第5部 平成8年度有機スズ化合物に関する
環境調査結果の概要
1.はじめに
2.平成8年度生物モニタリング結果(有機スズ化合物関連部分)の概要
3.平成8年度指定化学物質等検討調査結果(有機スズ化合物関連部分)の概要
4.調査結果の評価(平成9年12月25日,中央環境審議会環境保健部会化学物質専門委員会)
図表一覧
環境庁が実施している化学物質環境安全性総点検調査の結果,有機スズ化合物による全国的
な環境汚染が明らかになり,トリブチルスズ化合物(TBT)については昭和60年度から,トリフェニル
スズ化合物(TPT)については平成元年度から生物(魚類,貝類及び鳥類)を指標とした環境汚染の経
年監視(生物モニタリング)を実施している。また,これらの調査結果等を踏まえ,昭和63年
4月~平成元年3月の間にトリブチルスズ化合物13物質,トリフェニルスズ化合物7物質が化
学物質審査規制法に基づく指定化学物質に指定されたため,昭和63年度から水質及び底質につ
いても継続的な監視を指定化学物質等検討調査において実施している。
なお,平成2年,有機スズ化合物のうち,トリブチルスズ化合物の一種であるビス(トリブチ
ルスズ)=オキシド(TBTO)が化学物質審査規制法に基づく第一種特定化学物質に指定さ
れ,また,トリフェニルスズ化合物7物質及びTBTOを除くトリブチルスズ化合物13物質が
同法に基づく指定化学物質から第二種特定化学物質に指定されている。
(1) 経緯
有機スズ化合物のうち,トリブチルスズ化合物は,昭和59年度に実施した化学物質環境調
査の結果,広範囲にわたる地点の底質及び魚類から比較的高い濃度で検出されたため,翌昭
和60年度から生物モニタリングにおいて経年的監視を開始した。
他方,トリフェニルスズ化合物も,昭和63年度に実施した化学物質環境調査の結果,広範囲
にわたる地点から検出があり,底質については一部の地点(港内)において高い濃度が散見
され,魚類についても河口,内湾中心に高い濃度での検出傾向が示されたため,翌平成元年
度から生物モニタリングにおいて経年的監視を開始した。
(2) 調査対象生物及び調査地点(図1)
魚類8種,貝類2種及び鳥類2種の計12種を全国21地点(生物種別にみれば,魚類14地点,
貝類6地点,鳥類2地点の延べ22地点)で調査した。
(3) 分析方法の概略
(ア)分析に供した試料の概要
1)各地点において採取生物1種につき5検体を調製した。なお,1個体では1検体分の
必要量を採取出来ないもの(例えば,ムラサキイガイ)はさらに多数の個体をもって
1検体とした。
2)各個体については,次に掲げる部位を採取し,分析用検体とした。
- 魚類:筋肉の部分
- 貝類:むき身の部分
- 鳥類:胸筋の部分
(イ)分析法
GC/ECD又はGC/FPDにより分析を実施した。
ただし,他の成分との判別が不明のときは,GC/MSにより定性及び定量を行うこと
とした。
(4)データ処理
統一検出限界を,トリブチルスズ化合物については0.05μg/g ,トリフェニルスズ化合物
については0.02μg/g(いずれも湿重量あたり)としてデータ処理を行った。
(5) 調査結果(かっこ内の値は平成7年度のものである。)
表1(TBT、水質) 表2(TPT) 表3(TBT、S60~63)
表4(TBT、H1~4) 表5(TBT、H5~8)
表6(TPT、H1~4) 表7(TPT、H5~8)
表12(総括) 表一覧へ
トリブチルスズ化合物は魚類及び貝類から,トリフェニルスズ化合物は魚類からのみ検出
され,両物質とも,これまで同様,鳥類からは検出されなかった。
トリブチルスズ化合物の魚類及び貝類からの検出範囲はnd~0.24μg/g(nd~0.54μg/g)
(いずれもTBTO換算値),検出頻度は100検体中38検体(100検体中33検体),トリフェ
ニルスズ化合物の魚類からの検出範囲は,nd~0.27μg/g(nd~0.25μg/g)(いずれもTP
TCl換算値),検出頻度は70検体中20検体(70検体中21検体)であった。
トリブチルスズ化合物の魚類及び貝類における地点別の検出頻度は,20地点中9地点(20
地点中11地点)であり,トリフェニルスズ化合物の魚類における地点別の検出頻度は14地点
中5地点(14地点中5地点)であった。
(1) 経緯
化学物質審査規制法に基づく指定化学物質及び第二種特定化学物質の一般環境中における
残留状況を把握することを目的として,昭和63年度から開始された現行の指定化学物質等検
討調査の環境残留性調査において,トリブチルスズ化合物は昭和63年度から,トリフェニル
スズ化合物は平成元年度から,水質及び底質を調査媒体として調査を実施している。
なお,平成2年度から指定化学物質等検討調査に加えられた暴露経路調査(日常生活にお
いて,人がさらされている媒体別の化学物質量に関する調査)においても,両化合物とも平
成2年度から食事を媒体として調査を実施してきたが,平成7年度同様,調査を実施しなか
った。
(2) 調査媒体及び調査地点(図1)
水質及び底質について,一般環境中での残留状況を把握するため,特定の発生源の影響を
直接受けないような調査地点を設定し,全国36地点で調査を実施した。
(3) 分析方法の概略
環境残留性調査における水質及び底質の調査について各地点ごとに3検体ずつ,
GC/FPD等により分析を行った。
(4) データ処理
統一検出限界は,環境残留性調査における水質について,トリブチルスズ化合物が0.003
μg/l,トリフェニルスズ化合物が0.0 1μg/l,同じく底質について,トリブチルスズ化合
物が0.6ng/g,トリフェニルスズ化合物が1ng/gとした。
(5) 調査結果
表8(TBT、水質) 表9(TPT、水質)
表10(TBT、底質) 表11(TPT、底質)
表12(総括) 表一覧へ
トリブチルスズ化合物の水質及び底質からの検出範囲は,それぞれnd~0.014μg/l(nd~
0.042μg/l)及びnd~930ng/g(nd~570ng/g),検出頻度は,それぞれ,105検体中27検体
(105検体中31検体)及び108検体中94検体(104検体中87検体)であった。地点別では,それ
ぞれ,36地点中13地点(35地点中13地点)及び36地点中32地点(35地点中31地点)から検出
された。
トリフェニルスズ化合物の水質からの検出範囲は,一地点でtrであった以外は検出されな
かった(nd)。底質からの検出範囲は,nd~220ng/g(nd~110ng/g)であった。水質及び底
質における検出頻度は,それぞれ,108検体中0検体(87検体中0検体)及び99検体中41検体
(93検体中48検体)であった。地点別では,それぞれ,36地点中0地点(29地点中0地点)及
び36地点中15地点(32地点中21地点)から検出された。
(トリブチルスズ化合物)
トリブチルスズ化合物は環境中に広範囲に残留しており,その汚染レベルは,生物及び底
質においては概ね横ばい傾向であり,水質においては,改善ないし横ばいの状況にある。
現在の汚染レベルが特に危険な状況にあるとは考えられないが,一部地点では高濃度での
検出がみられ,水生生物等への生態影響の可能性もあることから,引続き環境汚染対策を
推進するとともに,環境汚染状況を監視していく必要がある。
(トリフェニルスズ化合物)
トリフェニルスズ化合物は環境中に広範囲に残留しており,その汚染レベルは,底質及び
生物においては概ね横ばい,または改善の傾向にある。なお,水質は2年続けて全地点で
不検出となった。
現在のトリフェニルスズ化合物の生産状況*を考慮すれば,汚染状況はさらに改善され
ていくと期待されているが,一部地点では高濃度での検出がみられることから,今後も引
続き,環境汚染対策を継続するとともに,環境汚染状況を監視していく必要がある。
*:国内における開放系用途の生産/使用はほとんどないこと。