報道発表資料

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1997年01月28日

地球観測衛星「みどり」の改良型大気周縁赤外分光計(ILAS)からの取得データに係る検証実験の実施について

環境庁では、今般、オゾン層等の監視のため地球観測衛星「みどり」に搭載した改良型大気周縁赤外分光計(ILAS)から取得したデータに係る検証実験を、スウェーデンのキルナで実施する。検証実験は2月1日から開始され、3月中旬頃まで実施される予定。
 検証実験は、人工衛星に搭載されたセンサーによる観測データの信頼性を確認することを目的として、衛星搭載センサーによる観測と同時にほぼ同位置で気球を用いた観測を行い、両者のデータを比較検討するものである。
 今回の検証実験では、気球を用いた高層大気の観測等がフランス国立宇宙研究センターに委託して実施されるが、我が国をはじめフランス、ドイツ、米国の研究機関の参加を得て国際的な協力体制のもとで実施される。こうした高層大気の観測を我が国が中心となって実施するのは初めてのことである。
 ILASで取得したデータは、今回の検証実験等により信頼性を確認した後、オゾン層変動の監視、オゾン層破壊の仕組みの解明等の科学的研究に活用される。

1.検証実験を行う日時・場所

日時 平成9年2月1日~3月中旬頃
場所 スウェーデン・キルナ(北緯68度、東経21度のスウェーデン北部に位置する町)(参考1を参照)

2.検証実験の内容

 平成8年8月に宇宙開発事業団により打ち上げられた地球観測衛星「みどり」に搭載したILASについては、平成8年11月から定常運用を開始し、南北両半球の高緯度地域における成層圏のオゾン及びその破壊関連物質の観測を行っている。取得したデータの一部はインターネットを通じて公表されているところである。 これらの衛星搭載センサーについては、打ち上げ後の性能が設計仕様どおりとなっているか、また、取得データが所要の精度を有しているかどうかを確認する検証を行う必要がある。このため、今回、同一の観測対象項目について、ILASと時間的、空間的に同期して(できるかぎり近い時間と場所で)、独立の観測を気球を用いて行い、ILASのデータとの比較を行い、ILASの性能及びデータ処理システムの妥当性を評価するために検証実験を行うものである。 2月1日から3月中旬頃までの期間中、我が国からは環境庁国立環境研究所、東北大学理学部及び名古屋大学太陽地球環境研究所の3つのグループが参加して、それぞれが開発・製作した観測機器により、成層圏のオゾン、硝酸、二酸化窒素、メタン、フロン等を観測するほか、フランスの国立分子物理応用研究所、ドイツのフランクフルト大学、米国のデンバー大学等の研究機関からも参加を得て、国際的な協力体制のもとで実施される。
 検証実験では、観測機器を搭載したゴンドラをつり下げた気球が全部で20基打ち上げられる予定で、高度約35kmまでの観測が可能である(ILASでは高度約10km~60kmのオゾン等を観測する)。気球は大きなものでは上空で直径が約60~70mとなる。(気球観測システムの例については参考2を参照)

3.その他

(1) 衛星の設計寿命は3年であり、打ち上げ後3年間、定常観測を実施。定常観測においては、高緯度地域を中心に1日に南北両半球それぞれ14地点の上空でデータを取得する。
(2) 環境庁においては、平成11年度に打ち上げ予定の地球観測衛星に搭載するILAS-[2]を現在開発中。
(3) なお、環境庁が開発したもう一つのセンサーで、日本上空のオゾン等を観測するために「みどり」に搭載した地上・衛星間レーザ長光路吸収測定用リトロリフレクタ(RIS)についても機能確認試験が進められている。

(参考2) 気球観測システムの例

 気球観測システムの例として、クライオジェニックサンプリング観測方法を以下に示す。東北大学理学部が進めるこの観測に用いる機器については、文部省宇宙科学研究所が国立環境研究所との共同研究協定に基づき開発に対する協力を行った。 システムは、気球、パラシュート、コントロール用ゴンドラ、観測用ゴンドラ等から構成され(下図参照)、気体サンプリング装置が観測用ゴンドラに積み込まれる。気球には水素ガスが充填される。
 このシステムにおいては、高層の大気をサンプリング装置で直接採取し、回収後実験室内で精密に分析してその成分と濃度を測定するもので、成層圏のような高層の大気微量成分のうち化学的反応性の低い安定な大気成分(メタン、亜酸化窒素、フロン等)を精度良く測定できる。サンプリング装置を気球につり下げ、成層圏まで飛揚させ、気球の浮力を調整することにより任意の高度での大気の採取が可能となり、微量成分についても精度良く高度分布が測定できる。気球は上空では直径が約60~70mの大きさとなる。
 パラシュートは、気球を切り離した後、ゴンドラが軟着陸を行うためのものである。コントロール用ゴンドラでは気球の浮力調整を行うとともに、回収に必要な機器が搭載されている。観測用ゴンドラは約 100mのワイヤーロープでコントロール用ゴンドラと繋がれ、気体のサンプリング装置と地上からの遠隔操作のための通信装置を搭載する。観測用ゴンドラの重量は約 300kgである。

cryogenic(クライオジェニック)
a. 低温学の; 極低温の; 極低温を要する; 極低温貯蔵を要する; 極低温物質の保存に適した
: ~ engineering 低温工学
連絡先
環境庁企画調整局地球環境部環境保全対策課研究調査室
室      長:名執 芳博 (内線6743)
           うにすが
 室 長 補 佐:宇仁菅伸介(内線6746)

環境庁国立環境研究所
主任研究企画官:奥村 知一(0298-50-2302)
 地球環境研究グループ衛星観測研究チーム
 総 合 研 究 官 :笹野 泰弘(0298-50-2444)