイドラインに沿って対策をしていこうと。特に、先程鷲谷先生からもご指摘がありましたが、特に輸入をたくさんしている国だということで、やはり今回の新国家戦略の中で、移入種に関しては、より具体的な、それこそ実効性のあるような施策を書き込まないといけないと思いますし、実際の問題として、具体的な施策というものが、どういうものができるかということも、実は私どもも検討会を設置して検討しているところでありまして、基本的な方針を今年度中に出すということでもありますし、そういうような動きに並行する形で、国家戦略の中にはきちっと書き込んでいきたいというふうに考えています。

●三浦委員 実は、そういう話は世界貿易レベルでのある種の保守性といいますか、そのことは、日本の多様性問題で言うと、一番最初の方から出てきたし、三澤先生がいらっしゃるんで私が言うまでもないんですが、例えば今の低地林の話は、やはり今、持続可能な利用が適切に行われていないといったような状況とか、間伐が行われていない、山が荒れているといったような指摘、それで森林が鬱閉して多様性そのものも非常に下がっている、あるいは、イヌワシ、クマタカの問題にしても、ウサギが減っているといったような問題も、もとを正していくと、要するに木材需要の自給率が21%と書いてあるけど20%を切っているんです。だから、これはやはり市場原理だけで来ていると日本の木材が適切に、まさに持続的な利用というレベルになっていないから。
 これは、一方では、海外での森林の一定の破壊みたいなのに大いに寄与しているところもある、海外の生物多様性については、無責任になっているというところもあるわけです。そういう問題に踏み込んでまでやっていく必要が、私自身は本来あるんだろうというふうに思います。そこのところは非常に重要なポイントだと。だから、移入種問題も含めながら、日本の資源問題というのをどう考えるか。これは多分、農業にしても水産にしても、そういう我が国の生物多様性と持続可能な利用というレベルで言うと、やはり大きな問題がその中には含まれているという点だと思います。
 それから、もう一つ私が気がついたのが、持続的な利用という問題で言うと、例えば農業、林業、水産業。これはヒアリングを受けたときに、農業分野の中では、かなり公共事業的、土木事業的な農業工学の色合いの濃いものもありましたけれども、基本的には生物多様性に配慮しながら持続的な利用をやってくださいといったような注文形式になると思うんですが、もう一方で非常に強い印象を受けたのが、非常に生物多様性を旗印にした、言い方は悪いですが、公共事業が一方で着実に進行しているという現実があるわけです。 これに対しては、生物多様性に配慮してくださいよといったような枠組みを既に超えているところがあって、これにはレッドカードを出していくのかという課題があるんではないか。もうイエローカードではなくて、こういうことだけはやめてくださいよといったような、何といいますか、多様性保全にとっての基準とか指標とかといったような、もしそういうものがあれば、ぜひ環境省につくっていただきたいなと私自身は思いますけれども、こういうことだけはしてもらいたくないといったようなところを注文していくといいますか、配慮してくださいというレベルではない。注文といいますか。

●辻井委員長 強い注文。

●三浦委員 ええ。この線は越えてはいけませんといったようなものを、一方ではつくっていくというか。だから、対処の仕方としては、今のところ粗削りですが、配慮してくれれば済む問題と、それだけで本当は済むかどうかという問題がありますけれども、もう一方では後者の今のような問題があるということが重要なんじゃないかというふうに思いました。

●辻井委員長 ありがとうございました。
 よろしいですか、どうぞ。

●阿部委員 多様な自然河川を壊して近自然工法をやっているような場合もあるわけです。それはまさに今、三浦委員がおっしゃったことなんですけれど。それは余りにも問題があるんじゃないかと思うんです。
 いずれにしても、川に例をとれば、これまでかなり壊してきたので、それをできるだけ修復するという方向はいいと思うんですけど、現に自然河川であるところを壊して、そこに近自然工法と称して何かやっているようなところが、北海道ではあっちこっちにあるものですから、それはちょっとやめてほしい。だから、それに対しては、やはりペナルティーか何かないと、どうも直らないのではないかという気がするんです。ちょっとつけ加えました。

●辻井委員長 ありがとうございました。ほかにいかがでしょう。どうぞ。

●自然環境計画課長(小野寺) 里山里地問題で、和里田委員のご指摘のところで、大事なところなので、もう終わりなんですけれどもちょっと言わせていただきたいと思います。単純に言ってしまえば、経済的必然性ないし生活の必然性の上に、今の里地里山が乗っかっていたということは明らかだと思うんです。その地域での生物多様性ないし景観の保全は、どちらかと言えば結果的に一種の反射利益としてそこにオンされてきたということが、まずあると思うんです。
 阿蘇の草原で言いますと1万 4,000ヘクタールのススキ草原があって、1万ヘクタールは野焼きをしているわけです。 4,000ヘクタールは放棄しているんですが、その1万ヘクタールは畜産業のために野焼きをしているのであって、ボランティアないし、その他が支えているというのは、ほぼゼロに近いと思うんです。
 そうすると、牛価が低落して、畜産を経営する経営形態が変わったときに1万ヘクタールをどう支えるかということが、すなわちテーマになるわけです。その考え方の要するに展開の方向としては、では、それは税金で、すべて1万ヘクタールを国家管理的に、あるいは公的管理的にやるかどうかという議論があると思うんです。そのときに、問題は、それを是とする社会的合意というものが、どの線で結ばれるのかということが一番問題になると思います。
 それからもう一つは、里山の問題にもう一度返しますと、渡辺が説明申し上げました里山の4分類の中で、一つのメッセージとしてお伝えしたかったのは、4分類の中の2分類は、つまり、ほぼ全体七百数十万ヘクタールのうちの半分ぐらいは、放置しておいても大きな形の上では自然推移に任せて安定するでしょう。細かく言えばいろいろ問題があります。そういうことの上で、より大きな問題が起きているのは、大都市近郊の50キロ圏の中に、きわめて現象的に問題が大きいものが、例えば里山でいうと起きているということを整理した上で、何をもって、だれが、どの程度、つまり公も含めて、そこを合理的な一つの解決策なり提案とするかというところが一番大きな分かれ目だろうと思うんです。
 それで、今までは、環境庁の自然保護局を先頭に、里地里山は実はあり体に言えば逃げてきたと言っていいと思うんです。それは、本当に今言ったような複雑な問題の上に、どうバランスの中で解決を見出していくかということにあったと思うんです。だから、物すごく貴重なものが絶滅するから、緊急避難的に対策をとるということであれば、我々は一つ線引きをしやすいし、世の中も割と認めてくれやすいけれども、非常にバランスの上に一つの調整原理をつくって合意を形成していくということが、本当は多様性国家戦略のポイントになることだと思います。
 そういう意味で、答えは余り十分準備していないんですけれども、あえて論点の中にも、あるいは分析の中にも強く入れて、できれば我々も考えますけれども、この委員会の中でも考えていただきたいということです。すみません。最後に蛇足を申しあげました。

●辻井委員長 どうもありがとうございました。どうぞ、何か。

●三浦委員 今の小野寺さんと関連させるんですが、資料集の最後の方の条約関連のところで、これは林野庁の人も言わなかったんですが、モントリオール・プロセス、温帯林の保全と国際声明がありましたよね。あれが入っていないし、林野庁はそれを入れなかったし、環境省は、それの共管で声明を批准しているはずだったと思うんです。
 その中で、生物多様性の保全というのが入っていて、それとの絡みで現在FSCという森林認証の仕組みがあります。そういう認証を受けて、多様性を回復させるといったような施業を行ったり手入れを行ったりといったようなものに対しては、そこから生産させる木材は、ある程度のラベルがつくというものと、それから、売価としてもちょっとプラスになるというのと、あるいはそこに税を入れられるような仕組みも一方では考えていく必要があると思うんですが、そういうことについての記述が、インセンティブとして何かつくり出す必要があるといったような記述が、特に里山の二次林については、あってもいいんじゃないかなという気がするんですが。●服部委員 説明があった国民意識が変わってきたから、こういうのができてきたんじゃないかと思うんですけれども、それが変わってきたというのは、環境省が中心になられて非常に努力してこられたのと、それから、グローバルなというか、世界的な趨勢みたいなプレッシャーがあって変わってきたんだと思うんです。
 だから、今、三浦委員もおっしゃったんですけど、私が新しい職業への展開と言ったのは、里地里山の扱いも、ボランティア的な行為とかNPOに乗っかっているだけでは守れない、だから、それに見合うぐらいの生物多様性が、里地里山に重要な場所であるということを言って、税金を使ってでもやるべきだというふうなところに持っていった方がいいんじゃないかなと私は思います。

●辻井委員長 ありがとうございました。
 三浦先生、何か。よろしいですか。
 ほかに、よろしゅうございますか。
 それでは、一とおりいろいろなご意見をちょうだいしたように思います。今日は、なるべくたくさんのキーワードになるようなものをということでお願いいたしまして、さまざまなご意見をちょうだいいたしました。全部まとめるつもりは毛頭ございませんが、まず、生物多様性論ではないということ、つまり、国家戦略なんだから具体的プロジェクトを考えるべきだろうというふうなご意見が基本的にはありまして、現在の社会経済的な問題というのが、あるいは今お話があった国民意識の変化というようなことと大きく生物多様性を考える上でつながっている問題があるだろう。例えば、移入種問題もそうだし、森林の手入れ、これは木材利用の問題もそうだろうし、ひいては海外の木材輸入などともつながりがあるわけだから、そういったことも含めた社会経済的な視点というのが必要だというお話とか、ご意見とか、あるいは目標設定ということになるんだろうと思うんですが、やはり効果をあらわすためには数値目標というのが必要であろうと。
 これについては、私もまさにそうだと思います。モニタリングというのは前にありましたけれども、例えば効果の検証というようなことは余りなかったように思うので、そういったことを含めて、設定だけでなくてモニタリングと検証というのが、どこかに必ずセットになって出るべきではないだろうかと思います。
 それから、3の国土のマクロなとらえ方のあたりで、つまり非常に高い多様性を持っている日本の国土の特徴を表現したものがほしいというご意見があったと思います。それを、いわば戦略的にどう取り扱うかということが必要であろうということかと思います。
 あとは、さまざまな保全のための仕組みについては、だれがやるのか、システムだけでなくて、だれがやるのかということも含めて考えなくてはならない。
 それから、最後のところでは、役割分担というところは、それこそ省庁の枠を超えてということが、今や言われていることでもあるし、そこのところを強く書くべきであろうということになります。
 それから、国際協力は、国際的視点ということで、ここに位置づけるのではなくて、どこか場所を変えるんだろうと思いますが、そういうことになるだろうというふうなことだったかと思います。
 すべては申し上げませんけれども、大体そういった主なご意見があったということで、今日はまとめておきたいと思いますが、よろしいでしょうか。
 どうもありがとうございました。それでは議題、議事の2番目のその他ということで、事務局から何かありましたらお願いいたします。

●生物多様性企画官(渡辺) 本日はどうもありがとうございました。次回の予定のご連絡でございます。次回、11月20日の日でございます。10時から15時という、午前・午後にまたがって行いたいと予定しております。場所が経済産業省別館の9階、944という会議室で行います。次回は、自然環境関連のNGOからのヒアリングということで行いたいと思っております。よろしくお願いいたします。
 また、本日の資料集でございますが、今後の小委員会ごとに使ってまいりたいと思っております。ちょっと重たいものなので、置いておいていただければ、次回机の上にまたご用意いたしますし、郵送してほしいということであれば、言っていただければ郵送させていただきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。以上でございます。

●辻井委員長 今、ご案内のあった11月20日のヒアリングは、実は、私も岩槻先生も出席できませんので、熊谷先生に座長をお願いするということになっております。どうぞよろしくお願いいたします。そこで、毎回申し上げることですが、小委員会で配付されました資料、議事要旨、議事録は公開となりますので、どうぞご承知おきをいただきます。
 では、これで閉会といたします。どうもありがとうございました。

                               午後5時21分閉会