平成12年(2000年)版 「化学物質と環境」
第2編 最近の化学物質関連の調査・研究等の概要
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7.ダイオキシン類精密暴露調査の結果について
-平成11年度調査結果-
 
平成12年11月24日(金)  
環境庁環境保健部環境リスク評価室


調査の概要
(1)調査の目的及び内容

 平成11年度ダイオキシン類精密暴露調査では、人の健康に対する環境要因等の影響評価を行うため、暴露評価をより精密に行い把握することを目的として、大阪府能勢町地域、埼玉県地域(所沢市、狭山市、川越市等)及び広島県府中市地域において廃棄物焼却施設周辺地区(A地区)及び対照地区(B地区)を設定し、各地区の対象者及び環境調査地点を選定の上で、長期間にわたるダイオキシン類への暴露の指標とされる血中ダイオキシン類(PCDD+PCDF+Co-PCBを「ダイオキシン類」という。)濃度を測定するとともに、環境調査(大気、室内空気、土壌、表面サンプリング等)、食事調査、及び食習慣や喫煙歴等に関するアンケート調査を実施した。
 また、動物実験では微量のダイオキシン類により起こることが知られている薬物誘導酵素の誘導や、免疫能への影響等が、各地区の対象者に認められるかについても試行的に調査を行った。
 平成11年度ダイオキシン類精密暴露調査では、分析結果に基づき、以下のa)~e)について、調査結果をまとめた。
 a)血液調査
 b)環境調査
 c)食事調査
 d)ダイオキシン類の暴露評価
 e)平成10年度と平成11年度の比較

(2) 調査結果
  a)
血液調査について(人体の蓄積状況等について)
年齢調整を行った血中ダイオキシン類濃度については、大阪府能勢町地域、埼玉県地域、広島県府中市地域とも、A地区とB地区の平均値及び中央値は、ほぼ同様の値(平均値はA地区で26~29pg-TEQ/g脂肪、B地区で24~30pg-TEQ/g脂肪)であった。また全地域の対象者の血中ダイオキシン類濃度の範囲は、5.3~70pg-TEQ/g脂肪であり、これまで我が国で実施された調査結果の範囲内にあった。
  b)
境調査について
調査期間中の大気中ダイオキシン類濃度は、大阪府能勢町地域においてはほぼ等しく、埼玉県地域においてはB地区がA地区の測定結果よりも高い傾向を示し、広島県府中市地域においてはA地区がB地区よりも高い傾向を示したが、両地区間の差は認められなかった。また、室内空気中ダイオキシン類濃度は、ほぼ大気中ダイオキシン類濃度に相関していた。土壌中ダイオキシン類の測定結果については、大阪府能勢町地域においてA地区の測定結果の方がB地区よりも低く、埼玉県地域と広島県府中市地域においては、A地区がB地区よりも高い傾向が認められたが、両地区間の差は認められなかった。
  c)
食事調査について
食事経由のダイオキシン類推計暴露量については、大阪府能勢町地域においては、平均値及び中央値ともA地区の方がB地区よりも低く、埼玉県地域においては、A地区がB地区を上回っていた。広島県府中市地域においてはA地区がB地区よりも低かった。また、地区間で比較した結果、3地域とも明確な差を見出せなかった。なお、平成10年度については、3日間1回(合計3回)の食事調査であったが、平成11年度については、3日間3回(合計9日間)の食事調査を行ったため、食事からのダイオキシン類摂取が平準化されたと考えられる。
  d)
ダイオキシン類の暴露評価について
ダイオキシン類の推計総暴露量を地区間で比較した結果、大阪府能勢町地域においては、平均値及び中央値ともにA地区の方がB地区よりも低く、埼玉県地域においては、平均値及び中央値について、A地区がB地区を上回った。広島県府中市地域においては、平均値及び中央値ともA地区の方がB地区よりも低かった。
  ダイオキシン類の暴露経路は、各地区とも、食事が約9割以上を占めており、経気道及び土壌の寄与割合は相対的に小さかった。
  各地区とも、ダイオキシン類の推計総暴露量の平均値及び中央値は耐容一日摂取量(TDI)値4pg-TEQ/kg/日以下であった。なお、本調査におけるダイオキシン類の推計総暴露量は調査期間中における断面調査によるものであるため、4pg-TEQ/kg/日と単純に比較できないが、この値を越えるものが120名中2名いた。なお、平成11年度については、3日間3回(合計9日間)の食事調査を行ったため、食事からのダイオキシン類摂取が平準化され、総暴露量についても同様の傾向が認められた。
  調査期間中におけるダイオキシン類の推計暴露量と血中ダイオキシン類濃度との間に明確な関連はみとめられなかった。
  e)
平成10年度と平成11年度の比較
大阪府能勢町地域及び埼玉県地域の各地区について、一部の協力者及び地点で平成10年度、11年度とも血液・大気等の調査を実施したので、それらの両年度の比較を行ったが、各地区とも各項目において差は認められなかった。

(3) まとめ
本調査では、血液調査を行い、人への蓄積量を把握するとともに、環境調査及び食事調査を行い、経路別の暴露量を推計した。その結果、人への蓄積量及び経路別の推計総暴露量は、地区間で明確な差はみられなかった。

(参考) ダイオキシン類暴露と免疫能及び誘導酵素の関係については、居住地区間における明確な差異は認められず、また、血中ダイオキシン類濃度と免疫能及び誘導酵素には相関が認められなかった。

注1)  ダイオキシン類と免疫能について
動物実験では、微量のダイオキシン類の暴露によってリンパ球構成の変化等(CD4の低下やNK細胞活性の低下)やTリンパ球の増殖能が抑制(PHA,Con-Aの添加による試験)されることが知られている。
注2) ダイオキシン類と薬物誘導酵素について
薬物代謝酵素cytochrome P450は様々な多環芳香族炭化水素により誘導されることが知られている。特に、cytochrome P450 1A1(CYP1A1)、cytochrome P450 1A2(CYP1A2)、Cytochrome P450 1B1(CYP1B1)はTCDDに対する誘導能が高いことから、ヒトのダイオキシン類に対する暴露影響の分子指標としての可能性が示唆されている。



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