化学物質環境汚染実態調査の結果(1995年度)

非意図的生成化学物質汚染実態追跡調査

化学物質の合成過程、燃焼過程などでは意図せずとも種々の化学物質が生成されます。これらの中にはゴミ焼却時に副成が認められるダイオキシン類のように人体への有害性が高いものもあり、非意図的に生成される化学物質による環境汚染が問題となりました。
環境庁では、1985年度から一般環境中における非意図的生成化学物質の環境残留性を把握することを目的として「有害化学物質汚染実態追跡調査」を開始し、1993年度からは調査名を「非意図的生成化学物質汚染実態追跡調査」と改め、引き続き調査を実施しています。

1995年度は、1985年度から継続しているダイオキシン類のモニタリング調査並びにPCBsの総量とコプラナーPCBの環境調査を実施しました。 (→表1~5参考1~4)

ダイオキシン類 ポリ塩化ジベンゾ-p-ジオキシン(PCDD)とポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)の総称
PCBs ポリ塩化ビフェニル
コプラナーPCB オルト位に置換塩素を持たない扁平構造のPCB
ダイオキシン類のモニタリング調査
    調査の概要
    (1) 調査対象物質(表1)
        PCDD13種類、PCDF15種類

    (2) 調査対象媒体
        底質、生物(魚類及び貝類)

    (3) 調査対象地域数及び検体数(参考1~4)
        河川:12地域  底質12検体、魚類12検体
        湖沼: 3地域  底質 5検体、魚類 4検体
        海域:12地域  底質19検体、魚類18検体、貝類 1検体

    (4) 分析方法
        ガスクロマトグラフ/質量分析計(GC/MS)を用いたSIM法 

    調査結果の概要 (総括→表1)
    【PCDD】
    (1) 底質: 2,3,7,8-TCDDを除き、高い頻度で検出されている。特に湖沼及び海
              域での検出頻度が高い。
        生物: 1,3,6,8-TCDDが高い頻度で検出されているが、それ以外の物質の検
              出頻度は低い。 

    (2) 検出範囲
        底質: 0.001~17ng/g   (1994年度:0.001~13ng/g)
        生物: 0.001~0.062ng/g(   〃   :0.001~0.022ng/g)

    (3) 2,3,7,8-TCDD の検出状況
        底質: 27地域中2地域、36検体中2検体、検出範囲0.002~0.010ng/g
        生物: 27地域中1地域、35検体中2検体、検出範囲0.001~0.002ng/g

        1989年度からの経年変化 .... 各年度とも検出頻度は低く、1995年度における状
                         →表2      況が以前と比べて変化したとは認められない。 
    【PCDF】
     (1) 底質: 1,2,3,7,8,9-HCDFを除き、高い頻度で検出されている。特に湖沼及
               び海域での検出頻度が高い。 
         生物: 2,3,4,7,8-PCDFが高い頻度で検出されているがそれ以外の物質の検
               出頻度は低い。 

     (2) 検出範囲
         底質: 0.001~1.2ng/g  (1994年度:0.001~0.8ng/g)
         生物: 0.001~0.017ng/g(   〃   :0.001~0.012ng/g)
 
     (3) 2,3,7,8-TCDF の検出状況
         底質: 27地域中13地域、36検体中22検体、検出範囲0.001~0.024ng/g
         生物: 27地域中 3地域、35検体中 7検体、検出範囲0.002~0.004ng/g

         1989年度からの経年変化 .... 1990年度の生物で検出頻度が高くなっているが、
                     それ以後はほぼ同じレベルで推移しており、1995年度における状
                     況が以前と比べて変化したとは認められない。 →表2

    人への影響に対する評価方法
        ダイオキシン類は多数の異性体があるため、人への影響を評価するにあたっては
     I-TEFを用い 2,3,7,8-TCDD当量濃度に換算して評価する方法が国際的になっ
     ています。→表4
2,3,7,8-TCDD当量濃度 それぞれの物質の毒性の強さを2,3,7,8-TCDDを基準に換算した濃度
I-TEF 2,3,7,8-TCDD当量濃度への換算に用いる毒性等価ファクター →表3
    調査結果の評価(1996.12.10 中央環境審議会環境保健部会化学物質専門委員会)
    (1) ダイオキシン類の一般環境への汚染状況は、前年度までの調査結果と比較して大きく
      変化したとは認められないが、底質を中心に広範囲に検出されているため、今後とも引
      き続きその汚染状況の推移を追跡して監視していくことが必要である。

    (2) また、ダイオキシン類の発生源や環境中挙動などの汚染機構の解明及び毒性関連知見
      の収集に努めることが必要である。


PCBsの環境調査
    調査の概要
    (1) 調査対象物質
        3,4,3',4'-テトラクロロビフェニル(3,4,3',4'-TetraCB)
        3,4,5,3',4'-ペンタクロロビフェニル(3,4,5,3',4'-PentaCB) 
        3,4,5,3',4',5'-ヘキサクロロビフェニル(3,4,5,3',4',5'-HexaCB) 
        Total-PCBs

    (2) 調査対象媒体
        底質、生物(魚類)

    (3) 調査対象地域数及び検体数
        河川:1地域  底質1検体、魚類1検体
        海域:2地域  底質2検体、魚類2検体

    (4) 分析方法
        コプラナーPCBs:GC/MSを用いたSIM法 
        Total-PCBs:GC(ECD)を用いた係数化法 

    調査結果の概要 (総括→表5)
    (1) 底質でのコプラナーPCBs検出状況
        3,4,3',4'-TetraCB    : 3地域中2地域、3検体中2検体、検出範囲:0.18~5.2ng/g
                     (1994年度: 3  〃  2 〃 、3  〃  2 〃 、   〃   :6.7~13ng/g)
        3,4,5,3',4'-PentaCB  : 3地域中2地域、3検体中2検体、検出範囲:0.010~0.11ng/g
                     (1994年度: 3  〃  2 〃 、3  〃  2 〃 、   〃   :0.099~0.17ng/g)
        3,4,5,3',4',5'-HexaCB: 3地域中2地域、3検体中2検体、検出範囲:0.002~0.011ng/g
                     (1994年度: 3  〃  2 〃 、3  〃  2 〃 、   〃   :0.010~0.011ng/g)

    (2) 生物でのコプラナーPCBs検出状況
        3,4,3',4'-TetraCB    : 3地域中3地域、3検体中3検体、検出範囲:0.023~0.87ng/g
                     (1994年度: 3  〃  3 〃 、3  〃  3 〃 、   〃   :0.015~1.3ng/g)
        3,4,5,3',4'-PentaCB  : 3地域中3地域、3検体中3検体、検出範囲:0.009~0.11ng/g
                     (1994年度: 3  〃  3 〃 、3  〃  3 〃 、   〃   :0.005~0.18ng/g)
        3,4,5,3',4',5'-HexaCB: 3地域中2地域、3検体中2検体、検出範囲:0.010~0.011ng/g
                     (1994年度: 3  〃  2 〃 、3  〃  2 〃 、   〃   :0.008~0.019ng/g)

    (3) Total-PCBsの検出状況
        底質      : 3地域中2地域、3検体中2検体、検出範囲: 80~ 330ng/g
        (1994年度: 3  〃  2 〃 、3  〃  2 〃 、   〃   :380~1400ng/g)
        生物      : 3地域中3地域、3検体中3検体、検出範囲: 20~ 740ng/g
        (1994年度: 3  〃  2 〃 、3  〃  2 〃 、   〃   :750~1500ng/g)

    調査結果の評価(1996.12.10 中央環境審議会環境保健部会化学物質専門委員会)
        コプラナーPCBsの環境残留はPCB製品からの環境放出に由来すると考えら
      れており、PCBは既に昭和47年に使用が中止され、昭和49年6月には化学物質審
      査規制法に基づく第一種特定化学物質に指定されるとともに、平成4年7月には廃棄
      物の処理及び清掃に関する法律に基づく特別管理産業廃棄物に指定されていること
      から、その汚染の拡大の可能性は少ないと考えられるが、かなりの濃度レベルで検
      出されているため、調査地点を増やした上で、今後とも引き続き汚染状況を調査
      し、その推移を追跡して監視することが必要である。