[化学物質環境調査(大気系)] |
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本調査は、大気中に化学物質がどの程度残留しているか把握することを目的として行っている。
平成11年度の調査結果の概要は、次のとおりである。なお、調査地点では、特定の排出源の直接的な影響を受けないような地点を選定している。
本調査における試料採取は、ほとんどが9~11月に行われている。環境試料の分析は、主として調査地域を管轄する地方公共団体の公害等試験研究機関で行っており、検出限界については、化学物質環境調査(水系)と同様、各地点の検出頻度を相互に比較するため、同一化学物質に対しては一つの検出限界を設定している。
今回の調査の結果、28物質(群)中27物質(群)(1,2,3-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン、1,3,5-トリクロロベンゼン、1,2,3,4-テトラクロロベンゼン、1,2,3,5-テトラクロロベンゼン、1,2,4,5-テトラクロロベンゼン、ペンタクロロベンゼン、ヘキサクロロベンゼン、エチルベンゼン、1,1-ジクロロエタン、1-ブロモ-3-クロロプロパン、o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、p-ジクロロベンゼン、メチル-tert-ブチルエーテル、ベンゾ[e]ピレン、ベンゾ[g,h,i]ペリレン、ベンゾ[b+j+k]フルオランテン、ベンゾ[a,h]アントラセン、ピレン、フェナントレン、フルオランテン、クリセン、メタクリル酸メチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸n-ブチル、PCB)が検出された。調査結果に対する評価を物質(群)別に示せば、次のとおりである。
なお、調査した物質によっては、今回の調査の統一検出限界が前回より高くなっているものがあるが、それは主に測定方法の変更(例えば、測定機器をGC-ECDからGC-MS)等によるものであり、その反面信頼性が向上している。 |
1.1,2,3-トリクロロベンゼン |
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(1) |
1,2,3-トリクロロベンゼンは、染料、顔料中間物、トランス油、潤滑剤としての用途がある。 |
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(2) |
1,2,3-トリクロロベンゼンは、昭和61年度の一般環境調査の結果、24地点中9地点、73体中22検体から検出された。(検出限界値:1.0ng/m3)。 |
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(3) |
今回の調査の結果、1,2,3-トリクロロベンゼンは、13地点中13地点、38検体中38検体で検出された。検出範囲は 0.018~11ng/m3であった(統一検出限界値:0.015ng/m3)。 |
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(4) |
以上の調査結果によれば、1,2,3-トリクロロベンゼンは、検出頻度が高く、前回調査(昭和61年)とほぼ同様の傾向を示していることから、今後も環境調査を行い、その推移を監視するとともに、発生源の解明を含めた情報収集にも努めることが必要である。 |
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【 参 考 】 |
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○1,2,3-トリクロロベンゼンの製造方法2)
3,4,5-トリクロロアニリンまたは2,3,4-トリクロロアニリンよりジアゾ反応など
により合成される。
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○1,2,3-トリクロロベンゼンの検出状況 |
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(検体) |
(地点) |
検出範囲 |
検出限界 |
昭和61年度 |
30%(22/73) |
38%(9/24) |
1.1~12ng/m3 |
1.0ng/m3 |
平成11年度 |
100%(38/38) |
100%(13/13) |
0.018~11ng/m3 |
0.015ng/m3 |
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○1,2,3-トリクロロベンゼンの急性毒性試験等結果
LD50(ラット、経口) |
1,830 mg/kg |
LD50(マウス、腹腔内) |
1,390 mg/kg |
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反復投与毒性: |
雌雄ラットに、3種のトリクロロベンゼンをそれぞれ1、10、100、1,000 ppmの濃度で、13週間混餌投与した。1,2,3-トリクロロベンゼンでは、100 ppm投与された雄ラットで体重増加抑制が認められた。三種類のトリクロロベンゼンすべてについて、高濃度に暴露された雄群で、肝臓ならびに腎臓重量の増加がみられた。 三つの異性体の中で、1,2,4-トリクロロベンゼンのみが、雄ラットの1,000ppm群で、肝臓中のaminopyrine demethylase活性、aniline hydroxylase 活性を、雌ラットで aminopyrine demethylase活性を増加させた。血清中の生化学的、血液学的パラメーターは、測定した限りでは、影響を受けていなかった。三種類のトリクロロベンゼンすべては、1,000ppmで、肝臓と甲状腺で、かなりの程度の組織変化を起こした。1,3,5-トリクロロベンゼンは、1,000ppmの暴露を受けている雄ラットで、中程度の腎臓変化をきたした147)。
ラット、ウサギ、サルの三種の動物に、0、25、500、100 ppmの濃度で26週間、1,2,4-トリクロロベンゼンに暴露した。サルにおいて、肺機能、操作行動試験、ウサギとサルにおいて、眼底鏡検査、三種すべにおいて、体重、血液学的、生化学的検査が、暴露前と暴露中に行なわれた。暴露4週、13週に顕微鏡的変化が肝臓および腎臓の実質に見られた。しかし、どの種においても、26週の暴露以降、異常や影響は見られなかった3-3)。 |
生殖・発生毒性: |
トリクロロベンゼンの三つの異性体(1,2,3- 1,2,4- and 1,3,5-トリクロロベンゼン)について催奇形性、胎児毒性を調べられたが、影響はみられていない。母体への毒性については、その中でも最も毒性があったのが、1,2,4-トリクロロベンゼンであった。どの異性体も、母体や胎児に有意な程度には蓄積しないが、1,3,5-トリクロロベンゼンは、低いppmレベルで、母体の脂肪試料で検出されている148)。 |
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2.1,2,4-トリクロロベンゼン |
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(1) |
1,2,4-トリクロロベンゼンは、染料、顔料中間物、トランス油、潤滑油としての用途がある1)。 |
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(2) |
1,2,4-トリクロロベンゼンは、昭和61年度の一般環境調査の結果、24地点中22地点、73検体中63検体から検出された(検出限界値:1.0ng/m3)。 |
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(3) |
今回の調査の結果、 1,2,4-トリクロロベンゼンは、13地点中13地点、39検体中39検体から検出された。検出範囲は0.12~40ng/m3であった(統一検出限界値:0.009ng/m3)。 |
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(4) |
以上の調査結果より、1,2,4-トリクロロベンゼンは、検出頻度が高く、前回調査(昭和61年)と同様の傾向を示していることから、今後も環境調査を行い、その推移を監視するとともに、発生源の解明を含めた情報収集にも努めることが必要である。 |
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【 参 考 】 |
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○1,2,4-トリクロロベンゼンの製造方法2)
2,4-ジクロロアニリンまたは2,5-ジクロロアニリン、または3,4-ジクロロアニリンの
ジアゾ反応とCuCl2で処理して合成。また1,3-ジアミノベンゼンをテトラゾ化し、CuCl2で処理して合成。 |
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○1,2,4-トリクロロベンゼンの検出状況 |
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(検体) |
(地点) |
検出範囲 |
検出限界 |
昭和61年度 |
86%(63/73) |
92%(22/24) |
1.2~78ng/m3 |
1.0 ng/m3 |
平成11年度 |
100%(39/39) |
100%(13/13) |
0.12~40ng/m3 |
0.009 ng/m3 |
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○1,2,4-トリクロロベンゼンの急性毒性試験結果
LD50(ラット、経口) |
756 mg/kg |
LD50(ラット、皮膚) |
6,139 mg/kg |
LD50(モルモット、経口) |
300 mg/kg |
LD50(マウス、腹腔内) |
1,223 mg/kg |
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局所刺激性: |
本物質をウサギの皮膚に反復塗布した場合中程度の刺激性を示す149)。 |
反復投与毒性: |
雄のラット、ウサギ、犬に、0、30、100 ppmの濃度で、1,2,4-トリクロロベンゼンを1日に7時間、週に5日、30匹ずつ、44日にわたって暴露した実験で、三種すべてにおいて、体重増加、血液学的、血液生化学的検査、組織の肉眼的、組織学的所見などに有意な影響はみられなかった。100 ppmでは、ラットも犬も肝臓重量の増加が認められた。尿中のporphyrin排泄が、30または100 ppmの暴露群で増加したが、本物質による肝臓での誘導によるものと考えられる。副次的に行なった研究でポルフィリンの誘導は可逆的であり、明らかな毒性が他に見出されなかったことから、尿中のポルフィリン増加は、毒性というより本物質による特異的な生理学的影響であると考えられる150)。
雌雄ラットに、3種のトリクロロベンゼンをそれぞれ1、10、100、1,000 ppmの濃度で、13週間混餌投与した。1,2,3-トリクロロベンゼンでは、100 ppm投与された雄ラットで体重増加抑制が認められた。三種類のトリクロロベンゼンすべてについて高濃度に暴露された雄群で、肝臓ならびに腎臓重量の増加がみられた。
三つの異性体の中で、1,2,4-体のみが、雄ラットの1,000 ppm群で、肝臓中のaminopyrine demethylase活性、aniline hydroxylase活性を、雌ラットでaminopyrine demethylase活性を増加させた。血清中の生化学的、血液学的パラメーターは、測定した限りでは、影響を受けていなかった。三種類のトリクロロベンゼン全ては、1,000 ppmで、肝臓と甲状腺で、かなりの程度の組織変化を起こした。1,3,5-体は、1,000 ppmの暴露を受けている雄ラットで、中程度の腎臓変化をきたした146)。ラット、ウサギ、サルの三種の動物に、0、25、50、100 ppmの濃度で26週間、1,2,4-トリクロロベンゼンに暴露した。サルにおいて肺機能、操作行動試験、ウサギとサルにおいて眼底鏡検査、三種すべてにおいて体重、血液学的、生化学的検査が、暴露前と暴露中に行なわれた。暴露4週、13週に顕微鏡的変化が肝臓および腎臓の実質に見られた。しかし、どの種においても、26週の暴露以降、異常や影響は見られなかった147)。 |
生殖・発生毒性: |
トリクロロベンゼンの三つの異性体(1,2,3- 1,2,4- and 1,3,5-トリクロロベンゼン)について催奇形性、胎児毒性を調べられたが、影響はみられていない。母体への毒性については、その中でも最も毒性が強かったのが、1,2,4-トリクロロベンゼンであった。どの異性体も、母体や胎児に有意な程度には蓄積しないが、1,3,5-トリクロロベンゼンは、低いppmレベルで、母体の脂肪試料で検出されている148)。ラットに、1,2,4-トリクロロベンゼンを、0、36、120、360、1200mg/kg/dayの用量で、妊娠9日から13日まで経口投与した実験で、母体の死亡が、360、1,200mg/kg/dayの投与群で、2/9匹、6/6匹、それぞれみられ、360mg/kg/dayの群で、体重増加抑制が認められた。母体側の肝臓重量、肝臓/体重比、肝臓のミクロソーム蛋白含量は、投与で影響されなかった。360mg/kg/dayの投与では、再吸収、胎児死亡、催奇形性などは増えていなかったが、胎児の発達が、頭長、頭頂冠長さ(crown-rump length)、体節の数、蛋白含量などの生長基準で、全て有意に後れていた151)。ラットに1,2,4-トリクロロベンゼン0、25、100、400 ppm水溶液をF0の誕生から継続して、F2世代の乳離れまで経口投与した実験では、妊娠、成長、生存、運動機能、血液生化学値に影響を与えなかった。副腎の肥大がF0ならびに95日目のF1において観察された。この副腎肥大をさらに調べるために、急性毒性実験を行なった。即ち、雌の未熟なラットに、0、250、500 mg/kgの濃度の本物質を3日間、腹腔内に連続投与した。その結果、本物質にエストロゲン作用は無く、肝臓、副腎は、コントロールに比し、有意に肥大していた。エストロゲン作用というよりも、この場合子宮の重量減少をきたした。これら二つの研究で、急性または慢性投与は、ラットに副腎の肥大を起こし得ることが示された152)。 |
発がん性: |
1,2,4-トリクロロベンゼンの慢性毒性と発がん性を、Slc:ddYマウスの両性の皮膚で調べた。トリクロロベンゼンをアセトンに60%、30%の濃度に溶かし、0.03mlを、皮膚に、週に2回、2年間塗布を続けた。主たる全身症状は、ヒステーの興奮、自発性の亢進であった。同性のコントロールに比し実験群で死亡率が高かった。主たる死因は、呼吸器感染症、アミロイドーシス、腫瘍であった。トリクロロベンゼンを塗布した局所の影響は、上皮の肥厚、角化であり、次いで、炎症で、一方、アセトンのみのコントロールは、皮膚の変化を起こさなかった。アミロイドーシスは主として、肝臓、脾臓、腎臓、副腎を侵淫したが、どの暴露群でも多かった。腫瘍は、暴露群でもコントロール群でも、肺、腎臓、胃、膀胱、乳腺、皮膚などに発生した。皮膚腫瘍は、偏平上皮細胞がん、乳腺腫、線維腫などであった。これらの腫瘍の発生は、コントロール群でも見られたので、本物質の影響ではないと考えられている153)。 |
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3.1,3,5-トリクロロベンゼン |
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(1) |
1,3,5-トリクロロベンゼン は、染料、顔料中間物、トランス油、潤滑油としての用途がある1)。 |
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(2) |
1,3,5-トリクロロベンゼン は、昭和61年度の一般環境調査の結果、24地点中4地点、73検体中7検体から検出された。(検出限界値:1.0ng/m3)
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(3) |
今回の調査の結果、1,3,5-トリクロロベンゼンは、13地点中13地点、39検体中38検体で検出された。検出範囲は、0.036~1.4ng/m3であった(統一検出限界値:0.011ng/m3)。 |
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(4) |
以上の調査結果によれば、1,3,5-トリクロロベンゼンは、検出頻度が高く、前回調査(昭和61年)とほぼ同様の傾向を示していることから、今後も環境調査を行い、その推移を監視するとともに、発生源の解明を含めた情報収集にも努めることが必要である。 |
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【 参 考 】 |
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○1,3,5-トリクロロベンゼンの製造方法2)
2,4,6-トリクロロアニリンをジアゾ反応しアルコールで処理する。 |
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○1,3,5-トリクロロベンゼンの検出状況 |
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(検体) |
(地点) |
検出範囲 |
検出限界 |
昭和61年度 |
1 %(7/73) |
17%(4/24) |
1.0~8.6ng/m3 |
1.0ng/m3 |
平成11年度 |
97%(38/39) |
100%(13/13) |
0.036~1.4ng/m3 |
0.011ng/m3 |
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○1,3,5-トリクロロベンゼンの急性毒性試験等結果
LD50(ラット、経口) |
800 mg/kg |
LD50(マウス、経口) |
3,350 mg/kg |
LD50(マウス、腹腔内) |
2,260 mg/kg |
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反復投与毒性: |
雌雄ラットに、3種のトリクロロベンゼンをそれぞれ1、10、100、1,000ppmの濃度で、13週間混餌投与した。1,2,3-トリクロロベンゼンでは、100 ppm投与された雄ラットで体重増加抑制が認められた。三種類のトリクロロベンゼンすべてについて、高濃度に暴露された雄群で、肝臓ならびに腎臓重量の増加がみられた。 三つの異性体の中で、1,2,4-TRCBのみが、雄ラットの1,000 ppm群で、肝臓中のaminopyrine demethylase活性、aniline hydroxylase活性を、雌ラットで aminopyrine demethylase活性を増加させた。血清中の生化学的、血液学的パラメーターは、測定した限りでは、影響を受けていなかった。三種類のTRCB全ては、1,000 ppmで、肝臓と甲状腺で、かなりの程度の組織変化を起こした。
1,3,5-TRCB は、1,000 ppmの暴露を受けている雄ラットで、中程度の腎臓変化をきたした146)。ラット、ウサギ、サルの三種の動物に、0、25、50、100 ppm の濃度で26週間、1,2,4-トリクロロベンゼンに暴露させた。サルにおいて肺機能、操作行動試験、ウサギとサルにおいて眼底鏡検査、三種すべにおいて体重、血液学的、生化学的検査が、暴露前と暴露中に行なわれた。暴露4週、13週に顕微鏡的変化が肝臓および腎臓の実質に見られた。しかし、どの種においても、26週の暴露以降、異常や影響は見られなかった147)。 |
生殖・発生毒性: |
トリクロロベンゼンの三つの異性体(1,2,3- 1,2,4- and 1,3,5-トリクロロベンゼン)について催奇形性、胎児毒性を調べられたが、影響はみられていない。母体への毒性については、その中でも最も毒性があったのが、1,2,4-トリクロロベンゼンであった。どの異性体も、母体や胎児に有意な程度には蓄積しないが、1,3,5-トリクロロベンゼンは、低いppmレベルで、母体の脂肪試料で検出されている148)。 |
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4.1,2,3,4-テトラクロロベンゼン |
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(1) |
今回の調査の結果、1,2,3,4-テトラクロロベンゼンは、13地点中13地点、37検体中36検体から検出された。検出範囲は0.039~0.94ng/m3であった(統一検出限界値:0.015ng/m3)。 |
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(2) |
以上の調査結果より、1,2,3,4-テトラクロロベンゼンは、検出頻度が高く、関連情報が少ないので、今後も一定期間をおいて環境調査を行い、その推移を監視するとともに、情報収集にも努めることが必要である。 |
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【 参 考 】 |
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○1,2,3,4-テトラクロロベンゼンの検出状況 |
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(検体) |
(地点) |
検出範囲 |
検出限界 |
平成11年度 |
97%(36/37) |
100%(13/13) |
0.039~0.94ng/m3 |
0.015ng/m3 |
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○1,2,3,4-テトラクロロベンゼンの急性毒性試験等結果
LD50 (ラット、経口) |
1,167 mg/kg |
LD (マウス、腹腔内) |
> 500 mg/kg |
本物質5 ppm を含む飼料でイヌを2年間飼育し、その後正常飼料で20ヶ月飼育した実験によれば、投与開始18ヶ月時点では血液科学的検査で異常は認められなかったが、24ヶ月時点ではアルカリフォスファターゼ活性と総ビリルビン値の軽度の上昇が認められた。しかしこの変化は正常飼料に戻って3ヶ月後には正常値に復した。本物質が死亡および血漿より消失する場合の生物学的半減期はそれぞれ111日および104日であった。また、正常飼料で20ヶ月飼育した後では組織病理学的異常は認められなかった154)。 |
5.1,2,3,5-テトラクロロベンゼン |
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(1) |
今回の調査の結果、1,2,3,5-テトラクロロベンゼンは、13地点中13地点、39検体中38検体から検出された。検出範囲は0.015~0.65ng/m3であった(統一検出限界値:0.011ng/m3)。 |
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(2) |
以上の調査結果より、1,2,3,5-テトラクロロベンゼンは、検出頻度が高く、関連情報が少ないので、今後も一定期間をおいて環境調査を行い、その推移を監視するとともに、情報収集にも努めることが必要である。 |
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【 参 考 】 |
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○1,2,3,5-テトラクロロベンゼンの検出状況 |
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(検体) |
(地点) |
検出範囲 |
検出限界 |
平成11年度 |
97%(38/39) |
100%(13/13) |
0.015~0.65ng/m3 |
0.011ng/m3 |
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○1,2,3,5-テトラクロロベンゼンの急性毒性試験等結果
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6.1,2,4,5-テトラクロロベンゼン |
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(1) |
今回の調査の結果、1,2,4,5-テトラクロロベンゼンは、12地点中12地点、35検体中34検体で検出された。検出範囲は0.019~0.40ng/m3あった(統一検出限界値:0.018ng/m3)。 |
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(2) |
以上の調査結果によれば、1,2,4,5-テトラクロロベンゼンは、検出頻度が高く、関連情報が少ないので、今後も一定期間をおいて環境調査を行い、その推移を監視するとともに、情報収集にも努めることが必要である。 |
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【 参 考 】 |
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○1,2,4,5-テトラクロロベンゼンの検出状況 |
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(検体) |
(地点) |
検出範囲 |
検出限界 |
平成11年度 |
97%(34/35) |
100%(12/12) |
0.019~0.40ng/m3 |
0.018ng/m3 |
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○1,2,4,5-テトラクロロベンゼンの急性毒性試験等結果
LD50(ラット、経口) |
1,500 mg/kg |
LD50(マウス、経口) |
1,035 mg/kg |
LD50(マウス、腹腔内) |
> 500 mg/kg |
LD50(ウサギ、経口) |
1,500 mg/kg |
ラットに28日間155)、90日間156)あるいは13週間157)本物質を経口投与した実験では、肝臓および膀胱重量の増加、赤血球の変化、血液生化学値の変化がみられている。 |
7.ペンタクロロベンゼン |
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(1) |
ペンタクロロベンゼンは、農薬の中間体としての用途がある。(H7年度黒本) |
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(2) |
ペンタクロロベンゼンは、平成6年度の一般環境調査の結果、8地点中3地点、24検体中9検体から検出された(統一検出限界値:1ng/m3)。 |
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(3) |
今回の調査の結果、ペンタクロロベンゼンは、13地点中13地点、39検体中39検体で検出された。検出値は0.012~1.1ng/m3であった(統一検出限界値:0.011ng/m3)。 |
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(4) |
以上の調査結果によれば、ペンタクロロベンゼンは、検出頻度が高く、前回調査(平成6年)とほぼ同様の傾向を示していることから、今後も環境調査を行い、その推移を監視するとともに、情報収集にも努めることが必要である。 |
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【 参 考 】 |
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○ペンタクロロベンゼンの製造方法
ペンタクロロベンゼンは、2,3,5,6-テトラクロロアニリンのジアゾ化溶液に塩化銅を作用させて得る。 |
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○ペンタクロロベンゼンの検出状況 |
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(検体) |
(地点) |
検出範囲 |
検出限界 |
平成6年度 |
38%(9/24) |
38 %(3/8) |
1.0~8.0ng/m3 |
1ng/m3 |
平成11年度 |
100%(39/39) |
100%(13/13) |
0.012~1.1ng/m3 |
0.011ng/m3 |
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○ペンタクロロベンゼンの急性毒性試験等結果
LD50(ラット、経口) |
1,080 mg/kg |
LD50(マウス、経口) |
1,175 mg/kg |
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反復投与毒性: |
本物質を飼料に5、50、500 ppm飼料の濃度で添加し、ラット28日間飼育(本物質摂取推定量:雄0.6、8、71、雌0.6、6、59 mg/kg/日)した実験では、肝重量増加、肝細胞の空胞変性、腎尿細管上皮細胞内好酸性小体の形成を認めている158)。
本物質を飼料に混ぜてラットに19.1または84.1 mg/kg/日を13週間投与した実験では、肝重量の増加、肝細胞の肥大、腎尿細管の好塩基性と沈渣形成を認めたが、肝ポルフィリア症は発生しなかった159)。 |
発がん性: |
本物質の代謝産物の一つであるペンタクロロフェノール(工業用)を0、100、200 mg/kg飼料添加した飼料でB6C3F1マウスを2年間飼育した実験では、雌雄ともに肝細胞癌および腺腫、その他の腫瘍の発生を認め、雄では腫瘍性を示す明確な所見(clear evidence)、雌では腫瘍性を示すある程度の所見(some evidence)とされている160)。 |
変異原性: |
TA98、 TA100、 TA1535、 TA1537株を用いたAmes試験では陰性と報告されている161)。 |
催奇形性: |
ラットに妊娠第6~15日にペンタクロロベンゼンを0、50、100、200mg/kg経口投与した実験では、投与量に対応して過剰な肋骨の形成が認められた。200mg/kg群では胎仔体重の低下と胸骨欠損の増加が認められた。ただし、200mg/kg群では母親の体重増加抑制傾向(統計学的に有意ではない)が観察されている162)。 |
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8.ヘキサクロロベンゼン |
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(1) |
ヘキサクロロベンゼンは、有機合成品の中間体、殺菌剤としての用途があった。化学物質審査規制法第一種特定化学物質である。 |
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(2) |
ヘキサクロロベンゼンは、平成6年度の一般環境調査の結果、8地点中4地点、24検体中8検体から検出された(統一検出限界値:1ng/m 3)。 |
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(3) |
今回の調査の結果、ヘキサクロロベンゼンは、13地点中13地点、39検体中39検体で検出された。検出範囲は0.013~1.1ng/m3はであった(統一検出限界値:0.013ng/m3)。 |
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(4) |
以上の調査結果によれば、ヘキサクロロベンゼンは、検出頻度は高く、前回調査(平成6年)と同様の傾向を示していることから、今後も環境調査を行い、その推移を監視するとともに、情報収集にも努めることが必要である。 |
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【 参 考 】 |
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○ヘキサクロロベンゼンの製造方法
ヘキサクロロベンゼンは、塩化アルミニウムと塩化硫黄からなる触媒の存在下、クロロベンゼンを塩化スルフリルで塩素化して得る。 |
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○ヘキサクロロベンゼンの検出状況 |
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(検体) |
(地点) |
検出範囲 |
検出限界 |
平成6年度 |
33%(8/24) |
50 %(4/8) |
1.1~3.5ng/m3 |
1ng/m3 |
平成11年度 |
100%(39/39) |
100%(13/13) |
0.013~1.1ng/m3 |
0.013ng/m3 |
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○ヘキサクロロベンゼンの急性毒性試験等結果
LD50(ラット、経口) |
10g/kg |
LD50(マウス、経口) |
4g/kg |
LD50(ウサギ、経口) |
2.6g/kg |
LD50(ウズラ、経口) |
6.4g/kg以上 |
LD50(ラット、腹腔内) |
0.5g/kg以上 |
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実験動物の皮膚に対して刺激性・感作性を示さない163)。
動物に反復投与するとポルフィリアを発症する。例えば雌ラットに混餌投与(100または1,000mg/kg飼料)すると4日間で肝のポルフィリンの増加をみる164)。
雄ラットに0、3.5mmol(約997mg)/kg/日×2または4週間反復経口投与した実験では、2週目に血清中総チロキシンと遊離チロキシンの低下を見、甲状腺機能抑制が認められた165)。
雄・雌のラットに本物質を100mg/kg/日×5日/週×11回または50mg/kg/日×5日/週×36回投与した実験では雄ラットの100mg/kg×11回群で腎近位尿細管上皮細胞の蛋白滴蓄積、50ng/kg×36回群では上記の蓄積に加えて腎臓能障害を生じた。ただし雌では両投与量ともこのような変化をみなかった166)。
HCBをラットに0、0.5、2.8、32mg/kg/日×15週経口投与し、ついで33週間非添加飼料で飼育した実験では、組織中HCB濃度は脂肪組織>肝>脳>血清の順で高く、かつ15週以内に飽和に達した。最大投与群では肝臓(肝重量増加、小葉中心部肝細胞の肥大)、脾臓に異常が認められた。毒性には性差があって雌により強く現れ、雌ではポルフィリア症が観察された167)、168)。
工業用HCBを100、500、1,000mg/kg飼料含む飼料でラットを44か月飼育した実験では、500および1,000mg/kg飼料群で死亡(雌に比べて雄に多発)および肝、脾、副腎、肺と腎の重量増加が観察されたが、100mg/kg飼料群ではこのような変化は認められなかった169)。
雌のアカゲザルにHCBを8、32、64および128mg/kg×60日間投与した実験では胸腺の萎縮、卵巣の変性、晩発性ポルフィリア症の場合と同様の肝変性および腎変性がみられ、これらの所見の強度はほぼ投与量と対応していたが、皮膚および神経組織の変化は認められなかった170)。
サルおよびラットに対して3~120mg/kg/日を反復投与すると胸腺、脾、リンパ節に変化をみ、免疫機能に障害を与えることが観察された163)。
HCBを0、1、5、20、80mg/kg飼料添加した飼料でウズラを90日飼育した実験では80mg/kg群において組織の赤い蛍光着色、肝障害(肝組細胞死、胆管増殖、その他)、脾臓での赤血球貪喰、腎尿細管顆粒形成、繁殖性の低下と卵の容積低下が認められた。また5mg/kg群でも肝重量増加と軽度の肝障害および糞中コプポルフィリン排泄増加が観察され、無毒性量は1mg/kgと考えられた171)。
生殖毒性: |
雌のサルに0.1mg/kg/日×90日反復経口投与した実験では卵巣に特異的な障害を与えた3-1)。雄の場合にはより大量の投与を必要とし、30~221mg/kg/日の経口投与で非霊長類の実験動物の雄に対して生殖障害を与える163)。妊娠ラットに各種用量のHCBを胃ゾンデで投与した実験、すなわち40~120mg/kgを妊娠第6~21日、10~60mg/kgを第6~16日、10~80mg/kgを第10~13日に投与した場合、妊娠第6~9日投与の事例を除いて過剰骨である第14肋骨の発生がみられたが、投与時のストレスなどに由来すると考えられた。生仔・死仔数、内臓および上記以外の骨格の異常その他について対照群との差を認めなかった172)。
ラットを0~640mg/kg飼料添加した飼料で4世代にわたって飼育した実験では、320mg/kg群および640mg/kg群で新生仔の死亡率が増加したが、奇形は認められなかった173)。
雌ラットを0~150mg/kg飼料添加した飼料で飼育し繁殖させた実験では、添加量に対応して、かつ最小量である60mg/kg群からすでに新生仔の死亡率が増加した。ただし受胎率には変化を見なかった174)。同様の新生仔死亡率増加は120mg/kgをラットの妊娠第8~12日に経口投与した実験でも確認された175)。
妊娠前に2週間0、10又は100mg/kg/日反復投与した母ラットに仔ラットを飼育させ、仔ラットの行動試験を行った結果では投与量に対応して仔ラットの過剰行動が見られた。ただし学習能力や運動機能には変化がなかった176)。
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催腫瘍性: |
シリアンゴールデンハムスターに16週令以降全生涯にわたってHCB 0、50、100、200mg/kg飼料添加飼料を投与(HCB摂取推定量0、4、8、16mg/kg/日)した実験により肝がん、血管肉腫(肝、脾、その他)その他の悪性腫瘍発生が確認された。肝がん、血管肉腫(肝、脾)の発生は投与量に対応していた177)。
他方マウスにHCB 0、10、50mg/kg飼料添加飼料を24週投与し、さらに非添加飼料で16週飼育後検索した実験ではいずれの群でも肝がんの発生は認められなかったが、HCBを50mg/kg飼料添加した場合、ポリ塩化ターフェニルの発がん性(肝がん発生)が増強されることが見出されている178)。 |
変異原性: |
TA98および100株を用いたAmes試験および大腸菌を用いた変異原性試験でS9-Mix添加の有無にかかわらず陰性179)。チャイニーズ・ハムスター培養細胞を用いた染色体異常試験で陰性180)。またWistarラットを用いた優性致死試験も陰性181)。 |
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○ヘキサクロロベンゼンの生態影響
ファットヘッド・ミノーでの生物濃縮係数(28時間飼育)は約95,000で、HCB含有底質を加えてもこの係数には変化はなかった182)。
イギリス近海で捕獲した各種アザラシの肝臓、腎臓と脂肪組織中のHCB濃度(最小-最大)はそれぞれND-0.11μg/g、ND-0.08μg/gおよびND-0.32μg/gであった183)。 |
9.エチルベンゼン |
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(1) |
エチルベンゼンは有機合成中間体(特にスチレンモノマーの原料)、溶剤、シンナー。混合キシレンとしても溶剤、希釈剤としての用途があり、ガソリンにも含まれる。平成5年の製造・輸入量は363,705トンである1),2),184)。 |
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(2) |
今回の調査の結果、エチルベンゼンは、15地点中15地点、45検体中45検体で検出された。検出範囲は、89~10000ng/m3であった(統一検出限界値:33ng/m3)。 |
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(3) |
以上の調査結果によれば、 エチルベンゼンは、検出頻度が高く、検出濃度レベルも相対的に高いことから、今後も環境調査を行い、その推移を監視するとともに、リスク評価を行うことが必要である。 |
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【 参 考 】 |
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○ エチルベンゼンの製造方法2),10)
1.混合キシレン中の一成分として約15%含まれる。
2.ベンゼンをエチレンでアルキル化する。Alkar法、塩化アルミニウム法がある。 |
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○ エチルベンゼンの検出状況 |
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(検体) |
(地点) |
検出範囲 |
検出限界 |
平成11年度 |
100%(45/45) |
100%(15/15) |
89~10000ng/m3 |
33ng/m3 |
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○ エチルベンゼンの急性毒性試験結果
TCLo(ヒト、吸入) |
100 ppm/8H |
LD50 (ラット、経口) |
3,500 mg/kg |
LCLo(ラット、吸入) |
4,000 ppm/4H |
LC50 (マウス、吸入) |
50,000 mg/m3/2H |
LD50 (ウサギ、皮膚) |
17,800 mg/kg |
LD50 (マウス、腹腔内) |
2,624 μL/kg |
LCLo(モルモット、吸入) |
10,000 ppm |
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刺激性: |
本物質はウサギの皮膚185)および目186)に対して、それぞれ中程度および強い刺激性を有する。 |
反復投与毒性: |
ラットに本物質13.6、136、408、680 mg/kg/日を182日間強制経口投与した実験では、408 mg/kg/日以上の群で肝臓と腎臓に組織病理学的変化を示した3-5)。
ラットに本物質400、600、1,250 ppm (1,737, 2,606, 5,428 mg/m3)の濃度で、7時間/日×5日/週×6ヶ月吸入暴露した実験では、肝臓と腎臓の重量増加と組織病理学的な変化を認めている187)。
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生殖・発生毒性: |
ウサギおよびラットに本物質0, 100, 1,000 ppm (434, 4342 mg/m3)の濃度で妊娠1~4日に6~7時間/日×7日/週吸入暴露させた実験では、高用量群で生仔数の減少がみられたが、催奇形性を含むその他の変化は認められていない。一方、ラットにおいては、高用量群の妊娠ラットで肝臓、腎臓、脾臓の重量増加がみられ、また、胎仔に肋骨の異常が両投与群で観察されている188), 189)。 |
発がん性: |
未詳 |
変異原性: |
本物質はネズミチフス菌TA98, TA100, TA1535, TA1537, TA1538または大腸菌(WP2およびWP2uvrA)を用いた変異原性試験で陰性である190), 191)。ヒトリンパ球を用いた姉妹染色分体試験では代謝活性化無しで陽性の結果が得られている3-10)。 |
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12.o-ジクロロベンゼン |
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(1) |
o-ジクロロベンゼンは、有機溶剤およびグリースの洗浄剤、殺虫剤、消毒剤、熱媒体としての用途がある10),193),194)。平成10年度の製造量は26,351トン(ジクロロベンゼン類として)であった。 |
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(2) |
o-ジクロロベンゼンは、昭和58年度の一般環境調査の結果、36地点中36地点、97検体中93検体から検出された(統一検出限界値:0.001ppb)。 |
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(3) |
今回の調査の結果、o-ジクロロベンゼンは、10地点中7地点、30検体中20検体で検出された。検出範囲は、34~420ng/m3であった(統一検出限界値:29ng/m3)。 |
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(4) |
以上の調査結果によれば、o-ジクロロベンゼンは、検出頻度が高く、前回調査(昭和58年)と同様の傾向を示し、生産量も多いことから、今後も環境調査を行い、その推移を監視するとともに、リスク評価を行うことが必要である。 |
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【 参 考 】 |
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○o-ジクロロベンゼンの製造方法
ベンゼンを鉄触媒を用い塩素で塩素化するとo-ジクロロベンゼンが65~70%、p-ジクロロベンゼンが30~35%生成する。まずモノクロロベンゼンを蒸留により分離し、蒸留結晶によりオルト体とパラ体を分類する193)。 |
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○o-ジクロロベンゼンの検出状況 |
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(検体) |
(地点) |
検出範囲 |
検出限界 |
昭和58年度 |
96%(93/97) |
100 %(36/36) |
0.001~0.050ppb |
0.001ppb |
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(6~306ng/m3) |
(6ng/m3) |
平成11年度 |
67%(20/30) |
70%(7/10 |
34~420ng/m3 |
29ng/m3 |
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○o-ジクロロベンゼンの急性毒性試験等結果
LD50(ラット、経口) |
500mg/kg |
LD50(マウス、経口) |
4,386mg/kg |
LD50(ウサギ、経口) |
500mg/kg |
LD50(ラット、腹腔内) |
840mg/kg |
LD50(マウス、腹腔内) |
1,220mg/kg |
LD50(ラット、皮下) |
5,000mg/kg |
LD50(マウス、静脈内) |
400mg/kg |
LD50(ウサギ、皮膚塗布) |
10g/kg以上 |
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ラットおよびマウスにオルト体を最高500mg/kg/日×13週経口反復投与した実験では125mg/kg群でラットに軽度の肝細胞壊死を見、250mg/kg群では壊死は顕著となった。500mg/kg群ではラットに肝組織の明らかな壊死、脾臓および胸腺からのリンパ球の消失、腎尿細管上皮の変性をみた195)。
肝障害性はパラ体およびメタ体と比べるとオルト体の方が強いと報告がある196),197)。
催腫瘍性: |
ラットおよびマウスにオルト体を0、60、120mg/kg/日×5日間/週×2年間反復経口投与した実験ではラットおよびマウスのいずれにおいても催腫瘍性は見出されなかった196)。 |
生殖毒性: |
オルト体0、100、200、400ppmにラットを妊娠第6~15日ウサギを妊娠第6~18日の間反復曝露した実験では催奇形性は見出されなかった198)。
オルト体50~800mg/kgを1回雄ラットに腹腔内投与した実験では頭部の形態的異常など精子に異常を生じた199)。
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変異原性: |
オルト体およびパラ体はAmes試験でS9-Mix添加の有無にかかわらず陰性200),201)。 |
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13.m-ジクロロベンゼン |
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(1) |
m-ジクロロベンゼンは、有機溶媒、農薬、染料、顔料、医薬などの中間体としての用途がある10),194),195)。平成10年度の製造量は26,351トン(ジクロロベンゼン類として)であった。 |
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(2) |
m-ジクロロベンゼンは、昭和58年度の一般環境調査の結果、36地点中14地点、95検体中24検体から検出された(検出限界値:0.001ppb)。 |
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(3) |
今回の調査の結果、m-ジクロロベンゼンは、11地点中4地点、33検体中9検体から検出された。検出範囲は23~370ng/m3であった(統一検出限界値:21ng/m3)。
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(4) |
以上の調査結果によれば、m-ジクロロベンゼンは、検出頻度が低く、関連情報が少ないので、今後、情報収集に努めながら調査の必要性を検討すべきである。
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【 参 考 】 |
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○m-ジクロロベンゼンの検出状況 |
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(検体) |
(地点) |
検出範囲 |
検出限界 |
昭和58年度 |
25%(24/95) |
39%(14/36) |
0.001~0.0098ppb |
0.001ppb |
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(6~60ng/m3) |
(6ng/m3) |
平成11年度 |
27%(9/33) |
36%(4/11) |
23~370ng/m3 |
21ng/m3 |
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○m-ジクロロベンゼンの急性毒性試験等結果
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メタ体をウサギに点眼すると刺激性を示すが、永久的な障害は残さない200)。 |
14.p-ジクロロベンゼン |
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(1) |
p-ジクロロベンゼンは、染料中間体、殺虫剤、有機合成原料、防臭剤、農薬、家庭用防虫剤としての用途がある10),193),194)。平成10年度の製造量は26,351トン(ジクロロベンゼン類として)であった。 |
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(2) |
p-ジクロロベンゼンは、昭和58年度の一般環境調査の結果、36地点中36地点、95検体中95検体から検出された(検出限界値:0.001ppb)。 |
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(3) |
今回の調査の結果p-ジクロロベンゼンは、15地点中14地点、43検体中36検体で検出された。検出範囲は、160~17000ng/m3であった(統一検出限界値:130ng/m3)。 |
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(4) |
以上の調査結果によれば、p-ジクロロベンゼンは、検出頻度が高く、検出濃度レベルも相対的に高いことから、今後も環境調査を行い、その推移を監視するとともに、リスク評価を行うことが必要である。 |
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【 参 考 】 |
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○p-ジクロロベンゼンの製造方法193)
ベンゼンを鉄触媒を用い塩素で塩素化するとo-ジクロロベンゼンが65~70%、p-ジクロロベンゼンが30~35%生成する。まずモノクロロベンゼンを蒸留により分離し、蒸留結晶によりオルト体とパラ体を分類する。 |
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○p-ジクロロベンゼンの検出状況 |
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(検体) |
(地点) |
検出範囲 |
検出限界 |
昭和58年度 |
100%(95/95) |
100%(36/36) |
0.0021~0.88ppb |
0.001ppb |
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(13~5381ng/m3) |
(6ng/m3) |
平成11年度 |
84%(36/43) |
93%(14/15) |
160~17000ng/m3 |
130ng/m3 |
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○p-ジクロロベンゼンの急性毒性試験等結果
LD50(ラット、経口) |
500mg/kg |
LD50(マウス、経口) |
2,950mg/kg |
LD50(ラット、腹腔内) |
2,562mg/kg |
LD50(マウス、腹腔内) |
2,000mg/kg |
LD50(ラット、皮下) |
5,145mg/kg |
LD50(ラット、皮膚塗布) |
6g/kg以上 |
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パラ体は15~30ppmで臭気を感じ、50~80ppmでは眼や鼻に痛みを感じさせ、160ppmではその程度は非常に強くなる202)。高濃度曝露により中枢神経系の抑制作用を示す202)。動物実験では肝障害および腎障害が報告されている。すなわち798ppmに7時間/日、5日間/週×長期間曝露した実験では実験動物の病理組織学的検査により肝細胞の混濁腫脹と小葉中心性壊死、腎臓の尿細管上皮の混濁腫脹が観察された。しかし、96ppmでは異常は観察されなかった。またラットに経口的に5日間/週、192日間投与した実験では18.8mg/kg(以下1回/日投与量)群では毒性が観察されなかったが、188mg/kg群では肝および腎の重量増加が起こり、376mg/kg群では肝・腎の重量増加と並んで肝臓では巣状壊死と軽度の硬変が認められた203)。
パラ体をラットに770mg/kg/日×5日間反復経口投与した実験では肝性ポルフィリア症を発症したと報告されている204)。
パラ体をマウスに最高1,800mg/kg/日×13週反復経口投与した実験では600mg/kg以上の群で肝障害が確認された205)。
催腫瘍性: |
パラ体を雄ラットに0、150、300mg/kg/日、雌ラットに0、300、600mg/kg/日、雄・雌ラットに0、300、600mg/kg/日×5日/週×2年間反復経口投与した実験では、雄ラットの腎尿細管に腺がん、雄・雌マウスに肝細胞がんと肝腺腫を生じ、いずれも発がん性を示す明確な証拠(clear evidence)と評価された205)。雌ラットでは発がん性は認められなかった205)。生殖毒性:パラ体250、500、750、1,000mg/kgをマウスに妊娠第6~15日の間反復経口投与した実験では500mg/kg以上の群で過剰肋の発生頻度が高まった198)。パラ体の最高500ppmにラットの妊娠第6~15日206)、最高800ppmにウサギの妊娠第6~18日の間それぞれ6時間/反復曝露した実験では催奇形性は認められなかった198)。
パラ体800mg/kgを1回雄ラットに腹腔内投与した実験では精子に異常が認められた207)。
パラ体を0、30、90、270mg/kg/日×5日/週2世代にわたって反復経口投与した実験では、30mg/kg群でのみ胎仔に影響を認めなかったが、90mg/kg以上の群では生胎仔数および出生仔体重の減少などを生じた208)。 |
変異原性: |
オルト体およびパラ体はAmes試験でS9-Mix添加の有無にかかわらず陰性200、201)。
パラ体は染色体異常205)、小核試験205)ともに陰性、しかし姉妹染色分体交換試験は陽性209)と報告されている。 |
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15.メチル-tert-ブチルエーテル |
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(1) |
メチル-tert-ブチルエーテルはガソリンのオクタン価向上剤、アンチノック剤、低佛点溶剤ならびラッカー混合溶剤の混和性改良剤、植物油の抽出ならびに精製溶剤。
高速液体クロマトグラフの溶媒としての用途がある。
メターノールなどのアルコール混合燃料において、ガソリンとアルコールの相分離を防止し、アルコールによって生ずる腐食を防止1),2),10)。
高速液体クロマトグラフの溶媒としての用途がある。
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(2) |
今回の調査の結果、メチル-tert-ブチルエーテルは、15地点中13地点、41検体中33検体で検出された。検出範囲は22~330ng/m3であった(統一検出限界値:20ng/m3)。 |
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(3) |
以上の調査結果によれば、メチル-tert-ブチルエーテルは、検出頻度が高いため、今後も環境調査を行い、その推移を監視するとともに、情報収集にも努めることが必要である。 |
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【 参 考 】 |
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○メチル-tert-ブチルエーテルの製造方法1)
メタノールとt-ブタノールまたはメタノールとイソブチレンから製造する。 |
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○メチル-tert-ブチルエーテルの検出状況 |
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(検体) |
(地点) |
検出範囲 |
検出限界 |
平成11年度 |
80%(33/41) |
87%(13/15) |
22~330ng/m3 |
20ng/m3 |
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○メチル-tert-ブチルエーテルの急性毒性試験等結果
LD50 (ラット、経口) |
4,000 mg/kg |
LD50 (ラット、腹腔内) |
> 148 mg/kg |
LC50 (ラット、吸入) |
23,576 ppm/4H |
LDLo(ラット、静脈内) |
148 mg/kg |
LD50 (マウス、経口) |
5,960 μL/kg |
LC50 (マウス、吸入) |
141,000 mg/m3/15M |
LD50 (マウス、腹腔内) |
1,700 μl/kg |
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反復投与毒性: |
雌雄のスプラーグ・ドーリー・ラットに本物質0から1,428 mg/kgまでの五つの濃度で14日間、0から1200 mg/kgまでで90日間強制経口投与した実験では、14日暴露の群では、雌雄でコレステロールが上昇し、雌で血中の尿素窒素(BUN)、クレアチニンの減少がみられた。90日間暴露では、高濃度暴露の雌群で、肺重量が減少し、雌でコレステロール上昇、BUN減少を示した。その一方、高濃度暴露群の雄では、クレアチニンの減少がみられた。殆どの臓器で、顕微鏡的所見は特記すべきことは無かったが、高濃度暴露の雄群でみられた腎臓所見は、αグロブリン腎症と同等でヒトでは、殆ど毒性的な意義は無いと考えられている210)。 |
生殖・発生毒性: |
雄性ラットに本物質300、1,300、3,400 ppmの濃度で、日に6時間、週に5日、12週間、暴露させ、それを3週間、同じ濃度に暴露させた雌性ラットと交配し、交配期間中も暴露を続け、さらに、雌性ラットは、分娩時にも、その一腹(F1a)の分娩後5日から21日までの授乳期間にも暴露させた実験で、親ラット(F0)には、特筆すべき影響は観察されていないが、唯一の特記すべきことは、低濃度、高濃度の暴露を受けた親の雌性ラット(F0)において、腎盂の拡張が、高頻度に見られたことであった。生殖腺の重量、雄の副生殖臓器の重量、臓器の体重に対する割合、生殖臓器の組織病理所見などは、コントロールと比較して、特記すべきことは無かった。暴露したラットにつき、F1aとF1bの両群で、交配指数、分娩指数に差異は無く、結論としては、二腹試験、一世代生殖試験で見る限り、本物質吸入ではラットの生殖障害は殆ど何も見られていない211)。
CD Sprague-DawleyラットとCD-1マウスを用い、器官形成期に、0、250、1,000、2,500 ppmの本物質に暴露させた実験で、死亡例はなく母体側の体重、飲水量、肝臓重量、その他の検査でも、異常は見られなかった。摂餌量は、暴露群で9から12日の間、有意に低下し、マウスで12から15日まで、やはり有意でないものの低下が見られている。外見、骨格奇形、骨変異など、胎児の検査は暴露群では異常がない。
マウスでは、外見や軟部組織の検査、骨格異常の評価、骨形成の評価などでは、有意な変化はなく、高濃度暴露群で、胸骨の癒合の頻度が軽度に増加した212)。 |
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22.フルオランテン |
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(1) |
フルオランテンは、コールタールの用途としては、道路用、防水および防錆塗料、製鋼用燃料、油煙、電極粘結材、漁網染料、屋根塗装、鋳鉄管塗装としての用途がある1),2)。 |
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(2) |
今回の調査の結果フルオランテンは、13地点中13地点、39体中39検体で検出された。検出範囲は0.58~10ng/m3であった(統一検出限界値:0.05ng/m3)。 |
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(3) |
以上の調査結果によれば、フルオランテンは、検出頻度が高いため、検出状況や関連情報を整理し、多環芳香族炭化水素全体としてリスク評価を行うことが必要である。 |
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【 参 考 】 |
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○フルオランテンの製造方法
コールタール及びアスファルト中の成分で、非意図的生成物としてガソリン及び
ディーゼルの排ガス、たばこの煙、石炭などの燃焼ガス中に含まれる。 |
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○フルオランテンの検出状況 |
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(検体) |
(地点) |
検出範囲 |
検出限界 |
平成11年度 |
100%(39/39) |
100%(13/13) |
0.58~10ng/m3 |
0.05ng/m3 |
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○フルオランテンの急性毒性試験等結果
LD50(ラット、経口) |
2,000 mg/kg |
LD50(マウス、静脈内) |
100 mg/kg |
LD50(ウサギ、経皮) |
3,180 mg/kg |
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発がん性: |
マウスの背に0.1 mg(アセトン溶液)を2日に1回、10回反復塗布し20週間観察した実験あるいはマウスの背に0.2 mg(アセトン溶液)を週3回12ヶ月反復塗布し15ヶ月観察した実験ではいずれも発がん性は確認されていない213)。 |
変異原性: |
Ames試験では、TA98およびTA100に対し代謝活性化の存在下で陽性である214)。また、細胞形質転換試験でも陽性の結果が得られている215)。 |
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23.クリセン |
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(1) |
クリセンは、コールタールの用途としては、道路用、防水および防錆塗料、製鋼用燃料、油煙、電極粘結材、漁網染料、屋根塗装、鋳鉄管塗装などとしての用途がある1),35)。 |
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(2) |
今回の調査の結果、クリセンは、13地点中13地点、37検体中37検体で検出された。検出範囲は、0.24~3.9ng/m3であった(統一検出限界値:0.12ng/m3)。 |
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(3) |
以上の調査結果によれば、クリセンは、検出頻度が高いため、検出状況や関連情報を整理し、多環芳香族炭化水素全体としてリスク評価を行うことが必要である。 |
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【 参 考 】 |
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○クリセンの製造方法 2)
コールタール及びアスファルト中の成分で、非意図的生成物としてガソリン及び
ディーゼルの排ガス、たばこの煙、石炭などの燃焼ガス中に含まれる。
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○クリセンの検出状況 |
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(検体) |
(地点) |
検出範囲 |
検出限界 |
平成11年度 |
100%(37/37) |
100%(13/13) |
0.24~3.9ng/m3 |
0.12ng/m3 |
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○クリセンの急性毒性試験等結果
LD50(マウス、腹腔内) |
> 320 mg/kg |
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発がん性: |
大量投与で発がん性が証明されている。すなわち雌マウスの皮膚に1% クリセンアセトン溶液を週3回反復投与した実験では、20匹中8匹に皮膚がん(最初の腫瘍は8ヶ月後)を生じた3-2)。また、同じくマウスに5mgを1回、あるいは1回1 mgを10回皮下投与した実験では、150~560日後に肉腫の発生が217),218),219)、またラットに1回2~3 mgを数回反復して皮下投与した実験でも肉腫の発生が42)認められている。 |
変異原性: |
クリセンはAmes試験で代謝活性化の存在下で220)、哺乳動物培養細胞系61)あるいはインビボ試験221)のいずれにおいても変異原性を示す。 |
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24.メタクリル酸メチル |
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(1) |
メタクリル酸メチルは、ポリマーとして建築材料、成形用ペレット、照明器具、広告看板、日用品、塗料、接着剤、歯科材料としての用途がある1,2,184)。平成5年の製造・輸入量は282,982トンである。 |
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(2) |
今回の調査の結果、メタクリル酸メチルは、6地点中1地点、18検体中3検体で検出された。検出範囲は28~170ng/m3であった(統一検出限界値:5.3ng/m3)。 |
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(3) |
以上の調査結果によれば、メタクリル酸メチルは、検出頻度は低いが、生産量が極めて多いことから、情報収集に努め、その結果を踏まえて調査の必要性を検討すべきである。 |
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【 参 考 】 |
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○メタクリル酸メチルの製造方法 1)
1.イソブチレンの直接酸化によりメタクリル酸を生産し、メタノールによりエステル化する。
2.アセトンとシアン化水素よりアセトンシアンヒドリを製造し、硫酸によりアミド化しメタノールと反応し合成する。
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○メタクリル酸メチルの検出状況 |
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(検体) |
(地点) |
検出範囲 |
検出限界 |
平成11年度 |
17%(3/18) |
17%(1/6) |
28~170ng/m3 |
5.3ng/m3 |
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○メタクリル酸メチルの急性毒性試験等結果
LCLo(ヒト、吸入) |
125 ppm (60 mg/m3) |
LD50 (ラット、経口) |
7,872 mg/kg |
LC50 (ラット、吸入) |
78,000 mg/m3/4H |
LD50 (ラット、腹腔内) |
1,328 mg/kg |
LD50 (ラット、皮下) |
7,088 mg/kg |
LD50 (マウス、経口) |
3,625 mg/kg |
LC50 (マウス、吸入) |
18,500 mg/m3/2H |
LD50 (マウス、腹腔内) |
945 mg/kg |
LD50 (マウス、皮下) |
5,954 mg/kg |
LD50 (イヌ、経口) |
4,725 mg/kg |
LC50 (イヌ、吸入) |
41,200 mg/m3/3H |
LD50 (イヌ、皮下) |
4,252 mg/kg |
LD50 (ウサギ、経口) |
8,700 mg/kg |
LC50 (ウサギ、吸入) |
17,500 mg/m3/4.5H |
LD50 (ウサギ、皮下) |
14 ml/kg |
LD50 (モルモット、経口) |
5,945 mg/kg |
LC50 (モルモット、吸入) |
19,000 mg/m3/5H |
LD50 (モルモット、腹腔内) |
1,890 mg/kg |
LD50 (モルモット、皮下) |
5,945 mg/kg |
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本物質の吸入暴露による急性影響として、活動低下、呼吸困難、麻酔作用、無力、筋弛緩、反射低下などが見られる222) 。
刺激性: |
本物質は、ウサギを用いた刺激性試験で皮膚と眼に対し中程度の刺激性を示す。また、ドレイズ法では陰性であるが、マキシマイゼーション法で感作性が陽性との報告がある223)。
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反復投与毒性: |
雄ラットに500 mg/kgを21日間経口投与した実験で、死亡、自発運動の低下、学習能力の低下、攻撃性の増加がみられ、脳橋から延髄、海馬全体の生体アミンの減少、中脳、視床下部でのセロトニンの増加が見られている224) 。
ラットを本物質500、1,000、2,000、3,000及び5,000ppmに1日6時間、週5日間で14週間暴露した実験では、2,000ppm以上で死亡及び体重減少がみられ、5,000 ppmでは全例が死亡した。1,000ppm以上で一般状態では虚脱、目からの漿液性分泌物、鼻からの分泌物がみられ、嗅上皮の壊死及び剥離を伴う鼻腔の炎症や脳の軟化が認められている。 |
発がん性: |
雌雄のWistarラットを本物質6、60、2,000 ppmに2年間飲水投与した実験では、投与に関連した腫瘍の発生はみられていない。雌雄のB6C3F1マウスを本物質500、1,000 ppmに6時間/日×5日/週×102週間吸入暴露させた実験では、暴露に関連した腫瘍の発生はみられていない。また、F344/Nラットを雄では500、1,000 ppm、雌では250、500 ppmに6時間/日×5日/週×102週間吸入暴露させた実験でも暴露に関連した腫瘍の発生はみられていない225) 。 |
変異原性: |
Ames試験およびヒトリンパ球を用いた姉妹染色文体交換試験で陰性であるが、マウスリンフォーマ細胞を用いた遺伝子突然変異試験およびしまい染色分体交換試験、CHL細胞およびCHO細胞を用いた染色体異常試験および姉妹染色分体交換試験では陽性を示す。in vivo試験では、マウスに本物質を125 mg/kg/日を4日間経口投与または250 mg/kgを単回投与した試験で染色体の異常や小核の増加は認められず、又、ラット骨髄でも染色体の異常は認められていない226)。 |
生殖・発生毒性: |
ラットを本物質の26,800 ppmに54分間/日で妊娠6日目から15日目までの10日間吸入暴露した実験で、母動物では体重の増加抑制と摂餌量の減少がみられ、胎仔では体重と頭尾長の減少や骨化遅延が出現したが奇形は認められていない。
ラットに100、200、400 mg/kgを妊娠5, 10および15日目に腹腔内投与した実験では、胎仔の体重が減少したが、奇形は出現しなかったことが報告されている226) 。 |
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25.メタクリル酸エチル |
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(1) |
メタクリル酸エチルは共重合物として、塗料、繊維処理剤、接着剤、成型材料としての用途がある。 |
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(2) |
今回の調査の結果、メタクリル酸エチルは、検出されなかった(統一検出限界値:3.3ng/m3)。 |
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(3) |
以上の調査結果によれば、メタクリル酸エチルは、現時点では、特に問題を示唆するものではないと考えられる。 |
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【 参 考 】 |
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○メタクリル酸エチルの製造方法1)
メタアクリル酸とエタノールとのエステル化反応。 |
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○メタクリル酸エチルの検出状況 |
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(検体) |
(地点) |
検出範囲 |
検出限界 |
平成11年度 |
0%(0/18) |
0%(0/6) |
不検出 |
3.3ng/m3 |
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○メタクリル酸エチルの急性毒性試験等結果
LD50(ラット、経口) |
14,800 mg/kg |
LD50(ラット、腹腔内) |
1,223 mg/kg |
LC50(ラット、吸入) |
8,300 ppm/4H |
LD50(ラット、皮下) |
25,000 mg/kg |
LD50(マウス、経口) |
7,836 mg/kg |
LD50(マウス、静脈内) |
137 μl/kg |
LD50(マウス、腹腔内) |
1,369 mg/kg |
LD50(ウサギ、経口) |
3,630 mg/kg |
LD50(ウサギ、皮膚) |
>10 ml/kg |
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26.PCB(ポリ塩化ビフェニール) |
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(1) |
PCB(ポリ塩化ビフェニール)は、昭和29年~昭和46年の生産量は、57,300トン、昭和47年に生産中止になっている227)、228)。 |
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(2) |
PCB(ポリ塩化ビフェニール)は、平成9年度の一般環境調査の結果、21地点中21地点、63検体中63検体からされた。 |
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(3) |
今回の調査の結果、PCB(ポリ塩化ビフェニール)は、16地点中16地点、48検体中48検体で検出された。検出範囲は0.11~2.1ng/m3であった。 |
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(4) |
以上の調査結果によれば、PCB(ポリ塩化ビフェニール)は、前回調査(平成9年)と同様、広範囲で検出されていることから、今後も環境調査を行い、その推移を監視することが必要である。 |
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【 参 考 】 |
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○ PCB(ポリ塩化ビフェニール)の検出状況 |
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(検体) |
(地点) |
検出範囲 |
検出限界 |
平成9年度 |
100%(63/63) |
100%(21/21) |
0.044~1.5ng/m3 |
- |
平成11年度 |
100%(48/48) |
100%(16/16) |
0.11~2.1ng/m3 |
- |
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○PCB(ポリ塩化ビフェニール)の急性毒性試験等結果
LD50(ラット、経口) |
1.3~11.3 g/kg |
(塩素化の程度と位置によって異なる)
LD50(マウス、経口) |
2.0 g/kg |
LD50(ウサギ、皮膚) |
1.3~2.0 g/kg |
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本物質の毒性は、塩素原子の位置によって異なる。
アカゲザルに Aroclor1248 を 0.09、2.5 mg/kg/日×6ヶ月反復投与した実験で死亡率の上昇、成長阻害、脱毛、塩素アクネ、眼のマイボーム腺腫張が認められた。高用量群では各種の上皮組織(皮脂腺、胃粘膜、爪床など)に変化を認めた229)。
ラットに各種同族体を投与した実験によれば肝の腫大、脂肪変性、小胞体の増殖、前がん変化などが認められた43)。塩素数が多いほど一般に毒性は強くなる。
生殖毒性: |
ラットを用いた2世代繁殖実験では、Aroclor1254 及び Aroclor1260に対する無影響量(NOEL)は、各々 0.32及び 7.5 mg/kgと推定された229)。 |
催腫瘍性: |
マウスにカネクロル500及び Aroclor1254 を15~25mg/kg/日、ラットに Aroclor1260 及び ClophenA60 を5mg/kg/日で各々1年以上経口投与した実験で肝細胞がん又は肝腺腫発生の有意な増加が観察された230)。 |
変異原性: |
細菌を用いた変異原性試験で陰性。培養細胞を用いた染色体異常試験で陰性229) 。 |
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