のん氏画像1
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自分の家と同じような感覚で
みんなが地球を整える。
俳優・のんが思い描く未来

着ることがなくなった服を趣味で
作り変えていたことがきっかけで、
環境に興味を持ち始めたという、
俳優・アーティストののんさん。
2020年には、SDGs People第1号に選ばれ、
その2年後にアーティストの
舞台衣装や私服をアップサイクルする
ブランドを立ち上げました。
そんなのんさんに、環境への取り組みで
大切にしていることや、
楽しみながら続けるコツなどを
お聞きしました。

趣味で始めた洋服のアップサイクル。
「作りたい」という衝動が創作の原動力に

 21歳の時、ミシンをプレゼントしてもらってから服づくりが趣味になったというのんさん。似合わなくなった服や着なくなった服が家にたまっていても、服を捨てるという発想は以前からなかったと言います。

「着なくなった服を組み合わせて、自分が着たい服に作り変えて楽しんでいました。洋服もそうですが、愛着のあるものはなかなか捨てられないんです。お気に入りのタオルケットもそのひとつ。馴染み深い肌触りは替えがきかないので、新しいものを買っても捨てずに取っておいています」

 最近はアートや音楽の世界でも活躍し、クリエイティブな感性も磨き続けているのんさんが洋服作りに取り掛かる際は、使われている生地の素材や模様、厚みなどからアイデアやインスピレーションを得るそうです。

「趣味で作る服に関しては、アイデアが思い浮かんでから作り始めるのではなく、どちらかというと“今やりたい”という衝動が起きた時に、どの服を使ってどんな服を作ろうかと考え始めます。 “作りたい!”という意欲が創作の原動力になっていますね」

自分で納得できる仕上がりとなった洋服もあれば失敗もあり、失敗した洋服は資料となって次の創作へのヒントとしてストックされるそうです。

こちらはサイズが合わなくなった洋服と、似合わなくなった洋服を掛け合わせて作ったそうです。

一人ひとりにできることを多くの人に伝える。
それが「SDGs People」としての使命

 2020年、のんさんは、官民連携のジャパンSDGsアクション推進協議会によって「SDGs People第1号」に選ばれました。自分が好きで続けてきたことがアップサイクルだとわかり、SDGsとご自身の活動に共通項を見出せたことがとてもうれしかったと当時を振り返ります。そこで、その経験を含め、環境に対してどんな取り組みから始めるのがおすすめかを聞いてみました。

「自分にとって抵抗のないことから始めると入りやすいと思います。例えば、買い物に行く時にレジ袋を買うのがもったいない、という気持ちがあればエコバッグを使うとか、夏や冬は暖かさや冷たさが持続するマイボトルを使うとか、まずは自分を気遣うことから始めるのがおすすめです」

 のんさんの中では、食べ物を残さない、ゴミを出さない、食材をしっかり使い切るといった、フードロスに対する意識も高まっているそうです。

「SDGsを深く理解していくと、あれもこれも環境問題につながるんだと気付き、普段の生活の中にもたくさん溢れていることを発見しました。自分に無理なくできることで、ちゃんと地球に貢献できるんですよね」

 まずは小さな一歩でも始めてみることが大事。個人でできる小さな取り組みも、たくさんの人が続けていくことで大きな力に。

「大きな取り組みを考えてしまうと莫大なお金や労力が必要になるなど、大企業にしかできないことなんじゃないかと思ってしまいますが、実はそうではないんですよね。私がSDGs Peopleに選ばれたということは、個人レベルでできる、日常に密着した取り組みとはどんなことかを、一人ひとりに届けることなんだなと思いました」

 最近はファッション業界を含めて、環境問題に対する世の中の反応や流れも、少しずつ変わってきているように感じると言います。

「手の届く価格で買えるサステナブルな素材で作った製品や、環境に配慮した工程を踏んでいる製品も見かけるようになりましたよね。ファッション業界でもハイブランドなどでは、以前からサステナブルな取り組みはされていますが、今は身近なブランドからもリリースされていて、手が届きやすくなっていると感じます。私自身、趣味が環境のためになっていると意識しはじめてからは、選ぶ洋服をサステナブルかどうかという視点でも見るようになりました。製品のコンセプトや使用している素材、工程などがきちんと環境に配慮されているかは、やはり気になるところです。基本的には気に入った服、似合う服を選びますが、そのあたりのセンサーは敏感になっていますね」

楽しさや幸せをセットにすることで
前向きに環境問題に取り組むことができる

 のんさんは、2022年にアップサイクルブランド『OUI OU(ウィ・ユー)』を立ち上げました。アップサイクルとは、本来は捨てられてしまうようなものにアイデアやデザインを付加して新たな価値を生み出すこと。『OUI OU』では、有名アーティストのステージ衣装や私服などを一点物の作品に仕立てて、アーティストを身近に感じながら生活する楽しさを提供しています。

トートバッグ

ご自身のライブ衣装をアップサイクルして、トートバッグに。

「私もそうですが、自分のためになること、自分が共感できる事じゃないと人の心は動きません。環境問題に関心のある人だけに伝われば良いというやり方では、一人ひとりの生活に根付いていかないと思うんです。『それによって自分が幸せな気持ちになる』という入口がないと、環境問題に配慮して得られるものよりも安価で便利なものの方が、個人的価値が高くなっていく。だから『OUI OU』では、アップサイクルした商品を買う事で幸せな気持ちになってもらいたい。“好きなアーティストと一緒” “ライフwith 推し”というテーマを掲げています」

 環境問題は、一朝一夕で解決することができません。しかし、のんさんが提案するように、楽しいことや幸せに感じることをセットにすることで長く続けやすくなります。

「なぜ地球環境を守るのか?というのは、知れば知るほど腑に落ちていきますが、知っていかなれば、地球のために何かするというのはあまりに漠然としています。でも、近くに幸せポイントがあればとっつき易いし、ついでに地球のためにもなり、得した気分になる。地球のためって全然堅苦しくない。楽しくできることなんだなと感じられるものを『OUI OU』で作りたいんです」

 以前、『OUI OU』のポップアップストアを出店した時は、大学生をはじめ若い人がたくさん足を運んでくれて、それがきっかけで環境に対して興味を持ち始めた人もいたそうです。

「アーティストのファン、という理由で来てくれたお客様もいますし、アップサイクルにも共感して『自分もできることから始めたい』と言ってくれた方もいらっしゃいました。何かに踏み出す時、パワーが必要です。勇気を持てる推しのアーティストのパワーは偉大です。『OUI OU』のテーマ性が伝わっているなと感じました」

 今は、より多くの人にアップサイクルした商品を手にしてもらえるように『OUI OU』のセカンドラインを計画しているそうです。

「端切れを使ったトートバッグなど、若い人たちも気軽に使いやすい商品を取り扱う予定です。ここからアップサイクルの魅力をたくさんの人に伝えられればと思います」

環境にも自分にも気遣えることを見つけ、
長く続けていくことが大切

 SDGsは2030年までに持続可能でより良い世界を目指すことを国際目標としていますが、のんさんは将来的にどのような世の中になっていて欲しいと考えているのでしょうか。

「あまり意識が高くなくても、環境に良いことを一人残らずみんなが行っている。それが生活の一部になっていて、当たり前になっていたらうれしいですね。そのためにも無理はしないこと。無理や我慢をするとイヤになってしまうので、環境だけでなく自分も気遣えることを続けていくのが理想だと思います」

 地球の未来を変えるためには、エコロジーやサステナブルに対する一人ひとりのアクションが不可欠です。のんさんご自身は、どのような人が“エコジン(エコ人)”だと考えているのでしょうか。

「やっぱり、地球のことをカジュアルに考えられる人なんだろうなぁ。大それたことではない。自分のおうちを整えるのと同じで、地球も気持ちよく住めるように整える、それが自然体な人がエコジンなのかなと思います」

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のん

俳優・アーティスト。音楽、映画製作、アートなど幅広いジャンルで活動。2022年にアップサイクルブランド『OUI OU』を立ち上げる。また、主演映画『さかなのこ』で、第46回日本アカデミー賞優秀主演女優賞を受賞。2023年12月から世界配信されたNetflixシリーズ『ポケモンコンシェルジュ』では、主人公ハルの声を務める。音楽活動では、2023年6月に2ndフルアルバム「PURSUE」をリリース。

写真/牧野智晃
原稿/中野悦子
衣装協力/megu_photographie & アスキLIKE DRAWING BREATH、GANNI

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