プロジェクト
Water Style

Japan Water Style ミーティング

積水化学工業株式会社インタビュー

積水化学工業株式会社 環境・ライフラインカンパニーの執行役員 藤井重樹氏

住宅から環境・ライフライン、高機能プラスチックスなど、様々な分野で事業を展開する積水化学工業株式会社。今回は、環境・ライフラインカンパニーの執行役員 藤井重樹氏に、積水化学工業株式会社が考える水リスクやその取組などについてお話を伺いました。

「住宅」、「高機能プラスチックス」、「環境・ライフライン」など様々な分野で展開されている御社の事業活動において、「水」との関わりをどのようにお考えになられ、どのような取組をされておられるか、お聞かせください

インタビューのようす1 当社では、1952年に日本で初めて塩ビ管の生産を開始しました。それ以来、60年にわたって、水道や下水、建物内の給排水、工業用水、農業用水など、日本のあらゆる場所へ、様々な種類のプラスチック管を提供しています。こうした製品を通じて、水を様々な方々にお届けするという役割を担っているということが、まず当社の「水」への関わりだと思います。

「水」への取組みの大きな取組み内容としては、製品の製造にかかる水の使用量の削減と排水の影響の把握があります。当社の製造にかかる水の使用については、全ての工場での取水量が、年間で約2,000万立方メートルとなっています。これは東京ドーム約16杯分に相当しますが、化学品や食品関係と比べても、それほど多い方ではないと思います。製造段階で水を必要とするのは、樹脂加工の工程での冷却に使用する部分ですが、現在は、この冷却水は循環利用しており、使用量をこれまでの1/4程度に抑えています。また工場排水については、生産事業所の排水管理を法令で定められた基準より厳しい自主管理値を設定して、しっかり遵守するよう努めています。

排水先の水生生物にとって安全な水環境を確保し、排水による悪影響を未然に防止することを目的に、2013年度よりWETによる排水の評価と排水放流先の河川における調査を実施してきました。WETとは、魚類、ミジンコ、藻類の生物応答で排水中のすべての物質の影響を評価する手法です。これまでの2年間の調査で、積水化学グループの生産事業所から公共用水域に排出される水の85%の確認が終了し、2016年度「終了時には95%以上の排水で生態系への影響評価を実施する予定です。

こうした取組は、工場から排出される水が、河川を流れ、再び下流域で生活する方々の水源となる大切な資源であることを認識した重要な取組であると同時に、自然資源、生物多様性の保全はもとより、自然環境に影響の無い状態で水を還すことで、負荷の無い健全な水循環、自然資源のリターンにも繋がる大変重要な取組だと考えています。

御社の今後の事業展開、継続、発展に向けて、現在認識されている「水」に対する課題や問題意識についてお聞かせください

インタビューのようす2 先ほどもお話しましたが、当社の事業全体で使用する水の量は比較的少ない方ではありますが、水が無いとなると生産はストップしてしまいます。そこで、将来にわたって持続的に事業を展開していくため、現在、全世界の工場を対象にして、事業に係る水リスクについて調査を致しました。この結果、すぐに対策が必要となる大きなリスクを持っている事業所はありませんでしたが、工業用水の使用のほか、地下水をくみ上げて使用している工場が、予想以上に多いことが分かりました。国内の事業所で38%、中国の事業所で20%が、地下水を使用しており、今後、汚染や枯渇、塩分濃度の増加など、地下水に関わるリスクの問題について、しっかり検討していくことが課題だと考えています。

御社の事業展開には、資源調達、バリューチェーン、サプライヤー、商品や製品の使用者であるユーザーなど様々なステークホルダーがいらっしゃると思いますが、持続可能な水循環のために、御社が最も重要と考えておられるステークスホルダーと、そのお考えについて、お聞かせください

インタビューのようす3 私どものカンパニーは、生活に無くてはならないライフラインである上下水道や建物の給排水管を事業としておりますので、最も重要なステークホルダーは、国や地方公共団体などの役所であると同時に、国民全体だと考えています。

現在の上下水道の施設は50年以上も前の、いわゆる高度経済成長時代に建設されたものが多く、下水を例に取りますと、50年を経過した管は1万キロ以上もあり、今後ますます急増します。道路の下に埋設された下水管が古くなると、地下水が土を巻き込んで下水管に入り込み、管の周りに空洞が出来て道路が陥没する事故にもつながります。管路施設の老朽化に起因する道路陥没事故は、平成25年度には約3,500件も発生しているんです。

そこで当社では、これらライフラインの更生に向けて、更生の優先順位付けやコストの算出のための診断手法や非開削で老朽管を更生する技術の検討などに取り組んでいます。

国民全体の生活に欠かせない水循環を守るため、国や地方公共団体等と連携して、適正な予算で、適正な優先順位のもと、着実に更生していく取組を、当社は一丸となって進めてまいります。

国民もまた重要なステークホルダーとお話いただきましたが、実際に国民一人ひとりが、水循環に対する知識と意識を持つために、どのような働きかけをお考えでしょうか。アイデアなどお聞かせください

インタビューのようす4 私は、海外に赴任したとき、改めて日本における水のありがたさを実感しました。我が国の水道は全国どこでも飲めますし、降水量も一定量あるため、畑の表面に塩が溜まり、収穫量が低下する塩類集積も起こりません。これは、世界的にみて非常に希有な存在であり、私たちはこの水環境のすばらしさを改めて認識する必要があると思います。

また、その水環境は、当社や当社以外の多くの企業が、水に関わっていることで、守られていることも知っていただきたいと思います。そのためには、このウォータープロジェクトを活用して、官民が連携して様々な情報を発信していくことが大切だと思います。

もう一つ、水循環の保全意識を持つという点では、国民一人ひとりが取り組むことが、水環境の保全につながるということを実感してもらうことが大切だと思います。 そのためには、節水型商品や防汚型製品、排水配慮商品などの普及を促進して消費者がそれらの商品を選択するために必要な情報を発信したり、洗剤を適量に使うことや台所ごみを流さないこと、油を流さないことや食器の汚れは拭き取るなど、日常の生活で実践できることをしっかり発信して、その効果を一人ひとりが実感できなくてはならないと思います。

特に排水への配慮は面倒でもあるし、その効果が実感しづらいため、なかなか率先して実践する方も少ないと思います。ですが、多くの国民が実践すれば、処理場の負担は格段に軽減され、そこで使用される電力などのコストも削減されます。地球温暖化防止につながるわけです。

水環境は、森林や河川、土壌や海洋など、様々な自然と密接に結びついています。そして水環境の問題は、地球温暖化などに起因する気候変動が一因とされていますので、地球温暖化防止もまた水循環を保全する取組の一つと言えると思います。

一方、水の問題は、地球温暖化問題とは違い、グローバルな取組ではなく、ローカルな取組が重要です。北海道の取組が、沖縄の水環境を直接的に改善することはありません。自分たちの水環境は自分たちで守っていく必要があることをしっかり理解することが大切だと考えます。そのため当社では、子ども向けの教室や事業所近隣向けの出前授業、工場見学などで、こうした情報の発信や取組の紹介などを積極的に行っているところです。

こうした取組を当社は継続していきますが、多くの企業がそれぞれの事業などを通じて国民にアプローチすることで、より国民の理解は深まっていくと思います。

最後に、プロジェクトに参加している企業の皆さんに向けて一言お願いします

インタビューのようす5 日本の素晴らしい水環境を、日本全体で守って大事に維持していくことが重要だと思います。ウォータープロジェクトに参加している企業の皆さまが一緒になって取り組むことで、きっと大きな流れができると思います。

また、各社も事業所の排水対策などに取り組んでいると思いますが、当社はそのインフラ整備や長寿命化などの面で、より節水型、低コスト技術を提供することで貢献していきたいと思っています。

水を大事にするという姿勢が、日本の技術や製品の競争力の源泉にも繋がると思いますし、日本料理などの食材や文化の海外での高評価にも繋がると思っています。

<企業インタビュー>

企業インタビュー

 ページの先頭へ