報道発表資料

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1997年03月10日

気候変動枠組条約ベルリンマンデート・アドホックグループ第6回会合の成果及び今後の課題について

  1.  本年12月の京都における一層厳しい国際約束への合意を目指し、検討を続けているベルリンマンデート・アドホックグループ(AGBM)は、その第6回会合において、これまでの討議を基に、各国の提案を事務局が取りまとめて作成した「枠組み文書」の重複を排除し、各国提案の間の相互関係を明確化するなどした議定書に関する議長案を採択し、これが交渉テキストに含まれることを決定し、現地(ボン)3月7日(金)午後閉会した。また、今後、各国からの追加的な提案があれば、4月1日を期限に提出することとされ、これを含めて、条約事務局が6月1日までに全国連公用語で各国に配布できるように交渉テキストを作成することとなった。なお、6月1日以降は、内容に係わる新しい提案は行えないことが確認された。
    (注:交渉を行った結果、新たな案が浮上することはあり得る。)
     
  2.  今回の会合では、予想以上に順調に交渉テキストの取りまとめ作業が進み、おおむね交渉テキストの姿が今次会合の終了時に見えたことは大きな成果と評価できる。この進捗に関しては、我が国も京都会議開催国として重要な役割を果たした。
     また、各国の動きとしては、EUが先進各国の温室効果ガスの削減目標として、1990年の水準に比べ2010年までに15%削減するという具体的な数値を持った提案を行ったことは、今後の交渉を一層具体化するものとして意義がある。
     
  3.  今後、各国とも直ちに交渉ポジションを検討し、これを固めていくことが予想され、我が国に対しても、環境保全上実効のある国際合意のとりまとめに向けて、今以上にリーダーシップの発揮が期待されることになる。この期待に応えるべく、積極的、建設的に国際的役割を果たしていく必要がある。
1. AGBM会合最終日の状況について
 
   はじめに、前日に引き続き、「枠組み文書」の各部分について重複をなくすべく、最終的な整理作業が行われた。まず、「前文」、「原則」及び「最終条項」の部分につき、これらの部分に関する非公式の作業グループの議長を務めた我が国柴田公使より、本作業グループの報告が行われ、異議なく採択された。また、温室効果ガスの排出抑制及び削減に関する数量目的(QERLOs)の部分について、議長案が示され、若干の修正が行われた後に採択された。この他の部分についても順次検討が行われ、全て議長案が採択された。
 「枠組み文書」を整理したこれらの議長案については、4月1日までに各国より事務局に提出された追加的な提案と併せて、交渉テキストとなることが決定された。なお、提案は6月1日までは受け付けることが確認された。また、6月1日以降の新たな提案は、6月1日までに提出された提案の範囲内のものしか認められず、内容的に全く新しい提案を行うことはできないことが確認された。
 次に、今後の作業につき、次回のAGBM第7回会合は、7月31日・8月1日と8月4~6日にかけて行うことが紹介された。議長は、次回会合に向けて、まず、附属書[1]国が合意形成を目指し努力する必要があること、特に政策措置及び数値を含めてQERLOsについて真剣な検討を行う必要があることを指摘し、先進各国の努力を呼びかけた。
 最後に、今回会合の報告の作成をラポラトゥールに委ねることについて了承され、午後0時30分に、今回会合の全日程を終了した。
2. 今回会合の成果
 
{1}  今回の会合では、議定書の交渉用テキストがおおむね作成されたことが、最大の成果である。新規の提案については、6月までに作成されるテキストに載せるためには、4月1日までに事務局に提出する必要があり、6月1日以後実質的な内容が全く新しい提案を行うことができないこととなったが、多くの主要国が既に提案を行っており、今回の会合で採択されたテキストが実質的な議定書条文案になると予想される。
 
{2}  他方、今回の会合は、重複した提案や既に有効でない提案の排除及び記述的表現を法的な文章にする等の作業が中心であり、各国主張の内容は調整されておらず、意見の相違はなお大きいと言える。ただし、数量目的の差異化に関しては、4日に開催された差異化に関するラウンドテーブルにおいて、我が国代表団が議論をリードして、(イ)気候変動枠組条約、ベルリンマンデート及び第2回締約国会議における閣僚宣言に照らしても、国情の違いを反映させる必要があること、(ロ)一見多くの提案があると思われている差異化の主張は、おおむね3つのカテゴリーに分類できるものであること等について議論を行い、各国の理解を深めることができた。
 
{3}  また、政策措置については、我が国は我が国議定書提案の5つの分野のそれぞれについて政策措置及び指標の具体例を提示した。これにより、我が国提案に対する理解を深め、我が国提案が米国提案とEU提案の双方より歩み寄る余地のあるものであることを示すことができた。
 
{4}  我が国は、京都会議開催国として、「枠組み文書」の整理作業を行うグループの議長の役割を果たしたほか、会議開催中、会議の合間を縫って、各国との意見交換の機会を積極的に設けた。京都会議の議長国となると目される我が国は、交渉の取りまとめを行っていくために、今後とも積極的、建設的に意見交換を行い、また、このための機会の設定を図っていく必要がある。
 
3. 今後の課題
 
{1}  これまでの提案段階においては各国の考え方はなお大きく異なっており、今後交渉の段階では、合意形成を目指し、厳しい交渉が予想される。この場合、主要な提案は出尽くしたと考えることができ、これらを前提に交渉を実質的に進めることが可能となったので、今後は、関係国の意見の取りまとめを強く意識して作業を行う必要がある。京都会議の開催国たる日本としては、そのための機会を、今後、積極的に設けていく必要があろう。
 
{2}  特にQELROSに関しては、EUが1990年に比べ2010年に15%の削減とすることを提案したことや、差異化に関するラウンドテーブルディスカッションの結果を踏まえ、我が国としても、京都会議に向けて各国が合意できるような提案を早急に模索していく必要がある。
 

 
(参考)我が国からの出席者
 外務省(田邊環境大使、古屋審議官、柴田公使他)、環境庁(浜中地球環境部長、鈴木地球温暖化国際対策推進室長他)、通商産業省(石海審議官、桜井地球環境対策室長)、運輸省、農林水産省、科学技術庁等 計23名


(参考1)ベルリンマンデート交渉の3月時点での主な論点

論点 内容
対策強化を約束する国の範囲 メキシコ、韓国、新ユーゴ等の新OECD加盟国等についてEUは、条約附属書I国と同様の扱いを、米国は、附属書Bとして、附属書I国と同様ではないが途上国とは異なった工業国としての義務を負うべしと主張。
数量的な排出抑制・削減目的(QELROS)の削減率、達成時期 AOSIS及びEUが具体的な削減率や達成時期を正式に提案している。(注)AOSISは2005年で90年比20%削減、EUは2010年で90年比15%削減を提案。
QELROSの国毎の扱い ノルウェー等が国別差異化目標を提案しているが、米国等、一律の目標を主張している国もある。差異化目標についてはその必要性につき、これを主張する国々の間で共通の認識ができているが、差異化の具体的な方法については意見の一致は見られない。他方、2010年に1990年比15%削減の一律削減率目標を主張するEUは、新しい国際約束の下で、EU域内においては 各国間の政治的交渉によって域内各国毎に異なった削減率の目標を割り当てることとしている。
QELROSの達成の方途の柔軟性 米国が、先進国間の排出枠取引と途上国との間の共同実施(JI)とがQERLOSの決定とパッケージであるとしている。EUは、附属書I国間でのJIに好意的であるが、途上国との間 のJIには、途上国が反対。
同じく米国が提出している複数年の目標の設定については特段の反対はないが、将来の目標の排出枠の前借り(borrowing)には、反発が大きい。
政策・措置の国際約束の是非 EUは拘束的な性格のものも含め、政策措置についての強い国際約束を主張しているのに対し、米国は、拘束的な国際的政策措置に強く反対。
履行確保措置 米国が詳細な規定を提案。国の主権を制限するような国際的な履行確保措置について、オーストラリアが強い懸念を表明
途上国の対策の履行促進 米国が、途上国においても将来的に地球温暖化対策の実施責任を明定すべしと主張し、具体的には、途上国からの国別報告書 の国際的審査の実施などを提案している一方、途上国は、このようなことは、途上国の義務を強化するものとしてベルリンマンデート違反と主張。
新しい国際約束の法形式 議定書に好意的な国が多い。

 
(参考2)今後のスケジュール

    3月30、31日 環境庁等主催・地球環境保全国際戦略世界会議(京都)。
    4月1日まで 交渉テキストに盛り込むための提案提出のデッドライン。

    4月   国連持続可能な開発委員会第5回会合(CSD)の大臣セグメント。
    5月   G7環境大臣会合。

    6月1日まで 新しい国際約束の案文の配布、新たな提案提出のデッドライン。
    6月    G7サミット。国連環境特別総会。
    7、8月  AGBM第7回会合。
          (逐条審議を通じた交渉の第1ラウンド)

    8月~11月 様々なフォーラムで非公式の交渉。

    10月    AGBM第8回会合。
          (交渉の第2ラウンド、落ち所に向けた絞り込み作業が期待される。)

    12月    地球温暖化防止京都会議。
          (大臣セグメント(第2週前半)、新しい約束の採択)


(参考)新規提案を含む各国の提案の概要

米国

<QELROs>
○ 先進国(附属書A国)に、一定の期間に温室効果ガスを排出することのできる「排出バジェット」を割り当てることを提案。排出バジェットの量は、1990年における炭素換算排出量に基づき算出されるが、具体的な数値や期間は示されていない。
○ 各国は、将来使用するため排出量を貯蔵すること、次の期間から(2割の利子付きで)限られた排出量を借りること、他の国と排出量を取り引きすることができる。
○ 急速に成長しつつある途上国が自発的に排出バジェットを設定することを奨励するため、先進国とは異なった期間、量が割り当てられる附属書Bのカテゴリーを設ける。

<政策・措置>
○ 各国は、排出量を正確に測定し、確実に約束の目標を達成するための制度を設けなければならない。
○ 各国は、条約の実施状況を毎年報告する。当該報告は、専門家チームによりレビューが行われ、その結果に基づき締約国会合は、当該国に対して勧告を行う。
○ また、遵守しない国に対して、締約国会議は、例えば、排出権取引/共同実施の権利の否認、投票その他の決定権の喪失などの制裁措置を行う。

<フレキシビリティ>
○ 排出バジェットを有し、国の認証及び検証制度の整っている国の間で、「排出権取引」を行う。
○ 一定のプロジェクトを実施することにより、排出バジェットのない国が「排出削減クレジット」を創出し、移転することができるような「共同実施」を行う。

<途上国の努力の促進>
○ 途上国は、温室効果ガスの純排出量(注:排出量から吸収量を差し引いたもの)を減らすための「後悔しない」対策を実施する。
○ 途上国は、排出目録、排出量を削減するための措置を報告する。
○ 途上国の報告をレビューし、その排出量削減戦略を改善するためのプロセスを確立する。
○ 例えば、20005年までに、全締約国が排出義務を持つ制度を構築する。

EU

<QELROs>
○ 温室効果ガス排出量の制限・削減及び吸収源の増加により顕著な削減を行う必要がある。対象は、全OECD加盟国及び経済移行期諸国(附属書X国)
○ 附属書X国は、個別又は共同で、CO2、CH4及びN2OのGWPを用いて換算した排出量を1990年比で2010年までに15%削減することを提案。
○ 長期的には、適切な指標に基づき、排出量につながるよう排出目標を割り当てるより洗練された手法を実施。
○ HFC、PFC、SF6に関しては、まず政策・措置を議定書に盛り込み、排出削減目的は2000年までに追加する。

<政策・措置>
○ 一般的な約束として、各締約国は再生可能エネルギー、エネルギー効率基準、ラベリングその他の製品関連措置等を実施。対象国は、附属書X国
○ 更なる約束として、附属書X国は、・ 附属書A(共通の政策・措置)に掲げる政策・措置を実施・ 附属書B(他の締約国と共同で実施することについて高いプライオリティが与えられるべき措置)の実施に高いプライオリティを与えなければならない。・附属書Cに掲げる政策・措置を国の計画に含めることに高いプライオリティが与えられなければならない。

<フレキシビリティ>
附属書X国と自主的に排出削減目標の達成を約束する他の締約国(附属書Y国)による共同実施を議定書に盛り込むことを主張。

<途上国の努力の促進>
○ 通報に政策・措置を含めて通報する。
○ 締約国会議は、約束の当否についてレビューを行う。また、すべての附属書の内容と範囲を定期的にレビューし、アップデートを行う。
○ 全ての国は、以下の分野に関する措置を実施する。
 ・ 国内プログラム、目録、報告
 ・ 二国間・多国間協力
 ・ 国際機関への参加

豪州

<QELROs>
○ 締約国が合意したガイドラインに従い、各国間交渉により決定。
○ 以下の5つの指標に関して各締約国の状況を十分に反映させ、緩和対策に伴う各国の人口一人当たりGDPの変化が等しくなるように決定。
 ・ 人口成長見込み
 ・ 一人当たり実質GDP成長見込み
 ・ GDP排出強度・ 輸出の排出強度
 ・ 化石燃料の輸出排出強度
○ネットアプローチ、バスケットアプローチを採用。

<政策・措置>
○ 各国は、国家行動計画を策定し、当該国が講じる政策・措置、その効果の見積、政策措置の成果を示す成果指標を記載。通報の一環として締約国会議に提出。
○ 締約国会合は、QELROsをy年ごとに見直す。但し、各国は約束の実施能力に影響を与える予期されない事情が生じた場合、約束を見直すことができる。
○ 締約国会合は、上記のプロセスを踏まえ、個別の締約国の約束を修正するよう勧告することができるが、勧告は、当該締約国がその勧告を受け入れる通知を提出した場合にのみ適用。

<フレキシビリティ>
○ 排出の貯蓄、繰越、貸出を認める複数年のアプローチ、共同実施、排出権取引等を検討すべき

<途上国の努力の促進>


ニュージーランド

<QELROs>
○ 実施を望む各締約国が選択することのできる累積的な排出量の考え方に基づくべき。
○ ある時期の約束はそれ以前の約束より少ない排出量<政策・措置>

<フレキシビリティ>

<途上国の努力の促進>


ノルウェー

<QELROs>
○ バスケットアプローチを採用する。
○ 差別化のための基盤として、単一な基準は困難であり、複数基準が必要と主張
○ 以下の3つの基本的な要因が考慮されるべき
 ・ 排出効率(例えば、GDP当たりの温室効果ガス排出量:B)
 ・ 温室効果ガスの排出量(例えば、一人当たりの温室効果ガス排出量:C)
 ・ 経済成長(例えば、一人当たりのGDP:D)
○ 算定式の例としては、以下のとおり。
 i国の排出量削減率
 Yi=A[x(Bi/B)+y(Ci/C)+z(Di/D)]
 (x、y、zは各要素の重み付けの係数)
○ 最初の指標には、簡易で透明性が必要であるが、長期的には更に公平で効果的な成果が得られるよう発展させることが必要

<政策・措置>

<フレキシビリティ>

<途上国の努力の促進>

アイスランド

<QELROs>
○ バスケットアプローチ、ネットアプローチを採用する。
○ 以下の4つの基本的な要因が考慮されるべき。
 ・ 排出効率(例えば、GDP当たりの温室効果ガス排出量:B)
 ・ 温室効果ガスの排出量(例えば、一人当たりの温室効果ガス排出量:C)
 ・ 経済成長(例えば、一人当たりGDP:D)
 ・ 再生可能一次エネルギーのシェア:E
○ 算定式としては以下のとおり(注:ノルウェー案の修正)
 i国の排出削減率
 Yi=A[x(Bi/B)+y(Ci/C)+z(Di/D)+(E/Ei)]
 (x、y、zは各要素の重み付けの係数)

<政策・措置>

<フレキシビリティ>

<途上国の努力の促進>


スイス

<QELROs>
○ グロスアプローチ、バスケットアプローチを採用する。
○ 温室効果ガスの排出量を附属書[1]国全体で2010年までに1990年レベルの10%削減する。附属書I国内の差別化の指標として「一人当たり相当CO2排出量」を用いる。

<政策・措置>

<フレキシビリティ>

<途上国の努力の促進>


AOSIS

<QELROs>
○ ガス・バイ・ガスアプローチを採用する。
○ CO2の排出量を1990年比で2005年までに20%削減する。
○ CO2以外のガスについては、第1回締約国会合で採択する予定のプログラムに基づき、その後にそれらの目標を採択する。

<政策・措置>
○ 全ての締約国が国内あるいは地域のプログラムを設定し、実施する。
○ 約束の履行のためにとった政策、計画、措置の詳細及びこれらが温室効果ガスの排出・吸収に与える特定の影響の予測を通報する。
○ 締約国会議が議定書履行の定期的レビューを行う。

<フレキシビリティ>

<途上国の努力の促進>

G77・中国

<QELROs>
○ QELROsは、これまでの累積の排出と現在の利用可能な技術、経済的なデータを勘案しつつ、全温室効果ガス濃度、気温上昇、海面上昇の影響の重大性に基づいて設定されるべき。

<政策・措置>

<フレキシビリティ>

<途上国の努力の促進>
○ 途上国の条約第4条1項の実施を進めるには、以下の事項に対し、先進国が効果的に資金源及び技術移転に関する約束を実施することが不可欠。
 ・体系的な観測やデータの収集、科学的技術的調査等の開発
 ・国境を越えたデータや分析結果の交換促進
 ・気候変動の経済社会的影響の評価
 ・様々な対応戦略の及ぼす途上国に対する経済社会的結論の評価
 ・教育研修プログラムの開発と実施
 ・海岸地域の保全や砂漠化の防止等のための総合計画の開発と実施
 ・吸収源の保全のための持続可能な管理
 ・温室効果ガスの排出削減の技術等の移転
 ・インベントリーの更新のための社会経済状況を反映したデータやモデルの開発
 ・温暖化防止対策を含む計画の作成、実施等

連絡先
環境庁企画調整局地球環境部環境保全対策課
課 長:小林  光(6740)
 温暖化国際対策推進室
 室 長:鈴木 克徳(6741)
 補 佐:西田 主税(6758)
 係 長:中尾   豊(6738)
 担 当:奥山 祐矢(6738)